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『ねこつなぎ』


●タイトル:

ねこつなぎ


●ジャンル:

ほんわか系恋愛ストーリー


●ボリューム:

25KB(約12500字)


●スケジュール:

10時間


●あらすじ:

飼っていた猫が亡くなって49日目、見知らぬ少女が現れた。

その少女は猫の幽霊に取りつかれ、

あなたと仲良くなってと言われた……らしい。

最初は半信半疑だったが、彼女のネコミミを見て納得。

それから、放課後のデートを重ねて、恋心をはぐくんでいく。

これは猫が導いたちょっと不思議な恋の物語――。


●キャラクター:

小平大輔こひらだいすけ

愛猫を病気で亡くしてしまいふさぎこんでいる大学生。

誰にでも優しくできる性格。

見た目:中肉中背・黒髪



又野愛子またのあいこ

猫に取り憑かれた女子高生。

冷静で慎重。それは生い立ちから来る劣等感から、

誰かの怒りに触れないように生きてきたため。

自分の家(姉の家)にいることに罪悪感を感じている

見た目:小柄・ツインテール



本文:


第一話 猫と少女と大学生


//表情差分、定義等省略します。

//(背景指定、SE指定のスクリプトは残します)

//メッセージボックスに表示する名前は#から続く文字列です。


;bg:リビング


#

その日、世界が真っ暗になったのを覚えている。


#

あの日から今日で49日――。

いまだに彼女がこの部屋にいるような気がして、

部屋の隅とかキャットタワーを見つめてしまう。


;SE:チャイムの音


#

日曜の朝っぱらから、誰だよ。


;bg:玄関


#大輔

はい。


;SE:ドアを開く音


#?

//又野愛子

はじめまして。

小平大輔さんですね。


#大輔

はい……え?

誰?


#愛子

私は、又野愛子です。

にゃー。


#愛子

じゃあ、お邪魔します。


#大輔

いや、お邪魔しますって。

な、なんなんだよ!

ちょっと待てって。


;bg:リビング


#愛子

やっぱり、猫、飼ってたんですね。

そっか……やっぱりこの人なんだ。

うん、わかった。


#大輔

君、なんで家に入ってくるの?

困るんだけど。


#愛子

私は『君』ではありません。


#大輔

それは……すみません。

……えっと、中学生だよね?


#愛子

……高校生ですっ。

近くにある西高の二年生です。


#大輔

あ、高校生。ごめん。

いや、高校生でも一人暮らしの男の家に

いれたらマズいんだって。


#愛子

大輔さんは独り暮らしですよね。

二駅隣の大学で、バイトは休日だけ。

で、合ってますか?


#大輔

合ってますけど。

えっと、どこかで会ってたかな?


#愛子

普段、女子高生とお知り合いに

なるようなことをして

いらっしゃるんですか?


#大輔

いや、ないない。

そういうのやってないから。


#愛子

ふふ、慌てなくても大丈夫です。

そういう人だって知ってましたから。

いえ、聞いてましたから。


#大輔

聞いてた?


#愛子

ええ、ユキちゃんから。


#

愛子が見つめていたのは、

今でも毎日取り換えているペットシーツに、

好きだったおやつを入れているお皿。


#

そして、埋めることができない、

小さな骨壺――。


#愛子

ユキちゃんは今でもいますよ。

成仏できないんですって。

あなたが心配で。


#

ユキの名前を言い当てたのは、驚いた。

でも、それ以上に怒りもわいてくる。


#大輔

どこでユキの名前を知ったのかは

知らないけど……。

その言い方はあんまりだよ。


#愛子

すみません。

でも、本当のことですから。

知ってほしかったんです。


#大輔

大事な家族を亡くした気持ち、

わかる?


#愛子

わかりません。

ペット飼ったことがないんです。


#大輔

うん。わかっているなら、

そんなことを言い出さないはずだ。


#愛子

…………。


#大輔

……出て行ってくれるかな?


#愛子

わかりました。


#愛子

……でも、私に取り憑いているユキちゃんが、

あなたを心配していることだけは

気に留めておいてください。


#愛子

いきなり入り込んできて、

失礼しました。


;SE:足音

;SE:ドアを閉める音


#

ひどく静まり返った部屋の中に、

テレビの音だけが響いている。


#大輔

…………。


;SE:猫の鳴き声


#大輔

ユキ?


#大輔

本当に……まだいるのか?

心配しているのか?


