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02話 - 少女の依頼

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 チュンチュンッ。

 頭上で小鳥が鳴く音が聞こえ、目をそっと開ける。

 少し肌寒い。

 ……朝か。

 見渡せば、目の前には昨日の焚き火跡。

「うっ、くぅ~っっ!」

 自らの身に駆けていた毛布をどかし、大きく伸びをした。

 体を捻るとゴキッ、ゴキッと音が鳴る。

 昨日拾った少女――ローゼは馬車の中で寝ている。

 いくら成り行きで拾ったとはいえ、女の子を外で寝かせるのは気が引けた。

「……我ながらフェミニストだな」

 苦笑しながら、馬車の横に備え付けている樽から水を汲み、顔を洗う。

「とりあえずは、朝飯の用意でもすっかね」




 ◆◆◆【ローゼ・ダリア】◆◆◆



 寝ていた私の鼻にいい匂いが漂ってくる。

 そっと目を開ければ、見慣れない天井。

 そして、思い出す。

 ……そっか、私は昨日。

 自らを庇って殺されてしまった親しかったメイドや執事達が思い出され涙が零れそうになる。

 目をぎゅっとつぶり、悲しみを押し殺す。

 ともあれ、今起きよう。

 そっと、自らの上に掛かっていた厚めの毛布をどかした。


「あの、おはようございます」

「おう、起きたか。おはようさん」

 目の前の男性は昨日、私を助けてくれ人だ。

「馬車の横にある樽に水が入ってる。それで顔を洗うといい。その後は飯だ」

「あ、はい」

 そう言うと、男性――アッシュ様はまた、鍋をかき回す作業に戻ってしまった。


 傭兵兼行商という変わった人だ。

 でも、悪い人じゃないと思う。

 こうして拾った私にもご飯を食べさせてくれるし、面倒も見てくれる。それに、昨晩は寝込みを襲われることも覚悟していたのだが、それもなかった。

 目に映る光も温和な者のそれだし、性格も意外に面倒見が良さそうだ。

「…………ふう」

 パシャッ。

 樽から組み上げた水で顔を流す。

 一度は死を覚悟した身だ。

 どうせなら、自分を助けてくれたアッシュ様の好意を信じてみようと思う。

 出会って間もないが、どうせ死に掛けた身、もう失うものなどないだろう。ならば、そう分の悪い賭けでもない。

 そう思う。


「「頂きます」」

 アッシュ様から渡された器には昨日のスープの中に何やら細い物が浮いていた。

「えと、アッシュ様、…………これは?」

「お? 麺ははじめてか?」

「めん?」

「おう。小麦と塩、それに水で練ってそれを寝かした後、糸状に細く切るんだ。後はスープと一緒に煮込むだけ。暁帝国の民間料理だよ。消化にもいいんだぜ♪」

 そのまま、チュルチュルと音を立てて吸うように食べる。

 ……な、なんか微妙にマナー違反のような。

 でも暁帝国の民間料理というし、きっと文化の違いなのでしょう。

 ええ、そうです! そのはずです!

 ……。

 いざ!

「あむっ。…………チュルッ」

 ……。

「…………美味しい!」

「だろう!」

 アッシュ様がにかっと笑う。

 何か体が内から温まるような気がする。

 肌寒い季節ということもあって、なんかほっとする味だった。




 ◆◆◆【アッシュ・グレイ】◆◆◆



 目の前には真紅の髪に、蒼玉のような瞳の美少女。

 俺が拾った少女――ローゼが優雅な仕草で茶を啜っている。

 食後の一服の最中だ。


「で、だ。今後の予定だけど、どうする? 一応、ガリアーナまでなら送ってってもいいぜ。元々ガリアーナに行く予定だったしな」

「……あの」

「お? どした?」

「首都のラグネまで連れてってもらえませんか?」

「――ブッ」

 思わず吹き出してしまった。

 思わず吹いた茶が綺麗な放物線と虹を描いてしまったではないか!

