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いつかどこかの前日譚〜終始傲慢だか最後に反撃されて赤面してしまう少女〜

作者: 紡人 ツグミ








 乾いた音が鳴る。

 それはさしずめ親指と人差し指、そして中指を擦り合わせたような音だった。


 はてさて。


 ここは一体どこで、何年何月の何日で、己とは何者なのか。


 似つかわしくもなく哲学じみた思考を巡らせてはみるが、結局のところさしたる意味はない。一種の現実逃避のようなものだ。


 けれども、その場凌ぎの逃避には限界がある。


 面倒事を避けようにも、面倒とは往々にしてその時になるまで分からないものだ。だからこそ、人は避け難い面倒事を運命などと仰々しく呼び己を納得させるのである。


 おお! なんか今の名言っぽい!











「――で、もう気は済んだかね」


 目前の人物は偉そうに語りかけてくる。


 玉座に肘をつき足を組んだ女。

 腰まで伸びる赤髪は白地の天衣に映え、傷一つない豊満な肉体と相まり見る者に神性を抱かせる。透き通るような黄金の瞳は――めんどくさいな。


 はいはい美人美人って感じの人がそこにいた。


「済んだよ、済みましたともさ。そんで、そんなあんたはどこの誰なんですかね?」


「ふむ、そうきたか。ならば私はこう問い返すべきなのだろう。人に名を尋ねる時はまず自分から名乗ってはいかがかね、と」


「なるほど、道理だ。では僭越ながら名乗るとしよう。俺の名は……名は――なんだっけ?」


 待てよ……待て待て待て待て待てッ……!?

 まずった。や、マジか。マジでなんなんだ。

 何も思い出せない。

 過去を想起しようにも海馬が仕事しない。


 まるで不透明のブラックボックス。いや、透明といった方が正確な表現だろう。いや、いいや、透明ですらない。なにも、何一つないのだ。


 想起できない?存在しないのだから当然である。

 俺は己の名さえ思い出すことが出来なかった。


 クスクスと噛み殺した笑声が聞こえる。

 それは女の声だ。

 狼狽える俺を他所に、女は笑っていた。


「いやいや、結構。無理もない」


「あんた、何か知っているな?」


「もちろん知っているとも。君の名や生まれ――果ては人生そのものについてよくよく知っている。なにせ君をそんな状態に陥れた黒幕こそが私なのだから」


 悪びれもせずに女は告げる。


「なるほど、つまり知っていながらあんな意地の悪い問いを投げかけた訳だ。さてはあんた性格悪いな?」


「まぁいいじゃないか。全ては済んだことだ」


「それは被害者が口にしてこそ成立する理屈だ!」


 最低だこの女!?

 さらっと水に流そうとしやがったぞ!?


