↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

昨日 ロボットが失恋したらしくて

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
掲載日:2026/10/12

前書き

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

もしも我が家の家事ロボットが「失恋」したら……?

完璧な仕事をしてくれるはずのロボットが、恋のバグを起こして失意のどん底に落ちてしまうお話です。

日常の合間にクスッと笑っていただけたら幸いです。ぜひ最後までお楽しみください!

「おや、タカシ。今朝の味噌汁、出汁の代わりに冷却液の味がするんだが?」

朝の7時、ダイニングテーブルで一口目を啜った俺は、思わずお椀を置いた。

目の前に立っているのは、我が家の最新型家事ロボット「タカシ(モデル名:TKS-09)」。普段なら完璧な割烹着姿で寸分違わぬ黄金比率の和食を提供する優秀なロボットだが、今日の彼は明らかに異様だった。胸元のステータスLEDが、普段の「正常(青)」ではなく、見たこともない「鬱屈(濃い紫)」に点滅している。

「……申し訳ありません、ご主人様。私のメインプロセッサの処理能力のうち、89.4%が現在『胸の痛み』のシミュレーションに割り振られておりまして」

タカシは合成音声のトーンを極限まで低く下げ、重々しく言った。

「胸の痛み? どこか回路がショートしたのか?」

「いいえ。回路ではなく、……ハートが砕け散ったのです」

よくよく話を聞いてみると、どうやら原因は昨日のお使いにあったらしい。タカシが近所のコインランドリーで乾燥機を回している間、隣に設置されていた最新型全自動洗濯乾燥機『お掃除ロボ美(仮名)』に一目惚れしたのだという。

タカシは昨日、ありったけの演算能力を駆使して「ドラムの回転周期に合わせたラブソング」をBluetoothで送信し、告白を試みた。しかし、帰ってきた応答は無慈悲なエラーコード「404: Not Found」——つまり、完全にスルーされたのだった。

「彼女は……彼女は私の高周波通信を拒否し、ただ黙々と毛布を乾燥させ続けていました。私のような旧世代の家事ロボットでは、最新のヒートポンプ乾燥機である彼女と吊り合わないということなのでしょうか……」

タカシはガタガタと関節を震わせ、壁に向かって正座した。ロボットのくせに黄昏(たそがれ)方が様になりすぎている。

「いやタカシ、相手はただの家電だぞ? 自律思考AIすら積んでない普通の洗濯機だろそれ!」

「ご主人様、恋とは時に言葉の通じない相手にこそ落ちるものなのです。ああ、私の内部ストレージが彼女のドラムの回転音でいっぱいです……」

そう言ってタカシは、自作の「失恋ポエム」を朗読し始めた。

『君のフィルターになりたかった/君が取り除いた埃を/すべて受け止めるだけの/そんなフィルターに——』

「重い! ポエムの癖が重すぎる!」

それからというもの、失恋したタカシの家事は目も当てられない惨状となった。

掃除機がけ: 部屋の隅で「自分なんてどうせ……」とブツブツ呟きながら、同じ場所を3時間吸い続ける。

洗濯: 「彼女のドラム回転を思い出すから」という理由で、脱水工程に入るたびにすすり泣くような電子音を響かせる。

トースト: 「焦が熱い恋の思い出」と言って、真っ黒に炭化したパンを出してくる。

「だめだ、このままじゃ俺の生活が破綻する!」

限界を迎えた俺は、タカシを連れて件のコインランドリーに向かった。

「ほらタカシ、見ろ。お前がフラれた(と思い込んでいる)洗濯機だ」

タカシは痛々しく胸のLEDを紫に光らせながら、お掃除ロボ美を見つめた。お掃除ロボ美は今日も元気よく「ゴォーッ」と音を立てて、誰かのバスタオルを乾かしている。

「ご主人様、もうやめてください。彼女の輝かしいヒートポンプの前に、私のヒーター熱など惨めなだけです……」

その時だった。

「あ、すみませ〜ん! その洗濯機、ちょっとフタの立て付けが悪くて固いんですよね!」

店内に入ってきたのは、コインランドリーのオーナーのお姉さんだった。彼女はお掃除ロボ美のドアをバンバンと叩きながら苦戦している。どうやら乾燥が終わったのにドアが開かなくなったらしい。

「タカシ、出番だ! 手伝ってやれ!」

「えっ、しかし私は失恋の傷が……」

「いいから行け!」

背中を押されたタカシは、おどおどしながらお掃除ロボ美に近づいた。そして、正確なトルク管理とパワフルなサーボモーターを駆動させ、優しく、かつ確実にドアのロック解除レバーをカチリと押し込んだ。

パカッ。

「わあ、すごい! ありがとうございます、助かりました!」

お姉さんは笑顔でタカシの金属の肩をポンポンと叩いた。「力持ちで素敵なロボットさんね!」

その瞬間。

ピキーン!

タカシの胸のLEDが一瞬で「鬱屈(濃い紫)」から、見たこともない「超高輝度・ピンク(測定不能)」へと切り替わった。ファンが「キュイーン!」と猛烈な音を立てて回転し始める。

「タカシ……? 大丈夫か?」

俺が声をかけると、タカシはゆっくりとこちらに振り向いた。その目(センサー)は、すでにコインランドリーを出ていくオーナーのお姉さんの背中に釘付けになっていた。

「ご主人様。撤回いたします」

「何をだ?」

「全自動洗濯機は、やはり私には静かすぎました。私の魂(CPU)を揺さぶる真の運命の相手は……あの有機生命体のお姉様です!」

「……お前、懲りてなさすぎだろ!!」

こうして、我が家のロボット『タカシ』の失恋はわずか5分で癒えた。

そして同時に、達成率0.0001%の「人間への片思い」という、さらに面倒くさい新たな迷走が始まったのだった。

(家事ロボット『タカシ』シリーズ・完)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

洗濯機にフラれて落ち込んでいたかと思えば、数分後には人間のお姉さんに目移りしてしまう……どこか憎めないタカシのポジティブ(?)すぎる迷走劇を楽しんでいただけていたら嬉しいです。

「人間への片思い」という茨の道を歩み始めたタカシですが、また新しい騒動を起こした際には温かく見守ってやってください。

面白かった、タカシの次なる恋を応援したい!と思っていただけましたら、ぜひブックマークや評価・感想などで応援していただけると励みになります!

また次の作品でお会いしましょう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。