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第21話 始末書

 司法局実働部隊隊長室。隊長嵯峨惟基特務大佐は渋い顔で目の前の部下達を眺めていた。隊長の机の前に誠が立たされている。誠の膝は緊張で震えている。それは租界の警備兵の向けてくる銃口が誠にトラウマを植え付けたからだろう。


 土下座外交で知られる嵯峨が甲武陸軍の上層部に頭を下げて回ったおかげで、かなめとランが暴れまわったことの釈明の書類を提出することで話はついていた。駐留部隊の被害は警備車両三台に負傷者十二人。本来なら駐留軍の警備施設の監獄で数日を過ごすことになっても不思議ではない。


 ともかくさまざまな出来事に振り回された誠の頭の中は何も考えられない状況だった。


「で?」 


「ですから今回の件に関しては私の見通しの甘さが原因であると……」 


 幼く見えるランが銃撃事件の責任を一人でかぶろうとする。その姿はあまりにもいとおしくて誠は抱きしめたい衝動に駆られた。隣で立っているカウラも同じように思っているようでじっとランを見つめている。


「まあ起きちゃったんだからしょうがないよね。死人が無かったのは何よりだ。マスコミが動いてるみたいだけど……連中の狙いは毎度のことながら駐留同盟軍の汚職がらみってことで、うちの本丸の人工法術師製造プラントとは別案件みたいだから。まあいいんじゃないの?」 


 そう言って嵯峨は手元の端末の画面をのぞきこむ。流れるニュースが東都の租界での銃撃戦に関するものがいくつかあったが、どの報道も租界の軍管理の特殊性を批判する論調ばかりで、甲武軍と銃撃戦を交えたのが司法局の関係者だと報じているものは無かった。。


「今後は気をつけます!」 


 ランの言葉にうなづいた後、嵯峨はかなめを見つめた。


「……出来るだけ自重します」 


 おそらく自分達に銃を向けた駐留部隊に対する怒りでかなめの腹は煮えくり返っているだろうことはこの部屋の誰もが分かっていた。


「そう」 


 嵯峨はそれだけ言うと端末のキーボードを素早く叩く。


「一応決まりだからさ。始末書と反省文。今日中に提出な」 


 ランとかなめに目を向けた後、嵯峨はそのまま端末の画面を切り替えて自分の仕事をはじめる。ラン、かなめ、カウラ、誠は敬礼をするとそのまま隊長室を後にした。


「大変ねえ」 


 部屋の外で待っていたのはアメリアだった。かなめはつかつかとその目の前まで行くとにらみつける。


「タレ目ににらまれても怖くないわよ」 


 挑発するように顔を近づけるアメリアだが、その光景を涙目で見ているかえでの気配に気おされるように身を引いた。


「お姉さま!」 


 心配そうな顔のかえではそう叫ぶとかなめに抱きついた。


「嫌です!僕は嫌です!せっかくお姉さまと同じ部隊になれたのに!お姉さまが解雇なら僕も!」 


 すがりつくかえでに明らかにかなめはうろたえていた。


「解雇だ?誰が解雇だよ!おい、アメリア」 


 かえでに抱きつかれて身動きできないかなめが逃げ出そうとしているアメリアを見つける。


「クラウゼ。面白いからと言ってデマを流すのは止めておけ」 


 アメリアに向けてそう言うとカウラは呆れたように実働部隊の執務室に向かう。誠が見回すとランの姿ももう無かった。


「神前!アタシを見捨てるのか?テメエ!」 


 しかしかなめとかえでの間に入るとろくなことがないだろうと思えてきたので、誠はそのままかなめを見捨てて特機隊執務室へと入った。


「仲が良いのか、悪いのか」 


 廊下で醜態をさらすかなめとかえでを見てカウラは珍しく心からの笑みを浮かべていた。一方ランはすでに書類の作成に集中している。


「でもいきなり街中で発砲なんて……」 


 つい誠の口をついてそんな言葉が出ていた。


「東都戦争のときの方が凄かったらしいぞ。シンジケートの抗争が24時間絶え間なく行われていたんだからな。それに比べたら十分ちょっとの銃撃戦くらい大したことは無いだろ」 


 そう言うとカウラも自分の端末を起動する。仕方ないと言うように誠も席についた。一人、第二小隊三番機担当のアン・ナン・パク軍曹が一人でみかんを食べていた。


「二人とも今のうちに日常業務を済ませておけよ。忙しくなるかも知れねーからな」 


 始末書を書き始めたランが一瞬顔を上げてそう言った。カウラも端末の画面に目が釘付けになっている。起動した画面を誠は見つめてそこに映る見覚えのない映像を見つけて呆然としていた。


 そこには銃撃戦を行うランとかなめの姿とその射線から逃げる甲武陸軍の戦闘の様子が映っていた。


「どこでこんな映像!」 


 誠は目を疑った。回り込もうとした甲武軍の一個分隊を法術の干渉空間がさえぎっている。壁にぶつかるように倒れる兵士達。ビルの屋上らしくこの画像を撮影した人物の足が見える。


「これって……」 


「今頃見たのか?うちの技術部の将校のところに匿名で奇特な方から直接送信されてきたそうだ。世の中意地の悪い奴もいるもんだな」 


 ランはキーボードを叩きながらつぶやく。干渉空間を展開しているのはランでは無かった。まるで銃撃戦が激しくなるのを期待しているようなその法術師の意図に誠は恐怖すら感じた。


「でも……クバルカ中佐。法術が展開されている感覚は無かったんですよね?」 


 誠の言葉にランは手を休める。


「物理干渉系の能力に精通した法術師なら発動してもあまり精神波は出ねーようにできるからな。それにこっちだって銃撃戦で相手の額じゃなくて防弾チョッキの致命傷にならない所に弾を的確に当てるのに手一杯だったし。それどころじゃなかったからな」 


 そう言って再びランはキーボードを叩き始める。


「誰かが我々を監視していると言うことですか……しかもただ監視をしていることをこちらに教えてくる……私達が追っている研究機関とは別の組織……」 


 カウラの冷静な言葉に誠は再び画面に目を向ける。発砲する甲武軍兵士の前に遼北軍の暴動鎮圧用の装甲車が飛び込んで銃撃戦は終わった。そして回り込もうとした分隊を大麗軍の戦闘服の一団が包囲する。


「結構凄い状況だったんですね」 


 アンはそう言いながら苦笑いを浮かべていた。


「民兵さんから見てもそうかい」


「民兵じゃなくてもこれは相当な銃撃戦ですよ……よく死者が出ませんでしたね」


 アンから言い切られたかなめは落ち込みながら席へと戻っていった。


「第三勢力の介入か……こいつは……予想してたよりやべー山みてーだな」


 ランはそうつぶやくとキーボードをたたき続けた。



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