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飼い主眷属ふわもふ事件帖  作者: みつなつ
綿毛と妖狐
4/16

04.妖狐

 聞きなれた駅名のアナウンスがあり、ドアが開く。

 俺は電車を降りた。

 不思議な世界からようやく現実に戻って来たような感覚……。

 悪い夢でも見ていたような気分で、俺は改札を通り過ぎた。


 駅前のロータリーはバス停やタクシー乗り場に数人ずつ並んでいる。

 家までゆっくり歩いても十五分というところだ。

 さっさと家に帰って風呂につかりたい。

 その時、視界の上の方に何か金色の物が映り込んだ。


 ロータリーの真ん中……不思議な形のモニュメントの一番上に、子供が立っている。


「……――は???」


 思わずマヌケな声が出てしまった。

 その光景はあまりに現実味がなさ過ぎた。

 金髪に白い着物……それはまるで、そう! どっかのゲームから飛び出してきたかのような姿だった。ケモ耳とたくさんの揺れる尻尾は見るからに本物ぽくて、コスプレ衣装じゃないのは明らかだが……。


 俺はポカンと金色の子供を見上げたまま固まってしまう。


 駅前の無機質なモニュメントの上の、あまりに場違いなその存在……気づいているのは、俺だけ?

 他の誰も気にしている様子はない。


 ふいに、子供が下を見た。

 正確には、俺を見た。


 俺は、がばっと視線を逸らして歩き出す。

 見ちゃダメなやつを見てしまったのは、今日何回目だ?


「お前、見えてるだろう?」


 上から振って来る言葉に反応することなく、俺はスタスタと大股で歩く。

 全身から「なにも聞こえてませんよ~、見えてませんよ~」というオーラを放ちつつ、さり気なくスマホで時間を確認してみたりする。


 しかし――……、


 その子供は重力を感じさせない動きで、ふわりと俺の目の前に降り立った。


「うわっ! み、見えてないっ! 見えてないぞっ!」


「じゃあ誰と話してるんだ、お前……」


 呆れたような子供のジト目に耐え切れず、俺は子供の横をすり抜けるようにして走り出した。

 いや、逃げ出した。


「あ! こらっ! ちょっと待てっ!」


 背後から聞こえる声は、遠ざかるどころか、ぴったりついて来る。

 こ、こぇぇええええ~っ!!


 しばらく走り続けたものの、俺はとうとう住宅街に入ったところで力尽きた。

 ゼーゼーと肩で息をして膝に手をつく。

 ゲームばっかしてないで、もうちょい運動して体力つけとけば良かった……。


「おい」


 すぐ近くから呼びかけられ、俺は観念して顔を上げた。

 汗だくでヘトヘトの俺とは違い、その子供は涼しい表情(かお)をしている。


「だーっ! もう、何なんだよ!? 言っとくけど、俺に憑りついたって何にもいい事ないからなっ!」


 やけくそ気味に声を上げると、子供はスッと目を細め、俺を観察するように見た。


「聞きたいことがある。お前、『見える』んだろう? 白い狐を見なかったか?」


「……白い狐?」


「あぁ、見た目は俺とそっくりな……白い狐だ」


「えーっと……」


 俺は改めて金色の子供を見た。

 頭には大きなケモ耳がぴょこんと生え、ふんわり大きな尻尾が一、二、三、四……とにかくたくさん!

 白い着物は平安時代の……狩衣みたいだが、歴史の教科書で見たやつよりずっとデコラティブだ。


 うん、どこからどう見ても「狐」では……ない!

 これは、アレだ……妖狐とかいうやつだ。


「見てない。知らない……悪いな」


 もう俺に用はないだろう。

 再び歩き出そうとしたその時、金色の子供が俺の服を掴んだ。


「だったら一緒に探せ」


「は? なんで俺がっ!?」


「最近は『見える』人間なんてほとんどいない。しかも話まで出来る奴に会ったのは二百年ぶりだ。眷属にしてやるから、一緒に白を探せ」


「……ちょっと待て。()()()()、眷属だって?」


()()()()()、眷属」


「…………」


 俺は軽い眩暈に襲われそうになった。

 ついさっき、全く同じやり取りをした記憶がある……デジャヴかよ!


