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29話 - 一夜明けて

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。


励ましの言葉をくれたMOTO様、mozu様、妄想野郎様、北国様、あるふぃ様、マカロニX様、Tales様、櫛島 御道様、海響様、なのは様、アドノア様、ミストル様、穂田宗様、zzz春眠様、いかすみ様、キーボード様ありがとう御座います。


神楽はなんとか辛うじて生きて更新を成し遂げました。


これも皆様のお言葉があったからです。


これからも応援宜しくお願いしますです、ハイ。

「……あらら」

 軽い苦笑を一つ。

 目覚めの第一声である。

 理由はいたって簡単。

 起きたら鮮やかな黄昏時、嗅覚が捕らえるのは様々な夕餉の香り。

 そして、離れた椅子の上には置手紙が一通。

 ……。

「…………いかんね。……これは、見事に寝過ごした」


 頭を軽く掻きながら、手紙に目を通す。

 ――娘や皆と一緒に祭を巡ることにする。

 ――他の者共も連れて行くゆえ、起きたら勝手に合流せよ。

 ……。

「……気を使われたね、これは」

 再度の苦笑。

 文面からこれを書いたのは銀狼少女で確定だろう。

 恐らくは寝込んでいる俺の邪魔にならないように他の者もまとめて追い出したのだろう。

 ウルが居ないのは、ローゼかルーナのどちらかがテイクアウトしたのだろうさ。

 やれやれと笑い、漆黒の外套を羽織る。

 未だに体はだるいが、日常生活には何の支障もないだろうと判断。

「とりあえずは――」

 窓枠に足をかけると、紅の空に向かって跳躍した。


「――追うか」





 ……。


「…………ふむ」

 僅かな自問自答。

 そして自らが行っている一連の作業に今一度意識を向ける。

 スポンジで皿にこびり付いた汚れを落とし、それをお湯で濯ぎ、布巾で拭き、綺麗に立てかける。

 ……。

 ……なぜだ?

 ……。

 疑問につぐ疑問。

 ……おかしい、なぜ俺は皿洗いなどしているのだろうか?

 ……。

 ……。

 ……。

 そう。それは、どこからどう見ても、そして誰がどう見ても「皿洗い」以外の何物でもなかった。


 ふと叫ぶ。

「なぜ、俺は皿洗いなど――」

「五月蝿い! 黙って働かんか!!」

「はいッ!」

 僅か以上の不満が口を出切る直前に飛んできた言葉が、俺を仕事に戻らせる。

 ……。

 百獣の王も躾ければ火の輪を潜るという。

 ……。

 …………。

 力を身につけ、今では皇王ですら敬うつもりのない俺とて逆らえない人は存在する。

 でもって、背後で鍋を振っている人物は、その数少ない例外の一人。

「アッシュ! 皿洗いは一先ず後だ! こいつらをお客のところに運んでいけ!」

「了解っす! おじさん!」

 ……。

 現在、俺はおじさんの店で、ウェイター兼厨房下働きをしていた(笑)。




 なぜこんなことになったかというと、それは時間を僅かに遡る。


 寝ていた宿を出た俺は、自分の空腹に気づき、おじさんの店に行ったのだ。

 腹が減っては戦が出来ん、とばかりに。

 ところが、待っていたのはおじさん一人。

 どうにもおばさんとジュリサは婦人会の会合で出払っていたらしい。

 でもって、祭初日の屋台が功を奏したらしく、口コミで店の評判が広がったとの事。

 さらに付け加えるのなら、いつの間にか広がっていた「皇女殿下ご贔屓のお店」というとてつもなく後光輝く看板。

 気付けば、祭に来ていた人たちが「なら、行ってみるか」と殺到。

 ……。

 元々味自体は悪くない。

 流石に上流階級の洗礼された食事処に比べれば見劣りする物の、平民階級や一般客にすれば上々なモノ。

 ……。

 結果としておじさん一人が目を血走らせながら店を回していたのだ。

 そこに(暇そうに見える)俺、来店。

 ……。

 ……。

 ……。

 おじさん、おれつかまえる。もんどうむよう。あわれ、おれ!

