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24話 - VS 騎士オリガルド

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

「勝者、騎士リミエラ!」

 審判の声が響き渡った。


 十二貴族の次期後継者どうしの決闘を制したのはどうやらバール家の小娘であるらしい。

 眼下に目を向けながら納得に頷く。

 ……にゃるほどね、雷の付加コーティングかい。

 イザークという青年騎士の腕を斬り裂いた瞬間に奔った青白い雷光を、俺は見逃していなかった。

 それに俺も似たようなことを良くやる。

 尤も、次いで行われた落雷の誘導には流石に驚いたが。

 ……ふむ。

 正直なところ、俺の業とはその度合いや規模が桁違いである。これは大精霊である雷精獅子の力でそれを行っているからだろう。

 ……ま、たいしたもんだ。

 小さく感歎の念を送る。

 初戦で戦ったハンスという騎士と違って、リミエラという娘は精霊の力を程よく使いこなしているし、また剣術と体術もしっかりと鍛えられている。

 俺が大会に出なければ今大会の優勝候補の一角でもあっただろう。

 ま、いっちょ揉んでやるかね。

 苦笑を一つ、眼下で悠々と退場していく乙女騎士から視線を外した。

 と、アナウンスが響き渡る。

「次、近衛騎士団長オリガルドVS一般出場枠アッシュ・グレイ! 両者入場を!」

 ……おおう、俺の番か。

 立ち上がると、眼下の会場に繋がる階段へと足を向けた。




「両者、構え……」

 ついぞ聞きなれてしまったセリフを耳に、厳つい壮年騎士を観察する。

 近衛を示す碧の甲冑に皇家より賜った蒼色のマント、そして白金色に輝く大剣。

 そしてその身からは歴戦の猛者、護国の一端を担う者としての自信。

 凡そ一流と呼ばれるに相応しい風格を備えていた。

 ……へぇ。

 思わず感歎の呟きが漏れる。

 もとより皇国における『蒼』は皇を示す色。

 故に現在皇国で蒼眼を持つものはローゼと皇王、そして皇位継承権を失った元殿下のレオナルドの三人しかいない。

 蒼と碧は似て非なる存在。

 その身に蒼のマントを着けることを許されるのは皇に認められし勇者のみ。

「……………………………………始めッ!」

 開始の合図と同時に信じられない速度での剣閃が迸った。


 今回で三回目の試合。最早出し惜しみするような業でもない。

 自らの身に硬気功を纏うと、文字通り鉄拳(・・)で剣閃を迎撃した。




 剣を拳で迎え撃ったのにも関わらず、表情一つ動かないのは流石である。

 そして、動揺など知らぬとばかりに繰り出される剣の一撃一撃は、重い。

 ただ重いだけではない。

 武というのは突き詰めれば一つのコミュニケーション。

 故に、目の前の騎士がどれほどの覚悟があってこの大会に臨んでいるかが分かる。

 ……いい貌だ。

 素直にそう思う。

 厳つい顔には自信と信念というモノがしっかりと芯を形作っている。

 そして、それは誰にも後ろ指を刺されることなく自らの人生を堂々と歩み進んできた漢の貌。

 ふと、その名を知りたくなった。


 強打一閃。

 相手の剣を力強く打ち、一瞬の間を作る。

 そして、その瞬間に声をかけた。

「今一度名を問いたい、いいかな? 騎士殿」

 僅かな間。

 だが、小さく、けれどしっかりとした声で応じてくる。

「…………。……オリガルド・フォン・アルマンディと申す」

 ……なるほど。

 アルマンディ家の者か。

 アルマンディはアイオライトやバール程ではないが、歴史ある旧家であり、軍部における武門の名門だ。

