土台を固めよう。
「さて。本拠地と軍資金を用意したはいいけど、私たちはなにをするの?」
「俺といえばカジノだろ。」
「確かに。」
霧島といえばカジノ。
これは切っても切れない縁がある。
というのも、こちらの世界に飛ぶ前の世界では、莫大な富を得ていたあきらだが、その原資はカジノによって稼いだものだ。
あの名勝負は今もギャンブラーたちの間で語り草になっているとかそうでないとか。
「確かにって言われるのも、なんか複雑だな。」
2人はこの町で一番大きなカジノに出かけた。
カジノの名前はカジノサンタマリア。
名前の由来はこの街の名前らしい。
この世界に来て初めて街の名前を聞いた気がする。
カジノのエントランスではドアマンが待機しており、優雅に声をかけてくる。
「いらっしゃいませ。本日はカジノのご利用で?」
「あぁ、頼む。」
「かしこまりました。身分証はお持ちですか?」
「これでいいか?」
そう言って、免許証を見せる。
「拝見いたします。」
ドアマンはありがとうございますと言いながらカードを返すとひとみのカードもチェックした。
「ありがとうございます。
それでは中にご案内申し上げます。」
「ありがとう。」
中に案内されると、まずチップを買うカウンターに案内された。
「もう先にチップを買っておいても構わないだろうか?」
「もちろんでございます。」
了承をもらったのでカウンターに向かう。
「いくらほどご用意いたしましょうか?」
「ざっと20億円分ほど用意してもらおうか。」
カウンターのお姉さんの顔色が悪くなった。
「ウォレットで頼むよ。」
「か、かしこまりました。」
間の抜けた後とともに20億円が引き落とされる音がした。
「それではこちらがチップでございます…。」
カウンター横のドアが開き、台車に大量の高額チップが載せられたものが出てきた。
「こんなもんか。」
周りを見ると客もドアマンもあからさまにドン引きしている。
「いくら替えたの?」
「20億」
「あら、そんなもんなのね。」
そんな会話を繰り広げる夫婦にドアマンは腰を抜かしそうになっていた。
「何からやろうか?」
「単純にルーレットなんてどう?」
「そうだね。」
ちなみにカジノ内では魔法は一切使えない。
アンチマジック建材を使用して建てられているためであり、その建材を発明したのも例の建築家である。
そんなあきらが、莫大な量のチップを抱えて
ルーレットの卓に着くと、ディーラーはあからさまに怯えた。
内心で勝ったなと思いつつ、ベットする。
異世界のルーレットは色も形も全く異なるが、ルールは地球とほとんど同じだ。
人間が考えるようなことはどんな世界でもそう変わらないのだろう。
「じゃあ黄色に1億。」
いつも通り、ベットが締め切られるギリギリのところで高額を放り込む。
周りがどよめく。
そしてボールが入るのは黄色のマス。
あっという間に1億が2億になる。
もはや自分にとってカジノとは銀行と大差ないと感じるようになってしまった。
いくらでもお金をくれるのだから銀行よりも優しいことは間違い無いが。
あれよあれよという間に元は20億だった軍資金が200億ほどに増えた。
「これくらいにしときますか。」
「そうだね。」
先ほどのチップカウンターで現金化してもらい、ウォレットに放り込んでおく。
周りのみんなにチップをばら撒いて、カジノを後にする。
しばらくすると気がついた。
「付けられているな。」
「そうね。どうする?」
「ぶっ潰す。」
「わかったわ。」
目的地をホテルからスラム街の方に移し、追手を誘導する。
あたりが薄暗くなり、だんだんと柄が悪い町並みになったところで声をかけられる。
「お兄さん。ちょっといいかな?」
「なんだ。ヤクザもんごときが声をかけていい相手じゃねぇぞ。」
「あぁん?
ずいぶんな口の聞き方だな。
カジノで勝ったから気まで大きくなってんのか?」
「金が欲しいなら言えよ。
聞くだけ聞いてやるから。」
「じゃあ遠慮なく力づくでもらうぜ。」
その言葉を皮切りに、こいつの子分らしき若者が20人ほど出てきた。
「できるもんならな。」
「うるぁ!!!!」
「えいっ。」
ひとみの間の抜けた掛け声とともに、リーダー格を除いたたくさんの柄の悪い人たちが昏倒した。
「おー。ひとみは何をしたんだ?」
「超音波振動で脳みそを揺らしてみた。
多分2〜3時間はそのままだと思う。」
「な、なに、なにを…!」
いまだに状況判断ができてないリーダー格に近づく。
「ひっ!!!」
「ボスのとこに案内してもらおうか。」
「は、はいぃ!!!!」
やっと状況を理解できたリーダーにはこちらの要求を飲む以外の選択肢を残されていなかった。
「ボスのとこなんて行ってなにするの?」
「こんな騒動を起こしても問題ないくらいにはこの街の治安が悪いということだ。」
「つまり?」
「後々障害になり得る悪の芽を積んでおく必要がある。」
「なるほど。」
「あと魔法の練習。」
「そっちの方がウェイト高そう。」
「みなまで言うな。」
そうして、水先案内人に怯えられながらスラム街の奥の方にあるまぁまぁご立派なお屋敷に連れてこられた。
「す、すいません霧島さん、今中にご案内いたしますんで。」
「ああ。早くしろよな。あんまり気が長い方じゃないんだ。」
「慣れないのに悪役ぶっちゃって。」
ひとみが聞こえるか聞こえないかくらいの声量で呟く。
「おい、バレるだろ。」
ひとみはクスクス笑っている。
先ほどの案内人はドアベルを鳴らし何やら合言葉らしきものを呟いている。
するドアロックが外れた音がし、案内人もといリーダーに案内される。