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騎士RPで行くVRMMO  作者: ぺたぴとん
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第1話 イメージが固まっているとキャラクリは早い

 砂漠化した大地、少ないオアシス、荒れに荒れた世界にただ一つ存在するアラビアン風の都市に風が吹く。それに合わせて砂埃が舞うが、通りを歩く人々は誰一人とて避けたり防ぐような動作はしない。実際、痛くないのだからそれは至極当然の反応ともいえた。

 荒いテクスチャの太陽、入ることのできない建物群。この街はVRMOゲーム『荒れた世界で』の主要拠点だ。


 その拠点を通る大通りの端で、砂塵が舞う光景を俺は内心後悔しながら見つめていた。


(うーん、拠点でこれなら砂嵐になっている地域もあるだろうし、視界確保系アイテムも売りに出しときゃよかった)


 敷かれた布の上にあるのは回復アイテムに熱や寒さの対策アイテム、視界確保用のアイテムは存在しない。ちらりと横を見れば同じように布を敷いて店を出している小太りの男性プレイヤーがいる。彼の目の前には視界確保用のアイテムがあった。あちらさんの方が商機を逃さなかったらしい。


 悔しい思いをしていれば、ふと目の前に人の気配を感じる。視線を向けると男性プレイヤーが一人、布の上に置いているアイテムを見ていた。


「すいません、この回復アイテムと熱対策のアイテム、五個ずつあります?」

「五個ずつだね……うん、どちらもちゃんとあるよ!」

「それじゃあその二つを五個ずつください」

「どちらも買ってくれるとは嬉しいねえ! ちょいと待っててくれ!」


 そう言いながら、隣に置いていた百味箪笥からアイテムを探す。目の前に置いているのはあくまで見本だ。

 アイテムを取り出していれば、興味深そうにお客さんが箪笥を見ながら話しかけてきた。


「和風イベの時のアイテムですよね、それ? なんでわざわざインベントリから直接じゃなくそこから……って、ああ、そうか、RPロールプレイ

「あはは、私、RPが好きでして」

「物売りのRPですか、板についてますねえ」

「ありがとうございます。……さて、それじゃあお探しのアイテムはこちらだよ」


 板にはいってる、と言われるのは純粋に嬉しい。ちょっと照れ臭くなりながらも商品をゲーム内通貨とトレードで渡した。


「ふむ、確かに五個ずつですね。 ありがとうございます!」


 確認を終えた男性プレイヤーはそう言いながら去って行く。その後ろ姿に「どうも!」なんて声をかけた。

 これから熱対策が必要なエリアに出るのだろう。確か溶岩エリアとか割と終盤のエリアあたりなんかは熱対策が必要だったはずである。

 そんなことを考えながら時間を確認してみれば、


「おっわ、まずいまずい」


 時間はもう0時過ぎ、そろそろ寝なければならない時間だ。明日は休みではない。

 メニューを開いて店を仕舞えば、そのままログアウトする。タイトル画面へと戻ればゲームを終了させ、ヘッドギア型VR機器の電源を落とした。


「ふう」


 一息吐きながらVR機器を机の上に置く。おっと、そうだ、忘れちゃいけないことがあった。


「何か別ゲーのディスクが入ってた、なんてことないよな?」


明日に備えて・・・・・・ディスクがセットしてあってはいけない。遅れるなんてことはないと思うけれど、ちょっとでも明日の行動がスムーズにできるようにしておきたいのだ。VR機器をいじってみれば、何も入っていない。よし、大丈夫。


 そう、明日はとても大切な日だ。


 開いていたパソコンで、もう何度見たか分からないゲームの公式サイトを開く。ローディング画面を挟んだのち、VRMMORPGであるそれのタイトルと運営からの告知がでかでかと載っていた。