 ……。

 乙!




「アッシュ! 皿を並べろ! ついでにスープを任せた!!」

「ヘイッ! 今すぐに!」

 再び終わりのない皿洗いにトライしようとした俺をおじさんの声がとっ捕まえる。

 何だかんだで慣れた作業。

 すぐさま乾いた皿から並べていき、そのままスープを深鍋からすくい、スープ皿に盛っていく。

 俺がスープを盛り終えたときには、並べた皿の上に綺麗に料理が盛り付けてある。

「二番卓と五番卓!」

「ウィッス!」

 料理を載せた盆を両手に二つずつ、合計四つ持つと、テーブルに向かって歩いく。


 そこにいるのは皇国の並み居る騎士、精霊術師を破った武闘祭の優勝者でもなく、また皇国十二精霊の頂点たる氷精白鶴の継承者でもない。


「はい、お待たせしました! キノコのクリームパスタとトマトとナスのリゾット、それにミートスープになりますー。どうぞー!」


 下町定食屋の店主に顎で使われる下っ端そのものだった。




 ◆◆◆【ローズレット・ハート・ラ・イシュタリア】◆◆◆



「ははっ、どうりで我らに合流せぬはずよ」

 横で銀髪の少女が腹を抱えて笑い転げている。

 けたけたと、それはもうけたけたと。

 さらにその横で、黒髪のオドオドとした少女がなんとも苦労性なため息を吐く。

 それぞれ、前者がルーナちゃん、後者がウルちゃんだった。


「ははは。……まったく我が君ながら実に笑わせてくれる」

 未だにつりあがった口からは堪えきれない笑いが零れている。

 ちなみに、ここにいるメンバーはルーナちゃんとウルちゃん、それに私、伯母様、バール卿、リミエラ姫、そしてリルカ姫の七人。

 でもって人外の少女二人と私以外の四人は、あまりな光景に言葉を失っていた。

「誰だ? あれは(・・・)

「……ええと、間違いなくアッシュ様ですが……」

「…………そうか」

 短く呟いたきり伯母様は沈黙してしまった。

 いえまぁ、そのお気持ちは分からないではないですが……。

「氷精白鶴の継承者なら、少なくとも貴族級の扱いを受けてもいいはずなんだけど……」

「ええと、レグレグがあれはアッシュ・グレイ本人だって……」

「…………そう」

「「……」」

 バール親娘が沈黙する。

 武闘祭でのアッシュ様と今のこき使われているアッシュ様のギャップに、認識機能がフリーズしたのでしょう。

 最後に。

「……」

 最早何も語らずにただ納得の色を浮かべているリルカ姫。

 ……納得!?

