光
読んで後悔はさせません!なので絶対に最後まで見てください。
景色がめまぐるしく変わる町、光たちの一つ一つの動きについていけない。人も建物も車も何もかも曖昧になった。終電を逃すかもしれないサラリーマンや、香ばしいようなタクシーの中で甘い言葉を交わす恋人。全ては白っぽい光だけで受容せざるを得ないし、それに拒否権はない。人々の感情に寄り添うように、美しく変化していくようなものではないのだから。サラリーマンや恋人達が乗るタクシーの例をあげたが、どちらとも私の妄想である。
______「エモい」光で、その光の内容に沿った妄想を膨らませる。それが小説家の仕事だと思う。
私は普段平気で「エモい」を使用しているくせに、はっきりとした意味というか正体は分からない。
「エモい」=本来の姿をぼやかしたもの(?)
言葉の正体自体もぼやけてはっきりしないし、そのように受け取っている。でも、ぼやかしてこそ「エモい」なのであれば私達が「エモい」の正体を暴きだすのは不可能なのではないか...?と頭によぎる。つかみどころがなくてぬるぬるとしているのに、便利でお洒落で抽象的で楽ちんで、しかも私達が普段使用しているとなれば嫉妬の対象になる。
あ、今から、面白い話を綴ろうと思います。
_____________季節感をどっかに忘れたような部屋...。
午前9時に目覚めたことに気付くと少し得した気分になった。ここ最近、高校を行き渋り状態になっている。高3の三分の二は出席しなければ卒業出来ない。まだ1年生の私は、2年後の自分を心配する。学校に行くよりもYouTubeを見たほうが楽しいし本を読むほうが楽しい。1年生と2年生に学校に行くのが、無駄というか馬鹿らしい。
適当に冷蔵庫を漁ってシチューを取り出す。朝食のシチューを口に含みながら、今日の予定をさらっと考える。予定には一応勉強も入っている。
少なくとも「青春」とは言えないような予定を頭の隅に置きながらも、こんな事を思った。
_____一人ひとりの「青春」が、他人と通じ合える全国共通っぽさ。例えば、青春エピソードとか青春ラブコメとか。「青春」という全然特別感のない箱にポイポイ入れていく人々。箱の中が精密に平均化されていく.....。だから俗にいう「青春」はありきたりすぎて尖ってないし、そこらじゅうに量産されている。
「なんか、凡人みたい。」天才でもないのに、そう呟いた。
_________________________狭いリビングに、気付くと目の前に知らない少年が立っていた。
「え、え、えっ誰?!怖っ」
突然現れたのだ。シチューを全て飲み終わった瞬間なのか、それとも呟いた瞬間なのかは分からない。
「このタイムマシンに乗って、僕は2150年から来ました。」少年は別の方向を指差した。まるで前からあったように、そこにはドラえもんに出てくるタイムマシンそっくりの乗り物があった。4人くらいしか乗れなさそう。けど全く、おもちゃみたいなものではなかった。車みたいなピカピカの黒いボディに細かいボタンがいっぱいついている。凄く未来的な乗り物で、つい見惚れてしまった。
「あなたは誰ですか?」私は聞いた。
「誰だと訊かれても、どうやって説明すればいいのです。そもそもこの時代には私は生まれていません。」
見当違い...。頭がおかしいな。どうすればいいんだ...。しばらくフリーズした。
「その乗り物は何ですか?」怪しい。ただ、相手は私より幼い。小学5年生くらいかな。
「タイムマシンです」
「それはさっきも聞きました。本当は何に使うんですか?」
「信じられないのなら、私がこのマシンに乗って2150年に戻ります。そして町の写真を撮ってあなたに見せるので、2分ほどお待ち下さい。」
「あ.....。はい、わかりました.....。」勿論全く信じていないけど、反応しておいた。この少年の勝手にすればいい。とりあえずさっさと出ていってほしい。