<『リベルタリア・ユートピア』 いよいよ明日サービス開始!>


 大きく表示された文言の下には、残り僅かとなったカウントダウンがある。

 それらを見て、自然と笑みが漏れてしまった。βテストは逃してしまったが、評判は聞いている。事前登録を既に済ませているほどには楽しみにしている作品だ。

 完全没入型VRMMORPG『リベルタリア・ユートピア』。公式サイトにある通り、いよいよ明日サービス開始なのである。


「まあ、とりあえず寝るか」


 サービス開始予定時間は仕事が終わってからだ。ひとまずは寝ようと、パソコンの電源を切った。



 □



 仕事を終え、自室であるアパートの一室へと戻れば、そそくさとパソコンを起動する。楽しみがあると時間が経つのが遅く感じてしまうもので、仕事中だけでなく今こうしている間もそわそわとしてしまっていた。仕事中は抑えていたつもりではあったが、誰かに不審に思われていたかもしれない。少しだけそれが不安である。


 けれど今、その不安以上にあるのが期待と喜びである。


「ふふ、そう、今日なんだよ。待ちに待ってた、今日!」


 隣人に配慮しながら声を抑えつつ、それでも笑みが止まらない。まあ、抑えなくてもいいのだ。独り身の部屋に誰がいようか。


「ゲーム機よし、有休も取った。食料も買ってきてるし、スタートダッシュの四日間はこれで大丈夫」


 ヘッドギア型のVR機器を起動させつつ確認する。あとは家事やら風呂に入っていればちょうどいい時間になるだろう。ああ、その間にダウンロードは済ませておかないと。通勤カバンからパッケージを取り出せば、ぺりぺりと包装をめくっていく。パッケージを開いて取り出したディスクを機器にセットすれば、すぐさまダウンロードを開始した。


 ダウンロードをしつつ、やれ夕飯を食べて風呂に入って、そんなことをしていればあっという間に時間が経つ。あらかたやり終えて時間を確認してみれば、もうサービス開始まであと十分を切っていたところだった。


 他にやることはあっただろうかと考えつつ、ヘッドギア片手に椅子に腰掛ける。

 ご飯も食べたし風呂も入った。なんなら洗濯も終えた。思いつけるほどの家事はやったし、この後の用事と言えばもうゲームだけである。


「ダウンロードは終わってるかなあ。……うん、無事終わってる。エラー吐いてない、良かった」


 VR機器を付けて確認をしてみれば、ダウンロードが完了しましたの文字が浮かんでいる。エラーを吐いたらすぐに音で分かるとはいえ、やっぱりほっとして言葉が出てしまう。


「お、もうあと五分か。用意用意っと」


 ナイス時間調整と自画自賛しつつ、ヘッドギアをセットする。脳波認証の登録は既に済ませているから、もう本当にあとはログインするだけだ。暇つぶしに何かネットでも、と思わないでもない。けれどタイミングを逃しそうなのでやめておいた。


 少しして、先程まで暗転していた『リベルタリア・ユートピア』のアイコンが明るくなる。

 よし、それじゃあ早速ログインするか!


「おっわ」


 ゲームを開いた瞬間、放り出されたのは真っ白な空間だ。地面らしきものも壁もない。ゆらりと浮いて、それでいて体の自由が利かないわけでもない。目が痛いほどの白さでもない、それどころかどこか優しささえ感じる不思議な空間であった。


 そんな何もない空間に唯一存在するのは、目の前で同じように浮かんでいるゲームタイトルぐらいである。

 タイトル下をよく見れば、タイトルに触れてくださいと書かれていた。指示通りに文字に触れれば、さらさらと砂のようになってタイトルが崩れ落ち、空間に溶けて消えていく。


 文字がすべて消えたちょうどその時、女性の声でアナウンスがされる。


<ようこそ、リベルタリア・ユートピアの世界へ。これよりプレイヤーの皆様は『旅する者』としてこの世界に降り立ちます。まずはこの世界で産み落とされる貴方をメイキングしましょう>


 どこからともなく聞こえてくるアナウンスがそこで途切れる。同時に、目の前にキャラクリエイト用の画面が出てきた。薄い水色をした半透明の板であるそれには、タップしてくださいの文字がある。

 板に触れてみれば、表示されるのは種族からアクセサリ、髪の色艶などといった項目だ。試しに種族の項目に触れてみると、ずらりとスクロールできる形で様々な種族名が表示される。レッドキャップまで選べるのか。確か凶暴なゴブリンだったイメージがあるんだけど……?


