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第十話 『決戦!』 11. ガーディアン

 


 司令官専用の特別室に足を踏み入れる桔平。

 そこに凪野の姿はなく、一人あさみが机へ向かいディスプレイの様子をじっとうかがっていた。

「よう」

「……。何か」

「探しモンを届けにきたんだがよ」

 右肩を押さえ、拳銃を差し出す。カラシニコフから取り上げたあさみの物だった。

「そう。よく見つけたわね」

「まあな。引出しの奥に引っかかってやがった。お袋が掃除してて……」

「用が済んだのなら早く持ち場に戻りなさい」

「戻るさ。おまえがガーディアンの封印さえ解いてくれたらな」

「何を言っているのかわからないわ。私に言うより、直接博士と交渉したらどう?」

「すっとぼけんのもいい加減にしとけ」

「……」

「今しかないんだ。プログラムを倒すには、今、ガーディアンを投入するしかない」

「……。残念ながら、ご期待にそえそうもないわ」

「だったら、力づくでもそってもらうだけだ」

「そう。ならば……」机上の拳銃を手に取り、銃口を桔平へと向ける。「こうするしかないわね」

「俺が弾を抜いたとは考えなかったのか?」

「抜かないわ」じっと桔平を見据え、その瞳に悲しみの色をたたえる。「あなたは抜かない。私がこうすることを知っていたとしても」

「だったら話は早い」左腕から時計を取り外した。「二つに一つだ」

「無駄よ」苦痛にゆがむ表情で、それでも淡々とあさみが告げる。「私はあれの封印は解かない。何があっても」

「……」

「ガーディアンを解き放てば取り返しのつかないことになる。この世界が悲しみにつつまれる。それだけは避けなければならない」

 もはや含むような笑みも氷の壁もない。表情に憂いを宿し、心からの言葉で桔平と向かい合っていた。

「おまえは間違っている。自分でもわかっているんじゃないのか……」

「私は間違っていない!」

 あさみが感情をあらわにする。

 それは誰も目にしたことがない姿だった。ただ一人、桔平を除いては。

「あの男が何をしたのかわかっているの! あの男は……」

「己の野望のためにおまえの家族を殺した、か」

「!」

 言葉を失うあさみ。哀れみを帯びたまなざしを向け続ける桔平から目が離せなかった。

「メガル文明の発見者にしてメガル・プロジェクトの創始者でもある樹神博士は、そのすべての実権を盟友であるおまえの父親、進藤教授へ託す旨を記して息を引き取った。おもしろくないのはプロジェクト旗揚げ当初からの主要メンバーであり、樹神博士に粉骨砕身つくしてきた凪野博士だ。もとより名誉を独り占めするつもりだった博士は、自分の預かり知らぬところで樹神博士の意志を引き継いだ進藤教授が邪魔になった。だから同行していたおまえの兄さんもろとも、彼らを砦埜島で事故に見せかけて殺した。そう言いたいんだろう」

「……」

「たとえそれが真実だとしても、博士は今の世界に必要な人間だ。おまえ達と同じ必要悪だ。どんないびつな形であれ、現状のパワーバランスが崩れればこの世界の破滅は必至だろう。復讐をしたければ勝手にすればいい。だが私怨で世界を滅ぼす気か。おまえと同じ悲しみを世界中の人間に押しつけるつもりか。それじゃ何も変わらない」

「違う! 世界を滅ぼすのは竜王よ。あの男のエゴで世界が滅ぶ。竜王さえいなくなれば、アスモデウスはもとの場所へ還るはず」

 目を血走らせ懸命に訴えかけるあさみ。それを静かに眺め、桔平はかぶりを振った。

「還らない。おまえは火刈に騙されている。奴らの目的はメガリウムだ。人類を絶望と破滅に導く狂気の力がほしくて、おまえを利用しているにすぎない。あいつは独裁者だ。この国を自分の思い通りにすることしか考えていない。いつかおまえも切り捨てられる。尾藤のようにな」

「言いたいことはそれだけ」

「……」

 あさみの目が据わる。すでに冷静さを取り戻していた。

 桔平の眉間をポイントし、絶縁状をつきつける。

「残念ね。あなたまであの男の思想に感化されていたなんて」

「撃ちたきゃ撃て」

「!」

「俺には何が正しくて、何が間違っているのかなんてわからない。だが、いい加減うんざりしてきた。このままおまえがボロボロになってのたうち回る姿を見続けるくらいなら、ここですっぱり断ち切るのも悪い選択じゃない」

「……今さらあなたの命一つで、私の心が動くとでも思っているの」

「そいつは俺の知るところじゃない。もしおまえがそれで変われるのならまだ救いがある。変わらなければ、木場が俺の後を引き継ぐだろう。鳳さんや夕季や光輔達もな」

「……。あなたが死ねば、彼らは私を疑う。私を引きずり下ろそうと本気で立ち向かってくる。最後の一人になるまで。そう言いたいの?」

「そんなとこだ」

「私がそんな脅しに屈するとでも……」

「耐え切れねえよ、おまえじゃ」

「……」

「おまえはそんなに強くない。そんなこと、自分だってわかってんだろ」

「……私にはすでに選択肢はないと言いたいようね」

「まあな。どっちにしろ淋しい想いはさせねえ。腐れ縁だからな。俺が最後までつき合ってやる。とりあえず、先に行って待ってるわ」

「……。あなたが一番の悪党かもしれないわね」

「そんなことわかってたろ、昔っから」悲しげに目を伏せ、腕時計をあさみに差し出す。「こいつは返す。電池は替えたばかりだ。安モンなのによく動くわ。まさかこっちより長持ちしちまうとは考えもしなかったがな。いらなかったら夕季にでもやっといてくれ。ついでにあのバカに言っとけ。命は捨てるものでも拾うものでもない、つなぐモンだってよ」

