表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

電車のお婆ちゃん

作者: まこも

10年近く前のこと、電車に乗って大阪まで行った時のお話。


電車を待ってる駅は結構な人ごみだったけど、ラッキーなことに座ることが出来た。

だんだん乗客も増えてきて、ほぼ満員状態。

大阪駅のひとつ前の駅を出たあたりで私の座席のそばにお婆ちゃんがやって来て、腰を屈めて小さくなって立っていた。

どうせ次が大阪駅だし、別に立っていてもいいか…と思い、私はそのお婆ちゃんに席を譲った。

「よかったら、この席どうぞ」

お婆ちゃんは少し驚いた様子で、でも嬉しそうに

「ありがとう、ありがとう、座らせてもらうわ」

と胸の前で両手を合わせて、何度も何度もお辞儀しながらゆっくりと席に座った。


五分くらい経ったくらいに

そのお婆ちゃん、カバンの中をゴソゴソし始めた。

そして、私に小声で

「あんた、これ」

と言いながら何かを握らせてきた。

え?何?こわ…!

正直な感想。

だって、握らせた物が変な物だったら嫌じゃない??

でも、大阪のおばちゃんはよく飴ちゃんを持ってるって聞くしな。

周りを気にして、一瞬私の目が泳ぐ。


恐る恐る自分の手のひらを見ると、そこには小さく畳まれた千円札が。

おかねっっっ!?想定外っ!!!

「いやいやいやいや、いただけませんって」

慌ててこちらも小声で返す。

「ええて、本当は大阪でお茶でも奢ってあげたかったんやけどな、今日は時間もないから」

いやいやいや、それでも席を譲ってあげただけだし、いただき過ぎじゃございませんか?

その時の私はどんな表情をしていたんだろう。

多分若干にやけていたに違いない。

どうすればいいのか、とりあえずポケットにそっとしまわれた千円札。


おおさか~おおさか~


私はポケットに手を入れたまま、電車は大阪駅に到着した。

そのお婆ちゃんは

「ありがとうな」

と私に言った。

私も「こちらこそありがとうございました」

と一礼した。


降車する時にそのお婆ちゃんが

「あんたがうちの嫁だったらえかったのにな」

とぼそりと呟いたのを私は聞いてしまった。

隣の芝生は青い。

私も決してよい嫁ではないのだぞ。


その時の千円札は今でもずっと残してある

と言いたいところですが、大阪でさっさと使っちゃった。







ああいう時の為に飴ちゃん持ってるんかな…おばちゃんたち

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
電車を舞台にした大坂ならではのエピソードに昭和感を抱きました。おばあさんから受け取った『漱石さん』は、きっと同じように『まこも様』が色んな人に親切心で接していた徳の現れ……だと思います。遠い過去の出来…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