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第三話 『そこにある希望』 9. 空竜王

 


 鳳が静かに目を開ける。

 突然巻き起こった砂煙に視界を奪われたのだ。

 死を覚悟した隊員達がそこで見たものは、おおよそ信じがたい光景だった。

 薄まりゆく紛煙の中、切れ上った一対の青い光が輝きを放つ。徐々に存在を露呈する巨人の姿があった。

「何だ、ありゃ……」思わず声をもらす駒田。

 鳳がごくりと生唾を飲み込んだ。「……空竜王」

 そのシルエットは夕陽を浴びていっそうきらめいて見えた。反射の角度によってはパール状の光を放つ。

 補助ユニットから解放された真なる空竜王の姿は、海竜王よりさらに上背があり、引き締まっていた。白く輝く機体の背中には幾重もの翼を従える。顔立ちはより鋭利で、頭頂には複数の触覚のような角を前後にそびえ立たせていた。海竜王が爪を装備していた箇所には同じく隆起部があり、そこから両刃の剣を携えていた。

 勇壮な翼を天高くそびえさせ、指先を整えた腕を真っ直ぐに伸ばし、両足を揃えた姿勢で胸を張る白銀の天使。それは青き両眼の輝きとともに全身をぬめりと光らせるや、瞬く間に悪魔の顔へと変貌をとげた。

 空気を切り裂く羽の音。

 第二波が空竜王に狙いを定めていた。

 放射を逆にたどるように空からインプ達が空竜王目がけて集束する。

 それが凝縮した瞬間、星の消滅を連想させるような爆発が起こった。

 粉々に砕け散り、瞬く間に大気へと還る白い使い魔達。

 続く三波、四波も同じ運命をたどるだけだった。

 上空を覆いつくす無数の白インプに向かい、空竜王が音も立てずに垂直上昇する。両手の剣すら羽と化し、インプを置き去りにしたままその頭上へと抜け出した。

 夕陽を背に受け、雄々しく胸を張った姿勢で静止する。数瞬の後、落下エネルギーを利用し、真ッ逆さまに降下を始めた。

 その一端に触れたものは瞬時に白い煙となって立ち消える。

 地に足をつくやいなや、両腕を傘状に広げ、大地に剣先を這わせながら、鋭く尖った矢じりのごとく前傾姿勢で滑り抜けていった。目にも止まらぬ速さで敵を撹乱したかと思えば、急停止し直角に軌道を変える。時に背を向け、時に縦回転し、地上のインプ達を切り裂いていった。それは高速で回り続けるコマのようでもあった。 

 インプの放つ圧縮空気の弾丸をものともせずに弾き返し、空竜王がメック隊員達に背を向けて大地に降り立つ。

 剣を横になぎ払うと、扇状に展開した真空の刃が目の前のインプ達を粉砕した。

 訪れる静粛。

 それはすべての脅威の消滅を意味していた。

 メック隊員達は瞬きすらできずにその光景を見守るだけだった。

 みな導かれるようにそこに歩み寄り始めていた。

 紅く燃える空の下、静かに振り返る空竜王。その青き両眼は、怒りとも哀しみとも取れる光を放ち続けた。

「何という雄姿だ……」鳳が心を奪われ立ちつくす。

「俺達は間違っていなかったんだな……」

「ああ……」駒田の言葉に頷く南沢。涙をぐいとぬぐい取った。「また今日も、家に帰れる……」


「古閑夕季の首はつながったというところですか」

 メガル司令部で火刈が席を立つ。去り際に凪野に振り返って言った。

「やはり海竜王は動かなかった。あなたの仮説は覆されましたな」

 凪野の視線はディスプレイの中の空竜王の雄姿に釘づけとなっていた。

 ふん、と鼻を鳴らす火刈。退室しざまにぼそりと告げる。

「穂村光輔を呼んでおきます」


 木場の前で神妙な様子でうなだれる忍の姿があった。

「申し訳ありません。任務遂行の責務を怠りました。処罰は覚悟しています」

 木場が背を向ける。押し殺した声で静かに言った。

「もういい」

 去って行く背中を忍はいつまでも眺め続けていた。

 それからメック隊員に囲まれる空竜王に目をやった。

 空がくすぶり始める。

 夕暮れの暗雲に忍が顔を向けた。

 不安そうな表情をあらわにしたまま。

 激しい雷雨が戦場を跡形もなく洗い流す。

 それは遠く海の彼方から響き渡る、アスモデウスの息吹のようでもあった。






                                     了

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