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第五話 『届かぬ想い』 7. 届かぬ想い



 大雨は街中の炎を鎮火しつくしていた。

 吹き飛ばされ、空竜王が高層マンションに叩きつけられる。

 建物に体をめり込ませ、ピクリとも動かなくなった。

 目の光も消え失せる。

 コクピットの中で、夕季も完全に沈黙していた。操縦桿を握りしめたまま、うなだれるように動きを止める。

「夕季!」

 ぐっと歯がみする鳳達。

 その背後で木場が冷静に告げた。

「これより空竜王の回収作業にかかる。手順は先に説明したとおりだ。アスモデウスを陽動する班は特に注意を払い行動するよう……」

「木場あああーっ!」

 鳳が木場につかみかかった。

「これで満足か! 貴様、これで本当にいいのか!」

 鳳の体が、くの字に折れる。木場が強烈な膝蹴りをくらわせたためだった。

 屈強な鳳が立ち上がることもかなわず、悶え苦しむ。

「鳳さん! 貴っ様ーっ!」

「よせ、駒田!」

 いきり立つ駒田を南沢が押しとどめた。

「離せ、南沢!」

 木場が振り返る。

 その冷徹なまなざしに二人の背筋が凍りついた。

「これ以上我々の邪魔をするというのなら容赦はせん」

 武器をかまえ威嚇するエスの隊員達。メックとの睨み合いとなった。

「隊長、空竜王が……」

 その声に全員が振り返った。

 アスモデウスが空竜王に近づいて行く。

 とどめを刺そうというのだ。

 爛々と目を光らせながら、一歩一歩間合いを詰める。

 ついには目の前に立ち、右手の槍を振りかざした。

 その時、操縦桿を握りしめる夕季の両腕に、力がみなぎった。

 顔を上げ、活目する。

 同時に、空竜王の両眼が青く光り輝いた。

 まるでそれを待ち望んでいたかのように。

 夕季は自分の間合いぎりぎりまで敵を引きつけるとともに、神経を研ぎ澄ませ、精神を集中させていたのだ。

 限界まで精神力を高め、空竜王が飛び出して行く。

 それは地を這うように一直線に突き進む、しなやかな鞭のようでもあった。

 槍をかいくぐり、懐に飛び込む空竜王。

 羽のようなブレードで下腹部の竜の頭に狙いを定めた。

 右腕の剣を甲を上に向け、切りかかる動作のまま引き戻す。

 くるりと体を返す勢いで、飛び込んで来た竜の首にバックブロー気味の水平切りを浴びせようとした。

 夕季の瞳が空竜王と同じ光を帯びる。

『守りたいものならたくさんある。でも……』心の中で変わらぬ想いを連ねていく。己を奮い立たせるようにつなげて発した。「失うものは何もない!」

 願いをかけ、想いを込めた、渾身の一撃。

 バチバチとエネルギーの火花を飛び散らせ、押し切られるように、ゆるやかに竜の首が本体から分離していく。

 実際はまばたきする間もないほどの刹那であったが、夕季の目には連続撮影のコマ送りのように、その一枚一枚が鮮明に映し出されていた。

 ぼとりと地に落ち、それは泥水に埋没するように、見る見る溶け落ちていった。

 闇夜の嵐すら引き裂く、戦慄の悲鳴に微塵も躊躇せず、夕季はひたすら先だけを見据えていた。

 己を終焉へと導く、確かな未来へ向け。

 振り抜いた斬撃の余韻を押し広げた左足で踏み止め、それを支点に空竜王が大地を蹴り上げる。

 一瞬で回転運動を垂直方向への推進力に転化させた。

 立て続けに繰り出される滑らかな一連の動作は、勢いを殺すことなく、さらなる加速をも積み重ねていった。

 狙うは、仮面の喉もと。

 けたたましい絶叫を撒き散らし苦しみ悶えるアスモデウスの動きを見極め、仮面の喉首目がけ、空竜王が伸び上がる。

 が、それが届こうとした寸前、再び夕季は絶望を受け入れなければならなかった。

 怒りにまかせ振り下ろした槍の先端が、その背中に叩きつけられていた。

 凄まじい衝撃をまともに受け、地面にめり込む空竜王。

 今度こそ完全に動きを封じ込められた。

「う、く……」空竜王のコクピット内でわなわなと体を震わせる夕季。目を充血させ、悔しそうにうめいた。「届かない……」

 しだいに意識が遠のきつつあった。

「夕、季……」土砂降りの地面に這いつくばり、泥を握りしめる鳳。

 メック隊員達は毒気を抜かれ、ただ立ちつくすだけだった。

 表情もなくそれを見渡す木場。部下達に静かに告げた。

「……行くぞ」

「あれは……」

 信じられないと言わんばかりの呟きに振り返る木場。

 ディスプレイの中では、後方から攻撃を受け、叫び声をあげるアスモデウスの姿が映し出されていた。




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