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第十話 『決戦!』 13. 祝砲

 


 メガル本部はお祭り騒ぎの真っ最中だった。

 帰還する三体の竜王とメック・トルーパーを職員総出で出迎える。あさみと凪野の姿だけがそこには見あたらなかった。

 デッキに降り立った光輔らのもとへ桔平が歩み寄って行く。

「よくやった、おまえら。ご褒美に焼肉おごってやる」後ろの木場に振り返った。「木場が」

 涙で充血した両目をカッと見開く木場。「な!」

「メンドくせえな」ぼそりと礼也。「メロンパンでいいって」

「な!」桔平が木場へ振り返った。「あんなこと言ってやがるぞ、あいつ。信じられんな」

「いや、俺は一向にかまわんが……」

「せっかくの木場の好意をてめえは! もうジュースホルダ付けてやんねえからな」

「それは付けとけって……」

「もういい! もういい、光輔、夕季、こんな奴ほっといて行くぞ!」

「……」光輔、微妙。「桔平さん、あの店出入り禁止らしいすよ」

「え! マジか?」

「マジだ」

 桔平と木場が情けない顔を見合わせる。

 夕季がぼそっと呟いた。

「甘いものが食べたい……」


 部屋に戻った夕季を笑顔で出迎える忍。

「お帰りなさい」

「ただいま」夕季も嬉しそうに笑った。

「やったね。さすがわが妹。立派、立派」

「……。あたしだけじゃないから」

「謙遜しなさんなって。ほんとにすごいと思うよ。照れんな、照れんな」

「別に照れてるわけじゃ……」

「それに比べてあのバカどもは……」

「……。誰?」

「え? あ、何でもないない。ごはん、すぐに温めるから、先にお風呂入ってな」

「……うん」

 ふと思い出したように忍。

「そう言えばあんたもうすぐ誕生日だったね。何か欲しい物ある?」

「いい。別に」

「遠慮しなさんなって。買ったげるから言ってみな、今一番欲しいもの。新しいケータイ? 前にデジカメ欲しいとか言ってなかったっけ」

「……」熟考モードの夕季。

 楽しそうに忍が覗き込んだ。「何?」

「……メモリ」

「……。ああ、カード?」

「カー、ド?」

「あれでしょ。ケータイの中とかパソコンの外に挿すやつ?」

「……。パソコンの中に挿すやつ」

「はあ?」


 雅が笑顔で光輔を出迎えた。涙ぐむ雅に笑いかける光輔。

「光ちゃん、お帰りなさい。お疲れ様」

「ああ。何とか帰ってこれた……」

「よかった。光ちゃん帰ってこなかったらどうしようかと思ってたんだ」

「あ、うん……」

「じゃ、さっそくだけど花火の場所取りお願いね」

「ええ~!」

「あれ、何それ」

「いや、こっちが何それなんだけど……」

 建物の陰から礼也はその様子をうかがっていた。

 ふっと笑い、立ち去ろうとするところへ雅の声が追いかけてくる。

「礼也君も、お疲れ様」

 背中を向けたまま礼也が手を振った。

「ねえ、ちょっと待って」

「……?」

「礼也君、場所取りっ!」

「……」


 二日後、メガル本部の大広間を使い、祝勝パーティが開かれることとなった。

 マイクを握りしめ、すでに上機嫌の桔平。

「あ~、テス~、テス~。みんな~、よくやった~。今日はとことん食って飲んで騒いで吐け~! 暴れて、暴れて、暴れまくれ。暴れまくりすてぃだ! 俺が許す。俺があ…… !」

 料理を取りに来た、制服姿の夕季と目が合う。

「……」

「……」

 小動物のようにこそこそと桔平が逃げていった。

 大沼が木場に不思議そうな顔を向ける。

「何かあったんですかね?」

 オレンジジュースをグイと飲み干す木場。

「さあな。!……」グラスを取りに来た忍と目が合い、小動物のようにこそこそと逃げていった。

「何かあったのか?」

「知らないっス」

 テーブルのジョッキビールを忍がグビッと飲み干した。

「……」

 メック隊員達の集まるテーブルでは、恒例の『鳳順一郎裸踊り』が始まろうとしていた。

 料理皿を片手に礼也に近づいて行く夕季。

「それお酒でしょ」

 夕季同様、高校の制服姿のままで、ワインをラッパ飲みしながら礼也が上気した顔を向けた。

「知るかって。こっちゃ、成人まで生きてられる保証だってねえんだ」夕季のソーセージをつまみ食いする。「うめえな、この野郎。こんなモンに金かけんだったら、俺らに臨時ボーナスよこしやがれって。賞状一枚と五千円分の図書カードってな、なめすぎだろ、実際。おい、てめえ、買え!」

「八掛けなら買ってもいい」

「はあ! ふざけんな、こら! 足もと見てんじゃねえぞ!」

「じゃあいらない」

「はあっ! ……仕方ねえ。……八掛けっていくらだ?」

「……」

 あきれ顔の夕季。ふと眉を寄せ、心の片隅につかえていたしこりを口にした。

「……ねえ」

「あ?」

「……。あたし達、いったい何と戦ってたんだろう……」

「ああん!」ワインボトルを片手にじろりと夕季を睨めつけた。「なもん、悪モンに決まってんだろ。俺らから大事なモンぶんどってく、先っちょから尻尾まで悪いモンの塊だって」