#大輔

ユキ……。


#

まだここにいるのか、ユキは。

もしそれが本当だとしたら……。

俺は、俺は――!


#大輔

――っ!


;bg:廊下

;bg:玄関

;bg:外階段


#

外階段の一階に降りる最上段に、

彼女、又野愛子は

膝を抱えて座っていた。


#愛子

大輔さん。


#大輔

はあ、はあ……。

本当にユキが……?


#愛子

今もここにいますよ。


#

俺には何も見えない。

嘘をつかれているのかもしれない。

でも……もしそれが本当なら。


#大輔

あのさ……よかったら、

ユキのこと詳しく聞かせてくれるかな?


#愛子

はい。


#

その時の、彼女の嬉しそうな

切なそうな微笑みが、

ユキの最後の姿と被って見えた。



第二話 ファミレスで女子高生と……



;bg:ファミレス


#愛子

本当におごってもらっていいんですか?


#大輔

ここまで連れてきたのは俺だし、

高校生にお金出させるわけにはいかないよ。


#愛子

そーですね。

世の中にはお小遣いを上げてまで、

女子高生とランチをしたがる殿方もいるそうで。


#大輔

人聞きの悪いことを言わないでくれ。


#愛子

にゃふふ。


#大輔

それで、ユキが君の体に取り憑いているって?


#愛子

一週間前くらいですかね。

朝起きたら突然、

白い猫が私の中に入ってきたんです。


#愛子

それで、出て行って欲しいって言ったら、

大輔のことをどうにかして欲しいにゃ――

って言うもんですから、仕方なく。


#大輔

君はそういう体質なの?

あまりそっち方面には詳しくないんだけど。

なんて言うんだっけ?


#愛子

霊媒体質ってことですか?

まさしく、それですよ。

おばあちゃんが恐山でイタコやってたらしいです。


#大輔

イタコねえ……。

幽霊って本当にいるんだなあ。


#愛子

…………。


#大輔

……ん、なに?


#愛子

ここまですんなりと信じてくれたのは、

大輔さんが初めてだなって思って。

普通信じませんよ、こんな話。


#愛子

また変なこと言ってるよとか、

気味が悪いから二度と言わないでとか、

そういうのが普通です。


#大輔

『普通』ね……。

最初は、そう思ったよ。


#愛子

今は違うんですか?

どうして?


#大輔

もしそうだったらいいなって。

ユキのことが大切だったから。

……ユキが……。


#愛子

わっ……泣かないで。

ごめんなさい。


#大輔

泣いてないよ。

ごめんね。


#愛子

そんなになるほど

大切にしてたんですね。

ユキちゃんのこと。


#大輔

子供の頃から一緒だったんだ……。

初めての一人暮らしだったからさ、

だから、実家から連れてきた。


#愛子

誰かを大切にできる人は、

きっとすごい人です。


#大輔

ありがとう。

そう言ってもらえると……。

優しいね、愛子ちゃんは。


#愛子

え?

……違いますよ。

私は優しくなんてないです。


#

照れではないだろう。

むしろ、痛みを感じているような。

拒絶するような表情。


#大輔

あえっと……。

それで、ユキは今なんて言ってるんだ?


#愛子

はい。

3つあるみたいです。

して欲しいこと。


#大輔

3つか……。

ひとつ目は?


#愛子

彼女を作りなさい、だそうです。


#大輔

ぶっ……ごほごほっ!

ユキが本当にそれを言ってるの?


#愛子

思うに、ユキちゃんにとって

大輔さんは飼い主ってよりも息子って

感覚だったんじゃないでしょうか。


#愛子

一人息子が心配であの世に行けない、

って幽霊の中じゃあるあるみたいですし。


#大輔

実の母にもよく言われる言葉だよ。

彼女作れって。


#愛子

当てはあるんですか?


#大輔

……ないこともない。


#愛子

本当にですか?


#大輔

……ないです。


#愛子

じゃあ、こうしましょう。

期間限定で私が恋人になってあげます。


#大輔

え、いやいや、そこまでは。


#愛子

期間限定で制限付きです。

キスとかそういうことはしない。

で、ユキちゃんが離れたら終了。


#大輔

愛子ちゃん、彼氏とかいないの?