勝手に玄関までスタスタと少年は歩いて行った。その後ろ姿を追いかける。無造作な髪がはねていて、無印の青いTシャツを着ている。身なりがシンプルすぎる気がするけど、よくいる普通の男の子だ。おかしい奴だという事には変わりはない。何やら難しい機械を操作すると、一応タイムマシンらしきものがリビングから玄関まで移動した。
____________狭い空間で、向きを変えながら移動している.....。しかも浮いている。狭い路地裏をランドセル姿の小学生がガリガリと音をたてながら歩いているのを不意に思い出した。ランドセルが傷つくのもお構いなしに。
きつねにつままれたような気分.....。しばらく啞然とした。何だ、こいつは。
驚く私を見て、「あれ?あなたの時代では、もうすぐ空飛ぶ車が出来るはずです。」と少年は言った。自分がタイムトラベラーだという虚言を再度繰り返しているのと同じだ。少年の度胸に恐怖を覚える。
そして、タイムマシンらしきものがピカピカと点滅し始めた。少年はそれに乗って、また何やら難しい機械を操作し始めた。その横顔は、とても利口そうな顔をしているように見える。
私は少年の為に玄関ドアを開けた。そこから差し込む光が輝いている。
「では、行って来ます。」乗りものが窓を閉めた。
いかにもSFっぽい起動音がした。
「え~~~~!!どうなってんの?!」
少年と共に乗り物が空高く上がる。
これは夢じゃない、現実だ。その感覚にあまりにも興奮してしまって友達に電話しようと思った。でも数秒後に、「余計なことをするのはやめておこう」と直感的に感じた。動揺のあまり、玄関の前で動き回った。でも少年はすぐに帰ってきた。15秒くらいかな。準備も含めて2分だったのか.....。玄関ドアをノックする音が聞こえて、開けようか迷う。しばらく放っておこう。
「おーい、開けてください!!」
「ちょっとー、お願いします!」
とりあえず普通の少年ではないな。頭がおかしいわけでもなさそうだが、やっぱり不気味だ。
SF世界とは程遠いような田舎にこんな未来的な乗り物は場違い感が凄い。
「おかえり。」
少年の姿は変わっていなかった。
「おかげさまで、無事に帰ってきました。」
「私のおかげではないけどね.....。ところで、写真は?!あと、なんでこんなに帰ってくるのが早いの?!」
「写真はこちらです。動画も撮影してきました。タイムマシンは光よりも速く移動することが出来ます。」
タイムマシンにカメラ機能がついているらしく、一部分から光が出てスクリーン上に映し出された。色んな建物がドーム状になっていて、当たり前のように車が空を飛んでいる。ロボットも歩いている。
「君、一体何がしたいの?」
「2025年のとある企業から、この時代の誰かをタイムマシンに乗せてくれ。と頼まれました。」
「はぁ...。タイムマシンに乗せてどうするっていうのよ。そんな事頼むわけないじゃん。」
「あの企業の人達は昔の人を利用しようとしているんです。実験台みたいにして、まったく...。さすがに酷いです。」
「昔を変えたら未来も変わっちゃうんだよ。嘘もバレバレだからね。」さっさと少年が帰るように、強めに言った。
「世界が分岐するだけで私達には影響がないんです。今も、1秒1秒経つにつれてどんどん分岐が進んでいます。」は...?
長々と少年の説明が続いた。
私が2150年に行って何かを行ったとしても、世界の分岐によって解決されるらしい。枝分かれした別の世界が無限にあるということだ。その逆で、昔に戻って何かを行ったとしても未来が変化するわけではないと主張していた。(多元宇宙論)「タイムマシンを使って、人生をやり直せるわけではないです。」少年の一言は何気に心に刺さった。要するに、パラレルワールドの存在を証明したかったわけ?
