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サウンズゴー!  作者: 佐渡惺
8/19

第8話、レゲームセンター


 渉夢はジェゲに水色のシュシュを取られてしまってから、エレク図書館の本を立ち読みし始めていました。




 何冊か本を手に取ってめくると、五線の上に横書きで文章が書いてある小説や絵本がほとんどでした。小説や絵本をもし、購入すると、五線の中に音符を書いて自由に作曲が出来ると司書から説明を受けていました。近くの書店屋の案内のチラシも司書からいただき、立ち読みを続ける渉夢です。




 でも、買うことは出来ないと、渉夢はクログーとひそひそ話していました。




 立ち読みを終えると、ピースの楽譜の歌詞を1部換え歌し、歌い始めます。




 「私は~、囚われのゴー~。エレク図書館で~、1人呆然と歌う~。ああ~、クログーよ~、この歌を歌う君をどうにかして欲しい~」




 「渉夢、大丈夫?」

 心配そうな表情のクログーです。




 「うん。でも、ジェゲって子にシュシュを取られてしまって、どうしようってなってる。あれはお母さんに高校入学前に買ってもらった大事なものだから」




 「あなた、しばらく、そのシュシュで髪を結んでいたものね。オープたちを呼んで、ジェゲって子からシュシュを取り返しに行こうよ」




 「うん」

 渉夢はトランシーバーでオープたちに連絡を取りました。少女たちは、渉夢たちから連絡を受けると、すぐに駆けつけてくれます。




 「あれ、クログー、ゴーはどこにいるの?」

 渉夢の髪型がセミロングヘアに変わっていたため、わからなかったのでしょう。オープがキョロキョロしています。




 「ロッビ、こっち、こっち」

 ファオはすぐに渉夢がわかったようです。オープに教えました。




 「ゴー、どうしたの、その髪……」

 オープはセミロングヘアの渉夢に驚いています。




 「さっきね……」

 渉夢はオープたちに先ほど、ジェゲ=ベリディカと出会ったときのことと、自分のシュシュが彼に取られてしまったことを話しました。




 「ゴー、偉い目にあったね。あと、そいつに何をされたの?」

 オープは瞳をうるうるさせ、同情です。




 「ううん、シュシュを取られただけ」




 「早くそれ、取り返した方がいいよ。地球人のものは高く売れるって、ベリディカにシュシュを売られてしまうかもしれないぞ」

 ファオが真顔でそう言うと、渉夢は焦り出しました。




 「そうなると、すごく私、困ります……」




 「ゴー、行こう!」

 渉夢がパニックになりそうなところ、オープが手を引っ張り、エレク図書館の外に連れ出します。クログーとファオも図書館の外に出て、心配そうな表情で渉夢を見ていました。




 「渉夢、大丈夫?」




 「ゴー、横になっていた方がいいんじゃないか。君のシュシュは、ぼくたちが取り返すよ」




 「いいえ、大丈夫です、ありがとう。自分のものは私がちゃんと取り返さなくちゃ」

 と、渉夢はエレク図書館を出て東の方向を歩き、




 「みゃ、みゃみゃ」

 クログーは彼女と反対の西を歩きます。




 「あれ、それでどっちに行ったらいいんだろう」




 「みゃー、わからなーい」




 それぞれ、東西反対の方向へ歩いていた渉夢とクログーが、やはりエレク図書館の入り口前まで戻ると、オープとファオは苦笑しました。




 「よく話し合うのが1番ですね」

 と、オープが言ったあとに、




 「ああ。ゴー、クロ、とりあえず、どっか移動しながら、どっちに行こうか決めよう」

 ファオがエレク図書館を出てから真っ直ぐの道へ進むと、渉夢たちも彼について行きます。