「……。そうとは言い切れないかも」

「んだあ!」

「あいつらは戦いが終わると、海に還り、土に還る。この星の中へ融けて還っていく。ひょっとしたら、彼らの方が人類よりも先にこの星で何かを手にしていたのかもしれない。あたし達が彼らの大切なものを奪ってしまったのかもしれない……」

「んなの関係あるかって」

「!」

「誰がどんな理由で来ようと、俺らは俺らの大事なモン守るだけだって。今さらどっちが先だとか、優先だとか、んな綺麗ごと言えるような歴史刻んでねえだろ、俺達ゃよ」

「……」

「てめえ一人だけ汚れてねえってんなら別だがな。さんざん好き勝手やらかして、山削って、海汚して、エコだ何だ言ったって、今さら原始人に戻れるわけじゃねえ。てめえらが生きてく分にはかえられねえだろが。生きるために肉だって魚だって食う。植物だって野菜だって育ってんだから命あるみてえなモンだろ。で、奴らがありがたがって俺らに食われてるってのか? なわけねえだろ。食われるやつらにとっちゃ、殺生もなんも変わんねえって。害虫だって人間襲うためにそこに巣作ってるわけじゃねえ。逆に人間が自分らの都合悪いモン勝手にそう決めつけて攻撃してるだけだ。やられる方にとっちゃ、どんな理由があったって理不尽なことにかわりねえ。俺らだっておんなじだろ。食われたくねえから、死にたくねえから必死にもがく。そんだけだ」

