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11話 - 俺のメイド

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 就寝前、グラスに注いだワインを片手にアームチェアに腰掛ける。

 十二貴族というのは、これはこれで仕事が多いのだ。

 領地の運営や経営している企業の運営。

 それに加えて私の場合は軍部内での仕事、監察機関総帥としての仕事。

 中々に多忙なのだ。

 そんな中で就寝前に酒盃を傾けるのは数少ない楽しみの一つなのだ。

 だというのに。

「……就寝前のレディの部屋に忍び込むとは、随分と躾がなっていないな、客人」

 軽い怒気を込めて部屋の一角を睨み付けた。

 そして。

「失敬、失敬。俺のような不審者は正面から言っても門前払いだからね」

 空間からにじみ出るかのように、一人仮面の男が現れた。


 ゆっくりと酒盃を傾ける。

 と。

「ふむ。いきなり先制攻撃を叩き込まれるぐらいは覚悟していたんだがね」

 男の声に苦笑が篭る。

「敵意が無かったからな。それにここまで忍び込める程の手練だ、意味はないだろう」

 ため息一つ。

「何のようだ、私は疲れているんだ。用件は手早く頼むね」

「話しが早くて、此方も助かるよ」

 再度、仮面の男は苦笑した。


「まずは、これを見て欲しい」

「っ!」

 いきなり目の前に複数の書類が出現する。

 ……物質転送?

 珍しい業に内心で多少緊張しながらも、送られた書類に目を通す。

 途端、直前までの思考や緊張が消し飛ぶ。

「王妃様が、皇王陛下に毒を!!!?」

「調べる限り、その状況が濃いってだけだがね」

「……馬鹿な!」

「まぁ、嘘かもしれない。だが、本当かもしれない」

「くっ」

 男は嘯く。

「しかし、それを調べて有罪(ギルティ)なら裁く。それが監察機関の仕事だろう?」

「…………」

 ここまで考えて、ようやく一番最初に聞いておかなければならないことを思い出す。

 最初に渡された情報が情報なだけに、呆然としてしまったのだ。

「客人、君は一体何者だね。なぜこれを私に渡す?」


「さてね。俺の行動原理を一言で表すなら、お人よし、かね」

「お人よし、だと?」

「ああ。全く持ってその通りだ。文字通りお人よしだよ」

 男は、くくくと笑う。

 言葉遊びかと眉を顰めるが。

「一銭の得にもならない、単なる口約束さ。だが、それでも心から結んだ約束なのでね」

 僅かに言葉を切ると、真剣な口調で小さく続けた。

「今回の事で、泣いた奴が居てね。その涙を止めたいと思ったのさ」

「……」

 今回の事。それは恐らく王妃様と宰相殿の政変事。

 ……だとすると。

「客人、まだ全ての質問には答えてもらっていないな。君は何者かね?」

 そして。

 ……君はどこの組織の者か?

 しかし。

「俺は何処にも属していない。あえて言うなら、単なる流れの民さ」

 先程とは違う、おどけた口調で言った。


「今は顔を見せるわけにはいかない。名乗る分けにもいかない。だが、時がくれば俺は姿を見せよう」

「信じろと?」

「ただ、信じてくれ、としか言えないね」

「「……」」

 お互いの間の緊張感が僅かに高まる。

 が、それもすぐに消えた。

「客人、君を信用するわけには行かない。そして、この情報もな」

「……」

「私は、自らの手で調べ知った情報しか信用しないことにしているんだ」

 それは、つまり。

「此方は此方で勝手に調べさせてもらう。ただ、この情報はその際の参考にさせてもらおう」

「……素直じゃないね、まったく」

「何のことだね?」

 まぁ、いいさ。そう呟き男の姿が薄れ始める。

「今日の用事はこんなところかな」

 最早、目に捉えるのも困難なほどに透けている。

 最後に、仮面の男は意地悪な声音で告げた。


「完全に手遅れになる前に男を捕まえたほうがいいぜ。つってももう遅いかい。くくっ」


 パリンッ!