 ともあれ、騎士に名乗らせたなら此方も名乗るのが礼儀だろう。

 此方から問うたのなら尚更だ。

「俺の名はアッシュ・グレイ。流れの無法者(アウトロー)だ」

 左手を額の上へ、右手を腰の横へ。掌に力は込めず、ゆるりと脱力する。

 曰く、天地上下の構え。

 礼を払うのに相応しい相手であれば、それ相応の態度をとるのになんの抵抗もなし。

 一瞬の瞑想で、視界をクリアにする。

 準備は整った。

 なればこそ。

 いざっ――。

「参るッ!」

「応ッ!」

 俺の一声に、近衛騎士の長は咆えた。


 尋常ならざる速度で振るわれた剣を、これまた尋常ならざる速度で撃ち出された拳が迎え撃つ。

 その刃はまるで風のように軽やかでありながら、巌のように重い。

 一撃一撃がまるで削岩機のようない勢いである。

 だが、その削岩機の如く連撃に真正面から対抗する。

 本来なら化勁で流したり、その斬撃軌道をずらして捌いたりしても良かった。だが、それをしない。

 剣の一撃に真正面から拳を叩きつけて対抗する。

 ……理由は、そうだな「なんとなく」かね。

 そう。なんとなく俺はこの男を気に入ったのだ。

 だからこそ、真正面からその連撃に付き合う。

「ははっ。たいしたもんだ!」

 先の二試合には感じなかった高揚を感じる。

 機械的ではなく、また義務的とも違う。

 言うなれば、一人の戦士として感じる礼節と高揚。

 剣と拳の応酬は限界を知らぬが如く、その回転を徐々に上げ始めた。


「――シッ」

 接触の寸前に拳に回転をかけることにより瞬間的にその威力を跳ね上げる。

 が。

「ぬぅんっ!!」

 ギャリンッ。

 凡そ人体と鋼が接触するには似つかわしくない音を立て、刃が滑る。

 そのまま手首、腕、肘、上腕とまるで腕の形をなぞるように奔る。

「っ! 流石に一騎士団の団長ともなれば、次元が違う」

 滑った刃が肩の内に激突する寸前に、反対の手で受ける。

 そのまま気の奔流を流し込み。

「ハッ!」

 バリィンッ!

 気の奔流と、受けとめた左手の握力で剣を握り潰す。

 が、次の瞬間信じられないものを目にする。

 砕かれた筈の剣が新品同然に再生したのだ。

「ぜああああっ!」

 剛剣一閃。

 中段から突き出されるようにして放たれた一撃が俺の胴を穿った。


 剣の一撃は俺の硬気功を突破することはできなかった。

 けれどその衝撃は確かに俺の体を穿つ。

「っ! やるねっ」

 剣の衝撃に逆らわずに後方へ跳躍、衝撃を軽減したのだが、無効化したわけではない。

 腹部に奔る軽い痛み。ダメージらしいダメージではないが、軽微な打ち身ぐらいにはなっているかもしれない。

 むしろ硬気功がなかったら俺の体など穴が開いていたであろう一撃だ。

 ……強いね。

 口元に苦笑を浮かべながら、そのまま相手の背後に目を向ければ。

「おいおい。……流石に驚いたぜ」

 思わず口元が引き攣る。

 騎士オリガルドの背後。そこには幾何学模様が刻まれた菱形の金属板が浮かんでいた。

 そしてその金属版を中心に金属の輪が回転していた。

 ……驚いたな、まさかこの目で金匠鍛霊(クレイヌ)を見られるとは。


 四大元素である炎、水、地、風。

 そしてその炎属性と地属性の中間に位置する晶属性。

 金匠鍛精はその晶属性に属する大精霊だ。

 そも精霊のランクは下位精霊・中位精霊・上位精霊ときてその上に大精霊。そしてそれより上の神霊が存在する。

 中位精霊ですら並外れた力を持つのだ、大精霊である金匠鍛精の力は押して知るべしと言ったところだろう。


「――シッ!」

 剣舞の隙間を縫って鋭い一打を届かせる。

 だが、ガッという音を立てて拳が弾かれる。

「――っ!」

 ……堅い!