 「みゃー、渉夢……」

 ぼうっと歩いていた彼女に話し掛けたクログーです。




 「ちょっと、ジェゲって子のことを考えてた。あの子、どうもビリービングくん本人なんじゃないかって思って」




 「でも、ゴーの話を聞いてると、あたしが2年前に知ってるビリービングとジェゲの性格が正反対なんだよね」




 「2年前のビリービングくんって、どんな感じの子だったの?」

 オープの話を聞き、歩夢は質問をします。




 「あまり、しゃべる人じゃなかったかな。クールな人だったよ。ピチスお兄ちゃんとはよく話していたみたいだけど」




 「そうなんだ。ジェゲがビリービングくんなわけないか」

 オープの話を聞いた渉夢はジェゲが ビリービングと別人と捉えていました。のちに、エレク図書館で彼に水色のシュシュを取られたことが急に腹立たしくなったか、渉夢の歩く速度が早くなっていきます。




 「ゴ、ゴー?」




 「ストップ、ストップ」




 「渉夢、待って」




 早歩きから、やがて走り出してしまった渉夢を仲間たちが止め、彼女はびくっと振り返り、




 「ご、ごめん……」

 と、戻って来ました。




 「ゴー、あいつの名前と特徴はわかったんだ。あいつがどこに行ったか、ぼくが聞いてくるよ」




 「さすが、お巡りさん」

 ニヤニヤとクログーが懲りずに言うと、




 「だからー、それはCM上の役だって。ほら、クロ、君もぼくと聞き込みに付き合いな」

 ファオはクログーを抱き上げ、エレクトタウンの人や動物たちに、ジェゲがどっちに行ったか聞き込みをします。




 情報によると、ジェゲはレゲームセンターに向かったようです。渉夢たちは、エレクトタウンの北にあるレゲームセンターに早歩きで向かいます。




 エレクトタウンの北に進むにつれ、渉夢はまた早歩きから走り出してしまっていました。




 この場合は仕方ないと、クログーとオープとファオも走ります。




 レゲームセンターに到着したときのことです。夕葉未莉が十六分音符の大きなボギーノイズ2体とレゲームセンターの近くで路上ライブをしていたのです。




 そのため、レゲームセンターの前は人や動物たちで混んでしまっていました。




 「未莉先輩……」




 「ふっ……」

 未莉は渉夢たちに気付き、不敵な笑みを浮かべます。未莉の両脇にいたボギーノイズたちは静かに渉夢たちの様子をうかがっています。




 「こんなところでライブしてたら邪魔なんですけど」

 オープが未莉に文句を言うと、彼女はメガネに手を掛け、




 「あなたこそ、ライブ妨害発言、やめて下さるかしら。わたしは、あそこのゲームセンターのオーナーから許可をいただいているのだから」

 と、言いました。




 それから、未莉の路上ライブを見に来た人や動物たちの客たちが、渉夢たちをじろっと見ます。彼らの視線が痛くなった渉夢は、




 「オープ、未莉先輩のライブが終わるまであっち、行こう」

 渉夢がオープの手を引きました。クログーとファオも苦い顔で別の場所へ移動しようとすると、




 「進実さん、また逃げるのね。陸上部を辞めたときみたいに」

 と、未莉の冷たい言葉のトゲが刺さります。




 「!」

 渉夢の心はずきっとなりましたが、先輩を相手にせず、そのままオープたちと行きます。




 「みんな、来てくれてありがとう、SCOLD(スコールド)でーす!」

 未莉は渉夢たちの背中を見て目を閉じ笑い、路上ライブを始めていたのでした。




 渉夢たちは、レゲームセンターからエレク図書館の方まで結局、戻ってきます。ラウン自動販売機でメロティーと、図書館の前にあった出店で花のパンとプリンゼリーを多めに仕入れていました。