 思わず手に持っていたワイングラスを握りつぶす。

「……………………………………………………………………殺す」

 私――皇国十二貴族、アイオライト家当主カルディエ・フォン・アイオライト――は絶対零度の声で呟いた。




 ◆◆◆【ローズレット・ハート・ラ・イシュタリア】◆◆◆



「ふう」

 重いため息をつく。

 会う人、話す人の全てが私の精霊――精霊王(ノア)の行く先を問うてくる。

 今現在私の中にはノアはいない。だというのに、しつこいものである。


 と、突然扉がノックされる。

「失礼するわ」

 入ってきたのは、ボリュームある黄金の髪を結い上げた上品な女性だった。

 少なくとも表面上は。

「お元気? それとも泥棒猫の娘には過ぎたる所だったかしら」

 顔に張り付いているのは嘲笑と侮蔑の表情のみ、それ以外は欠片も見当たらない。

「……なんの御用でしょうか?」

「あらあら、義母(はは)に向かってそのような言葉はないでしょう?」

 直前の自分の言葉を思い出してもらいたいものである。

「私に答えられることは全て答えました。何度も言います、精霊王ノアなどは知りません!」

「……いいわ、いずれは教えてもらうから」

 表情を隠す。

「今日は顔合わせよ。貴方のような娘でも今後はここで暮らすのだから、最低限の顔合わせは必要でしょう」

「……」

「来なさい、レオ」

「はい。母上」

 そう言って、入ってきたのは一人の青年だった。


 サラサラの金髪に澄んだ碧眼。高い身長に、しっかりとした体。

 文句なしの美青年、そして御伽噺に出てくるような貴公子だった。

 容姿と佇まいを見れば、どこぞの無礼な傭兵とは天と地の差である。

 尤も――。

「始めまして、かな。汚れた泥棒猫。君如きに名乗るのも勿体ない気がするけど、母上から言われたのなら我慢するよ」

 やはり、その顔には嘲笑と侮蔑しか浮かんでいない。

 ……。

 ――内面に関しては逆に天と地の差がありそうだった。


「レオナルド・ファング・ド・イシュタリアだ。イシュタリア三世でもいいけどね」

「三世?」

「そうさ! 父上の後を継ぐのはこの僕さ」

 あまりの言葉に一瞬絶句する。

「驚いたかい? 当然だろう、僕はイシュタリアの皇子なんだからね」

「……」

「このままお父上が亡くなれば、僕はこの国の皇さ!」

 確かに。

 父上――皇王アテリア陛下――には現在、王妃様一人しか居ない。

 このまま父上が亡くなれば、目の前の青年が次期皇王だろう。

 ……。

 しかし、それだけでは認められない。

 認められるには……。

「そこで君が持っていたとされる精霊、精霊王ノアが必要なんだ」

 そう。皇王の象徴にして、十二の大精霊の頂点。

 皇王になるにはそれが必要なのだ。

 ……。

 絶対に。


「私は持っていません。既に私の中には何もいないと、そう調べ知ったはずです」

「僕は自分で見知ったことしか信じないことにしているんだ」

 それに、と続ける。

「他の貴族どもは皆、君が隠していると思っているのさ。当然、僕もね」

「隠してなんかいません!」

「そうかい?」

「キャッ」

 突然、ベッドの上に突き飛ばされる。

「何を!」

「それに、居ないのなら居ないでやりようもある」


 ベッドに仰向けに転がされ、そのまま両腕を押さえつけられる。

「…………な、なに、を」

「最後にもう一度聞くよ? 精霊王ノアはどこにある?」

 ……怖い。

 圧し掛かってきている青年の目には狂気の色が見え隠れしている。

「わ、私は知りません」

「そうかい。なら仕方が無いねえ」

 狂気を浮かべた笑みで訥々と説明する。

「最後の手段というのはね、君を犯して僕の妻にすることさ」

「……」

「貴族どもは皆君が精霊王を持っていると思っている。だから、その君が僕の妻になれば、これで皇王になるため条件をクリアできる」

「……」

「君を手に入れる=(イコール)精霊王を手に入れる、ということさ。」

「……」

 爛々と狂気に輝く目を前にして、言葉を失う。

「つまりね、精霊王を君ごと僕の物にするのさ!」


 ビリリリィイイッ!!

