ソフィアの再教育
ソフィア視点です。
私のぉ名前はぁ、ソフィア・バルトスって言うのよ。
お父様はぁ子爵だからぁ、私は子爵令嬢になるのぉ。すごいでしょ?
ーー【話し言葉だと語尾が読みづらいのでこれより修正が入ります】ーーー
私はね、とても可愛いのよ。
だって、毎日お父様もお母様も褒めてくれるの。使用人も侍女のナナリーもお嬢様はとても可愛いって言ってくれるの。
自分でもミルクティーの色の髪の毛はお気に入りよ。毛先の方がくるっとカールしててとっても可愛いの。どんなリボンも似合うけど、今は赤色がお気に入り。ちょっと大人っぽいでしょ?
だって私も16になるのだもの。大人の仲間入りよね。
それに、もう恋人もいるのよ。
第二王子様のカルバン様。とぉぉぉっても、カッコよくて綺麗で素敵な王子様なの。
怖い人たちから私を救ってくれた王子様が、本物の王子様だったの。
すごいでしょう?もうこれって、運命だと思うの。
うふふふ、素敵。
王子様も私を可愛い可愛いって言ってくれるの。もぉ、そんなに言われると本当のことでも、照れちゃうわ。
でもね、カルバン様は勝手に決められた婚約者がいるんですって。そんな愛のない婚約に縛られてるなんてカルバン様が可哀想。
カルバン様も婚約者よりも私の方が可愛くて好きって言ってくれるの。
婚約者のマグノリア様を見た時にカルバン様の気持ちが分かったわ。
マグノリア様ってきっついお顔してて、ちょっと怖いの。
前に来てたマナーの先生みたい。
目とかきゅって上がってて、お口がギュッとしてて、ツンとしてて、全然可愛くないの。
あれじゃカルバン様が私の方が可愛いって言っても仕方ないと思うのよ。
だって本当に私の方が可愛いんだもの。
マグノリア様って、カルバン様とダンスしただけで怒るのよ。
せっかく楽しく踊ってたのに。ほんと、信じられない。意地悪すると嫌われちゃうのよ?
カルバン様だけじゃなくって、クリスとか、ベルナルドと踊ってても怒るの。
なんで?どうして?
マグノリア様には関係ないじゃない。
怖いしうるさいからカルバン様にもみんなにも嫌われちゃうんじゃない?
淑女がどうのとか、はしたないとか、マナーの先生と同じ事ばっかり言うんだもん。
私はちゃんとできてるもん!お父様もお母様もいいって言ってくれるのに、なんであの人あんなにうるさいんだろう。
あ、そうか。私の方が可愛くてカルバン様に似合うから嫉妬してるのね。
でも、どんなに嫉妬してもカルバン様は私が好きなのよ。残念ね。
カルバン様はマグノリア様との婚約を破棄して私と婚約してくれるって言ったの。
でも破棄されちゃったらマグノリア様も可哀想かな?って思ったらカルバン様がいい考えがあるってニヤリって笑ったの。
大人の笑い方よね。カッコいい。
カルバン様はマグノリア様の新しい婚約者に、えっと、ベレット?ベイット辺境伯?を指名したの。だれ?って聞いたら豚みたいな男の人なんだって。
建国祭の時に教えてもらったら、本当におデブさんで豚さんみたいだった。
私だったらあんなに太ってたら恥ずかしくって、生きていけなぁい。
豚さん辺境伯って、あんなにぶくぶく太ってるのに人前に出るなんて恥ずかしくないのかしら。
カルバン様はマグノリア様にビシっ!と婚約破棄を宣言したの。
すっごくカッコ良かったわ。
クリスやベルナルドも私がマグノリア様に意地悪されてたって証言してくれたのに、あの人澄ました顔してるの。
なんでそんな顔してるの?カルバン様に捨てられちゃうんだよ?
怖い目で私を見るから、カルバン様にギュッて抱きついちゃった。えへへ。
その後、なんでか近衛騎士に促されて会場から出されちゃったの。
なんでかな?
でも、カルバン様がビシっ!ってカッコよく言ってくれたから、これからは私がカルバン様の婚約者になるんだよね?
カッコ悪い豚さんも結婚できるし、マグノリア様も結婚できるし、私もカルバン様も結婚できるし、いい事ばっかり。
カルバン様頭いいっ!
うふふふふ。結婚式はどんなドレスがいいかしら。もう大人だもん、ちょっと大人っぽいのもいいわね。
そう思っていたのに、なんでまだお勉強しなきゃいけないの?