 先程より鎧の強度が段違いだ。

 金匠鍛精は晶属性ではあるが、その存在は地属性に近い。

 そしてその名が示すとおり金属類の操作や制御に長けていると聞く。

 剣の再生と鎧の強化。

 ……厄介だな、おいっ。

 仮面の下の顔が大いに引き攣った。


「まぁいいさ」

 引き攣った顔を引き締める。

 ……ならば、これはどうかな?

 剣閃の嵐の中に身を飛び込ませる。

 硬気功と自らの体術を信じ、騎士の身に肉薄する。

 やがて。

「……」

 左右両腕から繰り出された大斬撃を、体を捻るような化勁で捌き、自らの掌を鎧にそっと添える。

 準備は整った。

 これを受けて立ち上がったなら、俺はあんたを尊敬する。


「――ッ。ハァッッ!!」




 円は全ての基礎にして究極。

 欠けることなき真円は絶対不可侵。渦巻く螺旋は巡る力の象徴。

 両足を中心に大地が渦巻くように抉れる。

 そのまま足元から生まれた力は螺旋を描き、膝、腰、胴、肩、肘、手首、掌と辿り練り上げられていく。

 だが、その力を拳に込めずに相手の体の奥深くに、流す。

 曰く、浸透勁。

 場所によっては「(とお)し」などとも呼ばれる技だ。

 鎧など物理的に硬い相手の外殻を通し、内部を直接打つ秘伝の技。

 俺にこの技を叩き込んだ師は、俺の目の前で壷の中に蓄えられた果物を、壷を動かすどころか揺らすことなく全てペースト状に摩り下ろすという離れ業を実演した。

 流石にそこまでは行かなくとも、内臓に重いダメージを与えるのは至極当然。

 ……。

 ……。

 ……。

 そのつもりだったのだが。


「認めるわ。あんた……強いな」


 ため息のように、ポツリと一言。

 次の瞬間、剛剣の一閃が俺の胴を薙ぎ払った。




 俺が鎧に発勁掌を打ち込んだ瞬間に鎧のその部分が自ら細かく飛散したのだ。

 その瞬間に、本来は貫通するはずの衝撃が鎧の飛散と共にその表層部分で分散・消滅。

 しかもその後鎧は何事も無かったかのように超速再生した。

 原理としては、恐らく反応装甲のようなものだろう。

 だが、それを精霊の力で個人の武装に組み込むとは尋常ではない。

 しかも超速で回復をするような状態で、だ。

 ……。

 正直に強いと感じた。


「つつ、痛てて」

 剛剣が直撃したわき腹を押さえながら地面に降り立つ。

 なぎ払われた瞬間に真横に跳んでその衝撃を殺したのだ。

 これまたダメージは無いに等しいが、それでも微弱な痛みが残る。

 ……ったく。

 正直、機巧式銃剣(ガンブレード)を持ってくれば良かったと軽く後悔する。

 大精霊の力を利用した絶大な防御と本人の練りに練り上げられた武技。

 恐らくは、今大会の最有力の優勝候補だろう。

 精霊同士の相性さえなければ、リミエラとかいう小娘などよりも遥かに強いだろう。

「ああ、くそ!」

 思わず軽い悪態が漏れる。

 あれ程の所業をタイムラグ無しで繰り出してくるのだから堪らない。

 機巧式銃剣の上位解放ならあるいは鎧ごとぶった斬ることも可能だったかも知れない。

 ……。

 まぁ、無いもの強請りはやめよう。

 ため息一つ、意識を切り替える。

 正直、キツイ。

 機巧式銃剣(えもの)なし、魔導術ダメ、精霊術ダメの三重苦。

 ……おおう。これは中々に素敵などMな状態じゃね?

