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08話 - 最初の艱難②

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。

 軍用魔導術の一つに相手の記憶から情報を盗む術が存在する。

 仕組みとしては相手の魂に干渉し、その記憶領域から強引に情報を吸い出すのだ。また、この術の真価は死後すぐであれば死体が相手でも効果を発揮することでもある。

 勿論、効果重視で開発された軍用魔導術ゆえに、生きている相手に使用した際に発生する副作用は考慮されていない。

 事実、この術を受けた人間の精神には小さくないダメージを残したり、記憶の障害が発生するが、そんなことは俺の知ったことではない。

 ともあれ、飛んできた短剣を用済みの死体で受け、ぼやいた。


「おおう、危ないな! 当たったらどうするつもりだよ、ったく」




 覆面の男が二人、地を滑るような動きで接近してくる。

 ……ふん。

 骸を片方に投げつけ、もう片方の相手をする。

「――シッ」

 機巧式銃剣を下段から上段に斬り上げるように振り、男の顔面を真っ二つにする。

 そのまま。

「フッ!」

 震脚から生まれた力で上半身を回すように捻り、先の骸ごともう片方の男を両断した。

 この間、実に三秒もない。


「む?」

 最初に確認した人数は全部で十五人。

 だが、俺が殺した三人を除いてもここには五人しかいない。

 つまりは。

 ……なるほど、馬車に向かったか。

 そういうことなのだろう。

 もし、男達が俺たちを観察していたのなら、馬車に残っているのはローゼにルーナ。

 つまるところ、無力な少女二人にしか見えないはずだ。

 障害になりそうな俺をこの場で足止めし、その間にことを成す。

 目の前で仲間がやられた一連の出来事と、自らの人数を計算した末の結論なのだろう。

 その即座にそう判断した思考と、それを実行する能力を前に。

「……いい指揮官だ」

 思わず、本音が漏れた。




 ◆◆◆【ルーナ】◆◆◆



 我らを観察していた視線はガリアーナの街に居たときから感じていた。

 だが、敵意を持って追って来たのは街を出てからだ。

 我が君は気づいていたようである。

 ……さて、近づいてきておるな。

 その本人は今、その下手人達に接触し殲滅をしているはずである。

 そして、我の役目は別働隊や討ち漏らし等に対するここの守り。

 そして、ここを襲う者達の殲滅。

「はは、随分と血なまぐさい生業なことよ」

 人よりも遥かに発達している視覚と聴覚、それに嗅覚がここに接近している者達を正確に捉えていた。


 幌馬車の上に腰掛け、ぼんやりと夜空を見上げる。

 ……いやはや、月がないのはなんともはや。

「風情がないのう」

 口元に酷薄な笑みを浮かべ、視線を下ろす。

 下ろした先は暗い森の中。

「お主らもそう思わぬか?」

 返答代わりに、短剣が飛んできた。


「ふむ」

 首を傾けて、その短剣をかわす。

「問いにはしかと答えてほしいものよ」

 そっと右手を上げ、魔力を集中する。

 すると。

 ブゥンッ。

 手を覆う形で半透明の魔力の爪が出現する。

 そのまま。

 トンッ。シュンッッッ!!

