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00話 - プロローグⅡ

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 眼を覚ますとそこは天国だった(誤字に在らず。

 白い清潔なシーツ。鼻をくすぐる甘い香り。

 周囲は可愛いぬいぐるみや、置物が多数ある。

 以前に見た姉の部屋に酷似していた。

 ……女の子の部屋?

 しかし。

「何処だ、ここ?」

 最近このセリフに縁があるような気がするが、それは考えないことにしよう。



 部屋の中の暖炉には火がともり、温い空気が全身を包む。

 部屋から見える窓の外は今も雪が降り続けている。

 と、ガチャッと音を立て扉が開いた。

 そこにいたのは間違いなく百人が百人認めるであろう美少女だった。


 床まで届きそうな銀の髪に、深い湖のような蒼い瞳、一切の染み穢れのない真白の肌。

 神が直接手がけたかのような美しさである。

 しかし、少女は。

「あっ。起きたのですね! よかったぁ、もう三日も眼が覚めないから正直ちょっと心配していましたよ」

 手を口にあて、上品そうに微笑んだ。

 そしてそのまま、スカートの端を両手で掴み、優雅に一礼する。

「申し遅れました。私は皇国十二貴族が一家、ラピス家の長子、ソフィアージュ・フォン・ラピスと申します。どうぞソフィアとお呼び下さい」

「!」


 俺は正直驚いていた。

 思わず絶句してしまうほどに。

 ソフィアージュ・フォン・ラピスといえば、皇国にこの人ありと謳われた、皇国史上最高の天才精霊使いではないか。

 と。

「……(じー……)」

 そのソフィアージュ姫が上目遣いに俺を見る。

 あー……、もしや自己紹介しろと?

 ……むう。

 仕方が無い。

「アシュ…………アッシュ・グレイだ」

 偽名を使ったのは念のため。

 俺の名前は悪い意味で有名すぎるからだ。


 お互いの自己紹介の後、ソフィアージュ姫が尋ねてくる。

「アッシュ様、貴方様はどうしてあのような場所で倒れておられたのですか?」

「…………行き倒れた」

 正直怪しさ満点である。

 直前の間といい、信じるものなど皆無だろう。

 しかし。

「まぁ、それは大変でしたね。さぞやお辛い思いをしたことでしょう」

 ソフィアージュ姫は痛ましそうに目を伏せる。

 純真すぎる!

「何もないところではございますが、ゆっくりと休んでいって下さい」

 そっと俺の手を握ってきた。

 心の底から此方の身を案じているのだろう。

 ヤヴァイ! ザイアクカンガ!

「今、お食事をお持ちします。少しの間我慢してください」

 此方を労わるようにベッドに寝かしつけると、掛け布団を掛けてくれた。

「お、オネガイシマスデス、ハイ…………」

 ……。

 食事が運ばれてくるその時まで、チクチクと罪悪感の針が俺の良心を刺し続けたのだった。



 ラピス家は俺の生家と同じ皇国十二貴族だが、その位置は末端の末端。

 十二貴族の中でも最も位は低い。

 また、代々辺境の山岳地で細々と領主をやっているために貧しく、その財力はそこらの一般貴族よりほんの少しましという程度でしかないという。

 それでもやはり十二精霊の一体がいる以上は他の貴族より遥かに位が上であることには変わりは無いのだが……。

 ……。

 俺がソフィアージュ姫の部屋で寝かされていたのもそこらが関係するらしい。

 元々、ラピス家の屋敷はそこまで大きいものではなく、今も使用人などの家人によって空いている部屋が埋まっており、その上、間の悪いことにラピス卿の取引相手が商談で尋ねてきているので、客室も埋まっていたらしい。