 早速、渉夢たちは仕入れたものを口にし、エレク図書館の近くにあった休憩場に行きます。このときのことです。




 そこに、ジェゲ=ベリディカの姿があったため、渉夢は持っていた花のパンを落としてしまい、そこをオープが拾いました。




 ジェゲは渉夢の姿に気が付きますが、無視してそのままどこかへ行こうとしていました。彼の行動にむっとなった渉夢は、




 「ちょっと、行かないで。君、レゲームセンターにいたかと思ったよ。じゃなくて、私のシュシュを返して」

 と、ジェゲのところに走ります。




 「オレに普通の話があるのか、これを返して欲しい話なのか、よくわかんねえな」




 「2年前のビリービングじゃ、そんなこと言わないよね。ゴー、この人、絶対にビリービングじゃないよ。遠慮しないで、どんどん言っちゃえ!」




 「ロッビ、静かにしようぜ」




 「ファオさん、すみません、うるさかったですね」

 ファオから注意を受け、小さくなったオープです。




 「オレがここにいるのは、路上ライブやっててゲーセンに近寄れなかったからだよ」

 ジェゲがエレク図書館の近くの休憩場にいた理由を話すと、




 「ゲーセン……」

 渉夢はゲームセンターの略をゲーセンと言える人は地球人だけだと考えが頭をよぎりました。




 彼女はこのとき、やはりジェゲはビリービングなのではないかと思ったのです。頬に汗を流します。




 「で、これを返して欲しいって?」

 ジェゲが渉夢から奪った水色のシュシュをぶらぶらさせていると、




 「大事なものなんだ。だから、返して下さい」

 渉夢は彼に頭を下げました。けれども、それでもジェゲは渉夢のシュシュを返してくれません。




 「嫌だね。これ、こっちでは高く売れそうだから」

 と、口笛まで吹き始める始末です。




 「こいつ、ぼくの思ってた通り、ゴーのシュシュを売ろうとしてたな」

 ファオは両腕を組みます。




 「ジェゲ、ゴーにシュシュを返しなよ」




 「………」

 オープが言ったとき、彼は1度下を向き、少女を見ましたが、にっと笑っただけでした。オープはそんなジェゲに目をぱちくりとさせていました。




 「ジェゲがいくらシュシュを高く売ろうとしているか知らないけど、その値段以上に私はシュシュが大事なの。お母さんから買ってもらったものだから」




 「母親ね」

 渉夢の発言後、少しの間、(わび)しい表情になったジェゲでしたが、渉夢に水色のシュシュを返す気配がありません。




 「だから、お願い、シュシュを返して下さい」

 再び、渉夢が頭を下げると、




 「わかった」

 と、頷きます。




 「ジェゲ、返してくれるんだね」




 「ああ、あんたの首に掛けてあるペンダントと交換だ」

 渉夢がほっとした表情になった直後に、何とジェゲは水色のシュシュを返す条件を付けてきたのです。





 「え……」




 「どうした? ペンダントをよこせばシュシュを返してあげるぞ?」




 「………」

 渉夢は困っていました。お母さんに買ってもらったシュシュと、ピースのお母さんから預かったピースのペンダントも大事だからです。




 「あんたなんかに、ピチスお兄ちゃんのペンダントは渡せないよ」

 オープが渉夢とジェゲの間に割って入ると、




 「ふん、オブーは相変わらずだ」

 と、ジェゲは少女に言ってきました。




 「その呼び方、やめて。って、オブーって呼んだってことは、あ、あんた、本当はビリービングなの……?」

 怒っていたオープがおどおどします。




 「ここなら、人や動物があまりいないから、話したい放題かな。オブー、地球人に信頼なかったお前がまさか、地球人といるなんてな」




 「やっぱり、ビリービング!」

 オープはファオの後ろに隠れました。ジェゲすなわちビリービングは、そんな少女ににやっとしたあと、渉夢を睨みます。