それも、前の先生より言い方もきついし、私この人嫌い。
なのに、お父様もお母様も止めさせてくれないの。
それに、お茶会も夜会も出ちゃダメって言うのよ。
なんで?この前カルバン様が贈ってくれたドレスも宝石もまだお披露目してなのよ。
「もぉいやぁぁ」
「語尾を伸ばさない。真っ直ぐにお立ちなさい」
疲れて座り込んだら、先生がキツイ声で怒ってくる。
もう嫌。もう絶対に嫌。
「先生が無理ばっかり言うから疲れたのっ。私、ちゃんとやってるのにぃ、どうしてダメばっかり言うのぉ。私が可愛いから意地悪するんでしょ?もうお父様に言いつけちゃうんだからね!」
ぷぅと横を向いて先生なんて見てあげない。
私、怒ってるんだからね。
私が怒ったら、お父様とカルバン様が黙ってないんだから。
謝るなら今のうちなんだから。
そろっと横目で先生を見ればさっきと変わらず無表情で見下ろしている。
なんだろう。なんか怖いよ?
「それで?」
「え?」
先生は眼鏡の位置を直すと、冷たい声で話す。
「気は済みましたか?でしたら再開致しましょう」
「え?あ、あの、え?」
「それだけの元気があるなら2時間延長しても大丈夫でしょう。さぁ、立ち上がりなさい」
「え、えええええーーー!うそぉー!!」
増えた!もう3時間もやってるのにぃ!
「大きな声を出さない。6才の子供でも出来る事ですよ。情けない」
もう、もう、やだぁぁぁぁ!!!
結局この日は泣いてもぐずっても終わらなくて、先生が泊まる事になっちゃって、次の日の朝からレッスンをする羽目になっちゃったの。
お父様もお母様も助けてくれないの。
もう、お父様もお母様もきらい、きらい。
うぅぅ、カルバンさまぁ、助けてぇ。
「幼女のように泣いて、誰かが助けてくれるのを待つだけですか?情けない」
先生も嫌い。私は悪くないもん。先生が無理な事ばっり言うからだもん。
なんでこんな事ばっかりしなきゃダメなの?
先生やマグノリア様は簡単にできるかもしれないけど、私はできないの!
できない事をずっとやってても時間がもったいないじゃない。
あれよ、せいさんせーが無いってことよ。
むっと睨むと、先生がふぅとため息を溢す。
そのいかにも私が出来ない子みたいなため息も嫌い。怒っちゃうんだから。
「分かりました。今日は少し出かけましょう。課外授業です。支度を」
そう言うと、先生は部屋から出て行った。
代わりに侍女に「お着替えを」と促されて鏡台に座る。
え?本当にお出かけ?
やった!嬉しい。
お買い物かな?観劇かな?あ、それともカルバン様とデートかな。
やった!楽しみ!
って喜んだのに、行き先はどこかのお屋敷だったの。
お友達のお家ではないし、初めて来る所だわ。お屋敷も立派だし、お庭も素敵。
馬車から降りたら、先生は執事の人とお話を始めた。
つまらないから周りを見ていたら、楽しそうな声が聞こえたわ。何かしら。
先生から「静かに」と言われて渋々黙ったままついて行く。
案内された中庭にはテーブルと椅子が置かれていて、賑やかなお茶会をやっていた。
もしかして参加するのかしら。
でも、よく見たら小さい子が多いわ。
デビュー前の子どものお茶会ね。あれじゃあ、私は参加出来ないわ。
「アデルバ夫人。ようこそおいでくださいました」
「セルゲイ伯爵夫人。この度は急な申し出を受けて頂き感謝致します」
「他ならぬ貴女の頼みですもの。当然ですわ。それで、そちらが教え子のお嬢様ね」
先生に「ご挨拶を」と囁かれて、慌ててカーテシーをして「バルトス子爵家、ソフィアにございます」と挨拶をした。
相手のおばさんはセルゲイ伯爵夫人みたい。
先生に促されて、子どもたちのお茶会に参加する事になっちゃった。
夫人たちの大人のテーブルかと思ったら、子どもたちのテーブルに案内されたのよ。信じらんない。
しかも先生はちゃっかりおばさんたちと同じテーブルにいるし、ずるいわ。
「お姉ちゃん、大人なのにお茶の飲み方が下手ね」
「本当。さっきからカチャカチャいってるわ。こんな風にできないの?」
「お菓子の屑がお皿から溢れてるよ?ちゃんと食べないと叱られるよ」
もう。なんなの、うるさい子たちね。
ちゃんと飲めてるし、食べてるからいいじゃない。
そりゃ、ちょっと音が鳴ったし、お菓子も溢れちゃったけど、パイなんて持ってくる侍女が悪いのよ。
