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第六話 『抱擁』 7. 共闘



 両足を大きく広げ、桔平がスタンドに固定した大型機銃を水平になぐ。

 端から黒インプの赤いコアが、水風船のように次々と弾け散っていった。

 弾頭の一部にオリハルコンが練り込まれた特殊実包は、触れるだけで人外の魔物すら消し飛ばした。

「おまえらには借りがある。一匹残らず、木っ端だ! ……。と、げっ!」

 弾切れを起こし、桔平の顔が青ざめる。

 払えど払えど、際限なくインプは湧き出るようだった。

「だー! キリがねえ!」

「どけ、桔平!」

 弾薬を補充する桔平を押しのけ、パームバズーカを肩に担いで木場がインプの前に立ちはだかった。

 高らかな発射音とともに射出されたプラズマ砲弾は、インプの群れの頭上で弾け、激しい光の放射をともないながら十体以上の魔物を瞬時に蒸発させた。

「……反則だろ」桔平が不愉快そうに顔をゆがめる。「パキュン、バキュン、いい音させやがって。おい、俺達にもそいつまわせ!」

「俺の一存じゃどうにもならん。どうしてもと言うなら、進藤に頼め」

「それはゴメンだ!」

「ならあきらめろ」

「それもゴメンだ!」

「勝手にしろ!」

「勝手にパクる……、おわっ!」

 プラズマ砲弾の連射がインプの黒い塊に大穴を穿った。


 刺し込むような雨の中、ゆらゆらとうごめく青く透き通った巨人を蹴散らし、メック・トルーパー隊長、鳳が味方を鼓舞する。

「いいか! ガキどもが足に根っこ張ってふんばってるのに、こっちの腰が引けてちゃ話にならん。一生に一度、死にもの狂いで何かをしなければならないことがあるとすれば、それが今だ! 助かろうなんて甘い考えは捨てろ! 死ぬぞ!」

「わかってらあ!」サブマシンガンの乱射で青インプをなぎ払い、駒田がわめき散らす。「そんなことは百も承知だ!」

「死んでもいいなんてのも駄目だ! 死ぬぞ!」

「どっちだよ!」

「気合だ! 気合で倒せ! 生きのびろ!」

「結局、気合かよ、オッサン……」

 鳳が振り返る。

 まばたきすら放棄してしまったように、エネミー・スイーパーの隊員達が立ちつくしていた。

「おまえら、そこでずっと突っ立っているつもりか?」

 何も返らない。

 鳳が中央にいる一人に顔を向けた。

「大沼」

 名を呼ばれた隊員が表情もなく鳳を見つめ返す。

「……。我々は木場隊長からの指示待ちで……」

「木場ならとっくに参戦している。おまえ達がどうするかは、個々の判断にゆだねさせろ、と奴から連絡があった。信じられなきゃ直接聞いてみろ。尾藤は現状維持だそうだ。おまえはどうする? 副隊長代行」

「……」微塵にも表情を変えることなく、大沼が静かに告げた。「これより我々はメック・トルーパーと行動をともにする。不服のある者は申し出て尾藤隊に合流しろ。責任はすべて俺が……」

「責任は俺がとる!」

「……」

 鳳がにやりと笑った。

「ついて来い」

「了解!」


「おい、動けるか、きっぺい」

 フェンスにもたれかかり、木場が顔を横に向けた。

「ああ、何とかな」サブマシンガンをそれぞれの手に持ったまま路上に横たわる。「口だけはな」

「一番なくなればいいものだけが残ったな」木場がふっと笑った。「俺もだ」

 それを桔平は淋しそうに眺めていた。

「……。鼻毛か?」

「……。いや」

 街中いたるところで戦闘がくりひろげられていた。

 メックもエスもなく、ただインプの殲滅に奔走する。

 砂だらけとなった病院の周辺からは、インプの反応はなくなっていた。

 すでに嵐は過ぎ去り、流れる雲の合い間から月明かりがこぼれ始めていた。

「いいのか。エスまで動かしちまって」

「……。あいつらは最初からそうしたがっていた。俺が無理やり抑えていただけだ」

「そうじゃねえだろ」あきれたように言う。「あさみがほっとかねえぞ」

「ああ」覚悟したような笑い。「殺されるかもな」

 複雑な表情で木場を見続ける桔平。昔を思い返すように目を閉じた。

「!」木場が何かに気づき、身を乗り出す。「来たぞ……」

 木場の声に慌てて起き上がる桔平。

「アスモデウスか」

「ああ……」

 立ち上がる木場。パームバズーカを手に取り、走り出した。

「おい、待て、木場! おい!」

 桔平の声も耳に届かなかった。


 透明なインプの大群の前にエネミー・スイーパーが二の足を踏む。

「バカヤロウ! そんなへっぴり腰で何ができる!」駒田が咆哮し、サブマシンガンでインプの頭を弾き飛ばした。「隊長が腰抜けなら、隊員も隊員だな」

「何だと!」エスの一人が瞳に炎を宿し前進する。「俺達は何を言われてもかまわない。だが隊長を侮辱することだけは許さん!」

 怒りのフルオート。

 数体のインプが海水となり、粉々に砕け散った。

「やるじゃねえか。……おわっ!」

 駒田の眼前を黒い疾風がかすめて行く。

 海竜王だった。

 海竜王は黄色い両眼を爛々と光らせ、残りのインプ達を次々と撃破していった。

 駒田がにやりと笑った。

「頼もしいね、相棒」


 木場は自ら囮となり敵を引きつけることで、アスモデウスを少しでも病院から遠ざけるつもりだった。

 たとえ命を落とすことになろうとも。

 遠距離からプラズマ砲弾を見舞う。

 辺り一面を強烈に照らす暴力的なスパークに気づき、アスモデウスが方向転換した。

 凶悪な顔を木場に向け、襲いかかる巨大な魔獣。

「そうか……」木場が自分自身に言い聞かせるように呟いた。「おまえはこんなバケモノに一人で挑んでいったのか。たった一人で……」

 忍の顔が脳裏に浮かぶ。苦しそうな顔。つらそうな顔。悲しそうな顔。そして笑顔。

 パームバズーカを連射する木場。

 それはアスモデウスを脅かせるものではない。だが怒りを一手に請け負うには充分すぎた。

 全弾撃ちつくし、自らの目的を果たしたかのように木場がバズーカを降ろす。

 疲弊しガクガクと痙攣する両足を気力だけで大地に突き立て、目の前の敵すら映さないその瞳を静かに閉ざした。

 忍の笑顔が他の娘のそれに重なった。

 忍と同じ年頃の、別の誰か。

「杏子……」

 運命を受け入れようとする木場。

 アスモデウスが槍を振りかざす。

 だが、アスモデウスの凶刃は木場には届くことはなかった。

 木場がゆるやかに瞼を開く。

 視界に飛び込んできたのは、のけぞるように天を仰ぎ見るアスモデウスの姿だった。

 狂猛な殺気をほとばしらせ、アスモデウスが振り返る。

 その背中越しに木場は見た。

 強大な敵の前で一歩も退くことなく立ち向かう、揺るぎのない海竜王の雄姿を。

「!」目も口も閉じられず、眼前の光に心を奪われる木場。「……穂村、光輔」




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