 「進実渉夢、あんたがここにいることは、間違ってる。さっさと、それをオレに渡して地球に帰れ」

 ビリービングが渉夢の首に掛かっているペンダントを奪おうと近づくと、




 「でも、私の前に1人、先輩の夕葉未莉さんが……」

 渉夢は彼から1歩下がり、片手でピースのペンダントを握りしめました。




 「その人は、放っておくことだ」




 「先輩を放っておいて、私だけ地球に帰ることはできないよ。それに私、地球の帰り方がわからない」




 「オレは知ってるよ。帰れなかったけどな。でも、あんたなら、帰れるんじゃないかな」




 「私、まだ帰りたくない。ジェゲ…、いいえビリービングくん、私たちは君を捜しにエレクトタウンに来ました」




 「話がそらされそうだけど、いっか。聞くぜ」

 ビリービングは渉夢に1歩近づき、両手を腰にやります。渉夢はピースのペンダントを片手で握りしめたままの姿勢で彼から3歩下がったあと、口を開きました。




 「ピースさんから君のお話を最初に聞いたとき、どんな子かなって気になって、会いたいなってそれから思ってて、ここで会えたときは嬉しくなった。でも、今はちがう」




 「そうだろうね。オレはこれを売って金を儲けようとしているんだから」




 「ビリービングくん、シュシュを返して」




 「嫌だ」




 「どうして返してくれないの?」

 水色のシュシュをなかなか返してくれないビリービングに、いらっとなってきた渉夢です。シュシュを彼から奪い返そうとしますが、失敗します。




 「だから、高く売れるからって言ってるじゃん」




 「………」

 渉夢は悔しそうに口をつぐみました。しまいには涙があふれそうになると、ファオが渉夢の泣きそうな顔を隠すようにビリービングのところに来ます。




 「ビリービング、君はピースたちが失踪したことを知ってるね?」




 「ああ、ニュースになってた」

 ファオが質問したとき、真面目に答えたビリービングです。




 「それで、あんたはずっと前にどうして、ピチスお兄ちゃんたちに黙っていなくなったの?」

 オープが次に質問をすると、




 「オレ1人で生活を何とかしようと思ったからだよ。だから、ここで暮らしてた。ここで、オレ以来の地球人が来ることをずっと待ってた。ここにいずれ、来ることは予想してたからな。なのに、来たのがあんたみたいなか弱い奴とは、がっかりしたよ」

 少女のときも真面目に答えたあと、ビリービングは今にも泣きそうな表情の渉夢を見て、大げさにため息をつきました。




 「ビリービング、ゴーに対してひどいよ」

 オープが彼に怒ると、




 「ゴーって?」

 首を傾げるビリービングです。




 「あゆむのこと」




 「ああ、進実渉夢で、進み歩むから、ゴーって呼んでるの。なあ、オレもゴーって呼んじゃだめ?」

 ビリービングがファオの脇をすり抜け、渉夢に近づこうとすると、

 




 「ビリービングはだめ」

 と、オープが通せんぼうしました。





 「何で?」





 「ゴーを泣かせるから」




 「いいじゃん、ゴーって呼ぶくらい。なあ、進実渉夢…じゃなくて……」

 彼が渉夢のことをゴーと呼ぼうしていると、




 「ダメ、ストーップ!」

 渉夢は思い切り首を左右に振ったのでした。

 




 「みゃ、みゃみゃ、ぼうやはゴーって呼んじゃダメだって。みゃっ、みゃっ、みゃっ!」




 「ふん、こんなの返すよ」

 クログーに笑われたことで、ビリービングはここでやっと渉夢に水色のシュシュを返してくれます。渉夢はさっとシュシュで髪を1つにしばり、




 「私、君にENCOURAGE(エンカレッジ)捜索の協力を頼もうって思ってたけど、やめた。ビリービングくんって冷たい。クログー、オープ、ファオさん、次の町へ行きましょう」