親殺しのパラドックスというタイムトラベル理論の話も聞いた。タイムマシンを利用して過去の世界に行き、自分の母親となる人物を父親と出会う前に殺してしまったら、自分自身が存在することが不可能になる。という理論らしい。また、その世界で殺人を犯すことが不可能になる。
少年は多元宇宙論を信じているので、親殺しのパラドックスは分岐で解決できると言っていた。
「問題が起こるわけでもないので、タイムマシンに乗ってください。」相変わらずしつこい。SF好きな少年なのかも知れない。しかしあの乗り物は、常識を越えている。
「死ぬ可能性は?」
「このタイムマシンは既に2000回ほど使われていますが、1回も事故は起こっていません。」
「さっき言ってた企業ってもしや、いろんな時代の人をタイムマシンに乗せてるの?」
「そうです。」
「ん〜、君も一緒に乗るってことだよね?」
「はい。もちろん。」
私を殺そうとしている訳ではなさそうだ。
「乗りたいかも。」こんなチャンスは2度とないかも知れない。とりあえず死なないならいいや。
「タイムマシンに乗ってください。」
私は少年の横に座った。硬そうな外観とは対照的に、とても座り心地が良くて柔らかい。
いかにもSFっぽい起動音がした。
タイムマシンの窓が閉まる。今までに乗ったジェットコースターの何倍も不安になった。もう降りれないのだという、絶望感のような、焦燥がつま先から走る、といいますか。
安定しているように見えたが、今まで味わったことが無いくらいに酔った。景色を見る余裕もなかったし、見たら余計に酔うだろう。そんな時間はあっという間で、動きが止まった。扉が開き、席を立つとますます酔いが増して吐きそうになった。
「大丈夫ですか?」声は出さなかったけど、頭をゆっくり縦に振った。
死なないで良かった...。
「えぇ.........?まさかぁ....。」
「ここどこ?」
「2150年ですよ。」
「えぇ...........?え、?」
_______周りを見渡すと2150年の世界が広がっている。写真や動画では伝わらない町の美しさが私を感動させた。酔いがさめそうなくらいに_______
「こういう、私みたいな人が2000人もいるってこと?」
「はい。みんな似たような反応らしいです。」
足に重心がしっかりとかかっている。夢ではない(?)
受け入れるのにだいぶ時間がかかった。
本当に未来に来たのかと思うと、なぜか嬉しくて飛び跳ねた。そんな様子を見て、少年はまったく動じずにニコリとした。なんだかこの子、変だなあ。ずっと敬語しか話さないし、感情の起伏が無いように見える。タイムマシンで昔に来たら、普通は興奮するだろう。
もしかしたら人間そっくりに作った21世紀型AIなのかもしれない。凄く物知りだし、そうに違いない。さっきまで普通にAIと会話していたのに、なんだか不思議な気持ちになった。
少し向こうに、私と同い年くらいの女の子たちが歩いていた。
「これまじでエモくない~?」「それな最高!」エモいとそれなはずっとこれからも続くのか、凄いな。まじは江戸時代からあるらしい。
彼女たちがエモいと言っていたのは、「初代の空飛ぶ車」とか「腕に巻けるスマホ」だった。私からすると近代的に見えるけど、彼女達は「懐かしい」と話していた。そういえば「たまごっち」とか「ルーズソックス」も世の中ではエモいと言われている。懐かしくて、どこか既視感があるようなものを「エモい」と言っているのではないか。「エモい」が流行り始めたのが2016年頃だから、将来私達の周りのものが「エモい」になる時が来るだろう。
「エモい」は「青春」と似ている。どちらとも全国共通っぽい。「エモい」に対しても「なんか、凡人みたい。」と言えるだろう。尖った感性でもなんでもなく、ありきたりすぎる。ただ一つだけ違いがある。「青春」は時代とともに大きく変わるようなことはないが、「エモい」は時代と共に変化していく。
タイムマシンで少年が待っているので、戻ろうと思う。あの酔いまくるタイムマシンに乗るのは嫌だけど、過去に戻って心を落ち着かせたい。少し歩いて、少年の隣に座る。
「もう帰るんですか?」
「戻れなくなるのとか怖いし。未来に連れてきてくれてありがとう。なぜかは分からないけど、嬉しい。」
「どういたいしまして。」
現実みたいな起動音がした。
タイムマシンの窓が閉まる。
物凄い酔いが回ったけど一瞬だった。
玄関の前に着いた。「さようなら、ありがとう」と言おうとしたけど、タイムマシンと共に少年は「さよう」くらいで遠くに行ってしまった。
家についたけど、さっきの事が信じられない。少年がしていた話の内容を思い出してみる。現実だと知らせるように、まだ車酔いしている。あ、車ではなかったな。
2150年の心理学は進歩していて、私のことを説得する何かがあったのかも知れない。
_________私は将来SF作家になって、この経験も本に綴っている。
筆者である桜都藤莉那は、違う世界線を覗くことができます。別の世界線での桜都藤莉那が本を出版していたので、結構パクリました。著作権フリーですね(笑)高校生の時に未来人の少年に会っていた世界線があったなんて驚きました!
私の年齢は秘密です。ぼやかした方が「エモい」です!