 ギッと桔平を睨みつけ、あさみが静かに銃を下ろす。

「……。もう少し、スマートにできなかったの……」

「……」

「あまりにも白々しいと、興が冷める」

「……。わりいな、俺の才能じゃここいらが限界だ」

「……つき合わされる身にもなってほしいわね」

「ぬかせ。ダイコンに限ってすぐ脚本にケチつけやがる。グダグダ言う前に自分の表現力を磨いとけ」

「……。メガリウム計画の成功が現在のメガルの礎となった。そして続く竜王計画、ガーディアン計画も、遠からず成就しようとしている。でもそこにある真実をいったいどれだけの人間が知っているというのかしら」

「……。何が言いたい」

「本当の意味での三大計画を理解している人間はごくわずかしかいない。竜王計画とガーディアン計画が一つなぎのプロジェクトであることすら、あなたは知らないはず」

「!」

 桔平の目を見据えながら、左薬指からリングを抜き取るあさみ。それを机の上に置くと背中を向けて部屋から出て行こうとした。

「勝手にすればいい。私はもう知らない。責任はとってもらうから覚悟しておいて」

「ああ、わかっている。俺がおまえから力ずくで奪い取っただけだ」あさみの背中を追いかける桔平の視線がしだいに下りていく。「ありがとう、あさみ」

「……」ショートカットが淋しげに揺れた。「気乗りのしない警護をさせてごめんなさい。感謝しています」

「礼を言われるようなことはしてねえ。そのための特例人事だしな。それに……」顔を上げ、涼しげに笑った。「いや、何でもない」

「……」足を止め、あさみが静かに問いかける。「あなたの目的は何」

「何だったかな。忘れちまった」

「ごまかさないで」

「言ったってわかりゃしねえよ」

「!」

「口にしただけで消えちまうような、ちっぽけなもんだからな」

「……」

 ドアノブに手をかけ、一度は飲み込んだ言葉をあさみが口にする。

「アスモデウスは単なるテスト・プログラムにすぎない。それに続く本当の脅威が押し寄せてきた時、私達は自分達の無力さを嫌でも思い知らされることになる」

「今でも充分思い知らされてんだがな」

「……メガルの新たなプロジェクトが進行している。あなたの知らない、世界を破滅へと導く悪魔のプロジェクト。それを止められるのは私達だけだということを覚えておいて。パンドラの箱を閉じられるのは、私達だけだと……」


 光輔ら三人はアスモデウスと一進一退の攻防を続けていた。

 海岸から先への進撃を何とか阻む。

 メック・トルーパーは遠巻きにその様子を見守るだけだった。

「くっ……」

 膝をついた海竜王を、一斉に襲いかかる死のシャワーから空竜王が救い出した。

「大丈夫、光輔!」

『……ああ、大丈夫。ちょっとくらくらするけど……。……』

「光輔」

『……。……』

「礼也、光輔の様子がおかしい。まだ体調がよくないみたい!」

 両拳のクラッカーで攻撃をしのぎつつ、夕季の呼びかけに礼也が答える。

「俺が奴を引きつけておくから、おまえは光輔をメックのところまで運んでやってくれ」

 大きく跳び上がり、ハンマーのようにナックル・ガードを蛇の尾へ叩きつけた。

『わかった……』言葉を飲み込む夕季。『礼也、すぐに戻って来る。無茶しちゃ駄目だから』

「今さら無茶もクソもねえだろ」

『……』

「わかった、わかった。無茶はしねえ。約束する。だから余計な心配はやめろって」

『……約束だから』

 後方へ大きく退き、コクピット内で礼也が悪態をつく。

「ったく、てめえの方が無茶苦茶だってこといい加減気づけって」

『え、何』

「何でもねえ。早く…… !」

 その時、礼也の脳裏に流れ込む意識があった。

 それは陸竜王から直接語りかけられるようであり、或いはずっと以前から知っていた記憶のようでもあった。

『礼也、今……』

 夕季の呟きに振り返る。

「ああ、おまえもか」

『……俺も……』

『光輔』

「封印が解かれたのか……」

『封印って何』

 状況が飲み込めず戸惑いを隠せない二人へ向け、重々しく礼也が頷く。

「おい、ガーディアンを集束させるぞ」

『集束……』一泊置き、夕季もすべてを理解したようだった。『わかった』

「光輔、もうしばらく辛抱しろ。ガーディアンさえ集束すれば、後は俺達に任せてくれりゃあいい」

『……わかった。何とか頑張ってみる』

「行くぞ! 俺に合わせろ!」

『オッケー!』

『了解!』

 直後、三体の竜王が光につつまれる。この世のすべてを鮮やかに浮き上がらせた激しい光の放射は、輝きを増しながら天空目がけて突き抜けていった。

 赤と黄と青の三色の光の矢は上昇を続け、空中で集束しさらに光量を上積みしていった。

 その眩さに木場達が目を細める。が、アスモデウスの暴力的な光とはまるで逆の、優しく暖かな光だった。

 希望の光。見る者すべてが、おそらくはそう形容したであろう。

 光の円からしだいにあらわとなる勇壮なる姿。

 それは全長五十メートルを超す巨大な人がたのシルエットだった。


「あれは……」

 司令室の最後列でディスプレイの映像を凝視したまま硬直してしまったしぶきが呟く。

 その背後からのっそり現れた桔平が淡々と答えた。

「ガーディアンだ」

「ガーディアン……。あれが……」

「ああ。俺達の最後の砦だ……」





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