#愛子

いたことありませんよ。

それに、セクハラですからね、今の。


#大輔

あ、ごめっ。


#愛子

にゃあ、簡単に手玉に取れちゃいますね、

大輔さんって。

ユキちゃんが呆れて笑ってますよ。


#大輔

あまり笑わないでって、

言っておいてくれるかな。


#愛子

嫌だそうです。


#

はは……。

ユキがにゃーにゃー言っているのが

聞こえてくるみたいだ。


#愛子

じゃあ、二つ目。


#大輔

ひとつ目はクリア?


#愛子

期間限定ですけどね。

二つ目は――散歩です。


#大輔

ユキはイエネコだったし、

あまり散歩には連れてったことないよ。


#愛子

うらやましかったみたいですよ。

隣のワンちゃんが自慢してきてたんですって。

はしゃいでいたのが気に食わなかったって。


#

そういえば、

隣の部屋の老夫婦が飼っていた犬の鳴き声を

ユキは迷惑そうにしてたっけ。


#愛子

これから毎日、散歩をしましょう。


#大輔

毎日?

まあいいよ。

でも、愛子ちゃんは大丈夫?


#愛子

ユキちゃんのためですから。

にゃー。


#

今日は夕方までお互いのことを話して、

それが散歩の代わりだということで別れた。


#

愛子ちゃんと話していると、

ユキが本当にそこにいるように感じられて

少しだけ心が軽くなった気がする。


#

毎日の散歩か。

ちょっとだけ楽しみだ。


第三話 大輔の元通りになりつつある日常


;bg:大学講義堂


#

今日は平日で、大学に向かった。

久しぶりに朝の空気を

清々しく感じられたかもしれない。


#毒島

よー、大輔。

どう調子は?


#大輔

おはよう。


#毒島

うっす。

あれ、なんか元気になってんじゃん。

もう立ち直ったか?


#大輔

まあな。

もう……前を向いて歩きださないとなって。


#毒島

そっか、よし!

そんなあなたに合コンのお誘いなんだけどさ。

お前、金曜日の午後のコマ取ってたっけ?


#大輔

……あー俺はいいや。

サークル内で他の奴誘ってよ。


#毒島

なに、今の間?

もしかして女か?

どんな子、どんな子?


#大輔

ちげーって。


#毒島

じゃあいいじゃん。

前を向いて歩きだすんだろ。

数合わせでさ、来てよ。


#大輔

わかったよ。


#毒島

よーし、ドタキャンしたら、

ゼミの女衆にあることないこと吹きこむからな。

恐いぞ~。


#大輔

それだけはやめろ。


#

合コンの話を聞いた時、

愛子ちゃんの顔がちらついた。


#

本当の恋人だったら

是非もなく断るべきだけど……。


#

俺たちは本当の彼氏彼女じゃない。

べつにいいだろう。


;bg:ペットショップ


#

大学の帰り道、

バイトをしていたペットショップに向かった。


#椎名

あ、小平君!


#大輔

椎名さん、ご無沙汰してます。

あれから来なくてすみません。


#大輔

あの、もしまだ働かせてもらえるなら、

ここで雇ってもらっていいですか?


#椎名

事情が事情だったからね!

大輔君がもう大丈夫って言うなら。

で、今から大丈夫かな?


#大輔

はい!

頑張ります!


#椎名

うん! あ、そうそう。

1週間前からもう一人バイト雇ったんだ。

もうすぐ来る頃だけど。


#?

//愛子

お疲れ様です。


#椎名

あ、ちょうどいいね。

又野さーん、こっち来てくれる。


#?

//愛子

なんですか、店長。

……あ。


#大輔

あ、あれ、

愛子ちゃん?


#愛子

どうも。


#椎名

あれ、二人とも知り合い?

じゃあ自己紹介は大丈夫だね。


#椎名

お互い、シフトが被るところが多いから、

仲良くやってよ。

じゃ、俺はバックにいるから。


#大輔

愛子ちゃん、1週間前からって。


#愛子

はい。

ユキちゃんにここで大輔さんが

働いているって聞いて。


#大輔

俺に会うために?


#愛子

もともと動物が好きなんです。


#大輔

そっか、これからバイトでも頼むよ。


#愛子

にゃー。


;bg:街(夜)


#

バイトが終わり、

愛子ちゃんと一緒に帰ることになった。

ユキの散歩もかねて。


#大輔

お疲れさま、愛子ちゃん。


#愛子

ふふっ。

大輔さんも、お疲れ様でした。


#大輔

愛子ちゃん、楽しそうだね。


#愛子

私が、というよりユキちゃんが。

息子の働いている時の顔を見られて、

新鮮だそうです。


#大輔

すっかりお母さんだな……。

で、ユキお母さんは、今何をしてるの?


