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第34話 戦う意味

「オメエ等も餓鬼じゃない。それどころかきっちり軍事訓練を受けた兵隊だってことは知ってる。だがな。租界に足を踏み込むってことはだ。そんな兵隊さん達の寝首を掻くことぐらい造作もなくやってのける化け物達に目を付けられる可能性があるってこった」 


 誠から見てもかなめの表情は冷たく厳しいものだった。一息ついて誠を一瞥するとかなめは話を続けた。


「まあ、今時そんな凄腕が東和くんだりで商いやってるとは思えねえがな。遼州の火薬庫。ベルルカン大陸の失敗国家の紛争地帯に行けばそう言う連中の手ならいくら出しても買いたい奴は五万といる。ただ、そいつ等が里心がついて租界のゲットーに舞い戻ってる可能性も捨てきれねえ」


 物騒なことを言う割に、かなめの顔は笑っていた。


「西園寺の言う事は大げさに聞こえるかもしれねーが、アタシも西園寺もその慎重さゆえに今があるんだ。だからアタシからも言っておく。本当にヤバい奴に出会って、その場にアタシ、西園寺、隊長が居ないときは逃げろ。もし東都の中での出会いなら、あの店に飛び込んであのデブにそれについて説明して保護を求めろ。まあ、順番は逆だが、同じことは第二小隊の連中には説明済みだ」


 ランはそう言って笑った。その表情には強がりのようなものがあった。


「ランちゃん……あのデブがそんな切れ者だなんて……ただのうどん屋の亭主じゃないの」


 アメリアの言葉に島田は激しくうなづいてランを見つめた。


「一応アタシの先輩なんだぜ……顔ぐらい立てろ」


 ランは言葉を選びながらそう言った。そして最後に自嘲気味に笑う。


「でも、私達軍人でしょ?」


 立ち上がったアメリアがそう言って机を叩く。


「まあな。だが、あのうどん屋の親父レベルになると、普通の兵隊なんて射撃の的のスイカ同然だ。アタシや西園寺もそっち側の人間だってことだ。そんな連中を前にしたらオメー等は無力だ。アタシ等の言う通り黙って逃げろ」


 冷酷なランの言葉に誠達は打ちのめされた。


「で、オメエ等。アタシ等の話は分かったか?」


 そう言ってかなめは周りを見回す。


「西園寺はともかく、クバルカ中佐が嘘を言うとは思えないからな。私も犬死はするつもりは無い」


 カウラは静かにうなづいて隣のアメリアを見る。


「私だって死にたくないわよ!」


 自分の胸を叩きながらアメリアは激しくそう言った。


「私も嫌……正人は?」


「馬鹿!俺だって!」


 サラと島田も叫んだ。


「お父様もご存じとあれば、私に異存など……ラーナは?」


「へっへっへ、まあアタシも……死ぬのはしばらく先の方が……いいかと……」


 法術特捜コンビの茜とラーナもそう言った。


「おい、神前。オメーもそうか?」


 ランは一人黙って自分を見つめている誠に声を掛けた。


「まあ、僕も死にたくは無いですけどね……でも……」


 誠は頭を掻き、照れながらそう言った。


「まあ、誰でも死にたくは無いわな。じゃあ、それで良いんだな」


 そう言ってかなめは周りを見まさす。


「西園寺さん!僕の話を聞いてください!僕が言いたいのはですね……」


「なんだよ神前。死にたくないでそれでいいじゃないか、それで十分だぜそれで」


 かなめは真剣な表情の誠をなだめすかせるようにそう言う。


「いえ、それじゃあ納得できないんです。クバルカ中佐。一つ、質問があります」


「誠ちゃんが珍しくかなめちゃんに逆らったわね……」


 いつになく真剣な誠を冷やかすようにアメリアがそう言って見つめる。


「質問だ?……まーいーや。聞こうじゃねーか。なんだ、言ってみろ」


 自分を見つめる強い意志を持った誠にランはそう言って穏やかな視線を返した。


 ランのにらむような視線に見つめられて誠にいつもの気弱な表情が戻る。だが、誠はすぐに意を決したような表情を浮かべて口を開いた。


「何をしても生き延びろ。まあ、僕も無駄死にはしたくありません。でも、そうして生き延びた先。僕達はなぜ、そうまでして生き延びなければならないんですか……そうまでして戦い続ける理由は何ですか?戦う理由。それを教えてください」


言葉を一つ一つ選びながらそう言った。そのいつもに無い気の弱い誠の視線。しかし、ランはそれにひるむことなく誠を見つめ続ける。


「戦う意味だ?……神前……オメエ何が言いたい……」


 誠の言葉にあきれ果てたという口調でかなめはそう言った。


「おい、西園寺。オメーは浅はかだぜ……神前よりはるかに場数を踏んでるのに……オメーは本当に浅はかだ。いいぜ、聞かせてやろう。神前、オメーが望むもの。そして、司法局実働部隊隊長、嵯峨惟基特務大佐からアタシが聞いた戦う意味って奴をさ……同席した連中は僥倖だぜ……聞き逃すなよ……」


