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00話 - プロローグⅠ

誤字・脱字・文法の誤りがあったらごめんなさい。


新作を投稿! 魔王? 知らんな!

 精霊大国、イシュタリア皇国。

 遥か古の時代に精霊と人とが作り上げた契約の楽園。

 その歴史はこの大陸に人が移り住み始めた黎明期にまで遡る。

 当時、時の皇王はこの地に座していた精霊王と契約を交わし、その皇王に従っていた十二の貴族は精霊王の重臣たる十二の大精霊とそれぞれ契約を交わした。

 そして皇王と十二の貴族、精霊王と十二の大精霊は手と手を携え、艱難辛苦に抗い一つの国を作り上げた。

 それこそが今のイシュタリア皇国。


 これはイシュタリア皇国の民なら誰でも知っている御伽噺。




 十二歳の誕生日。

「行ってくる」

 見送りに着ていたフィー姉に手を振り返し契約の門に足を向けた。

 生憎と俺は皇国十二貴族の生まれだが、その長子ではなかったため十二精霊を受け継ぐことは出来なかった。

 だが、それも今日までだ。

 今日俺は新たに俺だけの契約精霊を手に入れる。

「すう、はぁあああ。……っ、よし!」

 深呼吸を大きく一回。パシンッと自分の頬をたたき一括を入れる。

 今日は待ちに待った契約の儀。

「行くか!」


 ――契約の儀。

 自らの契約精霊を手に入れる、人生最初で最後の儀式。

 方法はいたって簡単。

 皇国が存在する物質の世界と精霊が存在する幻想の世界を繋ぐ門を通り、現地で精霊と契約するだけ。

 実に簡単だ。


 ……。

 しかし、この儀式に失敗は許されない。

 一度幻想世界に赴いたものは二度とその世界には入れない。

 再度足を踏み入れると、自らを構成する肉体と精神、そして魂が幻想世界に同化しようとして消滅するのだ。

 詳しい理由は分からないが、原理的には人間の肉体がその世界に適応するため、というのが今のところ有力な説だ。

 ……ともあれ。

一回きりの挑戦(ワンチャンス)! やばい、緊張してきたあ!」

 気合い一喝で門の内側に、幻想世界に入界した。



 ……。

「何処だ? ここ?」

 聞くに、契約の儀は人毎によって飛ばされる場所が違うらしい。

 より自らと相性のいい精霊がいる地に。

 しかし。

「まじで何処? ここ?」

 空は夜に近い曇天、周囲は草木一本無い瓦礫の海原。

 感じとしては神殿の廃墟跡に近いかもしれない。

 なんというか精霊のせの欠片も感じない。

「おいおいおい! 勘弁してくれよ」

 思わず頭を抱えそうになった。

 と。

 ~~♪

「?」

 なにやら声らしきモノが聞こえた。

 少し黙して、耳を澄ます。

 すると。

 ~~♪

「歌?」

 今度は聞こえた。

 確かに歌声だった。

「~~♪」

 幻想世界の言語だろうか?

 歌詞が読み取れない。

「あっちか?」

 百聞は一見にしかず。

 とりあえずは向かってみることにした。


 ……。

 小さな女の子だった。小さな女の子が二人廃墟の瓦礫に腰掛けて歌っていたのだ。

 年は俺と同じぐらいだろうか。

 片や、腰辺りまである澄んだ雪のような白髪、紅玉のような瞳。無駄にフリルとレースがあしらわれた漆黒のドレスを纏っている。

 片や、同じく腰辺りまである艶やかな墨のような黒髪、蒼玉のような瞳。無駄にフリルとレースがあしらわれた純白のドレスを纏っている。

 ……綺麗。

 正直な感想だった。

 だが、その綺麗さは生物的な美しさではない。

 そんな感じがした。

 どちらかというのなら広大な風景や、次元の高い美術品から受ける美しさに似ている。

 と、少女が此方を待っていたかのように話しかけてきた。


「未来を望む少年――」「――貴方はどのような未来をお望み?」

「え?」

「未来。それは無限と枝分かれする道標――」「――けして戻れぬ一方通行」

「……君はいったい?」

「未来は常に変わり続けている――」「――まるで星が巡るように、風が踊るように」

「……」


 分からない。

 いったいこの少女達は何を言いたいんだろうか?

 そもそも誰なんだろうか?