 と、仲間たちとエレクトタウンを発とうとしました。




 そのとき、ボギーノイズがいきなり背後から渉夢を襲ってきます。渉夢はさっと避けることができました。




 渉夢たちは、エレク図書館の休憩場でボギーノイズは3体と出遭ってしまいます。渉夢はピースの楽譜とリコーダーを持ち、構えようとしていましたが、楽譜をビリービングに奪い取られます。



 「ちょっと、ビリービングくん、返して」




 「どれどれ……」

 ビリービングは渉夢の言葉を無視し、楽譜を読み、少し歌ったあと、エレク図書館の中に入りました。




 渉夢たちも彼について行こうとしましたが、ボギーノイズ3体に追い回されてしまいます。




 「みゃー、怖いー」




 「クロ!」

 ファオはクログーを抱っこし、安全な場所に逃げました。




 「オープ、私と演奏してくれる?」

 渉夢はリコーダーを構え、




 「もちろん」

 オープはグッドサインをし、鍵盤ハーモニカを構えます。このとき、少女は渉夢と同じ背丈に変身をする現象は起きませんでした。




 渉夢とオープで演奏すると、3体のボギーノイズはそこまで強くなかったか、すぐに二分音符と四分音符と八分音符のしゃぼん玉になって飛んで行きました。




 ボギーノイズを退治したあと、渉夢たちはエレク図書館の中へ入りました。その様子を見て、すでに涙を流していた未莉と十六分音符のボギーノイズ2体は、渉夢たちの姿が見えなくなるとテレポートをし、姿を消したのでした。




 渉夢たちがエレク図書館の中に来たときは、ビリービングは読書コーナーの机の上で、ピースの楽譜を広げていました。




 渉夢がピースの楽譜を回収しようとすると、ビリービングが待ったをかけます。彼は、ピースの楽譜をまとめて全部、図書館司書たちの見張り付きのコインロッカーに預けてしまったのです。




 そして、渉夢たちにレゲームセンターに来るよう、促します。




 彼女たちがレゲームセンターに来たとき、未莉の路上ライブは終わっていたため、道が空いていました。




 レゲームセンターの建物の外装はカホンという四角い箱状の楽器が大きくなったような感じです。




 「あれ、ビリービング、入り口がないよ」

 オープがレゲームセンターの入り口をうろうろしていると、




 「ここのゲーセンは、会員とその関係者じゃないと入れない。オブー、そこにいたら邪魔だ。あっち行け」

 と、ビリービングが言ってきました。彼に手でしっ、しっとされ、オープは舌をべっと出します。




 「あんた、2年前よりはしゃべれるようになったみたいだけど、そういうクールなところは変わってないね」

 




 「進実渉夢と、あんたは……?」

 ビリービングはファオに名前を尋ねました。




 「ファオ=フェーウだ」




 「そこの2人もちょっと後ろに下がりな」

 ビリービングは渉夢たちにも手でしっ、しっとしたあと、三角の磁石のようなものを取り出しました。




 渉夢は彼の持つ磁石を目にし、ピースが自宅の鍵を開けたときの星型の磁石を思い出します。




 ビリービングは三角の磁石のようなものを、レゲームセンターの建物に近づけました。すると、三角の磁石は建物にぴたっとくっつきます。




 次に、嬉しくなるような感じのメロディーが10秒流れたあと、レゲームセンターの入り口の穴が大きく開いたのです。




 レゲームセンターの中に入ることができた渉夢たちは、思ったより静かな雰囲気に驚きます。




 「ここでは、静かにするんだぜ。おもしろいよな、異世界ミュージーンは。地球だと図書館は静かでゲーセンはうるさいぐらいなのに、ミュージーンだとその逆だ。まるで、図書館の方がゲーセンみたいだぜ」