「まぁいいじゃないか。全ては済んだことだ」


 しかも繰り返した。


「……おーけー、済んだことだ。かわりに俺のことについて教えてくれ。いつまでも自分のルーツが分からないっていうのは、控えめに言って不安だ」


「おや、早速本題といきたいところではあったが、そう言われてはしかたがない。では、しばし脇道に逸れて君の正体について語るとしよう」


 女は片目を伏せ、思わせ振りに笑みを深める。

 自然と喉はごくりと音を立てた。


 いよいよ、というほど待ちに待った訳ではないが、こうもあっさりと過去が開示されるのは少々意外である。まぁ、語ると言っているのだから、聞かせてもらおうじゃないか。


「ずばり君の正体は、かつて実在したとある人物からパーソナリティを構成する最低限の要素を抜き出し結集させた存在だ」


 女はなおも語る。


「――あるいは、これまで生きてきたという情報を持って今この瞬間に生まれた存在かもしれない。さしずめ世界5分前仮説のようにね」


 滔滔たる女の言葉は止まらない。


「――それとも、君に自我なんてものはなく、私があらかじめ設定した言葉を、設定通りに話す機械人形であるというのはどうだろう。他に案はあるかね?」


「要するに本当のことを話す気はないってことか?」


「いやいや、正に一部は真実だとも。もっとも、多くの嘘が含まれているし、真実にしても全容を語っている訳ではないがね。何を真実とするかは君次第さ」


「な、納得いかねぇ……」


 やはりはぐらかされている。結論を質問者に委ねる時点で何も語っていないのと同じだ。

 多分、他の何を聞こうにも同じように有耶無耶にされて終わりだろう。開幕から終始、主導権はあちらにある。


「さて、余談はこのくらいにして本題に移るとしよう」


 女はクルクルと人差し指を宙に遊ばせる。

 なんとも演技っぽい動作だが、それさえ嫌に似合っているというのだから腹立たしい。こういう時美形は徳だよな、などとぼんやり思う。完全に僻みだ。

 俺は観念するように息を吐いた。諦めたというよりは覚悟を決めたと言った方が格好がつくか。


「いいぜ、聞こう。まさかなんら意味もなく俺の前にあんたがいるとは思っていないさ」


「いい返事だ。満足だとも。だが、それほど気負う必要はない。なにせ私が今からする話を受け入れるかどうか、君には選択権があるのだから」


「選択権?」


「あぁ、そうとも。私は君にひとつ依頼する」


 女は一度音を鳴らす。

 それはさしずめ親指と人差し指、そして中指を擦り合わせたような音。即ち指パッチン。






「――とある世界の英雄を監視してもらいたい」






 英雄の監視。穏やかならぬ響きだ。

 英雄と呼ばれるからには、それに見合う名声と実力、実績を兼ね備えた人物なのだろう。

 言ってはなんだが、そんな人物の監視が俺に務まるとは思えない。


「理由を聞かせてくれ」


「ふむ、端的に言えばかの英雄が世界を滅ぼせる力を有しているからだ。君にはかの英雄の動向を監視し続け、いざ世界が滅ばんとする時には暗殺してほしい」


「無茶言うな!? 覚えていないが、記憶にないが、俺は普通尋常平均平凡凡下凡才陳腐傭劣を体現するような男だぞ。世界を滅ぼす力を持っているような奴を、監視はもとより暗殺なんてできるか!!」


「落ち着きたまえ。世界を滅ぼす英雄と言っても私からすれば可愛いものだ。小指で殺せる。そう大したものではない」


「ならあんたが監視なり暗殺なりすればいいだろ」


「いやいや、そういう訳にもいかない」


 否定の言葉を口にするなり、女はふむと頷き指を唇に触れさせると、しばし言葉を探すように思索する。


「私にとって世界とはボトルシップのようなものだ。確かに私が直接干渉すれば内部の『シップ』は容易く完成する。だが、肝心の『ボトル』は私という強大な存在に耐え切れず砕けてしまうのさ」