#愛子

えっと、寝てますね。


#大輔

えー。

ユキが散歩連れてけって言ったんだろ。

まったく。


#愛子

あの、大輔さん。

3つ目聞きますか?


#大輔

そういえば、2つしか聞いてなかったっけ。

3つ目か……。


#大輔

急がなくていい?

愛子ちゃんに負担かけないんだったら、

もうちょっとだけこのままで。


#愛子

わかりました。

大丈夫ですよ、わたしは。


#大輔

ありがとうね、愛子ちゃん。


;bg;住宅街


#愛子

じゃあ、わたしはこっちなので。

ユキちゃんも、今起きてます。


#大輔

うん。またな、ユキ。

愛子ちゃん、気をつけて帰って。


#愛子

はい。


#

その三差路で別れて、

もういないかなと振り返ってみると、

まだ愛子ちゃんがこっちを見ていた。


#

なんだろう?


#

声をかけようとしたら、

彼女はすぐに回れ右して

行ってしまった。


#大輔

……愛子ちゃん?


#

一人になっちゃうときの

ユキみたいな顔してどうしたんだろう。


第四話 子猫な少女は夜に泣く


;bg:居酒屋

;SE:ガヤガヤと居酒屋の声


#毒島

じゃあ、これから二次会のカラオケなんだけど。

出られる人ーっ。

よっし全員だね、朝まではっちゃけるぞ!


#

手を挙げていない俺を無視して、

毒島が場を盛り上げていた。


#大輔

いや、俺はいいよもう。

時間遅いし。


#毒島

ばっか、お前!

そんなこと言ったら便乗して帰っちゃう

女の子がいるかもしれないだろ!


#大輔

行きたい人だけで行けばいいだろ。


#毒島

今度、なんかおごるから。

な、今日のところは俺の顔を

立てると思って、な!


#大輔

いやでも。


#毒島

よーっし、みんな立って、

会計は済ませとくからさ!


;bg:居酒屋外観


#

毒島のやつ、強引だな……。

狙ってる子でもいるのか?


#

ん……?

今、向こうの方で知っている顔を

見たような……。


#

でも、彼女が

こんな時間にこんなところを

歩いているはずがないんだけどな……。


#合コン女子

ねえ、小平君だったよね。

席遠くてあまり話せなかったじゃん。

カラオケではさ、隣で話さない?


#大輔

あーうん。


#合コン女子

あれ、どうしたの、

なにかあるの?


#大輔

いや……まさかな。

でも。


#合コン女子

小平君?

あー酔っぱらってるぅ?


#大輔

ごめん、

毒島には先帰ったって言っておいて。


;SE:走る足音


#合コン女子

え、ちょ、小平君!?


;bg:繁華街

;bg:路地

;SE:走る音


#大輔

はあ……はあ……!


#大輔

そこの君!

ねえ、待って!


#大輔

――愛子ちゃん!


#愛子

うわっ!

びっくりした……!


#愛子

はあ……。

なんだ、大輔さんじゃないですか。


#愛子

びっくりさせないでください。

後ろから女の子に、突然、

話しかけるなんて非常識ですよ。


#愛子

わかっていますか?

反省してください。

酔っぱらいの大輔さん。


#大輔

……そんなに飲んでないよ。


#愛子

合コンですか?


#大輔

……な、なんでわかるの?


#愛子

大輔さんはわかりやすいんです。


#大輔

今日はたまたま友達に数合わせで

呼ばれちゃって……。

って、そうじゃなくて!


#大輔

こんな時間に危ないよ。

帰ろう。


#

手を掴んで引っ張ったが、

愛子ちゃんは動かなかった。


#愛子

帰りたくないんです……。

えと、ユキちゃんが……。


#大輔

ユキが?

本当に?


#愛子

…………。


#大輔

とりあえず、ファミレスに行こっか。

ここじゃ危ないし、ね。


#愛子

……はい。


;bg:ファミレス


#大輔

スイーツとか食べる?

俺は、スイートポテト頼もうかな。


#愛子

じゃあ、わたしも。


#

それからとりとめのないことを

二人で話した。


#

どうして家に帰りたくないのか、

愛子ちゃんは話してくれなかったし。

俺も無理に聞こうとはしなかった。


#愛子

にゃー。


#大輔

ん?