 最初の音は超超高速で相手の背後に回りこんだ際の足音、次いでした音は。

「っとと、切れ味が良すぎるのも困りものよな」

 すれ違いざまに相手を両断した斬音だった。


 ドサッ。

 下半身が立った状態のまま上半身が大地に落ちる。

 その切り口は恐ろしく滑らかであり、あまりの鋭さに出血が始まるのにすら僅かな時間が必要だった。

 切られた相手も何が起こっているのか理解していないようで、その瞳は驚愕に満ちたもののそれだった。

「やれやれ。我が君は我が速さにも対応していたのだがのう」

 と。

「ふむ」

 軽やかに跳躍し、木の枝の上に降り立つ。

「精霊、それも大地に連なる者か。……土小人(ノーム)か?」

 先程まで立っていた場所はぬかるんだ泥沼に変わっていた。

 さらには。

「まぁ、よい」

 手を振り、飛来した風刃を逆に斬り裂く。

「暇つぶし程度にはなりそうだ」

 嗤い、枝を蹴り、宙に舞った。


 目に捉えることすら不可能な超超高速で走り抜けると。

 ……一。

 一人目の胴体を真っ二つにする。

 ……二。

 前後左右上下と三次元を利用した機動で体を動かし、二人目を正中線にそって上から下へと両断する。

 ……三、四。

 両手を翼のように広げ振る。

 すると両の爪から放たれた斬撃が宙を奔り、三人目と四人目をバラバラにした。

 この間、瞬きほどの時間も掛かっていない。

 そして、この時点で残りは二人。風と地を操っている精霊使いだけだった。


「ほう、そのものらが貴公らの精霊か」

 それぞれの背後には、翠色で翅を生やした小人と鋼色に鈍く光る蠍がいた。

「……翠妖精(シルフ)石蠍獣(アンタレス)、か」


 口元に酷薄な笑みを浮かべると、低く低く嗤った。




 ◆◆◆【アッシュ・グレイ】◆◆◆



 五人が俺を取り囲むように動くが、それをわざわざ見逃してやるほどお人よしではない。

 懐から取り出した短刀を小さなモーションで投げる。

 狙うは心臓だ。

 勿論。

「――フッ」

 この程度で殺せるとは思っていない。単に隙を作るためだけだ。

 ナイフに気をとられた一瞬の隙を突いて首を切裂く。

 同時に。

「背後にご注意を、ってな」

 俺の左右後ろから襲ってきた四人に。

 ――展開・爆破。

 放たれた朱色の燐光は指向性を持って爆発を引き起こした。


「おや? ……はは、人攫いにしておくには勿体ないね♪」


 三人が焼き尽くされる中、たった一人だけがその難を逃れる者がいた。

 そして、その背後には炎の体で構成された蝶が舞っている。

 恐らくは炎蝶(パピヨン)

 火系統と契約したから熱に対する耐性が有ったのだろう。後は、自らの炎で爆発の威力を相殺したのだろう。

 尤も。

「まぁ、もとより生きて返すつもりはない。楽に死にたければ抵抗しないことだ」

 機巧式銃剣を握ると、高速で間合いを詰めた。




 ◆◆◆【ルーナ】◆◆◆



 轟音が轟き、大地が揺れた。

 この魔力の波動は。

 ……我が君か。

 苦笑しながら、爪を振るい。

 パシィンッ。

 飛来した風刃と放った斬刃が衝突して消滅する。

「では、少しだけ遊んでやろう」

 足元が泥沼になる寸前に跳躍。

「尤も、貴公らが耐えられればだが、な」

 そのまま、魔力の爪を翳し、襲い掛かった。




 突如暴風が吹き荒れる。

 ……並みのものならそのまま吹き飛ばされていただろうな。

 だが。

「……ふむ」

 体を捻りバランスをとり、そのままの勢いで。

 GAAAAAAAAAA!

 咆哮を放つ。

 魔力の込められた咆哮は衝撃波となり、暴風の壁を易々と穿つ。

 ……この程度か。

 落胆の気持ちを押し隠し、咆哮が穿った穴を駆け抜け爪を振るう。

 シュリンッ。

 硝子がこすれるような音が響き渡る。

「ほう、このタイミングで防ぐか、見事なものよ」

 翠妖精が憑いた男を守るように突如石の壁が立ちはだかったのだ。

 ……尤も。

「我が爪を防ぎたいのなら、この二百倍の強度は必要だがな」

 嗤い、石壁ごと男の体を斬断した。


 木々枝々を足場に宙を走るように移動する。

 最後の一人となった男は地表から雨霰と打ち出した飛礫で攻撃してくるが。

「温いな」

 それを舞うような三次元の機動でかわし、逆に斬刃の雨を降らせる。

 男に叩きつけられた斬刃はその身を次々と斬り裂いていく。

 それでも男が即死しなかったのは、それなりの手練であった証だろう。

 しかし。

「これで、終いだ」

 脚に膨大な力を込めると。

 ダンッ! ヒュンッ!