 ボトルの破壊。その意味する所は世界の破滅だ。

 世界を滅ぼす英雄を殺すために世界が滅んでいては本末転倒もいいところだろう。


「あんたが俺に依頼する理由は分かった。だが、そもそも俺に監視やら暗殺やらを遂行できるほどの能力はないぞ」


「そのことなら心配には及ばない。私が君に世界が滅ばない範囲で力を分け与えるのでね」


「やけに親切なんだな」


「世界数多しと言えど、人間の生存できる世界は中々に希少なのだよ。ぜひとも私の代行者として、陰ながら世界を守ってくれたまえ」


「……ちなみに断ったらどうなる?」


「どうもしないとも。君は自我も残らず消失し、私は君の代行者を新たに探すまでさ」


 自我の消失。

 それはきっととても恐ろしいことなのだろう。


 自我とは生誕より蓄積してきた時間の流れと、それに伴う経験そのものだ。

 己が己であることの何よりの証明であり、望むと望まざるにかかわらず決して切り離すことはできない。


 ゆえに自我の消失とは自己の否定と同義である。


 恐れて当然だ。理屈では分かる。

 だが、なぜだろう。

 肝心の感情は驚くほど凪いでいた。


「(……あぁ、そうか)」


 なぜか、ではない。必然だ。

 失うものが多いほど、人は喪失を恐れる。

 ならば、今己が持っているものとはなにか。


 記憶を持たず、名を持たず、未だ何者でもない。


 そんな自我が潰えた所でなんだというのか。自我の消失程度では依頼を受ける動機にはなり得ない。


 だから、依頼を受諾するか否かの判断材料は別にある。それは女とのやりとりの中で抱いた違和感。

 俺は女に問わなければならなかった。


「最後にひとつ聞かせてくれ。この問いに答えてくれるなら、俺は今この場であんたの問いに即答しよう」


「即答とは殊勝な心がけだ。よろしい、なんでもひとつ問いたまえ。私は君の問いに対して、決して茶化さず誤魔化さずまともに応えることを約束しよう」


「なら、遠慮なく」


 女を見据える。

 眉の微動に瞳孔の収縮、その他諸々。

 僅かな変化さえ見逃さないように。




「なぜ、暗殺ではなく()()なんだ?」




 世界を滅ぼす可能性。そんなリスクはすぐにでも取り除きたいはずだ。

 ならば、監視などと迂遠な手段を取らず、より確実な方法として初めから英雄の排除を優先するべきだろう。

 つまりは、英雄の暗殺を。


「なぜ、か」


 女はまるで動じず、ただニヤリと笑みを深めた。


「決まっている。もし暗殺を依頼した場合、君はにべもなく断ったはずだ。だからこそ、あくまで基本的なスタンスは監視なのさ」


 思わず舌打ちしそうになった。

 あぁ、クソ。

 全て見抜かれている。


「それに、どの道かの英雄は世界を滅ぼさない。――そういう風に君が英雄を導くつもりなのだろう?」


 見透かしたように女は笑みを崩さない。

 それは余裕の表れであり、期待であり確信だ。


 かの英雄が世界を滅ぼす力を持っていたとしても、必ずしも世界を滅ぼすとは限らない。周囲に教え諭し導く者がいれば正しい力の使い方を示すこともできるだろう。


 ご丁寧なことに最後の懸念であった暗殺を回避する方法まで提示されてしまった。


 ここまでされては黙っている訳にもいかない。

 俺にもプライドとやらがあるのだ。


「……分かってるじゃないか。いいぜ、任せろよ。その依頼引き受けよう。手始めに俺はなにをすればいい?」


「いい返事だ。あちらに着いたらまず肉体の鍛錬に努めたまえ。私は君に3つの力を授けるが、いずれにせよ器たる君の肉体が未熟とあっては、十全に力を引き出すことはできないだろうからね」


「ん? 英雄探しは後回しでいいのかよ」


「無論、捜索も行なってもらう。もっとも、かの英雄は未だ姿を持たないがゆえに、誰彼を探せと明示することは残念ながらできないがね。ただし、方針を示すことはできる」


 未だ姿を持たない、というのはもしかして生まれてすらいないということなのだろうか。ならば、なぜ英雄などと呼ばれているのだろう。


 それはきっと、かの英雄が未来のどこかで偉業を成し遂げるからに他ならない。


 誰も彼もが首を垂れ絶望に打ちひしがれる中、それでも勇を鼓し満身の力を以って絶望を打ち払う者――それこそを人は英雄と呼ぶのだから。


「なんとなく分かるよ、多分。何か大きな戦で功を立てただとか画期的な発明で人々を救っただとか、とにかく英雄としての根拠を携えた人物を探ればいい」


「正しくその通り。ふむ、どうやらこれ以上の助言は無用のようだ。あちらでの行動は君に一任するとよう。さて、手を出したまえ」


 言われるがままに俺は手を差し出す。


「もっと近くに寄りたまえよ」


 女は囁くようにそう言った。

 疑問に思いつつも一歩、また一歩と距離を縮めていく。その度に異常なまでに整った女の相貌がしかと見えてきて、何度も足を止めそうになった。


 あまりにも芸術品めいている。一点の曇りもなく、ただ一粒の欠けもなく、髪の先から足のつま先まで余すことなく完成されている。まるで奇跡を目にしているようだと素直に思った。


