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第58話 制圧

 同盟本部合同庁舎に強行着陸した兵員輸送飛行艇から、ゆっくりとその長身にコートを突っかけて、司法局公安機動隊隊長安城秀美少佐は降り立った。すでに警備の為に配置されていた厚生局の武装局員は銃創の治療を受けるか、後ろ手に縛られた状態で彼女の部下が確保していた。


「クバルカ中佐の部隊が突入したか……准尉!」 


 安城が叫ぶとすぐに頬に傷のある士官が彼女に付き従う実働部隊機動部隊第二小隊隊長日野かえで少佐に駆け寄る。


「状況は?」 


 そう言うと安城はコートのポケットからペンを取り出す。傷の士官が目配せするとそこには簡易型のテーブルが置かれ、その上にはこの地区の構造物を描いたグラフィックが映し出されていた。


「現在4階から上は完全に無力化されています。その下の厚生局麻薬対策班のフロアーですがここは襲撃を予測していたようで現在かなりの抵抗を受けています」 


 准尉はそのまま前の大通りの方に視線を投げた。そこには厚生局の虎の子の07式の機能停止作業に映っている神前誠曹長の機体が活動中だった。


「虎の子の07式が機能停止したんだ。敵の士気は落ちるだろうな。だが油断はしない方が良い」 


 軽く微笑むと安城はそのまま捕虜達の隣に設置された通信機器に向かう部下達のところへ向かった。敬礼する角刈りの男性オペレーター二人が不審そうな顔で自分を見上げていることを知ると安城は彼女に付き従う准尉に笑顔を向けた。


「厚生局の職員はずいぶんと仕事を愛しているようね。自腹で甲武浪人を警備兵に雇ってまで自分達の研究の隠匿に努めるとは……どこかの誰かさんにも見習って欲しいわね」 


『おーい。聞こえましたよー』 


 通信機器からは間抜けな嵯峨の声が聞こえる。画像が開くとそこには狭い整備班員の若いのから借りた軽自動車の運転をしている姿が目に入った。


「嵯峨さん。別にそこで受けを取らなくても良いのよ」 


 呆れた安城の声に思わず隣の准尉が噴出す。


『どうだい、あと30分くらいで制圧できそう?』 


 画像の中で身動き取れない状況で声を絞り出す嵯峨から目を背けた安城は隣のモニターで展開する部下達の戦いの様子に目をやった。


「肝心のプラントを抑えなければ制圧の意味は無いんでは?」


 かえでは不安げにそうつぶやいた。 


『そりゃクバルカの仕事でしょ。秀美さん達はとりあえずこのビルの制圧が任務だろ?……って!』 


 今度は段差でも踏んだのか、苦しい体勢の嵯峨が思わず車の天井に頭をぶつけて悶絶する光景が展開される。すでにその端末を使用していたスキンヘッドの軍曹は口を押さえて必死に笑いをこらえていた。


「それは分かっています。しかし……同盟の一機関が同盟機構の許可も得ずにこれだけの戦力を保有していたこと自体が問題になりますよ。それに遼南レンジャーが捜査に介入した時点でこの結末は見えていたはずです」 


 かえでの言葉を聞きながらも、必死に踏ん張っている嵯峨が頭を抱える。


『まあね。厚生局は遼北の影響力が強いからそのまま東和の一連の遼北人民国叩きに拍車がかかるかもね。それに同盟機構の組織体制の見直しも話しにでるだろうし……そもそもなんで厚生局の皆さんがここまで武力でがんばる必要があるのかってのもな』 


 今度は急ブレーキをかけたらしく嵯峨の頭が画像を撮っているカメラに直撃して全体が黒く染まったのを見て安城は大きなため息をついた。



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