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長男の悩み

マークロウ家長男ウィルゼンくん視点です。



昼食の席で、父様がおもむろに口を開いた。


「ウィル。相談があるんだが…」

「お断りします」


父様の言葉に被せるように拒否すれば、むぅと不機嫌になる。

仕事は有能なのに、家族の前では父様はたまに子どものようだと思う。


「まだ何も言っていないのに」

「言わなくても分かります。爵位継承はまだ早いですからね」

「ウィルも成人したし、仕事も有能だし、大丈夫だよ」


相変わらずのほほんとした口調が僕の怒りの導火線に着火した。


「まだ18になったばっかりの息子に爵位を譲るな!最低10年は代わってあげないからな!」


43にもなる大人が「え〜〜」とか言わない。

口を尖らせない。

ぶすっとしていたくせに、料理長の新作料理を食べた途端に嬉しそうな顔をしない。

子どもかっ!


「お兄様。あまりイライラすると体に悪いですわよ?」

「シェラ…。しかしだな…」

「お父様も、そういう話はお母様もいらっしゃる時にしてください」

「ウィルゼンもシェラザードも僕に冷たい」

「はいはい。後でお母様に存分に甘えてくださいな」


妹のシェラザードがさらっと父様をあしらう。

僕はついつい父様の話に真正面から対抗してしまうが、シェラはかわすのが上手い。そういうところは母様に似たんだろうと思う。



父様は僕が18才になってから、事あるごとに辺境伯を継がそうとしている。

色々と言い訳を言っているが、要するに母様とのんびりしたいだけなのは僕も妹も分かっているので遠慮なく断っている。

決まって母様がいない時に話すのは、母様に怒られるからだと思う。ちょっとセコいなぁとは思うが、なんだかんだと父様は憎めない性格をしている。

他の事なら最終的に仕方ないなとなるんだけど、爵位継承は別だから。無理だからね!



「お兄様ももう少しお父様のあしらい方を身につけたらよろしいのに」


食後に移動した図書室でシェラが話しかけてくる。

手に持っているのは上級魔法書と曽祖母が書き記した魔法指南書。何度も読み込んだそれを元に独自の魔法を編み出すのが妹の趣味となっている。

我が妹ながら末恐ろしい。

魔法自体はまだまだ父様に及ばないが独自性があって面白いとよく褒められている。


僕はと言えば、剣の方がしっくりくるし、魔法よりもクラウド叔父様みたいに魔道具の方に興味がある。

今は、勉強の合間に師団に混じって稽古や鍛錬をさせてもらっている。みんな気さくで強くていい人ばかりだ。

酔うと惚気話を強制的に聞かせてくる人が多いのだけが難点だけど。


「シェラや母様みたいには無理だよ」

「お兄様の性格はお父様に似てますものね」

「僕はあんなにのほほんとしてない」


心外だと憤慨すれば、シェラはくすくすと笑いながら本をめくる。

窓辺からの光を受けて輝く金の髪に菫色の瞳。母様に似たシェラはかなり美人だと思う。

王都でデビューした時は縁談の話がたくさん来て大変だったと今でも父様が愚痴を溢すぐらいに。

そんなシェラは10才で既に婚約が決まっていたので、縁談の話はどれも断ったけれど、未だに舞い込んできては父様が密かに燃やしている。

ちなみに僕にはまだ婚約者も恋人もいない。

まだピンと来ないと言うか、興味はあるけど、師団の皆や従兄弟たちと騒いでる方が楽しいと感じる。

そう言えばシェラから「まだまだお子様ね」などと生意気な事を言われる。

3つも年下なくせに。

でも口では勝てた試しがない。

母様曰く「女性に口喧嘩で勝てると思ってはダメよ」らしい。

ちなみに、父様は全敗だと思ってるが、シェラからすれば全勝らしい。

よく分からない。


「そういえば王家からの手紙はなんでしたの?」

「ああ、ディアナが遊びに来たいから迎えに来て欲しいんだってさ」

「まぁ。来るなら護衛を引き連れて勝手にいらっしゃればいいのにね」

「道中の話し相手になって欲しいそうだよ」


ディアナ王女は僕よりも2ヶ月だけ先に生まれた第二王女。

父様と国王陛下が親戚で、母様と王妃様が仲良しなので、4人の王子・王女たちとはいわゆる幼馴染みというものになる。

特に最近はディアナ王女と会う事が多い。

うちの領地が気に入ったのか、けっこう頻繁に遊びに来る。温泉が好きなのかな。それともこの前食べてたとろとろプリンが気に入ったのかもしれない。

王女なのにそんなに辺境に来て大丈夫なんだろうか。社交シーズンは外してるから大丈夫、なのかな。


「お返事は?」

「後で書くつもりだよ」

「では、お迎えは私が参りましょう。女性同士ですもの、話し相手に向きましてよ」


それはいい考えだと思い、返事もシェラが書くと言うので任せた。

毎回、気を使って長男の僕宛に届くんだけど、次からはシェラに届けてもらおうかな。その方が話が早そうだし。

次に会った時に伝えてみよう。

解決したとばかりに読書を再開した僕にシェラの独り言は聞こえなかった。


「恋に障害は付き物でしてよ、ディアナ。お兄様を落としたければ、私を乗り越えることね」


シェラは楽しそうに微笑むと読書を再開した。

ウィルゼンの春はまだまだ遠くなりそうだ。


妹はブラコンです。兄に恋人も婚約者もいないのは大半はこの子の仕業です。

そんな妹視点は13時に投稿予定です。

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