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第十話 『決戦!』 12. 決戦!

 


 地響きを立て大地に降り立つ巨大な影。その姿は陸竜王のフォルムを色濃く踏襲していた。ダークレッドを基調にブラウンと鮮やかなグリーンで彩られ、ブラックとシルバーのアクセントを織り交ぜる。さらなる装甲を施しディテールを増したシルエットからは、酷似ではないもののその血脈を充分に感じさせた。甲虫類の角のごとくそびえ立つ攻撃的な頭部の突起。その下から睨みつける両眼は赤く激しく光り輝く。胸部の装飾部分には黄橙色の光を宿し、全身に走り抜けるラインは青く発光していた。

 叩きつけるようなアスモデウスの咆哮すらものともせず、ガーディアンは大地を蹴って眼前の敵に挑みかかっていった。


 静まり返る司令室の中、桔平が嫌悪するようにディスプレイを睨みつける。

 同じく、ディスプレイの中の救世主に釘づけとなるしぶきをちらと見やった。

「まるで子供が考えたようなカッコいいロボですね……」

「ロボだか何だかわかったもんじゃねえがな」右肩を押さえ、桔平が不敵に笑ってみせた。「あれで瞬殺されちまったらおもしろすぎんだろ?」

「でしたら」桔平を振り返ろうともせず、しぶきが意味ありげに微笑む。「私達は笑ったまま最期を迎えられますね」

「すっとぼけたことぬかしてねえで、いい加減白状しちまえよ」

「はい?……」

 二人の空間に不穏な空気が立ち込める。

「……」

「……」

「だから今日の色……」

「それだけはお答えできません」

「……。じゃ、メアド……」

「それもお答えできません」

「……。副司令命令でもか」

「はい」

「……このままじゃ死んでも死に切れねえ」

 桔平を見上げ、しぶきがいたずらっぽく笑った。

「ずいぶんごゆっくりなさっておられましたね」

「……」

「肩、どうかされましたか?」

「んあ? 焼き肉屋で猫に噛まれただけだ」

「そうですか。それは災難でしたね」

「おおよ、どうもメス猫とは相性が悪い。白熊なら焼いて食っちまうとこだが」

「そう言えば」ぽんと手を叩く。「局長も猫口っぽい感じですよね」

「……」

「?」

 桔平もぽんと手を叩いた。


 ケエエエーと威嚇し、アスモデウスが全身から死のシャワーを撃ち放つ。が、それらはすべてガーディアンの装甲に何の痕跡も残さず弾かれ消滅した。

 振りかぶり力任せに殴りつけるガーディアンによって、アスモデウスの羊の顔が陥没する。

「よっしゃ、次! ……?」

 急激なパワーの低下を感じ取り、礼也が眉間に皺を寄せた。陸竜王のコクピット内と同じ環境で振り返る。右側に光輔、左には夕季が横一列に並ぶように配置されていた。

「何かあったのか、夕季」

 同じく空竜王の中にいながらにして、実在しない集中コクピット内ですぐ隣の礼也へ夕季が顔を向ける。

「礼也、光輔の意識が飛んだ」

「何!」

 右側へ視線を配る二人。そこには感応スティックを握りしめたまま、頭をたれる光輔の姿があった。

「光輔、光輔、しっかりしろ!」

「光輔!」

 声は返らない。

 礼也がギリと歯がみした。

『ポジションチェンジだ!』

 桔平のがなり声が二人の耳を突き抜ける。

『礼也、夕季への依存度を上げろ。少しは光輔の負担が減るはずだ』

「仕方ねえ!」

「どういう意味!」

『ケンカは後にしろ、てめーら!』

「わかってるって」

「ポジションチェンジって、どうすれば…… あ、そう、か……」

『とにかく光輔と入れ替わることをイメージしろ。礼也はサポートだ』

「あいよ!」

「わかった!」

 再び光玉につつまれるガーディアン。全体的にボディカラーの明るみが増し、黄と青の光の位置が入れ替わっていた。

「ガーディアンのスピードが上がったようです」

 しぶきが桔平に振り返った。

「防御力は落ちるが今の光輔に負担をかけ続けるよりはましだ」拳を握りしめる。「一気にたたみかけろ、クソガキども!」

 アスモデウスの全身が白色の光を帯びる。ガバッと開いた仮面の口から撃ち出されたそれは、街をまるごと焼きつくすほどの膨大なエネルギーの塊となりガーディアンへと襲いかかった。