 神速と評されてもおかしくない速度で駆け、男を精霊ごとバラバラに斬り裂いた。




 ◆◆◆【アッシュ・グレイ】◆◆◆



 火球が次々飛んでくるが、それを拳や剣で叩き落していく。

「ハッ」

 突き出した剣先が相手の腕を抉る。

 そのまま。

「シッ」

 ――生成・解放。

 刃に沿って奔った雷撃が覆面の男をうつ。

「っ!!」

 その僅かな硬直を見逃すはずもなく。

「……じゃあな」

 一息のもとに心臓を貫いた。




 ……。


 夜が明ける。

 なんとも眠い目をこすりつつ鍋の蓋を開ける。

 中には、所狭しとおやきが並べられていた。

「持ってて良かった中華鍋」

 暁帝国の鋳物屋で購入した物だが、意外に便利なのだ。

 炒める、焼く、蒸す、揚げる、煮る、その全てを一つで行えるのだから、便利じゃないはずがない。

 ともあれ。

「おい、そこの腹ペコ犬。味見だ」

 焼きあがったおやきを一つ投げる。

 そのまま、飛び上がって口でキャッチした様は正に犬以外の何者でもないのだが、ここでは黙っておこう。

「ほう! 中々に美味いではないか」

「そりゃ、どーも」

 苦笑しながら、言う。

「なら、中のお嬢様を起こしてきてくれ、俺は今のうちに茶を用意しておくから」

「心得た」

「頼んだぜ」

 横の薬缶から熱湯をポットに注ぐ。

 今回は紅茶ではなく、ウローン茶だ。

 後は、茶葉が開けばOK。

 ……。

 ……ふむ。もう少し彩りが欲しいな。

 少し、考えると。

「……付け合せも用意しておくか」

 馬車に積んでおいた壷から糠漬けを取り出すと召喚した水で糠を洗い落とし、切り分けると皿に盛り付ける。

 そこまでの一連の手際は完璧に慣れた者のそれであり、その姿は正に言い訳が出来ないほど主夫然としたものだったww


「「「頂きます」」」

 手を合わせ三者三様でおやきを口に運ぶ。

 だが。

「アッシュ様、これはなん……、お行儀が悪いですよ」

 ローゼが俺の欠伸に困ったような声音で注意してくる。

 夜通し戦闘を行い、今朝は早いうちから朝食の仕込みをしていたのだ。

 眠くないはずがない。

「あ゛―……。悪い、でも眠い」

「食事時ぐらい、しっかりして下さいよ」

 ローゼがこれまた困ったようにため息をつく。

「娘、それは――ぬっ」

 俺の膝の間に座っていたルーナが何かを言うが、素早くその口を手で押さえる。

(……余計なことは言わんでいい)

(良いのか?)

(まぁな、余計な心配はかけたくないし、それに)

(それに?)

(俺が自ら負った苦労だ、大した苦労でもないさ)


(…………………………………………。……お人好しめ)


(今頃気づいたのか?)


 苦笑を滲ませつつ、その言葉で念話を締めた。




 尤も、その後にローゼから長々と注意され微妙に心が折れたのだが、それはまた別のお話しである。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。



一応皆様、Happy Merry Christmas !


予約投稿で、作者は外に出ています!


因みにデー(ry


……閑話休題


ともあれ、皆様メリークリスマスです!


六本木のイルミネーション行って見たいおw


あと、神のみぞ知るセカイの続きが気になる!

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