 しかし、二人の少女達はまるで示し合わせたかのように交互に言葉を紡ぐ。

「でも、もしも未来が決まっていたら?――」「――それが覆せないものだったら?」

「!」

 初めて少女が此方に目を向けた。

 その目はまるで俺を哀れむかのようであり、同時に祝福しているかのようでもあった。

「貴方はどうする?――」「――未来を望む少年」

 ……。

「覆せぬ未来を前にした時――」「――貴方はどうする?」

「……」

「応えて少年――」「――貴方の考えを、貴方の想いを」

 僅かな間が空き。

「俺はそんなことはないと信じてる」

 とっさに応えていた。

「……」

「未来は決まっているんじゃない、自分で決めるもんだ!」

 ……。

 我ながらくさいとも思った。

 だが、少なくとも俺はそう思う。

 未来なんてものは決まるものじゃない、決めるものだ。

「決まった結末は変えられないのに?――」

「それでもだ」

「――その先に絶望しかなくても?」

「それでも」

「……」

「……」

 …………………………………………。


 長くも短い沈黙。

 かっこつけすぎたかな? 少し恥ずかしくなった。

 多分頬は微妙に紅くなっているだろう。

 と、次の瞬間。

「貴方の覚悟を試してみようと思う――」「――それが本物なら私達が目覚めるはず……」

「え?」

「「……『契約(エンゲージ)』」」

「なっ!」

 契約(エンゲージ)、それは精霊が契約する際に使われる言葉。

 しかし、双子の精霊は聞いたことがあるが双子の精霊が一人に両方付くなど皇国史上初めてではないだろうか?