「礼也!」

 夕季が身を乗り出す。光輔と夕季の配置が入れ替わっていた。

「ざけんな! 狼牙拍!」

 両足を前後に開き、ガーディアンが胸もとで二つの拳を激しくぶつけ合わせる。真紅の輝きを放つその中心部にアスモデウスの攻撃が集中し、バチバチと弾ける光の太い束が圧力となってガーディアンを押し潰そうとした。

 辺り一帯が白濁した光の渦に巻き込まれる。凄まじいまでのエネルギーの洪水は空間を断裂しながら脇へ逸れ景色を削り、地に幾重もの穴を穿ち、天をも貫く柱となって吹き上がった。

 それでもガーディアンは一歩も退くことなく、大地に踵を埋め、ひたすらそのプレッシャーを受け止め続ける。

 やがて狂気の光は吸収されるように勢いを失い、巻き起こる砂塵の後に無傷で立ちそびえる紅の巨人のシルエットだけを浮き上がらせた。

 結んだ両拳を頭上高く掲げ、ガーディアンが太陽を背負い跳び上がる。アスモデウス目がけて振り下ろされた拳の先から光がほとばしり、弾き飛ばしたその巨体を追いかけるように光の残像が荒れ狂う海面を二つに割った。

「夕季、臥竜偃月刀だ」

「……」一瞬の間を経て、礼也からの意識を読み取ったように頷いた。「わかった」

 雲を切り裂き手もとに集束する雷撃は、激しくスパークしながら縦に長く伸びて、ガーディアンの身長ほどもある長刀へと形を変えた。

「ぶっ殺す!」

 懐深くかまえガーディアンが大地を蹴り上げる。踊るように切りかかるや、瞬く間にアスモデウスの全身を切りつけていった。


 司令室全体が興奮のるつぼと化していた。そこにいる者全員、誰はばかることなく奇声をあげ、メガホン状に丸めた重要書類を拳とともに突き上げる。

 その中でも最後列の二人の熱狂振りはとりわけ際立ったものだった。

「押しています。優勢です、ガーディアンが!」しぶきが上気した顔でまくしたてる。「押しまくっています!」

「よし、いけ!」肩の痛みも忘れ、鼻息荒い桔平のボルテージもマックスへと達する。「押して、押して、押しまくりまくれー!」

「押しマクリマクリスティですね!」

「おう、押しまくりまくりすてぃだ! ……え! 何て!」

「赤ふん効果ですね!」

「いや、だから、そういうの持ってねえし!」

「そうですか! 私も勝負をかけたかいがあったというものです!」

「何色だ!」

「それは無理です!」

「無理か!」

「はい!」

「おし、一気にカタつけろ! 勝負だ!」

「いけ! 頑張れ!」

「頑張れ! やっちまえっ!」

「もう少し!」

「もう少しだ! 今だ!」

「そこっ、そこっ!」

「そこかっ! そこだなっ!」

「そう! そこ! ああ~ん!」

「ああーん! ……。……ああ~ん?」

「失礼いたしました」

 ヘケケケケケケケケ!

「気持ち悪っ!」

「恐縮です!」


 瞬く間に両腕と悪魔の翼を切り落とされるアスモデウス。凍りついた仮面が悲痛なる不協和音を奏で、死に物狂いでガーディアンを吹き飛ばした。

「アスモデウスが海の方へ逃げていきます」

「逃がすな。ここで仕留めろ!」

 しぶきの声をかき消す桔平の絶叫。

 前のめりの夕季と礼也がアスモデウスを追いかける。

「逃げられる!」

「逃がさねえって!」

 臥竜偃月刀を投げつけるガーディアン。それはアスモデウスの背中から腹部を貫き、竜の頭を真っ二つに叩き割った。

 スピードを半減させながらも力ない咆哮を絞り出し、アスモデウスがなおも逃げようとする。

「夕季! 弾劾蒙衝打、いくぞ!」

「……何、そのネーミング」

「うっせえ、ほっときやがれ! いくって!」

「わかった!」

 ガーディアンが両腕を胸もとでクロスさせる。腕を後方へ振り払う勢いで、胸を張るように前へ突き出した。

「いけーっ!」

 二人の絶叫とともに、胸の装飾部分から厚みのある光熱線が一直線に対象目がけて収束していく。

 その膨大な熱量によってアスモデウスの全身がみるみる赤黒く変色する。ぼこぼこと沸騰するがごとく表皮が沸き立ち、めくれ上がり、数百の目や口が先を争うように破裂していった。

