01話 - 出会い
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
「……懐かしいな」
馬車を御しながら、購入しておいた果実を齧る。
前方に見える地はイシュタリア皇国の領内、皇王直轄領のガリアーナだ。
首都ラグネにほど近く交通路も発達しているため、同時に皇国内でも有数の交易街だ。
「皇国に戻るのは三年ぶりだな」
けして戻るまいと誓っていたのにな、と苦笑した。
おや? と思ったのはガリアーナの領内に入って暫く。
なにやら前方で襲われている馬車が一台。
おれ自身が馬車に乗っているために無関係ではいられない。
「……やれやれ」
苦笑すると、背後に置いてあった武器を取り出した。
「止まれ!」
大柄な体格の男が剣を振りかざして制止の声を上げる。
だが、それを。
「逝っとけ」
ザンッ!
御者台から飛び降り、そのままの勢いで上下に両断する。
さらに。
「力を貸してくれ」
呟き、手を振る。
その瞬間。
ヒュカカカカカカッ!
空中に生成された鋭い氷の飛礫が高速で奔り、残りの賊共を蜂の巣にした。
他愛ないな。
哀れな骸と化した賊共に一瞥をくれながら。
「誰か生き残っているか!?」
襲われている馬車に乗り込む。
中も酷い物だった。
そこらに一体が血にまみれ、内装はズタズタに引き裂かれている。
元は豪華な馬車なのだろう。
内装や、中で事切れている人たちも高貴な者に使える職業の者ばかりだ。
黙祷を捧げながら中を検分する。
と。
「っ!」
手に携えた『機巧式銃剣』を構える。
間違いない。
今僅かにだが、物音がした。
「…………」
……あそこ。
静かに近づく。
「……ここか」
事切れているメイドに近づき、そっとその遺体をどかした。
瞬間。
「うわああああああっ!」
そう叫び、一人の少女がナイフを構えて襲ってきた。
「っ!」
危うく、その首を斬りおとしそうになるが、寸前で剣の軌道を変えナイフを弾き飛ばす。
「落ち着け! 俺は敵じゃない! 助けに来たんだ!」
「……」
しかし、少女は怯えているのか恐怖に顔を引き攣らせながら近づかない。
……あーもう。
内心軽いため息をつきながら。
「これを見てくれ、傭兵ギルドと商業ギルドが発行している証明書だ」
俺は自分が登録を行っている二つのギルドのギルドカードを見せる。
「俺は、これからイシュタリア皇国のガリアーナに向かう途中なんだ、その道中に襲われている馬車を見つけたから救援に来ただけだ」
「…………」
暫く間が空き、少女が恐る恐る問うて来る。
「…………本当」
「ああ」
武器を背後に背負いなおし、両手を上げる。
「嘘は言ってないつもりだよ」
あくまで敵意がないことを告げた。
「俺の名前はアッシュ・グレイ。しがない傭兵兼行商だ。今は暁帝国から反物を運んでいる途中だ」
「…………わ、私は、ロー…………ローゼ・ダリア、です」
微妙な間があったが気づかないことにしておこう。
「そうかい。まずは災難だったな、ローゼ」
「…………う、うあ」
少女――ローゼは目から涙を溢れさせると。
「うわあああああああああああああああんっ!」
大声を上げて泣き出してしまった。
……たくっ。
泣きやまない少女を自らの馬車に案内し、一人でローゼの仲間であるメイドや執事、それに護衛らしき兵士の亡骸を埋葬していく。
穴を掘り、埋め、土を被せていく。
……たまんないなぁ。
後少し早く、自分がこの場に到着していたら、などと考えてしまう。
「……」
後悔先に立たず。
……。
「……この人で最後だ」
ローゼに覆いかぶさるように事切れていたメイドの亡骸を優しく横たえると。
「貴方の大切な方は俺が無事に保護した、お疲れ」
そう言って、土を掛けた。
……。
全員の亡骸を埋葬し終えたら、既に太陽が西の空に沈もうとしているところだった。
予定じゃ今日中にはガリアーナに着く予定だったのだが……。
「しょうがない」
野宿だろう。
ため息をつき、馬車に乗り込む。
すると。
「あらら」
少女は泣きつかれたのか、死んだように深い眠りについていた。
パチパチッ。
目の前で焚き火が弾ける。
「そろそろかな?」
目の前の焚き火から焼いて熱した石を取り出すと、水と野菜を突っ込んだ鍋に落とす。
石焼鍋だ。
……後はっと。
火にくべた串パンの焼き加減を見る。
一人ならここまで豪華にしない。
ここまで手が込んだ物を作った理由は、拾った少女がいるからだ。
泣いた後はなんせ腹が減る。
……俺も経験あるからなぁ。
くすりと笑う。
と。
「…………あの」
と、タイミングよく背後から声を掛けられた。
……。
器にスープを取り分け、渡す。ついでに串パンも。
「まぁ、食えよ。腹、減ってるだろ」
笑い、勧める。
「……あ、はい。その、頂きます」
「おう」
俺も串パンにかぶりつく。
……お、美味い。
どうやら今回は美味く言ったようである。
隠し味は生地に練りこんだ、味噌と僅かな出汁だ。
暁帝国にいた頃に学んだ野宿料理である。
ローゼはよほどおなかがすいていたのか、はむはむと勢いよく、それでも行儀良く口を動かす。
二本目のパンを渡しながら。
「泣いた後は腹が減るだろう、遠慮はすんな」
にかっと笑う。
ローゼは頬を紅く染める。
「あの、その、お食事、ありがとうございます。……後、ごめんなさい」
「お? 何が?」
「助けに来てくれたのにナイフを……」
「おお! あれか、気にすんな。あれは仕方がねえよ、それに怪我もしなかったしな」
「…………そう言っていただけると有難いです」
ぺこっと頭を下げてきた。
どうにもいいとこのお嬢様らしいな。
内心苦笑しながら、言葉を続けた。
「ああ。今は君の無事を喜ぼうや」
「……はい///」
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