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05話 - 甘いほうが好き

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 ガハッ。

 口から大量の血が零れる。

 握った機巧式銃剣(ガンブレード)を離さなかったのは単なる意地だ。

 霞み始めた目を凝らせば、月神狼(ムーンウルフ)は未だ拘束されている。

 魔導術で拘束したのだ、幻影や偽者ではないはず。

 逃げられたり抜けられた感じもしない。

 ……だと、すると。

「なる、ほど……、この、攻撃自体が、幻、か」

 月神狼の幻術は強力無比であり、現実世界に干渉するとさえされている。

 ……なるほど、こいつは強力だ。

 崩れ落ちそうになる体を叱咤し、足掻く。

 ――吸収・排出。

 途端に、青く輝いていた魔法陣が紅く変色し、巨狼を拘束している鎖から黄金の粒子が漏れ出し始める。

 月神狼の体内の生命力と魔力を強制的に体外に排出しているのだ。

 どうせ、直ぐに抜けられるといえ、抜けるそれまでにはそこそこの量を体外に排出できるはずである。

 正に命を懸けて一矢報いたのだ。




 ◆◆◆【月神狼】◆◆◆



 急速に体から力が抜け始める。

 おそらくは身を縛っている魔導の術の力だろう。

 かなり高位の術なのは分かる。

 そして、それを我自身と戦いながら地面に描いたのだから、見事なものである。

 ……たいした物だな、人間。

 魔力を一際強く集め、足元の陣を砕く。

 シャリィン。

 薄い硝子を砕くような音が響き、身を縛っていた鎖が砕けた。


 術を砕くまでに体内の生命力の三割近くを持っていかれた。

 体には重い倦怠感が圧し掛かる。

 だが、その程度だった。

 ……まぁ、人間にしては見事であった。

 口元に淡い笑いを浮かべる。

 そこそこ楽しめたので、連れの女は見逃してやろう。

 そう思い、頭を振った瞬間だった。


 ギシィッ!


 再度、魔導術の鎖が身を縛り、高速で生命力を吸い出し始める。

 そして、背後からつい先程息絶えたはずの人間の声が聞こえた。


「あ痛たたたた。ったく、一回死んじまったじゃねーか。まったくもう……」




 ◆◆◆【アッシュ・グレイ】◆◆◆



「あ痛たたたた。ったく、一回死んじまったじゃねーか。まったくもう……」

 ぼやく。

 あー……、だりぃ。

 思わず、心中で悪態をつきながら倒れていた身を起こす。

 視線を向ければ、巨狼の目がひどく緊張していた。

「ま、死んだはずの人間が生きてちゃ、そりゃ驚くわな」

 ……逆の立場だったら、驚くのレベルじゃないけどな。

 口元に苦い笑いを浮かべ、種明かしをした。

「出番だぜ、―――」

(貴公、精霊使い!?)

 巨狼の驚愕する思念に反応するかのように、俺の背後に異形の精霊が顕現した。




 ……。




 ……。

 ……。

 ……。

(我が言うのもなんだが、貴公は随分と人間離れしておるな)

「……笑うな、俺だってちっとは気にしてんだ!」

 力なく倒れ付した巨狼から、笑みを含んだからかいの念が飛んでくる。


 あの後、さらに三回程殺されたが、結局の所、それまでに月神狼の生命力と魔力を削りきったのだ。

(我の負けだ。好きにせよ、人間)

「あらら、潔い」

(形はどうであれ、我は倒れ、貴公は立っているのだ。どちらが勝者かなど、一目瞭然)

「……ふーん」

(望めるのなら、嬲り者にはして欲しくないところだがのう)

 そう言って、目を閉じてしまった。

「……」

 ……本当に潔いな、この狼。


 さて、どうしたものか?

 僅かに考え。

「お!」

 頭上にピカーンと電球が灯った。もちろん気のせいだが。

「お前さん、俺の好きなようにしていいんだよな?」

(その通りだ。所詮は敗者だ。好きにするとよい……)

「OK♪ OK♪」

 しかと言質はとった。

 くふふと黒い笑みを浮かべて宣言した。

「お前、俺の物になれ」


 ……。

 巨狼が唖然としたように目を見開き、思念を発する。

(……我が欲しいのか、人間)

「おう!」

 漢に二言無し。

 何より月神狼という常識外れの力を得られるのなら、それ以上の望みはない。

(それは、勝者としての権利か?)

「半分はな」

(半分? 残りは?)

 苦笑しながら言う。

「何、俺は結構動物が好きなんだぜ。少なくともお前は俺に憎しみや恨みを覚えて襲ってきたんじゃないんだろ」

(ああ。強者と戦いたい。それだけだ)

「なら、少なくとも俺に君を殺す理由はないね」

(……我が行いに憤りを抱いていないのか?)

「全然」

(……)

「それに、君と一緒にいれば冬は暖かそうだしな」

(……)

 僅かな沈黙。

 やがて、目の前の巨狼は苦笑らしき笑みを浮かべた。


(勝者の権利としては甘いな。随分と……)

「いいじゃねえか。俺は甘いほうが好きだぜ」

(はは、本当に甘いなぁ、人間)

 巨狼笑いながら言葉を紡ぐ。

(我が名はルーナ。生誕の折、時の長老から頂いた名だ。人間、名は?)

「アッシュ・グレイだ」

 ……しかし、ルーナ?

 ルーナとは神話で語られる、古き月の女神(・・)の名前だ。

 ……はて?

 巨狼はなおも笑い、続ける。

(まさか、人間から求められるとはのう)

 突如巨狼の体が青白く光輝く。

(……なに、長くは生きてみるものよ)

 光が一際強く輝き。

「一つよろしく頼むぞ、我が君よ」

 そこには蒼銀の髪を長く伸ばした美しい幼女がいた。全裸で。




「というわけで、よろしく頼むぞ娘!」

「……………………………………………………………………ええと、アッシュ様?」

「……お願い! 何も聞かないで!」

 全力で顔を背ける。

 まさか、俺のものになれといった月神狼が雌で、しかも人間形態に変化できて、しかも幼女とは、予想外に過ぎる。

 なんというか、ローゼの汚い物を見るような冷たい視線が痛い。

 痛すぎる。

 視線が人を殺す力を持っていたなら、既に百回は死んでいる気がする。

「こんな小さな子を…………。アッシュ様の不潔……」

「やめて! これ以上俺を苛めないで!」

「どうせ、この子にも黒を、とか言うんですね。このロリペド!」

「痛い! 心が痛い! やめて、お兄さん死んじゃうから!」

「大丈夫よ、ルーナちゃん。お姉さんが守ってあげるからね」

「ぬ? うむ、世話になるぞ、娘」

「安心してね、絶対に守ってあげるから!」

 ローゼは目に涙を浮かべて、此方を睨みつける。

「最低です!」


 この日、最大の叫び声を上げた。

 全力で、心の痛みが命ずるままに、涙を流しながら。



「やめてぇぇえええええぇぇぇええええええええええええええええええぇぇぇぇ!」



 今までのやり取りの中で最大のダメージを受けたのは、言うまでもない、南無三。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。

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