「ゲフゲフゲフッ! ……イヤイヤイヤイヤ! ラグネまでは勘弁してくれ!」

「ええ!?  ……駄目ですか?」

「ああ、うん。ラグネにはちょっと行きたくないなぁ」

 実のところ、ちょっととかいうレベルではないのだが。

「お願します! どうか!」

「…………あ、…………う」

 涙目で懇願される。

 正直、これが男なら張っ倒して終わりなのだが、女の子を張り倒すわけにはいかない。

「ほら、さ。俺も行商の最中だし、なにより傭兵じゃん。無償はいやだなー……」

 正直嘘である。本音としてはラグネには行きたくない、それだけである。

「あの、では、報酬があれば大丈夫ですか?」

 !

「おう! つりあう報酬さえあれば行ってもいいぜ」

「お幾らでしょか?」

「そうだな、では500,000,000zなら受けよう」

 ふっ、五億なんて額、身一つの小娘が出せる額ではない。これで諦めるだろう。安心しろ、ガリアーナまでは送ってやるぜ!

 ……ああ朝日が眩しい。

 額を拭い、キランッと何かが輝いた。

 ……。

 ……。

 ……。

 ………………………………………………のだが。

「分かりました、お支払いします」

 というお言葉が返ってき遊ばされた。


「What`s?」

 思わず目が点になった。

 口から白っぽい何かが外界にダイブしそうになった。

 ちょっと待て! ちょっと待て!! ちょっと待て!!!

「では、少しお待ち下さい」

 そう言うと、さもありなん。

 出てくるわ、出てくるわ。

 胸元、スカートの中、指、首元、髪と、まぁ出てくるわ。

「いざという時の為に、そこそこの財産は持ち歩いているんです♪」

 一言、言わせろ!

 …………あーた、どこにしまってんだよ、それら……。


 検分する。

 胸元やスカートの中から出てきた金銀宝石。指に有った指輪数個、首元にあったネックレス、髪を止めていた髪飾りやリボン等、ざっと見積もっても要求した金額を遥かに越えている。

「これでお願いできませんか?」

「あー……、うー……」

 自分で吹っ掛けただけに、素で返されるとかなーり困る。

「私はどうしてもラグネに行かなければいけないんです。今、頼れるのはアッシュ様しかおりません、どうか!」

「うー……、あー……」

 ……どうしよう。

 少女の顔を見ると、その瞳は真剣だ。


 秒針が三週するぐらいの時間を悩みぬき、言葉を告げた。

「負けたよ。ラグネまで送っていこう」

 はぁあああ、と奈落のそこのように深いため息が出た。勿論気のせいだが。

「ありがとうございます」

 優雅に一礼するが。

 ……くそう、顔にいい笑顔が張り付いていやがる。※偏見

「……ったく」

 ……俺も甘いなぁ。

 ぼやきそうになる心を苦笑で覆い、金銀宝石を押し返す。

「え?」

 一瞬断られたのかと、不安になるローゼに。

「こんな物はいらねぇよ、ったく」

 ぼやき、彼女の手に嵌っていた指輪を抜き取る。

 曇り一つ無い純銀のリングに彼女の髪と同色の真紅の宝石。

 女性がつけるにしてはいささかごつい代物だが、不思議と惹かれるものがあった。

「……あ、それは」

「こいつを貰ってくよ、これで依頼は受けてやる」

 何か言いたそうにしていたが。

「分かりました。…………どうか、お願します」

 と頭を下げてきた。

 苦笑し、手を振って返す。



「ああ。任せな」




 余談である。


 彼女のスカートを捲り上げる。

「どこに仕舞ってあったんだ? あんな量……」

「キャアアアアアアアアアアアアッ!」

「えぶうっ!!」

 顔面にローゼのヒールの爪先がぶっ刺さった。

 ……。

 因みに、赤だった、と言っておこう、南無。

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