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第四話 『スパイラル』 1. 知り合い

 


「穂村君、おっはよー!」

 寝ぼけ眼をこすりながら穂村光輔が振り返る。

 通学路の並木道で、元気一杯の篠原みずきが一直線に飛び込んで来た。

「あ、篠原、おはよ……」ふあああー、と大あくびの光輔。

「何? また夜遅くまでゲームやってたの?」

「うん。……ひっきしん!」

「駄目だよ。一人暮らしだからって油断しすぎ。もうすぐ中間テストだよ。ちゃんと勉強やってる?」

「あ、ああふあああー」

「ねえ、返事とあくびがコラボしちゃってるよ!」ふわふわとツーテールを揺らした。

「しょうがねえよ、こいつ体育コースだから」

 聞きなれた声に振り返る二人。

 茶髪にピアスの長身の少年がそこにはいた。

「はなから勉強なんてする気ナシだ」

 二人の友人、羽柴祐作だった。

「おう、祐作、おはよ」

「おす」

「しょーこー!」

 祐作の隣にいた、細身で派手な顔立ちの少女を確認し、みずきがロケットのように飛びかかっていく。抱きついてくるくる回り始めた。

「久しぶりー、しょーこー。いつ以来だっけ!」

「昨日の夕方以来だね」

 またかという顔で園馬祥子は答えた。

「ええっ! そんなに!」

「はいはいはいはいはい……」

 たわいもないやりとりを眺め、楽しそうに祐作が笑う。

 祐作は光輔の中学校からの友人だった。その時から祐作と交際していたのが祥子であり、祥子の友人だったみずきとは二人を通じて知り合いになったのだ。

「おーっす!」

 校門の前で新たに二人の学友が合流する。六人は中学からの遊び仲間だった。

 その一人、ツンツンすだれ頭の少年、曽我茂樹がからかうように出迎える。

「何だ、光輔。またゲームやってたのか?」

「うん……」

 なかなか瞼が上がらない光輔。

 みずきがやんわりとたしなめた。

「どうせろくなもの食べてないんでしょ。そんなんじゃ倒れちゃうよ」

「それはだいじょぶだよな」祐作がおもしろそうに笑う。「二日徹マンしてもこいつだけはピンピンしてたから」

「その後うちの便所で寝ちまって、三時間出て来なかったけどな」

 茂樹に顔を向け、光輔がハハハと笑った。

「笑い事じゃねえ。俺が親父からどんだけ怒られた、か……」

 ふいに茂樹が言葉を失う。

 すぐそばを古閑夕季が通り抜けて行ったからだ。追いかけるようにマヌケヅラをスライドさせる。

 光輔と夕季が向かい合う格好になった。いつもより低めのポイントで無造作に髪をまとめているため、普段とは違った印象を受ける。

「あ、お、はよ……」

 すっかり目が覚め、焦ったように挨拶をする光輔。

 が、夕季はちらと光輔の顔を見ると、何も言わずに行ってしまった。

「何、光輔、どういうことよ」茂樹が猛烈に食いつき始める。

「そうよ、どういうことよ!」みずきも参戦してきた。

「なんでおまえがあんな美しい子と知り合いなんだよ!」

「美しい子って……。美しいかな? 恐ろしいならわかるけど……」

「おまえ、目ん玉濁ってんじゃねえのか?」

「いやいや、おまえほど腐ってないって」

「おい!」

「まあ、淡白な顔してるから、そう見えるのかもな」

「端正な顔の間違いじゃない?」

 みずきと祥子が顔を見合わせた。

「どう見ても美人だろ、園馬や篠原よしか」

「おい!!」女ダブルつっこみ。

 祐作が、ぷっと噴き出した。

 すると意外な人物が参入してくる。光輔達より一回り小柄な少年、宮田隆雄だった。

「あの子、A組の古閑って子だよ」

「おまえ知ってるのか?」

 鼻息荒い茂樹の顔を冷静に見据え、のんびりとした口調で隆雄は続けた。

「有名だよ。俺クラス隣だから。よく合同授業で一緒になったりするんだけど、選抜クラスのA組の中でもぶっちぎりの成績で、センター試験の問題をすらすら解いたとか聞いた。他にも剣道部で男の主将に一本勝ちしたとか、体育テストで握力が五十キロだったとか、五十メートル走で六秒台叩き出したとか、いろいろトドロいてる」

