第五話 『届かぬ想い』 OP
幼い女の子のすすり泣く声がして古閑忍は振り返った。
妹、夕季が道端で転び、顔をゆがめていた。
駆け寄って、忍が優しく抱き起こす。
「ほら、泣かないの」
「うん、うん……」
服の汚れをはたき、笑いかける。
「大丈夫だよ。何ともないから」
するといつの間にか夕季は泣きやんでいた。
手をつなぎ、仲良さげに夕暮れの帰り道を歩く姉妹の姿があった。
忍は大人達に囲まれていた。また模試で好成績を修めたのだ。
振り返ると小学生の夕季が淋しそうに眺めていた。
「どうした? 夕季」
夕季を気遣いながら、そっと顔を覗き込む。
夕季は口をへの字に結び、ぐっと涙をこらえているように見えた。
つつみ込むように忍が笑いかけた。
「夕季、これあげるよ」
ゆっくりと顔を向ける夕季。
忍が褒美に貰った、菓子のようなものを差し出した。
「でも、これお姉ちゃんが……」
「いいよ、食べな。お姉ちゃんいいから」
夕季が頷く。涙をぬぐい、嬉しそうに笑った。
その様子を忍も嬉しそうに眺めていた。
心配そうな面持ちで忍が振り返る。
中学生になった夕季が、張りつめた表情で何かを睨みつけていた。
「夕季」
呼びかけても、その想いが届くことはない。
「夕季、夕季」
拒絶の瞳が宿す色は、冷たく激しい憎しみ。
「夕季……」
忍が淋しそうに顔を伏せた。
もう二度と時が戻らないことを知りながら。