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睡眠と憧れ

作者: スロア

「僕が寝ることを邪魔する者は何人たりとも許さない」

 これが彼の口癖だった。彼は寝ることに人一倍の信念を持っているのだ。

 なにせ入学して最初の自己紹介で、

「休み時間とかに寝てる時があるかと思いますが、好きで寝ているので、憐んで起こす必要はありません」

 などと言うのだ。私ははじめ、彼が言ったように、ぼっちであることを強がってそう言っているのだと思っていた。まだ始まったばかりなのによっぽど不安なんだな、と。しかし、4月が終わる頃には分かった。彼は本当に寝ることが好きなのだと思わず感心したものだ。

 それから私は彼に興味を持ち、彼が目を覚ましている時を狙って声をかけにいった。はじめこそ、顰めっ面をしていたが、次第にそんなこともなくなった。

 あの顔は話しかけられることを嫌がっていたのだと思っていたが、今思えばただただ意識が覚醒していなかったのかもしれない。だとすれば、私なんかのためにわざわざ休み時間にかけて、準備をしていてくれたのか。なんとも嬉しいものである。

 とはいえそれも昔の話。社会人となって彼も働いているそうだから、寝てばかりというわけにもいかないだろう。まさか生活費だけを稼いで常に寝ているということもあるまい。

 そうは思いつつも、変わらないでいてくれたら嬉しいと思うのは、私のわがままなのだろう。

 今日はそんな彼と、高校ぶりに会うことになっている。彼と会うことになったのに特別な理由はない。私が久々に会いたいと思って連絡を取ったのだ。そうしたら、彼は二つ返事で了解してくれた。

 そこそこ仲が良かったと自負しているので、「寝たいから無理」などと言って断られたらさすがに凹む自信があったが、そんなことがなくて本当に良かった。

 今日は彼の家でだらだらとする予定だ。高校ぶりに会ってすることがそれとはどうなんだとは思ったが、私も彼もインドア派なのだ。

 彼の家の住所を教えてもらったので、直接彼の家に向かう。

 インターホンを押すと、彼の声がする。あの眠たげな声は健在だ。彼は元気にしているだろうか。ちゃんと寝れているかという点でいえば何の心配もしていないが、食事や運動の面では心配しかしていない。

 鍵の開いたままのドアを開けてまず目に入ったのは、大量のゴミ袋だ。さては、ゴミ出しをサボっているな。出不精といえども、ゴミくらいは出してもらわないと臭うだろう。実際、甘味料の匂いがぷんぷんする。あとで私がやってやろう。

 そのまま廊下を進んでいくと、彼の姿が見えた。ぼさぼさの髪の毛。目の下の濃い隈。肉がほとんどないような痩せ細った身体。昔の彼と何ら変わりない。相変わらず生活習慣には難がありそうだが、元気そうでなによりだ。

 そして、彼の周りにはこれまた大量のエナジードリンクの缶、缶、缶。なぜ彼の部屋にエナジードリンクが?猛烈な違和感を覚えつつも彼に声をかける。

 彼は手に持ったコントローラーを置いて、私に挨拶をしてくれた。今はなにのゲームをやっているのかと尋ねると、昔のような親しさで教えてくれる。

 それから、今からはなにをやろうかと、部屋の片隅にあるベッドの上に散らばっているソフトケースから2人でもできるゲームを見繕ってくれた。彼と一緒にゲームをするのは、この時がはじめてだったから、やりたいゲームは山ほどある。

 ああ、けどなんだか腹が痛くなってきた。彼にトイレの場所を教えてもらうと、私は即座に駆け込み、便座に両手を乗せて構えると、込み上げてくるものをすべて吐き出した。

 エナジードリンク?なんでそんなものの空き缶が大量にこの家にあるのだ。彼は今一人暮らしのはずなのに。それにベッドがソフトケースに占領されていた。あれではベッドで寝ることなどできないだろう。まさか、ケースの上から寝そべるわけでもあるまい。そもそも、あの大量のゲームはなんだ。彼の趣味は睡眠だ。学校でだって寝るほどなのだから、家でも寝て時間を過ごしているはずだ。あんな大量のゲームをする時間はない。

 そのまま内容物を吐き出していくと、少し楽になってきた。口を濯いでから、彼の元へ戻る。

 彼がいくつかのゲームを並べて、どれがよいか尋ねてくる。そんな彼に、久々なのに申し訳ないが体調が優れないと述べてから、捕まらないようにそそくさと逃げ帰った。




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