「……何だか都市伝説みたいだな」

「最後の方がほとんど身体能力なのがあいつらしいけど……」

「柔道部やレスリング部からもスカウトが来てるって噂。でもいつも怒ってるみたいだから、誰も近寄らないけど」

「なんでそんなスゲエ子と光輔が知り合いなんだよ!」

「知り合いっていうか……」面倒くさそうに頭をかきむしる光輔。「昔、小学校が一緒だっただけだよ。ただそれだけ」

「ただそれだけで、おまえだけ挨拶ができるってのはどういうことだ。なんか許せんぞ!」

「てか、俺すっこりと無視されたんだけどね……」

「ぬぬぬぬう! 紹介しろ、光輔!」

「どうしたの、こいつ?」

「さあね」あきれたような顔を光輔に向ける隆雄。「また一目惚れしちゃったんじゃない?」

「細すぎるんじゃねえの? おまえ、前に巨乳が好みだって言ってたろ」

「何だと!」茂樹が祐作を睨みつける。「言いがかりはよせ。俺の理想は洗濯板なんだ。それに干しぶどう二つあれば……」

「わかった、わかった」受け入れ拒否状態のみずきと祥子をちらと見る。「でもよ。きついぜ、ああいうタイプは」

 苦笑いしながら、光輔が頷いた。

「やめといた方がいいな。あいつ結構凶暴だから、きっといじめられる」

「上等じゃねえか!」鼻息を荒げ、勇ましく胸を張る。「こう見えても俺はエムだからな!」

 みずきと祥子が、さっと離れていく。

 祐作がおもしろそうに笑った。

「いいんじゃねえか。エスとエムで行って来いだし。ナイス・カップリングだな、茂樹」

「おう、ドエスとドエムで投打のバランスもバッチリだしな」

「いつの間にかドエスとドエムになっちゃってるね」

 光輔と隆雄が顔を見合わせた。

「その前に、こいつバカだろ……」

「何!」

「おっす、光ちゃん」

 一斉に振り返る六人。

「あ、おはよ」

 樹神雅だった。夕季とは正反対に、満面の笑みで雅は輪の中に飛び込んで来た。

「あ、光ちゃんのお友達だね。おはよーございます」

「あ、あ、おはようございます!」茂樹が顔を赤らめる。緊張のあまり、背筋が真っ直ぐに伸びていた。

「何だ、何だ、またすっこり寝不足かあ、光ちゃん」

「うん。夜中までテスト勉強してて……」

「いったい、どの口がそういうこと言えるの!」

 みずきのつっこみに振り返る雅。楽しげに笑った。

「始めまして、光輔の姉です。みなさん、弟をよろしくお願いします」

「やめろって、雅」

「こちらこそお願いいたします」

「おまえもやめろって、茂樹。て、何赤い顔しながら手握ってんだ!」

「だって……」

「わかんねえよ。だっての意味が!」

「いや、俺エムだから……」

「いったいどこにからめてんだよ! だから、って何!」

「みなさん、ごめんなさいね。落ち着きのない子で」

「何それ!」

「いえいえ」

「だからおまえは何照れてんだって!」

「……エム……」

「ドエムなのはもうわかったって!」

「いや、ポエム……」

「ポエムか! 今度はポエムって言い張るつもりか! ポエムって何! おまえの頭の中?」

「……」真顔になった茂樹が光輔の首を抱える。「光輔!」

「いてて、やめれ、バカ」

「なんでおまえばっかり、あんな素敵な人達と知り合いなんだよ」

「知るか、いてて、はなせ……」

「穂村君にお姉さんがいたなんて、あたし知らなかった」

 涼しげなまなざしで、みずきをつつみ込むように眺める雅。

「血はつながってないけどね。でも小さい時からずっと一緒だったから、本当の弟みたいにしか思えなくて」

「そうなんだ……」みずきがふんふんと頷く。「何だか、こだま先生も同じようなこと言ってたみたいな……」

「篠原」

 何気ないみずきの発言に反応する光輔。

 みずきが顔を向ける。少しだけ淋しそうに雅が見つめていた。

「雅、りょうちゃんの妹なんだよ」

 光輔のカミングアウトに、ようやく不用意な発言をしてしまったことに気づくみずき。焦ったように取り繕った。

「ごめんなさい、あたし知らなかったから……」

「いいのよ。別に気にしてないから」

 好ましいものを見るように、みずきに微笑みかける雅。

「これからも光ちゃんのことよろしくね」

「はい」みずきが頷いた。

 ふふっと笑う。その後雅は光輔に向き直った。

「光ちゃん」

「ん?」

「最近ちょっと夕季のことで気になることがあって」

「うん」神妙な顔で光輔も頷いた。「俺も……」






 稚拙な内容におつきあいしていただきましてありがとうございます。久々に更新することができました。筆は先行しているのに、手直しばかりに手間どって、一向に完成に至りません。自己満足の極みで恐縮ですが、一人でも多くの方に読んでいただければいいなと思っています。

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