#愛子

夜遅くまで一緒にいてくれる人、

初めてだなって。


#

ただ愛子ちゃんが見せた寂しい笑顔が、

ちょっとだけ和らいだ気がした。


第五話 家出のお誘い


;bg:大学共有スペース


#大輔

ふわ~。


#毒島

おーい、大輔ちゃん!

昨日、なんで二次会来なかったんだよ。


#大輔

ごめん。

ちょっと眠くて。


#毒島

早く帰ったのに、眠れてなさそうだな。


#大輔

あー。

ちょっとな。


#毒島

まいいや。

俺、夏鈴ちゃんとライン交換したもんね。


#大輔

それでちょっと機嫌がいいのか。


#毒島

へへへ。

あ、でもさ、中学生はやめとけよ。

犯罪だから。


#大輔

中学生ってなんだよ……。


#毒島

お前がファミレスで女子中学生と一緒にいるとこを

見た奴がいるんだよ。


#大輔

あ……いや。

違うって!


#毒島

ははは、まさか大輔がロリコンだったとはな。

でも、中学生は犯罪だべ。


#

高校生だって言っても、

たぶんロリコンってからかわれるんだろうな。


#大輔

し、親戚の子だよ。


#毒島

ふーん。


#

そのあとも毒島の追求が続いたが、

親戚の子ということで突き通した。


;bg:大学外観(夕方)


#毒島

じゃ、またなんかあったら誘うからな。

今度は抜け出すなよ!


#大輔

わかったわかった。


#

夏鈴ちゃんと会う予定があるらしい毒島は、

ご機嫌な調子で駅の方向に向かっていった。


#

友人にエールを送ってから、

帰路につこうとして――。


#愛子

にゃー。

//いきなり現れるように今までの立ち絵表示と演出を変える。

//ゼロ秒で表示するなど


#大輔

うわっ!

愛子ちゃん、か……。


#愛子

この前の仕返しです。

……そんなに驚くことですか?


#愛子

ん?

なにかやましいことでもあるんですかねえ……?

ユキちゃん、疑惑の目ですよ。


#大輔

なにもないよ!

ないから、そんな目で見ないで。


#愛子

わかりました。

では、わたしに付き合ってもらいますよ。


#大輔

はいはい。散歩だね。

今日はどこに行こうか?


#愛子

散歩というか……。


#愛子

家出、ですね。


第六話 家出少女と……。


;bg:電車の中(地方のローカル線、向かい合わせの座席)


#大輔

あの、愛子ちゃん。

これって本当に家出?


#愛子

はい。

荷物も持ってきましたし、

大輔さんもいますし準備万端です。


#大輔

さては俺のこと財布か何かだと思ってるな?


#愛子

いえ、そんなことは……。


#大輔

いいよ。

昨日みたいに一人でいさせるよりは、

ずっといい。


#愛子

……大輔さんこそ、

わたしのこと小さな子供だと思ってますよね。


#大輔

はは、どうかな。


#愛子

もうっ。

彼女との逃避行だと思ってください!

ロマンチックじゃないですか?


#大輔

それはそうかもしれないけど……。

家の人には言ってないんだよね?


#愛子

あの人たちはわたしのことなんて、

目に入ってもないでしょうから。


#愛子

心配しないでください。

念のため、後で友達の家に外泊すると連絡します。

捜索届けは出されませんので。


#大輔

…………。


#

前々から気づいてはいたが、

この子にはいろいろあるんだろう。


#

その心の隙間に、

もしかしたらユキが入り込んだのかも。


#大輔

……はあ。

まあ、ユキもいるしね。

付き合うよ。


#愛子

ありがとうございます。

にゃー。


#大輔

で、どこに行くの?


#愛子

私が昔、住んでいたところです。

富士山の裾にある小さな里なんですが。


#大輔

へえ。

富士山の。


#愛子

良いところですよ。

まず、空気が美味しいです。


;SE:電車が、がたんごとん

;bg:黒バック

//時間経過の暗転

;bg:電車の中


#車掌アナウンス

次は岩波旭、岩波旭。

お降りの方はお忘れ物のないようにお願いします。


#愛子

降りましょう、大輔さん。


;SE:電車の、緩やかな制動音キーンかしゃん

;bg:田舎の駅舎外観


#愛子

ふーはー。

やっぱり空気が美味しいです。

懐かしい。


#大輔

富士山がこんなに近いんだ。


#愛子

水も美味しいんですよ。

さ、こっちです。

歩くんですけど、大丈夫ですよね?


