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幕間 - 千年経とうと……

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。


投稿できたことに奇跡を感じた!

 実を引き裂くほどの悲哀と絶望。

 この世界に自らの死より苦しいことがあるのをはじめて知った。

 この世界に自らの終わりより悲しいことがあるのをはじめて知った。

 泣きたくても、もはや涙の一粒すらこぼれない。

 けれどふとした瞬間に涙がこぼれそうな気がする。




 窓から見える外の景色は白一色。

 出会った時と同じように雪化粧を施されている。

 目の前に横たわった彼女の体も、まるで雪のように冷たい。


「――っ、けほっ」

 小さな咳。けれど、それはもはや咳き込むのすら億劫な証であり、口元から散った紅い飛沫はその身の命がけして長くない証拠。

 握った手には力が無く、その頼りなさに……。

「けほっ、けほっ」

 けれど薄く開いた彼女の瞳は僅かに微笑んでいた。

 もはや目も見えていないだろうに、確かに微笑んでいた。

「……。……」

 言葉にならない言葉が口からこぼれる。

 直感的にそれが自分の名前を呼んだことを悟り、顔を近づける。

 けして泣かない。彼女との約束だ。

 だが、納得や理解は、悲しい現実にいとも容易く砕かれる。

 処女雪のように白く艶やかだった肌は、白く濁り、ともすれば死人と大差ない。

 ただただ口元のみが紅く彩られていた。




「……あはは、……相変わらず……泣き虫、ね」

 見えているはずのない目が此方を捉える。

 もしかして彼女なら今の俺の表情など見なくても、分かっているのかもしれない。

 逆にそれが悲しくなってくる。

 なぜ、分かれねばならないのか。

「……約束」

「覚えている。後を追うようなことはしない」

 苦しそうに放たれた一言に、短く応じる。

 よくよく俺のことを理解していると思う。

 彼女は自分の後を追うことはしないで欲しいと、そう言っているのだ。

 思わず握った手に力が入る。

「……大丈夫、一人……に……はしない……から。クレインが……あなた……を守る……から」

 俺の言葉に、今度こそ笑顔を浮かべる。

 途切れ途切れの言葉、けれどそこには何よりも大切な想いが篭っている。

「……愛し……て……る。…………愛し……てる……よ……アシュ……レイ。……この世界の……誰より…………も」

「ああ、俺もだ……」

 視界が不意に滲み始める。

 枯れたと思ったはずなのに。

「誰よりも愛してる」

 零れた涙は彼女の頬に落ち、つたう。


 皇国を出奔してから、今の今まで治療法を探し続けた。

 睡蓮、アレクスピオス、そして多くの人の力をかりて探し続けた。

 だが、結果は無残な物だった。

 出来るのは延命だけ。

 俺は武法術、魔導術、そして精霊術。

 多くの秘術や秘技を極めたが、その全てが無駄だった。

 出来るのは延命のみ。

 彼女の負担になることは全て俺がやった。

 一時でも彼女を永らえさせるために。

「……」

 そのかい在ってか、医者に宣言されていたはずの限界は超えることができた。

 けれど。

「……ア……シュレ……イ……」

 病床の彼女がか細い声で俺の名前を呼んだ。




 何時の間にか窓の外は闇に包まれていた。

 気付かなかった、気付けなかった。

 既に夜空に煌々と輝く月が天頂を下り始めているのに……。

 ……。

 ……。

 ……。

 そして、彼女の息も途切れ途切れになってきていた。


「……アシュレイ」

「なんだ」

 大好きだった彼女の白い髪を撫でながら、応じる。

「……私、幸せ……だった……よ」

「俺もだよ」

 最後の最後まで彼女は笑う。

 俺に愛をささやきながら。

「……、あの……ね……、約束……して…………欲しい……な」

「……」

 黙って先を促す。

「……また、逢お…………うって…………。どん……な……に離れ…………ても……、どんな……に刻……が流れ……て……も」

「約束する」

 頬を伝う涙が止まらない。

「……あはっ……。……約束……だ……よ」

「ああ、約束だ。……俺とお前のっ――」

 あまりの悲しみに言葉が紡げない。

 これ以上は嗚咽になってしまうかもしれない。

「やく、そく! 絶対、に!」

 けれど、つっかえつっかえに言う。

 ――笑っていて欲しい。

 彼女との約束の一つ。

 涙は止められなくても、声を上げて泣くことはしたくない。

 それが、せめてもの意地。

「逢う、から! 逢いに、行く、からっ!」

 たとえ千年の時が流れようと、百万回生まれ変わろうと、俺は君に逢いに行く。

 運命と言う言葉が鎖なら、それを願いという想いで引き千切ろう。

 今一度死に別れようと、俺たちはまた逢おう。

 遥かな未来、何処の世界でもう一度愛し合おう。

 これは永遠の別れじゃない、一時の別れ。

「私も……、だ……よ。……あの……ね、…………千……年……経とう……と」

 動かないはずの手を動かし、俺の頬に触れる。

 ただでさえ近くにあった俺の顔をそっと引き寄せた。

「……変……わら…………ず………………貴方……を……愛………………して……る……わ、……アシュ……レイ」




 柔らかな感触。




 満面の笑顔。




 そして、彼女は静かに息を引き取った。






 ……。






 ……。






「……」

 涙が頬を伝う感触に目を覚ます。

 横を見れば、俺のベッドにもたれかかるようにして寝息を立てているウル。

 視線を傾けれ、器用にも椅子に腰掛けたまま寝ているルーナ。

 窓の外には星空。

 どうやら昔の夢を見ていたらしい。

「……夢、か」

 苦笑しようとするが、失敗する。

「…………随分と苦い夢だこと」

 やれやれと呟き。

「苦労を掛けるね、…………本当に」

 ウルの頭をなで、ルーナに感謝の念を送る。




「……。……明日からはまた元気な俺に戻るよ」



 僅かに笑いかけると、静かに目を閉じた。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


社会人三ヶ月目の作者です。


簡潔にして簡単に感想を言わせていただくと、「めんどくせぇ」です。


最近人間不信になりそう、というかオンナッテコワイ……。

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