「お姉さん、フォークの持ち方はこうよ?それじゃあ見た目が良くないでしょ?」
「そうそう。上手になったよ」
「背中も伸ばしてみたら?ほらこうよ。こうすると姿勢が綺麗でしょう?」
先生が「お暇致しますよ。ご挨拶を」と言うまで子どもたちにあれこれ言われてたわ。
どの子も先生ぶって私に注意してくるのよ。
本当にうるさいんだから。
でも、でも、ね。私の周りはお茶やお菓子が溢れてたけど、あの子たちはほとんど溢れてなかったわ。
姿勢を良くしてお茶を飲んだら「その方が綺麗よ」とか「絵本のお姫様みたいね」なんて褒められたわ。
だって、可愛い私が綺麗にお茶を飲むんだから、お姫様と間違われても仕方ないわよね。
「今日いた子供たちは9才から12才のデビュー前の子供たちです。一緒のテーブルに着いてどう思いましたか?」
帰りの馬車の中で先生が静かに聞いてくる。
どう?って、口うるさく言われたわ。年下のくせに、年上の私にあれがダメこれがダメって偉そうに言うの。
でも、どれも言い返せなかった…。
どれも本当の事だったもの。
私より4つも5つも年下の子たちができる事を、私は出来てないの。
それでいいと思ってたわ。
だって、出来なくてもいいって言われたもの。出来なくったって、可愛く笑えば許されてたもの。
でも、まだ素直には言えなくて、唇を噛み締めて下を向いてたら手の甲に水が落ちてきたわ。
瞬きをしたらまたポタっと落ちてきた。
「こんな事も出来ないの?」と言われて、悔しかったわ。
「お菓子の屑がこぼれてるわ」と言われて、恥ずかしかったわ。
何よりも「ほら上手に出来たわね」と言われて、情けなかった。何一つ出来てない自分が情けなくて、惨めだった。
「…ふっ……うぅぅ。ふぇっ、………えっぐ…」
ぼとぼと落ちてくる涙も拭けずに、可愛くない泣き方をしてるのに先生は何も言わずに黙ってハンカチを渡してくれた。
それを握りしめたまま、帰り着くまでずっと泣いていた。
次の日から、レッスンをがんばった。
私は飲み込みも悪いし、不器用だけど、それでも頑張って、文句も言わずにやれば、先生はちゃんと見てくれる。
「やらなくていいのよ」なんて言わない。何度も根気よく教えてくれる。
ああ、そうか。
私がやる気になってなかったからなんだ。
私がやる気になって、ちゃんと教わろうとすれば、先生はちゃんと教えてくれる。
いつか、あの子たちよりも上手になれるかもしれない。それこそ、お姫様みたいって言ってくれた子に自慢できるぐらいにはなれるかもしれない。
レッスンを始めて、半年が経った頃に先生からお茶会に出る許可を貰った。
夜会はまだまだ勉強が足りないと思うし、そう言われた。
先生から「完璧とは言えませんが、及第点です。後3ヶ月程すれば授業は終わりでしょう」と言われた。
私は先生に頼んで、それ以降も週に一回のペースで授業をお願いしたら、先生は笑顔で了承してくれたの。
先生の笑顔って初めて見たわ。
なんだかとても嬉しくて、涙が出たけど、今度は自分のハンカチで拭いたわ。
そして、カルバン様との結婚式を控えて、ベイエット辺境伯夫妻に送った招待状は欠席を詫びる書状と共にお祝いの品物が届いた。
カルバン様は返事を見て怒っていたけど、王太子様に逆に怒られていたわ。
そうよね。恥をかかせた元婚約者と私の結婚式なんて出席したくないわよね。
少し残念だったけれど、仕方ないものね。
私は、マグノリア様に会って、婚約者を奪ってしまった事を謝りたかったのか、それとも叱って欲しかったのかもしれない。
でも、欠席の返事を見て、少しだけホッとしたのも事実なの。会うのは怖いわ。
次に会えるとしたら、もっと胸を張って会えるようになりたいわ。
ねぇ、カルバン様。
私の王子様。
顔も大好きだけど、自信家でちょっと臆病な所も大好きよ。うちに婿入りして、王子様じゃなくなっても、カルバン様は私の王子様なの。
だから、一緒に頑張ろう?
いつかあの2人に会えた時に、きちんと謝れるぐらいになりたいわ。
そしたら、私は心の底から貴方と幸せになれると思うの。
ソフィア視点いかがだったでしょうか?
ソフィアはブランクが長いし、頑張っても途中で怠け癖が出たりするので、努力して人並みです。色々やらかしてるので、社交界では肩身が狭いながらもちょっとずつ頑張ってます。
たぶん、カルバンもそこそこ成長するのでは?して欲しいなぁ。