 女の子達は柔らかく微笑。

「我らは在って無きと言われし双子の悪魔――」「――ゆえに存在し、存在せぬ泡沫の末」

「……」

「……夢幻にして無限と連なる未来のいずこかで――」「――貴方と出会えることを願っている、少年」

 少女達は光の粒子と散り俺の体に吸い込まれるように消えた。

 同時に俺の中に巨大で異質な何かが入ってくるのが理解できた。


 俺は精霊と契約した。


 ……したはずだった。


 ……だが、俺が精霊使いとして目覚めることは無かった。




 三年前の精霊契約に失敗した日から全てが変わった。

 今までは厳しくも優しかった父はまるで汚物を見る目になった。

 元々関りの薄かった母とは完全に絶縁状態。

 そして、俺にだけは優しかった姉もまるで俺をいないものとして扱うようになった。

 家人も俺をいないものとして扱っている。

 ここはイシュタリア皇国、民の精霊契約は当然のステータスであり、精霊契約に失敗したものは汚点とされる。

 それが、皇国に名だたる十二貴族から出たのだ。

 もはや言うまでもないだろう。

 俺は皇国では最大の汚点とされ、あらゆる貴族、民から軽蔑されることとなったのだ。


 ……。

「よっしゃ、今しかないね!」

 物陰からそっと顔を出す。

 視線の先には三年前、希望を持って通った巨大な門が佇んでいた。

 周りには神官や高位聖職者が存在しているが、門には意識が向けられていない。

「……」

 俺は今から二度目の入界を果たすつもりだ。

 そのためにこんな神殿の奥深くまで忍び込んだのだ。

 ……。

 死の恐怖がないわけではない。

 消滅の恐怖がないわけではない。

しかし、それを遥かに上回る覚悟が己の身に宿っている。

「ふっ、はぁ」

 荒い呼吸が口から漏れる。

「後少し、後少し……」

 慎重にタイミングを測り。

「今ッ!」

 神官たちが止める間もなく、門の内側に飛び込んだ。



 二度目の入会は思った以上にきつかった。

 歯を食いしばり、荒い息をつく。

「はぁ、はぁ。……ぐっ」

 意識が曖昧となり気を抜けばそのまま寝てしまいそうである。

 正直なところ、二度目の入界は思った以上にきつい。

 僅かな気の緩みがそのまま死に直結してしまうのだ。

 先程などは僅かに気が緩んだ瞬間に両手が透けてて思わず絶叫を上げてしまった。

 ……以前のような気軽さは欠片もない。

 早々に精霊と契約をしなければならない。

 だというのに。

「くそ、ここ何処だよ! 前よりひでぇし!」

 目の前に広がっているのは漆黒の闇のみ(・・)だった。


 人並みはずれた強靭な精神力で幻想世界との同化に抵抗する。

 後はひたすら精霊を求めて果て無き闇を歩き続ける。

 一寸の先すら見えない純粋な黒。

 ともすれば自らの四肢でさえ満足に確認できない。

 平衡感覚や時間感覚が狂っていく。

 自らがまっすぐに歩けているという自信すらない。


「……くっ」

 額や背中から滝のように汗が流れる。

 既にどのくらい歩いたのだろうか、一時間か半日か、それとも本の僅かな時間なのか。

 変化が微塵も存在しない黒が己の五感を少しずつ削っていく。

 並みの人間なら既に発狂していたかもしれない。

 おれ自身、不退転の覚悟、命を掛けた覚悟がなければ既に狂っていたかもしれない。

「こんな、ところが、幻想世界に、ある、なんて、な」

 幻想世界というからには草花が茂る楽園を想像していたというのに。

「まる、で、地獄の、底、だな」

 俺が入界した前回も、そして今回もまるで楽園とは正反対だ。

「……ったく、つくづく、運に、恵ま、れない」

 辛そうに息を途切れさせながら、それでも苦笑気味に悪態をついた。

 だが、その瞬間。

 唐突に意識が途切れ。

「え、あ?」

 ……。

 気づけば地面らしき平面に倒れ付していた。


 眼がうまく機能していないのか、もはや己の姿すら確認できない。

 ……俺は死ぬのか?

 未練がないといえば嘘になる。

 新たに精霊を得て、家族を見返してやりたかった。

 二度目の入界とその帰還で世間を見返してやりたかった。

 だというのに。

 ……声すら出ないのか。

 いや、呼吸は出来ている。まだ死んでいない。

 でも、このままでは確実に死ぬだけだろう。

 ……。


 ……。


 ……。


 ……。

 どれくらい時間が流れたか。

 汝、死を記憶せよ(メメント・モリ)

 人は生まれ出でては必ず死ぬ。

 それは自然の摂理。

 故に、死自体はそれほど怖くない。むしろ受け入れてもいい。

 優しい眠りとして、親愛すら感じる。

 しかし。

 自らを貶めた全てを見返せなかったのが、悔しい。

 ただそれだけだ。

 ……儚い人生ってやつかよ、ったく。

 最後に悪態をつき。


 世界に対する抵抗を…………やめた。



 不思議な感覚が体を包む。

 自らの体が消えているのが分かるのに、その意識が消えない。

 夢を見ているようにぼんやりとしてはいるが、そこにはおれ自身の確固たる精神が生きていた。

 ……一体何が起きているのだろうか?

 ぼんやりとした思考で考え続ける。

 本来なら体が世界に融け、次いで精神が霧散するはずだった。

 しかし。

 ……俺は、生きている?

 分からない。

 ……なぜ?

 定まらない思考で答えを探す。

 そして、その答えは直ぐに教えられた。


 自らの体が融け、精神だけが生きている。

 そんな中、確かに聞いた。

 カシャンッ、カシャンッという音を。

 それはまるで足音だった。

 カシャンッ、カシャンッと。

 カシャンッ、カシャンッと。

 やがて、俺の目の前で音は止まり。

「BOY♪ 気に入った☆YO」

 やたらノリのいい声が聞こえた。


 視界は黒一色。

 そこに何があるのかは理解できない、が。

 とりあえず。

 ……おいおい、シリアスな場面を見事にブレイクしてくれるなぁ。

 心中で突っ込んでおいた。


「BOY! お前は死を拒絶せずに受け入れという偉業を達成したんDA☆ZE! それは死に対する理解と深い愛情が必要なことなんDA☆YO」

 やたらと変な口調だなぁ。

「お前さん、俺の契約者に相応しい☆ZE♪」

 えええ!? もしかしてこの口調の主は精霊っすか!

「OOO! こいつはBIGな驚きだNA! 先客がいるとはNE♪」

 ? 先客?