 一歩踏み出す度に、この輝きを汚してしまうのではないかと憂慮する。いいのかな、こんなことをして。いやいいんだろうけど。なんにせよ女が満足するまで足を止める訳にはいかない。


 最終的にほとんど目と鼻の先まで接近した。手を伸ばせば届くであろう距離。うっかり触れでもしたら大変だ。まぁそんなことをする度胸はないのだけれど。


「なっ……」


 白く柔らかなものが手に触れた。女の指だ。細く繊細な女の指が俺の手を包み込む。どきりとした。すぐに打ち払ってしまおうとも思った。しないけど。マジかよ、ちょーすべすべしてる。


 女はさして気にした様子もなく、人差し指で俺の手の甲を何度かなぞる。縦並びの歪な三角が2つと、それを貫くように直線を1つ。なぞった場所が光を帯び、光芒の尾が途切れると同時に紋様が姿を現す。


 紋様から何かが溢れ、身体中を駆け巡った。血管、神経、細胞、その一つ一つが新たに塗り替えられていく感覚を確かに感じる。

 これは力の奔流だ。凄まじい力が暴走し、器たる肉体を破壊せんと暴れ回っている。


 少し痛むが我慢できないほどではない。


 いや、嘘だ。嘘つきました。

 痩せ我慢です。痛いというか大分痛い。

 いや、待って。これマズいんじゃ!?


 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い!?


 食いしばった歯がグギギと軋った。苦鳴を堪えたのはただの見栄だ。きっと酷い顔をしている。

 いつまでそうして耐えていただろう。数刻かもしれないし数秒かもしれない。やがて気がついた頃にはほとんど痛みが引いていた。


 恐る恐る目を開けば、女は変わらず俺の手を握り込んでいる。なんとなく名残惜しいが、叶うならばこの温もりを感じていたいが、自分から女の手を解く。


 一つ深呼吸して気分を落ち着ける。


「今のは……?」


「私の力を君の魂に縫い付けた。馴染めば自ずと力の扱い方は理解できるはずさ」


「……結構大雑把なんだな。もっとこうレクチャーとかお願いしたいんだが。なにせ借り物の力だ。なら借りた本人に聞くのが一番だろ?」


「ふむ、一理ある。とはいえ、あまり時間に猶予があるともいえないのでね。その辺りは割愛させてもらおう。なに、何事も習うより慣れよ、だ。肉体の鍛錬と並行して試行したまえ」