#大輔

俺も歩きたいって思ってた。


;bg:田舎の道


#愛子

にゃー。にゃー。


#大輔

ユキも喜んでるの?


#愛子

ユキちゃん、

自然の中が好きみたいですね。


#大輔

やっぱり散歩とかしたかったのかな?


#愛子

それもあると思いますけど……。


#愛子

ユキちゃんがうれしいのは、

大輔さんと一緒だからですよ。

場所はあまり関係ないんです。


#大輔

そっか。

俺と一緒だからか。


#大輔

猫ってさ、死ぬときはどこかに隠れるっていうじゃん?


#愛子

よく聞きますね。


#大輔

ユキは寄ってきたんだ。

たぶん寂しかったんだと思う。


#愛子

……恐かったんだと思いますよ。

あなたを一人にさせるのが。


#大輔

だから、彼女を作れってことか。


#愛子

にゃ。


;bg:滝


#愛子

良くここで遊んでました。

ほらそこ、岩場の。

小さいですけど、魚もいるんですよ。


#大輔

ほんとだ。

釣れるの?


#愛子

うーん。釣れませんでしたね。

それより、あの滝つぼのところで、

水切りしてました。


#愛子

あと、裸になって泳いだり。


#大輔

はは、わんぱくだったんだ。

なんか今とは印象が違うな。


#愛子

こ、子供の頃の話ですよ。

大輔さんが子供の頃は?


#大輔

俺は普通。

ゲームやったり、

あと空手やってたかな。


#愛子

へえ!

知りませんでした。


#大輔

ユキには空手なんてわかんないもんな。


#愛子

あの、大輔さんの小さなころのこと。

もっと教えてください。


#大輔

え、うーん。

ユキはなんだって?


#愛子

えっと、メガネかけてたって。


#大輔

そうそう。

今はコンタクトだけど、

高校生までメガネだったなー。


#愛子

メガネの大輔さん。

なんか想像できそーです。


#大輔

どうせ地味な顔ですよ。


#

そんな無駄話をしながら、

益体のない時間を過ごし――。


;bg:黒バック

//時間経過の暗転


#愛子

さて、そろそろ行きましょうか。


#大輔

もしかして、ホテル……とか?


#愛子

……ホテルが良かったですか?


#大輔

あーいえ。

ははは……。


#愛子

残念ですが、ホテルじゃないですよ。

親戚の家が近くにあるんです。


#

……あーなるほどね。

そりゃ、ホテルなんてお金がかかるもんな。


#愛子

大輔さん。

わたしの彼氏ですからね。


#大輔

え、そう言ってあるの?


#愛子

だって、そう言うしかないじゃないですか。

……嫌でした?


#大輔

嫌というか……。


#

女子高生を彼女にしている大学生って。

通報されないよね?


;bg:親戚の家


#おじさん

よっし!

飲め飲め!


#大輔

い、いただきます。


#おばさん

いや、まさかあの愛子ちゃんがね。

彼氏連れてくるなんてさ!


#愛子

あのって、おばさんいつの話してるの?

わたし、もう大人だよ。


#

愛子ちゃんが、敬語じゃない。

昔を知っている人には、

あんな風に笑えるんだ。


#おじさん

ところで、愛子ちゃん、

理沙ちゃんはどうだい?

元気にしてる?


#愛子

あ、うん……。

元気だよ、理沙おばさん。


#おじさん

おばさんって、お姉さんだろ。

腹違いでもよ。


#おばさん

あんたッ!

ごめんね、愛子ちゃん。

この人、本当にデリカシーがなくて。


#愛子

いえ、大丈夫だよ。


#おばさん

本当にごめんね。

だいたいこの人はむかしっから、

空気が読めないんだから!


#おじさん

俺がいつ空気が読めなかったよ!


#愛子

おじさん、おばさん、

わたしは大丈夫だから。


#おばさん

あんたはいつだって家のことほったらかしで、

子供の世話だって私に

まかせっきりだったじゃない。


#おじさん

それは今、関係ないだろ!


#

喧嘩が始まってしまい、

愛子ちゃんが助けを求めるような

目を向けてきてる。


#

よし。


#大輔

あ、おじさん!

お酒注ぎますよ。

はい、どうぞ。


#おじさん

……ああ。

ありがとう。


#大輔

おばさんもどうですか?


