第六話 『抱擁』 OP
暗闇の中、光輔は一人泣き続けていた。
狭い場所に閉じ込められ、迷子になった子供のように。
先まであれほど騒がしかった外部が、水を打ったような静けさだった。
「お姉ちゃん……」
不安になり、光輔が顔をゆがめる。
「光ちゃん……」
姉、ひかるが呼んだような気がして耳を澄ます。それはかすかだが、すぐそばから聞こえてくるようだった。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「光ちゃん、もう大丈夫だから……」
「……」
涙をぬぐいながら光輔が両手を前に押し出す。重かったが扉は少しずつ開き始めた。
差し込む光。
目の前にひかるの笑顔があった。優しく抱きしめるような、やわらかくあたたかい微笑み。
途端に光輔の心が安堵につつまれる。
ひかるは光輔の顔を認めると、安心したような表情になった。
「怖いのに、よく頑張ったね……」
額を伝う汗。
うつろなまなざし。
ひかるの胸もとを槍のようなものが貫いていた。
不安そうに口もとをゆがめ、光輔の体が硬直する。
それに気づき、ひかるは満面の笑みで光輔をつつみ込もうとした。
「心配しなくていいよ」
窓から降りそそぐ陽の光が、ひかるの横顔を輝かせる。
それは女神のようであり、或いは母親のような強さを持った、受け入れる者にとってはかけがえのない笑顔だった。
「私はここにいるから。いつも光ちゃんのそばにいるから……」
静かに目を閉じるひかる。
満足そうに笑い、ひかるは動かなくなった。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
光輔はいつまでも姉の名を呼び続けた。
たった今、誰よりも愛しい人間を失ったことすら理解できないまま。