その結果として、保護した俺を休ませるためにソフィアージュ姫が自らの部屋を提供したということらしい。




 ……。




 結局の所、実家を追い出された俺は行き場が無く、ラピス家の庭師ということで雇ってもらえることになった。

 ラピス家はどちらかというのなら権力の上に胡坐を書いているような貴族と違い「権力に見合う働きをしてこその貴族だ」という主張で領民や近隣の住人達から慕われていた。

 故に、精霊を持っていない俺にも普通に接してくれたし、身を寄せる場所がないと知った俺を拾ってもくれた。

 そのような中、俺が命の恩人であり俺を助けてくれた心優しくも美しいソフィアージュ姫に惹かれたのはある意味当然といえただろう。

 また、ソフィアージュ姫もまんざらではないようで俺の日々のアタックにいつもはにかんでいた。

 本人曰く、ここまで猛烈にアタックをされたのは始めてらしい。

 いつもは権力や財力をかさにきた求婚が殆どであり、身一つ、想い一つでアタックしてきたのは俺が始めてらしい。

 そして、天の気まぐれが味方したのか、この冬を越えた時にはソフィアージュ姫と想いを通じ合い、共に大切な人と思えるぐらいの仲になっていた。

 ……。

 しかし、それから暫く。

 ある日、俺は見てしまった。


 廊下の端で蹲り、苦しそうに咽んでいる彼女の姿を。



「ソフィア! どうした!?」

 俺は慌てて駆け寄ると。

「っっっ!」

 思わず驚愕の声が漏れそうになった。

 ソフィアの口元には紅い液体が付着していたのだ。

「……ソフィア、お前は」

「あはは、見られちゃいました……」

 苦しそうにしながらも、笑う。

「……今、医者を呼ぶ」

 そう言って、廊下の壁にソフィアを横たわらせる。

 だが。

「待って」

 強い言葉と同時に、服のすそを握られてしまった。


「大丈夫、直ぐに収まります」

「……だが!」

「大丈夫ですから、ね」

 いつものようにお姉さんぜんとして柔らかく微笑む。

 この笑顔をされてしまったらもう何もいえなくなる。

「いつもの発作です、別に病気になったわけじゃないですよ」

「発作?」

「…………はい」

「いったい、何の?」

「……」

 ソフィアは暫く眼を閉じるが、やがて諦めたように息を吐き訥々と語りだした。


「……病。……この地に伝わる風土病の一つです」

「治る人もいるんですけどね……。どうも、運が悪かったみたいで…………」

 ソフィアが無理に作った笑顔で説明してくれる。

「な、何、を……」

「生まれつき体が弱いのもあったらしく……精霊を継承する前、中央のお医者さんのところに行ったときには、十八までは生きられないだろう、と」

「っっっ!」

 ソフィアは俺と同い年。つまり今は十五。

「いろいろと治療法を探してみたのですが、体質もあって……」

「……」

 その先は聞かなくても分かる。

「以前は半年に一回発作が起きる程度だったのですが、最近は二月に一回ぐらいの割合で……」

「発作?」

 曰く、全身の麻痺と嘔吐、それに重度の時は吐血や意識の喪失などらしい。

 ……今まで隠していたんですけど、ついにばれちゃいましたね。

 そう言ってソフィアは申し訳なさそうに俯いた。



 ……それから数日。



 この地は山岳の地。

 陽が昇るのが早いが、また沈むのも早い。

 見れば周囲は既に漆黒の帳に包まれている。

「よし、決行だ」

 簡易的な旅装束に身を包み、最低必要言の物を背嚢に入れて担ぐ。

 これから行う行為は間違いなく、ラピス家に対し恩を仇で返す行為だろう。

 しかし。

「ま、頑張るか」

 苦笑一つ、足音を忍ばせて半年間世話になった部屋を出た。


 そっと扉を潜る。

 音を限界まで殺したし、また予め彼女(・・)の食事には睡眠薬を混ぜておいた。

 よほどの馬鹿騒ぎでもしない限り起きることはないだろう。

 そのまま彼女の部屋に忍び込むと、衣装棚の中からドレスや下着などを必要最低限の分だけ背嚢に詰めていく。

 おおよそ、必要なものを詰め終えたなら、この行為の一番の山場。

 即ち。

「失礼するぜ、お姫様」

 静かに眠っている美少女を担ぎ上げた。


 屋敷の廊下をそっと歩く。

 背には大きな背嚢、両腕には儚げな美少女。

 表すなら、正に逃避行そのものである。

「後は……」

 今日この日のために買っておいた馬を町の外れに用意してある。

 後は乗り込み、この地を出るだけ。

 ……。

「まぁ、怒られるだろうな」

 苦笑するようにぼやく。

 起きたときソフィアは物凄く怒るだろう。

 だが。

 ……もし、できるのなら、私は世界を見て周りたい。いろんな地で私という人間が生きていたことを証明したい。

 そういって笑っていた彼女の笑顔が記憶をよぎる。

 ……。

 後で彼女には謝ろう。

 泣いて起こるかもしれないけど、それでも謝って、彼女と逃げよう。

 と。

「お?」

 玄関の扉の前、そのエントランスの床の中央、そこに一枚の封書が鎮座していた。


 拾い上げると。

『我が娘、そしてその最愛の者へ』

 という一文が記してあった。

 封をとき、その文体に目を通す。

『通行許可証を同封しておく、自由に使ってもらって構わない。

 我が娘よ、時が来るまでどうか幸せに過ごせ。

 父はお前の幸せを常に願っている』

 書いてあったのはそれだけだ。

 中を見ればなにやら一枚の書類が同封されていた。

 書面には大きな字で「通行許可証」、と。正式な印章も押されていた。


 ……。

 まぁ、俺の動きなどラピス卿には筒抜けだったのだろう。

 だが。

「ありがとうございます」

 目を閉じ、深い感謝の念を捧げる。

 最悪、関所や町の通行門は強引に突破する予定だったのだが。

「……ラピス卿、この恩はいずれ」


 娘の寿命とその夢、そして娘と俺の関係。

 ラピス卿はその全てを承知していたのだろう。

 もしかして、ソフィアの部屋を出て、玄関に辿り着くまでに誰一人としてすれ違わなかったのはラピス卿が裏から手を回したのかもしれない。

 ソフィアの中には皇国を象徴する十二精霊の一体が宿っている。

 それは、ただの力というだけでなく、このラピス家がラピス家である証明でもあるのだ。

 それが居なくなろうとしているのに、それを止めようとすらしない。

 ただ願うのは、娘の幸せのみ。

「……ありがとうございます」

 親が持つ、子に対する限りない無限の愛情。

 それが少しだけ羨ましくなった。

 もしこれが俺の親だったなら、脚の腱を切ってでも逃避行の阻止をしただろうから。



 ……。

 門を潜る。

 冬が去って、春の季節が徐々に訪れている。

 だが、未だこの地には肌を斬るような冷たさが残っている。

 白く濁る息を吐きながら、背後の屋敷を振り返る。

「……」

 大貴族の一角にしては小さい館。


「ありがとうございました」

 万感の想いを込めて口にする。

 そして。



「行って来ます」



 外に向かって歩き出した。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


連続更新の地獄再び!


いかん、心が折れそうだ……

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