23話 - 騎士たちの決闘
誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。
少し短めです、ハイ。
「騎士リミエラVS騎士イザーク」
審判が声を上げ、名を読み上げる。
今回は準決勝戦。
しかも十二貴族同士、十二精霊の契約者同士ということもあって何時になく会場も沸いている。
自慢ではないがボクは人気があると思う。それにイザークも。
だからこそ、精霊武闘祭個人戦の最終日である今日は比喩表現ではなく、何時になく人が多い。
「両者、構え……」
ボクは腰の鞘から抜き放った双剣を構える。
右手はそのままに、しかし左手は逆手に。
対してイザークは槍斧。
長い柄に厚みのある斧刃。
そしてそれを地面に垂らすようにして構えている。
イザークは軍部の名門カーリアン家の次期当主。
武芸は幼い頃からの嗜みであり、本人の才と相まって中々に侮れない相手だ。
しかも今回は「打倒仮面の傭兵!」と気炎を上げていた。
相当気合を入れているのだろう。
……。
僅かな、けれど永劫とも思えるような時間が過ぎ。
「…………………………始めッ!」
瞬間、霞むような速度で跳ね上げられた槍斧と、空気を斬り裂くように走った双剣が激突した。
――重いッ!
下から、それも掬い上げるような形の一撃なのに、それが尋常ではないほどに重い。
「ッッッ!」
刃を傾けどうにかそれを逸らす。
あんな一撃を真正面から受け続けたら剣が砕けてしまう。
轟ッ!
だが信じられない速度で引き戻された槍斧が再度唸りを上げて襲い掛かってくる。
「ぐうっ!」
双剣を真横から叩きつけるようにしてそれを逸らした。
斬る・突く・抉る・叩く、と多彩な技を持つ槍斧だが、その欠点は非常に重量があり、また武器そのもののバランスが悪いことだ。
故にそれを使いこなすのには長い時間をかけた修練と類稀なる才が必要である。
そしてイザークは運か実力か、その全てを揃えたのだろう。
左右上下、時には前後からもその刃が襲ってくる。
斬る・突く・抉る、そして時には叩く。
見事なほどの連撃。
しかも柄の持つ部分をずらす事で僅かにだが、確実に間合いすらずらされてしまう。
一夕一朝ではないその動きに、素直に感歎した。
「……まぁ、そろそろいいよね?」
イザークと打ち合いを始めてから僅か四半刻。
ここまで打ち合いに応じたのはボクなりのイザークに対する優しさだ。
剣を握りなおすと、体内のギアを変える。
「セィッッ!」
緩やかに、されど高速で体を横に移動させる。
そのまま双剣の刃を槍斧の柄に滑らせるようにして振るう。
確かにイザークの引き戻しは尋常ではなく早いが、それが双剣の振るう速度に勝ることはない。
咄嗟にイザークが槍斧を跳ね上げ、それに応じるが。
「甘いよ♪」
刃を蛇のように纏わりつかせつつ、それを即座に斬撃に変化させる。
ビシュッ。
それでも回避を諦めなかったイザークに直撃こそしなかったが、その腕を僅かに掠める。
「が、はッ」
イザークの体が僅かに痙攣したようにビクつく。
その僅かな隙を逃すはずもなく、双剣を左右から挟みこむように繰り出した。
刃がその顎を閉じる刹那、突如周囲が炎に包まれる。
「ッ! これ、は」
――熱い!