 と、ビリービングは、ひそひそと渉夢たちに話しながら、雑談コーナーへ案内していました。




 雑談コーナーは、人や動物たちがそれぞれ、コミュニケーションを取りながらゲームをしています。




 ビリービングは渉夢を手招きし、ポケットから何枚かカードが入ったケースを取り出します。




 「進実渉夢、あんたは早く地球に帰った方がいい」




 「また、それなの。どうして?」

 渉夢は呆れた表情でビリービングに聞きました。




 「あんたはさっき、図書館の休憩場であんたより先に先輩が来た的なこと言ってたよな。この話からすると、あんたはもしかすると、デュールブって奴にとって、招かれざる地球人だ。だから、これ以上、大変にならないうちに地球に帰った方がいい」





 「帰れません」




 「そうだよ、ビリービング、渉夢は帰れないんだよ。ピチスお兄ちゃんの楽譜の歌詞から、渉夢にお兄ちゃんたちを捜すように頼まれているんだから」

 渉夢の横でオープが口に出します。




 「ピースの楽譜の曲は、残念ながら進実渉夢に頼んだものじゃなくて、オレに頼んだものだ」

 ビリービングが目を閉じながら言うと、




 「そんな……」

 渉夢は衝撃を受けていました。




 「進実渉夢、ピースがあんたに何か頼んでいったとしたら、楽譜をオレに渡すことだったんだよ。そのペンダントもな」




 「みゃ、みゃみゃ、何か言われてみると、ぼうやの発言が正しく思えてきたわ」

 クログーが口を開くと、ビリービングはネコの頭をなでます。




 「ネコは理解が早いな。進実渉夢、あんたのペットも災難だったな。あんたとたまたま(いざな)いの楽譜に巻き込まれて異世界ミュージーンに来てしまったのだからな。かわいそうに。さあ、この子のためにもあんたは地球に帰った方がいい。ピースのペンダントもこっちに……」





 「渡さない」




 「は?」

 渉夢に眼を付けるビリービングです。




 「渡さない。君の言うとおり、ピースさんはまた何か起こったときのために、ビリービングくんに楽譜を書いたのかもしれない。でも、これは何?」

 渉夢はリュックの中から、リコーダーを取り出しました。




 「リコーダーだよな」




 「そうだよ。これは、ピースさんが楽譜の魔法で託してくれたリコーダーなんだ」




 「ピースがあんたにマジックインストルメントを託したって」

 ビリービングが動揺した表情で渉夢の持つリコーダーを見ています。




 「マジックインストルメントって?」

 渉夢が誰かに振ると、




 「ピチスお兄ちゃんの楽譜の魔法から現れたいろいろな音が変えられるマジックサウンドの楽器のことだよ。本当はゴーの使っているリコーダー、ピアノの音の他に例えば、バイオリンとかトランペットとか別の音が出せるんだよ」

 こうオープが答えてくれました。




 「そうなんだ。知らなかったな。ねえ、じゃあ、オープの鍵盤ハーモニカもマジックインストルメントだよね。他の音って出るの?」




 「もちろん、出るよ」




 「ピース、どうして、こんな奴らにマジックインストルメントを……」

 ビリービングは納得いかない気持ちで渉夢とオープを睨みます。




 「ビリービング、君、今、ゴーたちのことをこんな奴らって言わなかったか?」

 ファオが細目で言いました。




 「ああ、言ったよ。特に進実渉夢、オレはとにかく、お前にピースたちを捜すことを任せたくない」




 「本当は、それが言いたかったんだね」

 肩をすくめる渉夢です。




 「これから、お前にゲームを挑むよ。運も実力のうちって言葉、オレは信じる方だ。だから、このカードゲームにお前が勝ったら、オレはお前らの仲間に入る。ENCOURAGE(エンカレッジ)の捜索に協力する」




 「本当に?」

 ビリービングに期待の眼差しを渉夢が送ると、彼は真剣な顔のまま頷きます。




 「ああ。ただ、お前が負けたら、ネコと地球に帰りな。お前の知ってる先輩のことなら、オレに任せておけばあっという間に解決する」




 「ビリービングくん、私だって君みたいに冷たい人に任せるのが心配だよ。未莉先輩のことだって多分、助けないでしょう。私はゲームに絶対に勝ってピースさんたち全員、捜すから」




