こどもの日
子どもの日に間に合いました。
【注意】IF話です。
晴渡った青空と白い雲の中をゆらゆらと泳ぐ鯉のぼりを見て、エルウィンが首を傾げた。
「なんで鯉なの?」
「えっとね。確か、鯉は滝を登っていくと龍に変身するんだって。龍みたいに大きく成長してほしいという願いが込められてるんだよ」
聞きかじりの知識を披露すれば、エルウィンは更に首を傾げる。
それ以上傾くと転けるぞ、と肩を抱いて支える。
「ドラゴンじゃダメなの?」
言われてみれば、鯉が龍になるなら、別にドラゴンでもいいかもしれない。
龍とドラゴンはちょっと違うらしいけど、親戚みたいなものだろう。たぶん。
なら、問題ないかな。
「そうだね。来年はドラゴンを作ってみようか」
「はいっ!じゃあ、兄さまにお願いしましょう!きっとカッコいいのを作ってくれます」
そうだね。
ウィルゼンならすごくリアルなドラゴンを作りそうな気がする。嬉々として作りそうだよ。
その場合もう鯉のぼりじゃないよね。ドラゴンのぼり?語呂が悪いなぁ。
館に帰るとシェラザードがシェフと合同で作ったという立体ケーキがテーブルの上にドン!と置かれていた。
マグノリアはなぜか片手で額を押さえている。
「シェラ……、これは?」
「よく聞いてくださいましたわ。私とシェフの合同作品。その名も兜ケーキですわ」
「姉さま、すごおぉい!カッコいいっ」
踏ん反り返って紹介してくれたケーキは高さ1m程の甲冑にしか見えない。ちゃんと帯剣までしている懲りよう。
真っ白なクリームと黄色のクリームで彩られたそれは、王宮の近衛隊の甲冑によく似ている。
それを見るエルウィンの目がキラキラと輝いていて可愛い。
「すごいね。どうやって作ったの?」
「ええ。苦労致しましたわ。土魔法のゴーレムを応用しまして、ーーーー」
説明を聞き、シェラの独特な魔法の使い方に驚くばかりだ。
柔らかいスポンジケーキを形作るシェフたちの技量も凄いけど、それを固定させたシェラの魔法も凄い。
動かす事も可能らしいけど、エルウィンが泣くかもしれないからやめようね。
これ、食べるの勿体なくない?でも、飾るだけなのも勿体ない。悩むよね。
「シェラ。子どもの日と言えば、チマキと柏餅だろう。ケーキなど邪道だと思わないのか」
「あ、兄さま。ふわあぁぁぁあ!」
遅れてやってきたウィルゼンを見たエルウィンがまた歓喜の雄叫びをあげる。
ウィルゼンの後ろにはチマキと柏餅で作られたドラゴンがカートに乗せられていた。
うわぁ。柏餅の柏の葉が鱗みたいですごいリアル。
ウィルゼンのドラゴン愛って半端ないなぁ。
「これは、また、凄いね」
「胴体はこし餡ですが、手足は粒餡です」
謎の懲りよう。ウケる。
甲冑ケーキといい、柏餅ドラゴンといい、うちの子どもたちって凄いよね。
感心していたら2人の作品を見ていたエルウィンが「僕も来年は何か作りますっ!」と宣言した。
来年、どうなるのかなぁ。
僕は楽しみだけど、マグノリアは眉間を揉みほぐしながら小さく溜息を吐いた。
ああ、ダメだよ。溜息は幸せが逃げちゃうらしいから、僕が貰おう。
とっさにキスしたら真っ赤になって怒られた。
うん。うちの奥さんは今日も可愛い。
子どもの日って大人が子どもの成長を祝うやつだよね。
あれ?僕、何もしてない気がする。
親の威厳の為にもここは何かーー
「しないでくださいませ」
「え?」
「アルフレッド様まで参加すると手に負えなくなります。何も、しないでくださいませ」
ね?と微笑むマグノリアに握りしめた決意の拳をするすると下ろして大人しくする事にした。
どうして「何も」を強調するかな?もしかして、僕って信用ない?
仕方ないから何もしないでおこう。奥さんは怒らせちゃダメだよねー。
「全く。こんなに沢山は食べきれませんわね」
「そうだね。手の空いてる使用人たちと子どもたちを呼ぼうか」
「そうですわね。お菓子も少し追加致しましょう」
あっという間に広間に場所を移し、賑やかな午後のお茶会が始まった。
「来年は、街のお祭りみたいにしてもいいかもね」
「スイーツコンテストですか?」
「マグノリアっ!それ素敵だね!さすが僕の奥さん」
抱きしめてくるりと回ったら、エルウィンが「僕も!」と突撃してきたので上下に動かしながら回ってみた。
ちなみにウィルゼンとシェラザードからは拒否された。残念。
翌日に課せられたアルバートさんの特別メニューに泣く羽目になるとは知らず、僕は子どもたちが一生懸命作ったスイーツを堪能したのだった。
そして、翌年からドラゴンのぼりが空を舞い、スイーツコンテストが開催されて子どもの日はお祭り騒ぎとなり、徐々にベイエット領全体と広がっていくのだった。
精巧なドラゴンのぼりのせいで、ドラゴンが遊びに来たらいいなぁ。
外出自粛の中の子どもの日ですが、楽しく過ごせましたか?
どの子も伸び伸びと育って欲しいですね。




