照井芽衣の寿命
その日の朝は、目覚まし時計が鳴るより前に目が覚めた。経験のない猛烈な悪寒がした。直後に大きな揺れ。天井が崩れるのを見て、咄嗟に目を瞑った。
一度、気を失っていたのかもしれない。気がつくと、辺りに救急車やヘリコプターがいることが音でわかった。奇跡的に開いていた隙間から脱出すると、私がいた一階部分だけが潰れていたことを知った。あちらこちらで火事が起きていた。その日から、私は被災者になった。
そんな大地震からもう二十六年が経った。この街もこの国もこの星も、色々なことを経験して変わっていった。もっと被害の大きな災害もあった。この港街で起きたことを直接知る人が、少しずつ減っていくような感覚がした。
街や国は日々変わっていっている。私の周りの人も。だけど、私の体の成長は、あの地震のときから止まっている。医師にも理由がわからないと言われた。私の体に何が起きたのか、わからないまま過ごしていたある日、一冊の本を本屋で見つけた。都道府県を擬人化した漫画だった。
きっと私も、あの地震になったんだろう。その漫画を見たとき、そんな考えが頭に浮かんだ。あの日、この街で大地震が起きたという事実を私が記録していくんだ。誰に言われたわけでもない、使命感のようなものが今の私にはある。私が死ぬときは、大地震の記憶がこの世から消えてしまったときだ。