「……」ずっと礼也に注目していた夕季が眉を寄せた。「そうだね。そんな綺麗ごと言ってられるような余裕、今のあたし達にはない」

「たりめえだって。おぼこいツラしやがって、ぶってんじゃねえぞ」

「何……」

「そういう奴に限って乱れまくりやがるくせしやがって」

「……何それ」

「ああ、一から説明してほしいのか!」

「いらない」切なそうに礼也の顔を見上げる。「何だか頭悪そうだから」

「おう、おう! てめえはバケモンに気ぃ遣う余裕があんならもっと目上の人間うやまえって!」

「目上じゃないし」軽蔑のまなざし。「酔っ払い、嫌いだから」

「ああっ!」

 後悔するような顔つきで夕季がそっぽを向く。

 そこへ忍が抱きついてきた。

「ゆ~き~ぃぃぃ」

 すでにべろんべろんだった。

 咄嗟に顔をしかめる夕季。

「臭い……」

「顔真っ赤だぞ、あんた」礼也が冷めた視線を差し向けた。「こいつがめずらしく褒めてもらった時みたくなってんぞ」

「礼也!」

「やだも~、照れてるわけじゃないってえ!」

 背中をバシッと叩く勢いで、礼也の口からワインが飛び出した。

「ってえな。知ってるっての」

「しぃ~……」

 尖らせた唇の前で一本指を立て、忍が小声で礼也を制する。

「実はね~」二人を見比べ、してやったりと言わんばかりに微笑んだ。「何を隠そう、ここだけの話~、今私はお酒を飲んでいるのですよ!」

「いや、わかってるって」

「だから赤くて臭かったんだよ。照れてるわけじゃなかったんだな、これが。くくくっ!」

「だからわかってるってよ」

「びっくりした?」

「びっくりだわ」

「あ、臭いとか言うと誤解されちゃうから言っとくけど、おフロは毎日入ってるよ」

「聞いてねえって」

「ああ~、今想像したな、このエロガキ」

「してねえって……」

「お姉ちゃん。まだお酒とか飲んじゃ駄目でしょ」

「どうしてよ、もうハタチなのに、何故にダメ?」

「そういうことじゃなくて……」

 ぶすりと告げた夕季に、ご機嫌の忍が振り返る。

 辟易気味の礼也が、ワインを流し込みながら顔をそむけた。

「トシ数え間違えてんだろ。ハタチにゃ見えねえ」

「ヤベ~、実は十七歳だったかも! こりゃメーター上がってきちゃったな~!」

「さっきから四十過ぎのオッサンみてえだっての」

「あ~、よっぱらっちゃった……」トロンとした目つきで礼也を見つめる。「うい、マスター、あたしもワイン」

「誰に言ってんだって……」

「なかったらいいちこでもいいです。あとドンペリとか」

「ドンペリっつうか、ドン引きだって。飲みすぎだろ」

「ビール二本飲んだだけなんだけどなあ……」

「んだけで、それかよ」

「その前に中ジョッキで三杯と大ジョッキ五杯と芋焼酎をボルトで三本。あと高そうなお酒をマスで何杯か飲んでマス。さあ、全部でどんだけ飲んだでしょ~!」

「致死量だろ……」

「やだも~、おっす、オラ、ドンペリとか聞くとわくわくすっぞ! ねえかあ、そんないいモン! 実に飲んでみてえ~!」

「……すげえ垂れ流しっぷりだな。そんなみっともねえ酒乱、マンガにも出てこねえぞ」

「なによ、別にあんたはメロンパンでも食べてればいいんだからね!」

「言われなくても食うっての……」

「今のみたいの、ツンドレってんだよ。知ってた?」

「なんだ、ツンドレって……」

「ツンドレだって。何それ? おかしい~。酔いどれかっ!」

「あんたがな……」

「飲めば飲むほどつらくなる」

「つらいんだったらやめとけよ」

「酔拳! ……うぷっ!」

「いや、そりゃ酔拳じゃねえ」

「あたしがこの酔拳で礼也の首の骨へし折るから、れーやは『痛ぇえ~!』って叫んで」

「それで俺に何のメリットがある」

「もうっ!」

「真顔でぶち切れてやがる理由を言えって……」

「お姉ちゃんてば! いい加減にしてよ」

「まあまあ、かたいこと言いなさんなって。あんたも飲め飲め」

 見るに見かねて止めに入った夕季の頭を忍がくしゃくしゃとかきまわすと、髪止めでまとめた部分がアンテナのように盛り上がった。

「あ、アホ毛。萌え~! 夕季萌え~!」

「やめてってば。本当にいい加減にして」

 口をへの字に結び、夕季が忍を突き放す。

 するとふいに忍の唇がわなわなと震え出した。

「……そんなふうに言われちゃうと、お姉ちゃん悲しくなっちゃうな……」

「あ、ごめ……」

「悲ぴーっ! まんもす悲ぴー! しの坊ショックー!」

「……」

「お、すでにやってんじゃん、れーや。こーのやろー、いいでしょー、特別に許すマスよ!」

「ろれつまわってねえぞ」

「だけど子供のくせにお酒飲むのは感心しませんな。許スません! そこになおれ!」

「今、許すっつったじゃねえか……」

「だいじょーぶ、後でちゃんと学校に言っといてやっから、全部まかしときな」ドンと胸を叩く。「おっほ!」

「……あのな」

「お姉ちゃん、いい加減にした方が……」

「監督、優勝おめでとうございま~す!」

 ビール瓶を掲げ、夕季の頭からドバドバと浴びせかけた。

「ああー、もう!」

 肩を怒らせフロアから出て行く夕季を、バンザイで見送る忍。

「ひっく! うい~、きぼち悪……。ん、光ちゃんはどうしたの?」

 忍の何気ない一言に、礼也が顔を向けた。

「あいつは来ねえよ」

「なんで」

「花火大会行くんだと」

「花火たいかい?」

「おう。雅と一緒だって」

「ほほお。で、れーやはやけ酒なんだ。きゃははは~、……うっ!」

「何わけわかんないこと言ってんだって。ぶっ壊れすぎだぞ、酔っ払いが」

「酔っ払ってねえゲすよ!」へべれけ。「あ~み~ま~!」

「……」

 グビ、とワインを注ぎ込む礼也。

 ふいに忍が真顔になった。

「やっぱり、降りるんだってね、光ちゃん。残念だね、結構いいチームだと思ったのに」

「……」

「仕方がないよ」

 タオルで頭を拭きながら夕季がやって来た。

「あいつが決めたことだから」

「……」

 じっと夕季の顔に注目する忍。

「しむらうしろ~」再びへべれけモードに突入し、またもやビールを夕季の頭からかけ流した。「ビールをあビール! なんちってさーっ!」

「ああああー! せっかく洗ってきたのに!」

「んにぁはははー! ひっくしんっ!……。うぼっ、なんか急にきた……。おえぷ……」


 街では恒例の花火大会が催されていた。

 たった二日前まで人類が破滅の危機にさらされていたとは到底思えないほどの、ゆるやかさをかもし出しながら。

 赤、青、黄、様々な大輪の花の輝きに感嘆の声がもれる。

 そこにあるのは平和そのものだった。

 その意味を特別なものととらえる人間はごくわずかにすぎない。

 それが当たり前であると認識し続ける限り、この世界に本当の平和は訪れないのだろう。

 だが今はまだどうでもいいことだった。

 川べりに並んで腰を下ろす光輔と雅の前で、色とりどりの光の花が見上げる夜空に連続して広がる。

 それは祝砲のように遠く彼方まで鳴り響いた。





                                     第一部完




 どうにかこうにか、第一部として終了することができました。情報開示としてはかなりシブチンで、全体の二、三割くらいかなあ、というところです。

 このあと二部、三部と勝手に続いていくわけですが、文化祭あり、夏休みあり、クラス替えあり、初恋のお兄ちゃん出えの、クリスマス大会ありいの、ロボはどこへいった! だの、オヤジギャグ満載のゆるゆる王道学園コメディ展開?が……(みんな死んじゃったり、生き返っちゃったり、裸で空を飛んじゃったり、戦士達の戦いはこれからも続いちゃったり……)。

 また露呈する機会があれば、懲りずにお目通しのほどをお願い申し上げます。

 長々とおつきあいいただきまして、誠にありがとうございました。

 EDは『君のために○を』(積恥……)




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