「えと、どうしましょう? 閉店の時間に合わせてお邪魔しましょうか?」

 全員が全員動かない状況で、ウルちゃんが辛うじて提案をする、が。

「我ら全員が待ってやることもあるまいよ。ウル、主がメッセンジャーとなれ。事が終わったらそこの女の屋敷に来るように、と」

 ルーナちゃんが口元を笑いの形に引きつかせながらも言葉を紡いだ。


「えと?」

「……まぁ、いいだろう」

 そこの女――伯母様――がウルちゃんの視線に呆れ顔のまま頷く。

「娘もそれでよかろう? 主らは一日待ったのだ、呼びつけるだけの権利はあろうよ」

 それに、と続ける。

「主らも一日祭を回ったのだ、多少は身を整えたいだろう?」

「「「「「……」」」」」

 私はブラウスと膝下までのスカートに外套と活動的な服装であるが、他の四人はドレスや礼服などである。

 一日動けば化粧も含めて多少は乱れてしまう。

 流石に伯母様やバール卿は経験からか、そこまで乱れてはいないが……。

 歳若いリミエラ姫とリルカ姫はルーナちゃんの言葉に頬を赤らめる。

「いい女というのは常に身奇麗にするものよ、はは」

 ……。

 満場一致で伯母様の屋敷に帰ることが決定した。


 ちなみに。

「ゼェハァ、ゼェハァ……。や、休みを、くれ……(息も絶え絶えに)」

「働け! 馬っ鹿モン!!」

「だ、だれかー!」

 ……。

 あまりの悲痛な叫びにウルちゃんがお店の中に駆け込んでいくのが見えました。






 ……。


 心地よい香りに、緩やかな音楽。

 全身を包む柔らかな感触に、まどろむ。

 温かい湯と薬湯で丁寧に洗った髪と肌に、より丁寧に香油を塗り込んでいく。

 現在アイオライト家の浴場で香油塗りの真っ最中である。


 香油を塗り込むという事はラグネに来てからだが、これが慣れると意外に気持ちがいい。

 伯母様によると香油を塗り込むのと同時にマッサージもするとの事。

 流石に最上級の貴族に仕える侍女達なだけあって、その仕事も見事な物である。

 僅かなまどろみに晒されながらも、その作業が終わるのを見守った。


「ふぅ、気持ちよかったなぁ」

 湯浴みが終わり、今は髪を結っている最中。

 でもって。

「そうか、それは良かった」

 穏やかにそう言ったのは、私の髪を結っている伯母様だった。


 最初は侍女がやろうとしていたのだが、叔母様自らが名乗り出たのだ。

「……昔。まだ、ユスティーツアがこの家にいたころはこうして私があいつの髪を結ってやってたんだよ」

 伯母様の懐郷に満ちた優しげな声が響く。

「あいつは余りこういうことはしなかったからな、私が髪を結ったり、ドレスを見立ててやったりとな……」

 伯母様の手には迷いがない、慣れた手つきで髪を梳き、リボンを結んでいく。

 その手つきはまるでお母様のよう。

 ……あっ。

 髪を優しく結ってもらいながら、ふと思い出した事を何気なしと呟く。

「……お母様が言っていました」

「? 何を?」

 一呼吸。

「昔ですけど、お母様が私の髪を結ってくれていたときに、『お母さんは、大切な人から髪の結い方を教わったんだ』って」

「……」

 伯母様の動きが僅かに止まる。

 静寂。

 お互いの呼吸の音すら聞こえてきそうな、静かな空間。

 やがて。

「……そうか」

 とそれだけ呟き、結うのを再会する。

 だけど、私の耳に聞こえたその言葉は僅かに潤んでいたような気がした。


 最後にアッシュ様から貰った髪飾りをつける。

 ちなみに私が頻繁に外に出るためか、アッシュ様が以前強化してくれたのだ。

 身に着けていなくても、私の近くにあれば私の中の精霊王を隠してくれる、と。

 ともあれ。

「これでおしまいだ。私は行くが、お前はゆっくりとしているといい」

 伯母様が柔らかい声でそう告げると、背後の椅子から立ち上がる。

 伯母様も多忙だろうに、わざわざ私の為に来てくれたのだ。

「ありがとうございます」

 伯母様に感謝を捧げ、頭をそっと下げる。

 しかし。

「なに、家族同士に礼など不要だ。それにこれは私が好きでやったこと。そんなに畏まることはないさ」

 私の頭を一撫でし、頬にキスをしてくれた。






 だが、幸せな時間を壊すのは何時だって悪意ある第三者。


 それが訪れたのは唐突だった。


 私が談話室でリルカ姫、リミエラ姫と談笑をしている時だった。

 私は皇女となって間もないし、二人はアッシュ様繋がりで多少の話題もあった。

 二人が話す話題も、平民として生きてきた私にとっては新鮮味溢れる話しばかりだった。

 そして、ちょうどリルカ姫がアッシュ様の過去話を話そうとした瞬間。


 バンッ!


 騒々しい音と共に談話室の扉が開かれる。

 何事かと振り向けば、そこにいたのは礼服を着た歳若い青年だった。


 だが、それを見たリルカ姫が引き攣ったように呟くのが聞こえた。



「………………ソラ」

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


最近、なんか疲れが取れない……。


一度医者にでも言ってみるべきかなぁ?




P.S.


女の人がこの作品を読んでいると知って驚愕した神楽です。

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