#おばさん

……もらおうかしらね。

ごめんね、気を遣わせちゃって。


#大輔

いえ、そんな。

俺、愛子ちゃんの彼氏ですから。


#おばさん

あら。


#おじさん

ははは!


#愛子

…………。


#

俺の調子がいい軽口が効いたのか、

宴会が和やかに再開された。


;bg:寝室


#愛子

大輔さん……。


#大輔

大丈夫だよ、衝立の向こうには行かない。

安心してね。


#愛子

大輔さんが、

ユキちゃんの飼い主さんでよかったです。


#大輔

ん?


#愛子

いえ、おやすみなさい


#大輔

うん。

おやすみ。


;bg:黒バック

//時間経過の暗転


#

――翌日。


;bg:公園


#

午前中、愛子ちゃんの親戚の家から近くにある

公園に散歩に来ていた。


#大輔

ふー、なんだかあったかいねこっち。

なんかもう夏を感じるよ。


#愛子

たしかに静岡は気候が安定してますよね。

あれ、子猫……?


#大輔

お、ユキが小さかった頃に似てる。

よーし、お前、こっち来な。


#子猫

みゃー。


#大輔

よしよし。

かわいいなー。

お母さんはどこ行ったんだい?


#子猫

みゃー。みゃー。


#愛子

ずいぶん懐いていますね、その子。

きっと、この人なら大丈夫って本能的に

わかるんですよ。


#大輔

はは、そうかな。


#愛子

そうなんですよ。

ユキちゃんもそう言ってますし。


#子猫

みゃー!


#大輔

あ、行っちゃった。

母猫が呼びに来たのかな。


#愛子

そこの木陰に座りましょうか。


#大輔

あ、じゃあ、飲み物買ってくるよ。

待ってて。


;bg:木の下

;SE:木の葉のさざめき


#愛子

ユキちゃん。

大輔さんなら、話しても大丈夫かな?


#愛子

ふふ。

すごく信頼してるんだね、大輔さんのこと。

うん、わたしも信頼してみる。


#大輔

お待たせ、炭酸ありとなし、どっちがいい?


#愛子

じゃあ、なしで。


#大輔

はい、どうぞ。


#愛子

ありがとうございます。


;SE:ジュースを開ける音(しゅわしゅわという泡立ち)


#大輔

ふぅ~、なんか気持ちいいな。

公園でこんなことしてるの、

子供の時以来だ。


#愛子

大輔さん。

わたしのこと知りたいですか?


#大輔

え、あーうん。

もし教えてくれるなら、嬉しい……かな。

でも、無理はしなくていいよ。


#愛子

無理はしてないです。

でも、ちょっと重いですけど、大丈夫ですか?

気を悪くしちゃうかも……。


#大輔

俺は絶対にそんなことは思わないよ。


#愛子

…………。

わかりました。


#愛子

……わたし、隠し子なんです。

おじいさんの……。

わたしにとっては父親ですが。


#大輔

そうだったんだ……。


#愛子

…………はい。


#大輔

お母さんは?


#愛子

わたしが小さいうちに。

今はおばさ……腹違いの姉が

保護者になっていてくれています。


#大輔

うん。


#愛子

もしかしたら、

わたしが勝手に負い目に感じているだけかも。

でも、あそこの家にはあまりいたくないんです。


#愛子

家出をしたのも今回が初めてじゃなくて。

でも、帰る場所はわたしにはあそこしかなくて。


#愛子

人の善意を素直に受け取れなくて。

そんな自分が嫌いです。


#

愛子ちゃんはそう言って、

ひどく落ち込んだ顔をしている。


#大輔

ユキが君の前に現れた理由がわかった。


#愛子

ユキちゃんですか?


#大輔

あいつ、必要以上に寂しがり屋でさ。

人が寂しいのもわかるみたいで、

いつも寄り添ってくれてた。


#大輔

きっと愛子ちゃんもなんだよ。


#愛子

私……も?


#大輔

うん。

ユキは、君にも誰かが必要だって

思ったんだろうな。


#愛子

だから、ユキちゃん。

私の前に現れてくれたんだ……。


#大輔

ありがとうね、愛子ちゃん。

俺に、自分のこと話してくれて。

嬉しいよ。


#愛子

嬉しいなんて……。

大輔さんだから話せたんだと思います。


#大輔

今度さ、ユキの墓を作ってやろうと思うんだ。

そのほうが安心できるかなって。


#愛子

安心……すると思います。

でも――。


#愛子

たぶん、その時にユキちゃんは

わたしのところから

いなくなっちゃうかも。


#大輔

だったら、その前にユキの未練を

解いてあげなくちゃね。


#愛子

どうやってですか?