 そう言ったランの顔には満足げな笑みが浮かんでいた。


「アタシが知らない話だ。聞こうじゃねえか」


 満足げな笑みを浮かべながらかなめがつぶやく。


「急くなよ、西園寺。まあ普通の兵隊さんの目的は勝利だわな……要するに勝ちゃあいい。まあ、その際に国際法だ、政治力だ、経済力だ、まあ色々あるが、目的ってのは勝利ってことになってる。この勝利ってのも単純じゃない……まあそんなことはこの際どーでもいーこった。要するに軍の目的は勝利だ。まあ、うちと性格の似ているお巡りさんなら治安維持、国民の財産と生命を守る。まあ兵隊の勝利が目的ってのと比べると多少分かりにくいが、ようするにみんなの命を守る。まあ目的ははっきりしてるわな」


 さっぱりとした口調でランは言い切る。隣でかなめが凄味を利かせた目で小さなランを見つめた。


「一般論を利かせるたあ……随分と……」


「だから西園寺、最後まで聞け。戦う意味、アタシ達が戦い続けなきゃならねー目的ってのは……命を救う事だ」


 静かに。そして言い切るようにランは言った。その言葉にアメリアが納得できないように頭を掻いた。


「期待させておいてそれ?ランちゃん。それならさっきランちゃんがお巡りさんの仕事だって言ってたことじゃない。何か違いでもあるの?」


 不服そうなアメリアにランは呆れたようにため息をついた。


「そんなこと誰かが言うと思ったよ。アタシ等の命を守るってのはそんなに単純なもんじゃねーんだ。ちゃんと聞いとけ……」


 そう言ってランは余裕のある笑みを浮かべた。それはその姿の少女のそれとはとても思えない老成したものだった。


「確かにお巡りさんのお仕事は命を守るってことだ。まあ、時には持ってる拳銃なんかを抜くが、まあそれも目の前の人命救助って目的のためだ。西園寺、ここで茶々を入れるなよ。怪しいってだけで無実の人をぶっ殺す馬鹿も警察官をやってるって言いたいんだろ?テメーは。そんな例外はアタシの話にゃ上がってこねー。あくまでまともなお巡りさんの話だ。まあ、これから話すことっを聞けば。アタシ等がはたから見ればまともには見えないこともあるってことは言っといたほうがいいかな。まあ、人さんの意見などどうでもいいが……」


 静かにそして冷静にランは話を続けた。


「まあ、アタシや隊長の命令が時に最低で人の道に反していると思えることもあるかも知れねー。まあ、そん時それに従うかどうかはテメー等の勝手だ……そん時言う事を聞かなくてもアタシや隊長は怒らねーよ。ただ、そんな時、オメー等に非道な悪魔になれとアタシと隊長が指示を出した時。指示を出した責任を取るのがアタシや隊長の務めだ。オメー等の責任じゃねー。ただそいつは人の命を救うためだ。目の前の一人を殺すことでその背後にいる数百、数千の命を救えるなら……アタシ等はどんな酷い命令でも出す……そう言う事だ」


 ランの非情で冷たい言葉に一同は沈黙した。


「それが僕達の戦いの意味……」


 誠は真剣なランの表情を見ながら自分の手が汚すであろう血を思い出して恐怖した。


「そう言うわけだ……じゃあ出るぞ」


 かなめはそう言って立ち上がる。カラオケボックスを出ようとしたランをかなめが押しとどめた。


「どーした?」 


 ランはその幼い表情を前に苦笑いを浮かべながらかなめは言葉を切り出す。


「早速八体目の暴走法術師が出やがった」 


「今確認します」


 緊張した面持ちのかなめの後ろで端末を手にしていたラーナが検索を始める。


「どこだ!どこで出た」 


 ランも興奮して立ち上がる。


「それが同盟機構本部ビルの正面だそうだ」 


 かなめの言葉を聞いて一同に沈黙が訪れる。


「そりゃあ暴走とは言わねえだろ?テロだよテロ!」 


 引きつった笑いを浮かべてランがつぶやいた。その様子をカウラが心配そうに眺めている。


「確かにそれは暴走ではなく爆弾テロみたいなものよ」 


 アメリアの叫び声がカラオケボックスの防音室の中に響いた。


「大っぴらに研究機関の連中が動いたんだ。まあ警察のお手並みを見ようじゃねーか」 


 そう言って不敵に笑うランの姿を見て彼女の肝の座り方に誠は感心させられた。

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