『待てこら! こいつは俺の眷属なんだ、お前は引っ込んでろ!』


 俺のポケットの中でもぞもぞと蠢きながら綿毛……セスが声を上げた。

 妖狐は不思議そうに首を傾げて俺のポケットへと視線を落とす。


「お前、なにを連れている?」


「…………」


 俺は無言でポケットからセスを取り出した。

 妖狐は顔を近づけ、まじまじとセスを見つめる。

 大きな金色の瞳がくるくると興味深そうに動く。


「これ、なんだ……?」


「ケセランパサラン」


 俺の答えに、妖狐は怪訝な表情(かお)で問い返す。


「け、せ……???」


 どうやら初めて見るらしい。

 妖怪同士だからって、知り合いとは限らないもんな。


『こいつは俺の眷属だ。お前のものにはならん、諦めろ』


 セスは妖狐の目の前をふわふわ漂いながら、やたらと上から目線で言い放った。

 妖狐はムスッと頬を膨らませて、不満げに俺とセスを見比べた。


「なんだ、契約も交わしてないじゃないか……だったら俺が――……」


 小さな子供の手が俺へと伸ばされた、その時……、


 バッチーーーーンッ!!!!


 白い火花が弾けた。

 冬にお馴染みの静電気を大きくしたような衝撃。


「うわっ!」


 俺はもんどりうって地面に尻もちをついた。

 顔を上げると、白い電流のようなものがチリチリとセスの周りで光っている。

 妖狐はたくさんの尻尾をピンと立たせて腰を低くし、構えている。


 どう見ても戦闘態勢だ。


「こ、こらっ! お前ら、ちょっと待て! 喧嘩すんな!」


 俺は慌てて起き上がり、セスを鷲掴みにして乱暴にポケットへと突っ込む。


『おいっ、勝手にしまうなっ!』


 セスの怒声を無視して妖狐へとズカズカ歩み寄り、狐の耳をむぎゅっと掴んだ。


「なっ、なにをするっ! いたたただだだっ!」


 涙目の妖狐を、俺はビシッと叱りつける。


「俺は誰の眷属でもねーから! 勝手に揉めるな!」


 耳が弱点だったのか、俺の手が離れると妖狐は痛そうに耳に手をあててしゃがみ込んだ。


「う……うぅう……、……ぐすっ……」


「え!? な、泣くなよっ! 俺が苛めたみたいじゃないか!」


 見た目は小さな子供だ。

 泣かれたら、めちゃくちゃ心が痛む。

 俺は小さくため息吐いた。


「しょうがないな……眷属にはなれないけど、その白い狐とやらは一緒に探してやるよ」


「本当かっ!?」


 パッと顔を上げた妖狐は、嬉しそうに黄金の瞳をキラキラと輝かせた。

 ぜんっぜん泣いてない……。


「お前、ウソ泣きかよ……」


 そうだった、狐ってのは()かすんだ。

 しかし妖狐からどこかホッとしたような空気を感じる。もしかしたら本当に困っていたのかも知れない……。

 よく見れば、ぴくぴく動くケモ耳ももふもふの尻尾も、ちょっと可愛いような気がするぞ。


「俺は蒼太(そうた)……お前、名前は?」


「狐だ。お狐様と呼んでいいぞ」


「それは名前じゃないだろ。……んー、名前がないと不便だよな」


 俺は少し考えた。


「よし、金色だから『琥珀(こはく)』って呼ぶことにしよう!」


 安直だが、分かりやすくシンプルなのが一番だ!


「こはく? 琥珀か……分かった」


 妖狐は何やら確認するように繰り返し呟き、頷いた。


 やたらと偉そうな綿毛と、信用ならない狐――……。

 初めて飼うペットとしてはかなり難易度高めの気もするが、これも成り行きというやつか。


「んじゃ、行くぞ……」


 俺はケセランパサランと妖狐を連れて、夜の住宅街を歩き出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ムーンサイド」も途中なのですが、こちらのお話が気になってしまって読ませて頂きました。 ソシャゲ課金のためにバイトするみたいな現代味の中に、おばあちゃんの骨董屋みたいなレトロ感が融合して…
[良い点] 蒼太君つぎつぎと心霊現象に……(゜Д゜;) そして眷属人気!?Σ(・ω・;) みんなが彼を眷属にしたがる( *´艸`) どうやら怪異に好かれるタイプと見た(*´ω`*)
[良い点] 安易に名前をつけていいのかな(;´д`)
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