 青年――レオナルド――は力任せに私のドレスを引き裂いた。

「――ひっ」

 あまりのことに、咽が凍りつく。

 アッシュ様に衣服を剥ぎ取られた時とは明らかに状況が違う。

 あの時はアッシュ様が私をカーニバルに参加させるためであり、一切の害意は無かった。

 しかし、今回は違う。

「いやあああああ! いやああああああああああああっ! やめてっ! やめてええええええ!」

 力の限り抵抗するが、所詮は女の細腕。

 レオナルドはなにやら体を鍛えているのか、少しも抵抗できない。

「いやあああああああああああああああああああああああっ!」

 犯される。

 自分の純潔が散らされる。

 意に沿わぬ、力ずくで。

 怖い。

 いやだ!

 いやだ!!


 このようなことを覚悟していないわけではなかった。

 でも、覚悟と実際に起こるとでは違う。

「少し、五月蝿いな」

 パシィンッ。

「っ!」

 頬を張られた。


「黙れよ、雌猫。僕がお前のような汚れた女の相手をしてやろうと言ってるんだ」

 そう告げる瞳には、一片の罪悪感が見つけられない。

「ありがたく、鳴いとけばばいいんだよ」

 ビリィッ!

 身を包んでいるドレスの最後の一片を力ずくで剥ぎ取られる。

「はは。黒のランジェリーとはな。発情中だったのかい?」

「まぁ、泥棒猫の娘ですからね。その身で男を誑かしていたのかもしれないわ」

 扉の近くでは王妃様が、やれやれといった感じでため息をついていた。

「まぁ、いいさ。雌猫は雌猫らしく首輪をつけて飼ってやるよ」

 狂気を含んだ笑いを発し、レオナルドは私のブラジャーに手をかけた。

「……やめて………………やめて……いやぁ」


 ――誰か助けて。


 そう願い。かくしてその願は聞き届けられた。




「はい、そこまでだ」

「え? ぐげっ」

 レオナルドの体が勢いよく弾き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられる。

「レオ――」

 王妃様も何か言おうとするが、直ぐに頭部に一撃を受けて倒れ付す。

「……」

 むき出しになった乳房を解放された手で隠しながら、身を起こす。

 そして、そこには。

「俺のメイドに手を出すとは、いい度胸だぜ♪」

 無礼だけど気のいい傭兵兼行商の青年がいた。




 ◆◆◆【アッシュ・グレイ】◆◆◆



 ……。

 とりあえず、ケバイおばさんとその中にいた精霊、それに変態のガキには精神操作と記憶操作を施し、お帰り頂いた。

 多少精神にダメージが残ったり、記憶障害が残るかもしれないがそんなものは知った事ではない。

 ともあれ。

 ……間にあって良かった。

 一先ず安堵の息をつく。

 ローゼに仕掛けておいた魔導術に反応があったから急いだのだ。

 ドレスとブラを奪われ、黒いショーツ一枚という実に扇情的な格好ではあるが、その身にこと(・・)が成されたあとはない。

 ……良かった、というわけでもないが。

 とにかく、間に合ってよかった。


「……アッシュ、様」

「そうそう。ローゼのご主人さまであ――」

 とんっ。

 セリフをさえぎって、ローゼが抱きついてきた。

「……ローゼ」

 よく見れば、ローゼの体が震えていた。

 ……当然か。

 ローゼの歳は十五。

 けして大人とは言えない年齢だ。

 そしてそんな少女が、大の大人に犯されかけたのだ。

 その心身に受けた傷は消して小さくないだろう。


 震える体を、そっと抱きしめてやる。

 怯えるその身に、自らの想いを伝えるかのように。

「安心しろ、何があっても必ず守ってやる。絶対にだ」

 俺の言葉を聞いて、堰が壊れたのだろう。

 ローゼが啜り泣きを始める。

「今は休め。今晩は一緒にいてやるから」

「……う、あ、あ、うあああぁぁああぁぁぁ」

 ローゼがしがみ付いて、泣き始めた。




 その日、ローゼの寝付くまで抱きしめ続けた。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


感想は作者のカンフル剤になりますので皆様どうか~ww


ただしアンチはご勘弁w


(作風や文体などの作品そのものに対する批評なら受け付けますww)

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