 さて、ここまで選択肢が多いと悩んでしまう。獣人もいいし、魔族だっていい。異種肌もときめくよなあ。

 といっても、それは常ならばの話だ。もう既にキャラクリのテーマは決まっていた。


「種族は人、金髪でちょっと結べるぐらいの長さに、瞳は緑、背は……結構ほしいからこれぐらいで。お、髪のグラデーションもできるのか。いや、それは我慢我慢」


 既に固めていたイメージ通りになるように項目をいじっていく。短髪の方がやっぱりいいだろうか。いや、それだと地毛を染めたようでなんだか違和感がある。むずむずする。最初のままでいこう。


「これでよしっと」


 細かな調整と確認を終えて、完了のボタンをタップする。


<キャラの外見はこのようになります。こちらでよろしければ、下部の完了をタップしてください>


 アナウンスと共に、目の前に楕円型の姿見が現れた。鏡に映っているのは少しばかり長い金髪に翠の瞳を持った、まさしく騎士のイメージに沿う男性である。


 そう、騎士!まさしく騎士なのだ!


「イメージ通り! これぞ騎士! 黒髪と迷ったけど、ここはやっぱり王道だよな」


 金髪の騎士、それこそ俺が決めていたキャラのイメージ図だ。傭兵スタイルや流浪の剣士スタイルもいいし、上半身裸だったり女性キャラだって捨てがたい。しかし守る姿の騎士ほどかっこいいものはない。……時々悪役で書かれているけれど。


 前のゲームでやっていた物売りのRPだって、今回もやろうかと迷ったのだ。しかしせっかくゲームが違うのだから違うRPをしたい。


 勢いよく完了の文字をタップすれば、次は名前入力だ。重複不可なので早いこと決めたかったのだが。


「この名前もダメかあ」


 十回目の重複を知らせるメッセージに思わずため息が出る。


 一般的な名前からそれならと選んだ有名な騎士の名前まで、色々と試してみたけれども、どれも重複しているからダメだと返ってきた。円卓の騎士の名前はさすがに被るよなあ。……その名前を選択したプレイヤーは騎士RPをしているのだろうか。しているならちょっと会いたい、同志として。


 いや、それよりも名前だ。早くプレイしたいのだし、いっそのことここはランダムにしてしまおう、そうしよう。

 若干疲れを感じながらも名前入力の下部、ランダム入力をタップする。瞬時にネーム欄に「アーヴィング」の文字が出てきた。まあ、ネタに走りすぎた名前ではないしいいか。


 完了の文字をタップすれば、崩れるように目の前の入力画面が消えていく。

 終わりだろうかと思ったのも束の間、今度はステータス画面が現れた各項目はどれも0だが、近くに百五十ポイントと書かれている。


<各ステータスにポイントを振り分けてください>


 アナウンスの声がした後、操作が可能になる。調整できる項目は体力であるHPと魔力であるMPを除く五種類だ。物理攻撃力に影響するSTR、物理防御力に影響するVIT、素早さに影響するAGI、魔法攻撃力に影響するINTに魔法防御力に影響するMNDだ。


 さて、どんなステータス振りにしよう。特化型もいいが、ここは騎士をイメージして防御寄りのポイント振り分けにしておこうか。

 ぽちぽちといじり、よしこれだと納得したところで完了の文字をタップする。


【ステータス】

名前:アーヴィング

性別:男性

種族:人族

レベル:1

メインジョブ:

サブジョブ:

所持金:

HP(体力):50

MP(魔力):39

STR:30

VIT:35

AGI:20

INT:30

MND:35


【スキル】

なし


【称号】

なし


 出来上がったステータスをざっと眺める。AGIは他より低めだが、まあ、盾で受け止めたりする防御方法をメインにするつもりだし別にいいだろう。

 画面下部、<これでよろしいですか>のメッセージ下にある完了の文字をタップした。


<これにてキャラメイクは終了です。リベルタリア・ユートピアの世界をお楽しみください。準備がよろしければ「はい」のボタンをタップしてください>


 ステータス画面が消えたと同時にアナウンスが流れる。その言葉に声には出さないまでも、大きく一つ頷いた。

 ああ、もちろんこの世界を、リベルタリア・ユートピアの世界を楽しむとも。

 ――騎士RPでな!