 本来なら苦戦するような相手でもないのだが、なんせ現在の制限付の俺とでは相性が死ぬほど悪い。

 俺は徒手空拳と肉体の強化のみ、だが相手は物理攻撃や衝撃、果ては勁に至るまで、俺の攻撃という攻撃を完全に防いできている。

 攻撃手段が物理に限定されている現状、全くもって厄介な相手である。


 僅かに目を閉じ、黙考する。

 やがて。

「……ま、いろいろと、がんばるか」

 口元に苦笑を浮かべ、僅かに弱気に蝕まれた自分を断じだ。

 元々、魔導術も機巧式銃剣もソフィアが俺の為に(・・・・・・・・・)手に入れてきた物だ(・・・・・・・・・)

 そして、体内の精霊も然り。

 対して武法術は自らの手で手に入れたもの。

 ならば、自らの手で手に入れた力のみで皇国の頂点に立つのも、また一興。

 調息。

 呼吸を安定させる。

 呼吸は全ての武術における基礎。

 そして、小さく呟いた。


「使うぜ、睡蓮。お前の技を」




 目を閉じる。


 想像(イメージ)するのは相手の肉体、相手の精神、相手の魂。

 相手の全てを自らの脳裏で描き、相手の全てをその手に修める。

 終には相手と呼吸を合わせ、相手の気の流れと同調する。

 同調した気の流れはやがて精神に干渉し、さらには相手の肉体に干渉する。

 この技は秘伝中の秘伝。武法術の極みの一つ。

 技の名を『幻楼』。


 ブンッ。

 突如その剣撃の嵐が密度を増す。

 見れば、騎士の手に握られていた剣が二本になっていた。

 ――ッ!

 両手を螺旋状に捻り、その剣を流してく。

 流石にここに来て、真正面から付き合うのは厳しい。

 故に、少々本気を出そう。

「――シッ」

 低空から滑り込むようにして相手の間合いに侵入する。

 そのまま両手を捻り上げるように打ち出し、両の剣を逸らす。

 僅かな隙。一瞬の攻防で作り出したほんの刹那の隙間。

 そこに。

「――ッッッ、ラアッ!」

 足を砕き潰さんとばかりの震脚から螺旋状に力を練り上げる。

 先程は練り上げた力を相手の体内に送り込んだ。

 しかし今回は違う。

 練り上げた力を拳に込め、破壊の力と転化する。

 曰く、纏絲勁。

 化勁と比べ、より細かく、より高密度の螺旋で力を描き、伝える。

 化勁が大円のならば、纏絲勁は小円の連続。

 強大な力に裏打ちされた一打は、空気を抉りながら突き進み――。


 ――相手の胴に当たる寸前に停止した。




 ……。


「がはっ! が、あ、かはっ」

 突如、騎士が大量の血を吐いてゆっくりと倒れ付す。

 見れば、背後に浮かんでいた金匠鍛精もその姿が透けてきている。

 ……ふぅ。

 緊張を解いて深呼吸を一つ。

 どうやら幻楼はうまく発動したようだ。


 幻楼はつまるところ、相手に現実に等しい錯覚を誘発させる技である。

 相手の肉体、そして気と同調することで相手の精神そのものに現象を誤認させるのだ。

 催眠術をかけた相手に火箸だといって鉛筆を当てたら、実際に火傷をおった、という有名な話がある。

 幻楼はそれに近く、そしてそれより遥かに強力。

 実際のところ俺の一撃は当たってはいないし、周りの人々も当たっていないと認識しているだろう。だが、騎士オリガルドの脳と精神のみはこの一撃が自らの身にあたったと深く認識し、自ら自傷したのだ。

 強固な鎧の護りも、自らの自傷にはなんら関係ない。


「勝者、アッシュ・グレイ!」

 審判の声が響き渡る。

 まぁ、騎士は大量の血を吐き、倒れ動かなくなったのだから当然だろう。

 しかし、その表情は驚愕そのもの。

 実際の所何が起こったのか理解している者はいないだろう。

 幻楼は必殺であると同時に、秘技と呼ばれるに相応しい秘匿に長けた技。

 観客の目には、俺の攻撃が当たっても無いのに騎士がいきなり血を吐き倒れたように見えたはずだ。

 ……。

 ま、中々に楽しかったぜ。

 心の中で小さく賞賛を送り、会場出口へと踵を返した。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


今更ながらiPhoneを買った……。


正直、なれないうちは使いづらいことこの上ない orz

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