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第一話 『海より来たる禍』 OP
それは何の前触れもなく起こった。
突然の海底火山の爆発は辺り一面を白濁させる。
霧のように立ち込める水蒸気の壁の中からのぞく一対の光は、弛緩しきった人類に警鐘を鳴らすかのように爛々と妖しくうごめき続けた。
この世の誰も見たことのない、狂猛なまなざしだった。
「たった今ガイアからプログラムの発動を確認しました。カウントダウンが始まっています」
オペレーターの声に一人の男が振り返る。
その両眼にはすでに覚悟を宿していた。
「カウンターの解析は」
「アスモデウスのようです。先回とは比較にならないほどの巨大な反応です」
「ついに、やってきましたな」
かたわらで別の男が呟く。遠く海の彼方へ視線を泳がせながらつないだ。
「人類の未来を脅かすわざわいが……」
それを受け、最初の男が重々しく頷く。
そしてその男、凪野守人は、震源地から遠く千二百キロメートルを隔てた砦の中でそれを宣言した。
「これよりオペレーション・アスモデウスを展開する!」