#

ずっと考えていた。

ユキが俺と愛子ちゃんを

引き合わせた理由を。


#

もしかしたら、

俺がこんな気持ちになることを

見越していたのかもしれない。


#大輔

あ、愛子ちゃん、俺と付き合ってください。

期間限定じゃなくて、ずっと。


#愛子

……え?


#大輔

えっとね、つまり。


//一枚絵:告白に驚いている愛子


#大輔

好きです。

一生そばにいてくれる嬉しい。

って、プロポーズみたいだね。


#愛子

待ってください。

わたしですよ?

隠し子で、居場所がなくて。


#大輔

君がユキの居場所になってくれたように。

今度は俺が君の居場所になるよ。


#愛子

…………。


#愛子

寂しいです。


#大輔

ん?


//一枚絵:告白に驚いている愛子(差分・涙ぐんでいる)


#愛子

大輔さんがいなくなったら、

寂しくて……嫌です!


#愛子

ずっとわたしのそばにいてください。


#

まさか泣かれるとは思っていなかった。

驚いていると、愛子ちゃんが抱き着いてきた。


#大輔

あ、愛子ちゃん?

えっと。


#愛子

ここでヘタレるんですか?

大輔さんってば、ふふ。


#

彼女はからかうようにそう言って、

俺のほほにキスをした。


第七話 いつまでも一緒に


;bg:墓地(昼)


#

今日はとても天気がいい。

まさに旅立ちにはふさわしかった。


#大輔

ユキ。

そっちでは友達ができたか?

美味しいもん、食ってるか?


#大輔

俺はお前のおかげで、

今はもう寂しくなくなったよ。

ありがとうな。


#

となりで、

一心に手を合わせていた彼女が

口を開いた。


#愛子

ユキちゃん、

わたしももう寂しくないよ。


#愛子

ありがとう。

ユキちゃんのこと絶対忘れないからね。


#

葬式の最中、

ユキの気配がなくなったらしい。


#

最後に「にゃあ」と鳴いたらしいのだが、

その声は、俺には聞こえなかった。


#大輔

安心して逝ってくれたかな。


#愛子

そうだと嬉しいです。


#大輔

俺たちが寂しがってたら、

そのうち帰ってきたりしてな。


#愛子

わたしを寂しがらせるつもりなんですか、

大輔さんは?


#大輔

俺の方が寂しくなっちゃうかもな。


#愛子

だから、同棲しましょうって

言ってるじゃないですか。


#大輔

はいはい。

君が卒業したらね。


#愛子

絶対ですよ。


#子猫

みゃー。


#大輔

あれ、この子。

前に公園で会った?


#愛子

違うんじゃないですか。

だいたい、ここ静岡じゃないですし。

ほら、耳の形が違います。


#大輔

でも、この子のほうが

ユキに似てるかも。


#大輔

お前、どうしたの?

もしかして迷子かな?


#愛子

あそこの段ボール。

拾ってあげてください、って。


#大輔

そうか、あそこから出てきたのか。

お前、行くところがないんだな。


#愛子

飼ってあげるんですか?


#大輔

子猫用の、いろいろ買ってこないと。


#愛子

うふふ、やっぱり。

休日はわたしも『こなゆき』に会いに行きますね。


#大輔

こなゆき、か。

それでいいか、お前。


#こなゆき

みゃー。


#愛子

決定ですね。

こなゆきちゃん、

これからよろしくね。


#愛子

じゃあ、ペットショップと

動物病院に行かないと。

ほら、早く行きましょう!


#大輔

待って、愛子ちゃん。


#?

みゃあ!


#大輔

今の声……。

こなゆきじゃないよな?


#こなゆき

みゃー?


#愛子

どうしたんですか、

大輔さん?


#大輔

ううん。

ユキの声が俺にも聞こえた気がしてね。


#愛子

……。

また一緒に来ましょうね。

ユキちゃんに会いに。


#大輔

うん。一緒に来よう。


#愛子

そうだ、お願いの3つ目、

言ってなかったですね。


#大輔

そういえばそうだったね。

3つ目ってなんだったの?


#愛子

ふふ、それはですね――――。


#

それを聞いたその時、

目の前にいる彼女を一生大事に

しないとなと心に誓ったのだった。


エンド







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