咄嗟に脳裏にそんな言葉が思い浮かぶがそれを即座に理性で握り潰す。
「くッ! ったく、やってくれる」
片目を瞑り、体内にいる雷精獅子の力を増幅・咆哮させることで自らを侵食していた力を吹き飛ばした。
「少し出すのが早いね」
イザークの背後。
そこに一体の精霊が浮かんでいた。
それは銀の毛並みに薄金色の瞳を持った兎。
新月と狂気を司る大精霊。十二精霊の一、月精玉兎。
恐らく先程ボクが見たのは幻術、幻の炎だろう。
事実雷精獅子の咆哮で霧散し、焼かれたと感じたはずの腕も傷一つない。
しかし、あの焼け付くよう痛みは一瞬本物かと思うほどのものだった。
油断なく剣を構えながら、だが内心で悪態をつく。
尤も。
……ボクの剣が掠ったから、長くはない筈だけどね。
と。
「なっ!!」
突如氷塊の中に閉じ込められた。
いや、これは幻術。
理性と頭では、そう分かっている。
だが、体が動かない。
しかも。
「ッ!」
イザークが突如八人に増え、ボクを中心に取り囲んだのだ。
イザーク達が槍斧の柄を握りこみ、それを地面と水平に構える。
その握りこみは独特な形であり、まるで打ち出される矢のようだ。
――来るッ。
あれはイザークの必殺の構え。
槍斧に強烈な回転をかけながらの猛烈な突き技。
槍斧のアンバランスさが不規則な軌道を描き、しかしその刃の形状と重量が相手の肉を抉り砕き、文字通り必殺とする技。
かつて一度見たそれは、練習代の丸太を粉々に粉砕していた。
……。
だが、よもやその必殺技をボクに向かって放とうとは。
イザークの不退転の覚悟が窺える。
氷塊による拘束、そして幻術による分身。
二重の幻術に、自らの業の奥義。
……なるほど。これは絶対絶命かな。
僅かな賞賛と、それ以上の苦笑を浮かべながら、そう評する。
だが、相手も大精霊の契約者なら、ボクもまた同様。
わが身に宿りしは、天雷と戦を司りし大精霊。
十二精霊の一、雷精獅子なり!
突然のことだが、少しだけネタ晴らしをしようと思う。
ボクの双剣には雷精獅子の身から放たれる雷が膜状にコーティングされている。
これはボクの攻撃力不足を補うための方法だ。
ボクは確かに体術と剣術には自身があるが、それでも女である以上膂力にはそこまでの自信はない。
男性との打ち合いなどになったら何れはその膂力差に押し切られてしまうだろう。
故に、精霊術でそこを補っているのだ。
そして雷膜のコーティングは、剣先が相手の体を抉った瞬間にその本領が発揮される。
雷精獅子の体から放たれるのは精霊の雷。
つまりは雷精獅子の意思が宿った雷である。
故に抉った瞬間、それは一種の毒となって相手の体を蝕むのだ。
ただ放射されただけの物とは違う。
物理的な接触から相手の体に流し込まれる強烈にして高濃度な雷の呪詛。
そしてそれは時間と共に相手の体を壊していく。
イザークが精霊を顕現させて勝負に急いだのはそういうことだろう。
ボクのこの戦法はイザークも知っているから。
……。
だが、この戦法にはもう一つの形がある。
そして、それを今から開示しよう。
「チェリャアアアアアアッッ!」
イザークの腕が僅かにブレたかと思うと、強烈な勢いで銀光が繰り出された。
その銀光は槍斧が猛烈な勢いで繰り出された証拠。
そしてボクは未だ氷塊に捕まっている。
先程の炎とは違う。
精霊を顕現させての全力の幻術。
本来なら雷精獅子を顕現させなければ対抗難しいだろう。
精霊はその身を顕現させた時こそ、その力を最も強く振るえるのだから。
だが……。
「まぁ、惜しかったね。もうちょっと修行してきなよ」
苦笑い交じりに一言。
青天の霹靂。
次の瞬間、天から降り注いだ雷が八人のイザークの内の一人を直撃した。
イザークを蝕んでいる雷を標的として、上空からの雷撃の誘導したのだ。
いくらイザークが幻影分身をしたからといっても、その身は結局のところ一つ。
付け加えるのならその身には雷精獅子の意思が宿っている雷が蝕んでいる。
誘導するのはなんら難しいことではない。
故に、イザークと打ち合っている最中に上空で発生させておいた雷を落としたのだ。
ついでに言うのなら、上空から降り注いだ雷とイザークを蝕んでいる雷が相乗・干渉強化して一瞬でイザークの体を内外からズタズタにする。
真の戦術家というものは、一つの行為で複数の事柄をこなすもの、らしい。
精霊術を師事したマチルダ姉さんが言っていた。
「ま、まだまだだってことだよ♪」
倒れたまま悔しげに拳を握り締めるイザークに笑いかけた。
「勝者、騎士リミエラ!」
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