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第四話 『スパイラル』 2. 偽りの優しさ

 


 滑走路に降り立った空竜王をメック・トルーパー達が取り囲んだ。

 ヒーローを迎え入れるように。

 ハッチを開け、膝立ちの空竜王から夕季が降りる。青白い顔があぶら汗にまみれていた。

「すげえな夕季、また一人でやっちまいやがった」

 歓喜の声をあげ、手放しで小さな英雄を出迎える駒田。

 南沢がそれに続いた。

「当たり前だ。夕季がいれば俺達はもう負けない。どんな敵にだって」

「俺達は必要ない、の間違いじゃないのか?」

「はは、違いない」

 口々に夕季の奮闘ぶりを称え合う隊員達。

 その様子を表情もなく眺める人物がいた。

 古閑忍だった。

「行くぞ、古閑」

 忍の隣には厳しい顔つきの木場雄一の姿があった。

「はい……」空竜王に心配そうなまなざしを向けた。

 声一つ発することなく、隊員達の間をすり抜けていく夕季。

 格納庫の手前でめまいがして立ち止まる。鉄柱にもたれかかり、肩で息をし始めた。

「夕季」

 聞き覚えのある呼びかけに夕季が振り返った。

 髭面のメック隊長、鳳が仁王立ちしていた。その顔に笑みはない。ただ心配そうに夕季を見続けていた。

「おまえ今何キロある」

「量ったことないからわからない」上目遣いに鳳を眺め、淡々と答える夕季。

 突然鳳が夕季の腕をつかみ、ぐいと持ち上げた。

「痛い、はなして……」

「何だ、この腕は。病人だってもっと太いぞ……」

「はなして!」

 力任せに振りほどく夕季。鳳が解放したのは決して力負けしたわけではなく、その瞳に拒絶を感じ取ったからだった。

「自分のことは自分が一番よくわかってる。他人にどうこう言われたくない」

「夕季……」

 鳳が眉を寄せる。

 不思議そうな顔つきで駒田が近寄って来た。

「どうした。何かあったのか、鳳さん」

「いや、何でもない……」

「また夕季に余計な説教して嫌われたんじゃないのか?」

 鳳は何も答えずに淋しげな表情で夕季を見つめていた。

 いたたまれずに顔をそむける夕季。逃げるようにその場から立ち去って行った。

 鳳の真剣な様子に気づき、駒田が表情を曇らせた。

「夕季がどうかしたのか?」

「何でもないと言ったろう」目を細め、力なく吐き捨てる。「あいつ自身の問題だ……」


 薄暗い通路を重い足取りで歩いて行く夕季。

 望んでいた力を手にし、多くの人間から信頼を得たというのに、決してその心が晴れることはなかった。

 鳳が自分の身を案じて助言してくれたことはよくわかっていた。それを素直に受け止められない心の貧しさに嫌悪感を覚える。

 受け入れられない理由がわかっていたからなおさらだった。

 こめかみを手で押さえる。

 冷たい壁にもたれかかり、しばらくその場所から動くこともできなかった。


 昼休みに夕季は校舎の屋上にいた。

 瞬きもせずに陽射しを受け止め、足を投げ出して壁にもたれかかる。他の生徒達の話し声や、鳥のさえずりに耳を傾けることもなく、すっかりやつれてしまった面差しで、うつろな視線を海の彼方へ投げかけていた。

 ふいに視界が閉ざされ、眼前の影をゆっくりと見上げる。

 光輔だった。

「こんなところにいたのかよ」

「……。何」

「何って、おまえ昼飯はどうしたんだよ。最近食ってないだろ」

「……。食べたくないから」

「食べたくないって……」

「ダイエット中。お昼抜くくらい、別にたいしたことじゃない」

 またうつろなまなざしを泳がせた。

「……」光輔が口もとを結ぶ。「おまえ、毎日夜遅くまで訓練してるんだって? なんでそこまで頑張るんだよ」

「光輔には関係ない……」顔も見ずにぶすりと言う。

「関係ないのはわかってるよ。でも必要ないだろ」

「……。何が」

「おまえさ、空竜王ってやつ、自由に乗りこなせるようになったんだろ。雅から聞いた」

「……」

「あのバケモノなんかがいくら来たって、へっちゃらなんだろ? だったらもうそこまでしなくても……」

「……」

 何を言っても夕季が心にとどめないことを感じ取り、光輔が口をつぐむ。

 気を取り直して続けた。

「おまえ、なんかおかしいよ。雅、心配してたぞ。ちゃんと家でご飯とか食べてるのか?」

「……食べてる」

「……。ならいいけど。あんまり無理するなよ」

「なんで光輔にそんなこと言われなきゃいけないの」

「……っと。俺も、一応、心配だから、さ」

「嘘だ。心配してるとか、口先だけで言ってほしくない。見え透いてるおせっかいは、迷惑……」

「なんでそういう言い方するんだよ、おまえ」

 光輔の口調に感情が表れる。

 夕季がゆっくりと顔を向けた。

「もういいよ。俺は口先だけかもしれないけど、本当に心配してる人達の気持ちも考えてやれよな。雅だって、しぃちゃんだって……」

「余計なお世話」

「……」口をへの字に曲げる光輔。ぷいと背中を向け、肩を怒らせながら屋上から出て行った。

 夕季がため息をつく。

 かたわらにある紙袋に気がついた。光輔が置いていったものだった。

 何気なく手に取り、中を見る。売店でも人気の、焼きそばパンとカツサンドが入っていた。並んでもなかなか買えない代物である。

 パックのフルーツ牛乳にストローを差し込み、ちゅうっと吸い込む。

 それからうつろなまなざしのまま、紙袋をごそごそとさばくり始めた。





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