 両側面の牛と羊の首が弾け飛び、裂けんばかりに開かれた口腔が断末魔の悲鳴をあげる。二歩、三歩と歩いた後、悪夢の巨魁は海面にめり込むように倒れ伏した。

 アスモデウスがピクリとも動かなくなっても、ガーディアンはかまえを解かない。

 やがてその巨大な質量は海岸の砂に埋もれ、また海に面した部分は海水へと還り始めていった。


「アスモデウス活動停止……」

 メガル司令部内に訪れる沈黙。

 桔平がしぶきのディスプレイを覗き込んだ。

「カウンターは!」

「カウンター反応は……、ありません。消滅しました。……」一拍置き、慎重にそれを口にする。「……我々の勝利です」

「やった!」

「やったぞ!」

「勝ったぞ!」

 一斉に湧き起こる歓喜の渦。

 桔平が深く息を吐き出す。

「ようやく一回戦突破ってところか……」かたわらの椅子にどっかと座り、遠く海の彼方へと視線をやった。「……。次は……」


 淡い光をまとい、ガーディアンが三つの光に分離する。

 散開の後、再びそれぞれの竜王へと形を戻していった。

 着地ももどかしく、空竜王から慌てて飛び出す夕季。うずくまっている海竜王のもとへと一目散に駆けつけた。

「光輔!」

 外部パネルを開き特殊なコードを入力すると海竜王のハッチが静かに跳ね上がる。夕季がコクピットの中を覗き込んだ。

 光輔は顔を伏せたまま微動だにしなかった。

 夕季の表情が不安に染まる。

「光輔、光輔ー!」

 その呼びかけにゆっくりと顔を上げる光輔。

「……夕季」

「光輔、大丈夫!」

「……。なんとか……」夕季を見て力なく笑った。「腹減ってんだけど、何か食うモン持ってない?」

 目に涙を浮かべ、ほっと胸を撫で下ろす夕季。

「……知らない。早く出てくれば」

「出ていきたいのはやまやまなんだけど、力入らなくて……」

「世話焼かせないでよ」

 夕季が手をさしのべ、光輔がそれにつかまった。

「悪い……」

 引っ張りあげる夕季の足もとがふらつく。バランスを崩し、光輔が夕季にのしかかっていった。

「うわっ!」

「……」

 光輔を上に二人が抱き合う形となった。思わずそろって顔を赤らめる。

「……。何だよ。おまえもふらふらじゃんか」

「うぅるさい!」

「……。やっぱり睨むんだな、おまえって。ま、その方がほっとするけど」

「……うるさい」

「あ、またあばら折れたかも」

「大丈夫、光輔! ごめん……」

「嘘だけど」

「……。光輔っ!」

「す、す、すいません……」

「……」ふいに夕季が真顔になる。「どうしてまた来たの。もうやめるって言ってたのに」

「あ、うん……」ばつが悪そうに後頭部をかく。「言い忘れたことがあってさ」

「……。何を?」

「うん……」卑屈な笑みを浮かべる。「な~んちゃって、とか……」

「……」

 夕季が口をへの字に曲げる。何も言わず光輔の耳をつねり上げた。

「だだだだだっ! ちぎれるっ、ちぎれちゃうって!」目尻に涙を滲ませる。「やめて、ロールケーキおごるから! だだだ!」

「……」

「……」

「……二つ」

「へ? ……わかった、二つおごる!」

 夕季が光輔を解放する。

「ははっ……」

 涙をちょちょ切らせ、光輔が、ふっ、と笑ってみせた。

 それにつられるように夕季も笑った。

「夕季ー! 光輔ー!」

 礼也の声に振り返る光輔と夕季。

 礼也は全速力で走り寄り、その勢いのまま二人の間に飛び込んで来た。

 三人の頭を合わせるようにぎゅっと抱きつく礼也。

 先に不快感をあらわにしたのは夕季だった。

「何っ……」

 続く光輔。

「やめろ礼也、気持ち悪い……」

 二人の肩に顔をうずめたまま礼也が力強く言い放った。

「俺達の勝ちだ!」

「……」

「……」

 もう一度、今度は想いを逃がさぬように、噛みしめるように、ゆっくりとそれを口にした。

「俺達の、勝ちだ……」

 顔を見合わせ、夕季と光輔が嬉しそうに頷き合った。

 ふと海岸へ目線を移す夕季。

 そこにはアスモデウスの痕跡はかけらもなく、暮れかかる夕陽に照らされたオレンジ色の波が静かに打ち寄せているだけだった。






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