 勢いよくはいの文字をタップする。瞬間、目の前が真っ白に染まった。続いてまるでチューブの中を進んでいるような感覚に陥る。

 どこに向かって進んでいるのか、襲う浮遊感の中で周囲をきょろきょろと見回してみた。よくよく見てみれば白一色だった風景は、いくつかの層を成すような模様をしていることが分かる。ゆらゆらと揺れるその様はさながら波のようだ。


 けれどその時間は長く続かず、再び目の前が白に染まる。先程までの浮遊感も、チューブの中を通っている感覚もない。何かの上に立っているようであった。

 地に足がついているというのはどこか安心感がある。一体何の上に立っているのかまだわからないけれど、最初なのだから危険なものの上に立っているというわけではないだろう。……ないよな?


 変な勘繰りでちょっとした不安が沸き起こっているのをよそに、目の前の白さがどんどん薄れていった。霧が晴れていくように、視界がクリアになる。


「おお」


 目の前の景色を見て、思わず感嘆の声が漏れてしまった。けれどそれも仕方がない。

 ログインした場所は大きな広場だった。中央に巨大な石塔が一本存在し、それを中心にして円形に石畳の広場は広がっていた。休むためのベンチが等間隔で置かれ、さらにその外側には店が並んでいる。大きな通りが広場から幾つも伸びているあたり、中央広場みたいな場所なのだろうか。

 今、目の前にはまるで現実のような風景が広がっているのだ。荒いテクスチャでも簡略化されたデザインでもない。中天に上る太陽も、鳥の鳴き声も、人の喧騒も、どれもがあまりにもリアルだ。


 ふと横を見れば同じようにぽかんと大口を開けて驚いている人や、自分の体をぺたぺたと触る人もいる。俺と同じプレイヤーなのだろう。

 いやはや、それでも驚く気持ちはわかる。これはあまりにもリアルだ。


<チュートリアルクエストがございます。受諾しますか?>


 驚いていると突然、アナウンスがそんなことを告げる。何もわからないままやるよりもいい。そう考えて受諾する。


<まずはメニューと念じた後、ステータスの項目を開きましょう>


 アナウンスに大人しく従ってステータスと念じようとして、止める。その前にやることがあった。


 そっと立っていた場所から離れて、近くのベンチへと腰掛ける。腰掛けると同時に軋む音が鳴った木造のベンチに、再び「おお」と感嘆してしまった。

 あのまま立っていたならログインしてきた後続に迷惑をかけかねない。事実、確認してみると入ってきた後続が目の前で棒立ちになっているプレイヤーに驚いていた。すぐさまそのプレイヤーも驚くのだけれども。どっちにしろ、避けててよかった。


 さて、それではチュートリアルといこうじゃないか。

 メニューと念じてみれば半透明の板が出てくる。装備に設定、持ち物などが並ぶ中、一番上にステータスの項目があった。

 すぐさまタップしてステータスを開くが、思わずそこで閉口してしまう。


<ステータスが開かれたのを確認いたしました。それでは次の段階に移ります。それでは――>

 

 無機質なアナウンスが、チュートリアルの続きを説明する。その言葉に従いながらも、ステータスの一部を凝視した。

 割り振ったポイントに変化はない。称号にも変化はなく空欄だ。けれどもジョブの欄が変わっていた。空欄であったそこが埋まっているのだ。

 いや、まあ、それだけならばいいのだが。


メインジョブ:無職


 うーん、確かに現時点ではゲーム内でそうだけども!心の中でツッコミを入れるぐらいは許してほしい。


<なお、ジョブは今現在取得されていませんので無職と表示されています。いわば空欄のままです>


 あ、そうなのね。それならよかった。

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