第四話 『スパイラル』 OP
風を切り裂き、空竜王が乱舞する。
空では大気、陸では大地、沿岸では海へと使い魔達を還していった。
想定ポテンシャルをはるかに凌駕する機動に追従できず、上限まで振り切りったままの計器類や警告灯が悲鳴をあげ続ける。
瞬きすらせず、古閑夕季は無限に湧き出る魔物達を撃破した。
青白い面差しに浮かび上がる険しいまなざし。
姉、忍の顔が脳裏をかすめた。
「あああー!」
己を鼓舞するかのごとき雄叫び。
逃げ惑うインプの群れを、獣のように執拗に追いつめ、ことごとく撃ち砕いた。
交錯する想い。
遠き日の記憶が次から次へ、浮かんでは消えていく。
それは目に涙を浮かべ、口もとをゆがめる、幼い日の夕季の姿だった。遠ざかる背中にはいくら追いかけても届かなかった。
両刃の剣でインプを真っ二つに叩き割る。
小学生の夕季がぽつんと立ちつくす。誰にも相手にされず、大人達に誉められる忍の姿をただ羨ましそうに眺めていた。
振り返る冷たい視線だけが深く突き刺さった。
「あああああー!」
人さし指を天高くかかげ、一気に振り下ろす空竜王。巻き起こる竜巻がインプ達を粉砕した。
中学生になった夕季が淋しげに佇む。周囲の人間達がすべて離れていっても、見つめる背中はただ一人だけ。
しかし、消えていくその影は、もはや立ち止まることすらなかった。
夕季が激しく睨みつける。両眼に憎しみの炎を宿したままで。
「あああああーっ! あああああーっ!」
何かに取り憑かれるように、一心不乱にインプの群れを切り刻み続ける夕季。
ただ瞳だけが異様な光を放っていた。
「うああああああああーっ!」
滑らかならせんをなぞるように、空竜王が降下していく。
『あの人にだけは、負けたくない……』
心の中でそう呟いた。