「時間が無いって、そりゃまたなんでだよ」


 そのくせ最初俺で遊んでたよな、こいつ。

 忘れてないぞとジト目で見つめ返すが、女には少し肩をすくめるだけで受け流されてしまった。


「何分、君と接触を図るために大分下層の方まで降下してきたものでね。すぐにも立ち去らなければ、この空間そのものが崩壊してしまうのさ」


 女がそう口にした途端、何が張り詰めた音がした。パキパキ……と液体が氷結する時のような音だ。音の出所は右から左、上へと縦横無尽に駆け巡る。


「ふむ、いよいよ限界が近いらしい」


 女は困ったように肩をすくめて見せる。だが、その所作のどこにも動揺や焦燥は感じられない。まるで予定通りとでも言わんばかりだ。


 思えば、全ては女の掌の上だったのだろう。それこそ俺の選択さえ誘導された節がある。選択権があると嘯いておきながら、俺が依頼を引き受けることは決まっていたのだ。


 だからなんだという話かもしれない。いずれにしても自ら選んだことなのだから。結果が同じならどの道を通ろうとさして変わらないだろう。


 ならこの反骨心はなんなのか。女の予測を超えて一泡吹かせたいと捻くれた考えが浮かぶ。全く理性的じゃないな。不合理極まるね。いや、ほんと。何様だよお前は。


 人間だからか。

 そりゃそうだ。理屈で納得できないこともある。


「……ありがとう。あんたのお陰で少なくとも俺は俺が人間だって確信を抱けそうだよ」


「それは重畳。さて、最後に尋ねたいことはあるかね? 君を転移させるまでにかかる数秒の間、私は雑談に応じることにやぶさかでないのだがね」


 数秒って、まともに話す気ないだろこいつ。

 最後の最後までとことん性格悪いな……。まぁ、これから俺がすることを思えば、性格悪いのはお互い様なのかもしれないけれど。






 女は指を打ち鳴らす。


 乾いた音が耳を打つとともに、俺の肉体が足先から光の粒子となってサラサラと解けていく。少しずつ肉体の機能が失われていく感覚が確かにあった。


 全てなくなるまでがタイムリミットだ。


「雑談に応じると、そう言ったな。なら、初めて目にした時からずっと伝えたいことがあったんだ」


 ――手のひらが崩れていく。


「ほう?」


 女を見据える。

 こんな言葉だけでは泰然と座す女を揺るがすことはできない。だから一歩前に踏み出すことにした。

 ただでさえ近かった距離がいよいよ潰える。


「こんなことは胸の内に秘めておこうと思っていた。けど、これでお別れっていうのなら、ここで言わないときっと後悔してしまう気がするから」


 ――胸が穿たれ光が散っている。


「急にどうしたのかね。まるで愛を告白するナイトのような言葉を口にして」


「告白……似たようなもんかもな」


 ――視界が半分闇に飲まれた。


「ふむ……?」


 初めて思惑を外れたのか、女の眉が怪訝そうに曲がる。時間はもうそれほど残されていない。鼻を明かせる機会はたった一度きり。


 ここだ。


 思い切ってもう一歩踏み込んだ。

 座る女の股の間に右膝を突き入れ、背もたれに肘をついて顔を近寄せる。


 さしずめ口付けを迫るかのように。


 瞳と瞳が触れ合いそうな距離。

 すぐそこに美しく整った女の相貌がある。

 互いの吐息の温度が分かるまでに唇を寄せて――停止した。


「……まいった、動じないんだな」


 欠片も女の動揺を誘うことはできなかった。

 照れることなく、避けようともせず、初めから寸止めすることが分かっていたかのように泰然とある。


 女は嘲弄するようにふっと笑う。そしてそのまま、したり顔というか、訳知り顔というか、なんとも憎たらしい笑みを浮かべて女は言った。


「なるほど、そういう魂胆か。けれど無駄だ。私は君の全てを知悉している。君が同意も無く淑女の唇を奪うような卑劣な真似をしないことを知っている。諦めたま――」


「白のレース」


「え……よ。……なんのことかね?」


 あくまでも女の表情は涼やかだ。決して揺るがず、どこまでも尊大な態度を貫いている。だが、僅かだが女の目が開かれ、微かに瞳孔が揺れるのを見た。


 ――もう首から下は感覚が無い。


 だが、一言告げるには十分だ。








()()()、ずっと見えていたぞ」








 キョトンとして女は瞼を数度瞬かせる。


 女の天衣はかなり深いスリッドが入っていて、白絹のように眩しい太腿が惜しげもなく晒されている。そんな格好で足なんか組めば色々と見えてしまうのだ。


「なっ……は、なぁぁーーっ!?」


 少ししてようやく言葉の意味を理解したのか、女は捲れ上がっていた天衣を確認すると慌てて両手で押さえつける。


 してやったりだ。


 なにか言ってやろうと思ったが、口はすでに光と化していた。だからその代わりに、最後に残された半分の視界で目の前の光景を瞼の裏に焼き付ける。


 そこにあったのは、威厳なんてどこにもない、ただの少女のとびっきりの赤面顔だった。








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