第七話 『伝えられない言葉』 OP
木場雄一は墓石の前で立ちつくしていた。
石には木場杏子の文字と、一年前の日付が刻みつけられている。
目を閉じる木場。
妹、杏子の笑顔が浮かんでは消えた。
最後に聞いた杏子の言葉を思い返す。
その時、何者かの気配に気づき、木場が振り返った。
その顔を確認し、目を細める。
「尾藤……」
「あれから、一年経つんですね」
木場と同年代の青年が杏子の墓前に花を添える。手を合わせ立ち上がると、決意の表情を向けた。
「もう来なくてもいいんだぞ」
「木場さん」力強いまなざしだった。「この世からいなくなったとしても、杏子はいつまでも僕の中で生き続けています。今もここにいます」
尾藤秀作は胸に手を当て、木場に笑いかけた。
「木場さんこそ、もうおやめになった方がよろしいのではありませんか。これ以上こんなことにあなたを……」
「貴様はどうなんだ」
「……。僕の気持ちは変わりませんよ。たとえ一人になったとしても、必ずやりとげてみせます。それが杏子の望まないものだとしても」
「……」
木場が尾藤から顔をそむけ、もう一度妹杏子の墓を眺める。
背中から尾藤の声が追いかけてきた。
「どうやら、余計な進言をしてしまったようですね。あなたの決意は僕のそれよりはるかに固い。ともに、杏子の無念を晴らしましょう。きっとそれが、多くの人達の幸せにつながるはずですから」
その言葉に木場が反応する。
杏子の笑顔が浮かんだ。
最後の言葉を思い出す。
『必ず幸せになるからね』
杏子の青白い顔が、脳裏から離れなかった。二度と微笑むこともない、永久に瞼を閉ざしたその顔。
『必ず幸せに……』
「俺達から杏子を奪ったメガルを、この手で消し去ってやりましょう。必ず……」
木場の瞳から炎が立ち上がった。
めらめらと燃え上がる、血にまみれた真紅の炎が。