 「フルネームの通り、進み歩むか。ゲームのルールは簡単だ。これからオレがENCOURAGE(エンカレッジ)の曲の1部をハミングするから、その歌詞のカードをお前が取って当たっていたら、お前の勝ちだ」


 ビリービングはルールを説明しながら、ENCOURAGE(エンカレッジ)の歌詞の1部がそれぞれ書かれてある数枚のカードをテーブルの上に並べました。




 「ENCOURAGE(エンカレッジ)の曲の歌詞ってこんなにたくさんあったっけ?」

 渉夢が目を点にさせます。




 「ああ、このカードたちを全部並べて、ENCOURAGE(エンカレッジ)の曲は占めて3曲分だ。この中からお前が当てられたら、運も実力のうちってことで認めるよ。勝負は1発で行くぞ」

 と、カードを全部並べ終えたビリービングです。




 「うん」

 ゲームが開始となり、渉夢は緊張感を持ちながら、机の上に並べられているカードを見ます。




 「ん~、んんん~、んん~」

 と、ビリービングはENCOURAGE(エンカレッジ)の曲の1部をハミングをしました。




 「あれ?」

 渉夢はまた目が点になります。まったくわからないからです。




 「もう1度ハミングするぞ。ん~、んんん~、んん~」




 「あたし、さっぱり、わからない……」




 「ぼくもだ。どこをどうハミングしているのか全然わからない……」


 オープとファオは頭を抱え込んでいました。




 「みゃ、みゃみゃ、渉夢の第六感にかかっているね」

 クログーは毛づくろいを始めてしまっています。




 「ビリービングくん、ハミングをもう1度いいかな」

 渉夢は人差し指を1本立て、彼に3度目のハミングを頼みました。




 「あと1回だけだぜ。このゲームはハミングでクイズを出すときは3回までなんだ」




 「何回もだめだなんて。わかった、お願い」




 「ん~、んんん~、んん~」




 「………」

 渉夢はビリービングのハミングをよく耳にし、何枚かカードを自分のところに寄せ、候補を絞ります。そして、自分の勘を信じ、『う~、流れる歌~』と書いてあったカードを1枚を選び、ビリービングに見せます。




 すると、ビリービングは驚いた表情で渉夢を見たあと、




 「正解!」

 と、はっきり言いました。





 「やったね、ゴー!」

 オープがジャンプし、万歳をします。




 「すげー、ゴーがあんな難しいハミングの歌詞を当てるなんて」

 ファオはガッツポーズをしていました。




 「お前、実力あるんだな。さっきは悪かった。ENCOURAGE(エンカレッジ)捜し、オレも協力させてくれ」

 ビリービングは頭を下げ、渉夢にお詫びします。

 



 「ビリービングくん……」

 渉夢は微笑し、彼に1歩近づいたところ、




 「何て!」

 ビリービングは渉夢の水色のシュシュをまた取ってしまいました。彼にまた髪をほどかれたことによって、再び髪がセミロングヘアになってしまった渉夢は、




 「あ、ちょっと、もー、ビリービングくん、また人のシュシュを取ってる!」

 と、ムキになりながら、彼から水色のシュシュを取り返します。




 「お前、髪しばってると本当に男みたいだな。髪、ほどいてた方がいいよー」

 ニヤニヤ笑うビリービングに、




 「あの人を仲間にして、本当に大丈夫かな……」

 少々、不安そうなオープです。




 「大丈夫なんじゃない。ゴーがゲームに買ったんだから」

 ファオがにこっと言うと、




 「そうですよね」

 オープは安心し、にこっと笑い返します。





 こうして、渉夢たちはビリービングを仲間にし、ともに行動することになったのでした。

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