「まぁ、いい☆SA」

 やたらノリの軽い声が納得の声音を出したかと思った瞬間、俺の感覚が急速に戻っていき、同時にひやりとした感触が頬を撫でる。

 ……なにやら硬いな。

 どうやら頬を何かに撫でられているらしい。

「BOY、『契約(エンゲージ)』DA☆ZE!」

 黒一色の視界がより深い漆黒の闇へと変わる。

 同時に俺の体の中に、以前と同じように巨大な何かが入り込んできた。


「よろしく☆NA! MY・MASTER♪」


 最後に、HAHAHA! という変なノリの笑い声と共に意識が完全に途切れた。


 俺は再度精霊と契約を果たした。


 しかし、今度もまた、俺の中で精霊が目覚めることは無かった。






 ドンッ。

「あいたっ!」

 馬車から突き落とされる。

 凍結し固くなった地面でしこたま頭を打つ。

 しかし、馬車そんな俺に見向きすることなく走り去ってしまった。


 二度目の入界、即ち違法入界。

 そしてその上での二度目の精霊との契約失敗。

 父とその家族、家人は家の面子を守るために俺の追放を決定した。

 反対したものはいなかった。

 結果として過去に遡り、俺という存在の痕跡を完全にけしたのだ。

 俺という人間の存在の消去。

 俺の人生という歴史の消去。


 二度と家には近づくなと脅され。

「……」

 身一つで皇国の辺境に放り出されたのだ。

 殺されなかったのはせめてもの情けなのだろう。

 しかし。

「……これは死刑とかわらねぇよ、馬鹿」

 周囲一面は冬景色だった。


 身に纏っているのは間違っても冬の寒気を防ぐ防寒着ではない。

 すぐさま身を切り裂くような寒さに震えが走った。

 直ぐにでも暖をとらなければ明日の朝にでも凍死体の一丁上がりである。

 だが。

「山道、しかも周囲は雪景色一色。人の気配皆無なこの状況をどうしろと?」

 正にその通りだった。


 ……。

 二度目の入界から戻った直後に拘束され、そのままこの地に放り出されたのだ。

 体力の消耗と精神の消耗が限界な状態だった。

 直ぐに極寒の空気に抱擁され、意識が乳白色の眠りに捕まる。

「……やばい」

 体の感覚がなくなっていく。

 幻想世界の闇とはまた違う、粘りつくような眠気。

 せめて体温が保てる場所まで……。

 虚ろな意識のまま、馬車が去ったほうに歩き始める。

 だが、それも長くは続かない。

 元々直ぐにでも休息をとらなければいけない状態だったのだ。


「お?」

 足がもつれ、新雪の絨毯にダイブした。

 全身が鉛のように重い。

「……やべ、しゃれになってない、し」

 全力をこめて体を動かすが、…………動かない。

 ……。

 やがて、俺の体に雪が積もり始めた。

 意識は既に失われる寸前。

 精霊の事も、家の事も、全てが泡沫の夢と溶ける。


 そんな中、最後の最後。

 意識が途切れる直前に確かに聞いた。

「――!! ―――!!!」

 人の声だった。




 ◆◆◆【ソフィアージュ・フォン・ラピス】◆◆◆



 私の身に宿っている氷精白鶴(スノウクレイン)が突然何かを伝えた。

「どうしたの、クレイン?」

 私の問いに応じるように、今度はもっと明確に意志を伝えてきた。

 ……それは。

「止めて!」

 急ぎ馬車から顔を出すと、御者に向かって叫んだ。


 キキキィィィィッ

 馬車が急ブレーキを掛ける。

 馬車が止まるのももどかしく、停止した直後に外に向かって飛び出す。

「ソフィア!?」

「お姉ちゃん!?」

「お、お嬢様!」

 順にお父様、妹のエリエ、そして御者の声だ。

 しかし、それらを無視して白銀一色の世界に駆け寄ると、雪に埋もれるようにして倒れ付していた一人の少年を抱き上げた。

 既に全身が氷のように冷たく、硬い。

 けれど確かに。

「良かった! 生きている」

 と、追いついたのか御者が声を掛けてきた。

「お嬢様! いったいどうなされたのです!? ………………其方の方は?」

「倒れていたの! 死にそうなの! 直ぐに手当てを!」

「はっ! 畏まりました!」

 御者は慌てて少年を抱き上げると、馬車に向かって駆け出した。


 三度私の中にいる精霊が鳴き声を上げた。

 精霊の名は氷精白鶴(スノウクレイン)

 皇国十二貴族に伝わる、精霊王の眷族たる十二精霊の一体。そして氷の化身と名高い大精霊だ。

 十二精霊の中でも一際強力な力の持ち主であり、皇国の四翼に名を連ねる精霊。同時に十二精霊の中で最も平和を愛する心優しい精霊。

 今私に伝えて来たのは……。

「うん。助かるといいね、あの子」

 どうかあの少年が助かりますようにという、無事を願う祈り。

「どうか、助かりますように」

 私も胸の前で手を組み願った。



 ……どうかあの少年が助かりますように。

ご感想・ご意見・各種批評・間違いの御指摘などをお待ちしております。


どうも、自称永遠の厨二を自称する作者の神楽氏です。


初めての人もそうでない人も、はじめまして m(_ _)m


この度は新作を投稿しました、是非とも楽しんでいただければ幸いです。


ではでは~www

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