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サウンズゴー!  作者: 佐渡惺
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第7話、ジェゲ=ベリディカ


 モッズドタウンを発ってから、エレクトタウンに着くまで半分の距離を通りすぎたところ、弦楽器の音が聞こえてきます。




 渉夢たちは、光の音符の案内矢印に従い、弦楽器の音が聞こえる方向へ進みました。




 「みゃ、渉夢、そろそろ下ろして欲しいんだけど」

 クログーが渉夢の腕の中で暴れます。そこを彼女が抱っこで抑えました。




 「だめだよ。クログーは光の音符にじゃれちゃうんだから」




 「さっきから、バイオリンの音が聞こえてくる」

 オープが片手を耳にやります。




 「誰か、人か動物が演奏しているのですかね?」

 渉夢がファオに振ると、彼は左右に首を振りました。




 「ううん、誰も演奏していないよ」




 「まさか、ボギーノイズ……?」

 渉夢は、複数のボギーノイズがバイオリンの演奏をし、やがては自分たちを襲ってくるのではないかと想像してしまっていたのです。




 「ゴー、ボギーノイズじゃないから」




 「オープ、そうなの?」




 「うん、バイオリンの音はあの橋からしているんだ」



 渉夢は、ファオが指をさした先を見てみます。タヌキとキツネの2匹が橋を渡るとき、斜め先に向かって歩いたのです。




 すると、バイオリンの演奏曲が自動的に流れました。そのあと、タヌキとキツネは橋の上を真っ直ぐ歩きます。




 「橋の渡り方が地球にいたときとちがうね。普通は真っ直ぐに渡るけどな。タヌキとキツネみたいに斜めに渡るといいのかな」

 渉夢が試しにタヌキとキツネが橋を渡ったときのように、斜め先に向かって歩くと、今のバイオリン演奏曲から別のバイオリン演奏曲に変わりました。




 矢印方向に変わる光の音符も渉夢とともに来たため、彼女は光の音符に、にこっと微笑みます。光の音符は渉夢の隣でくるくる回っていました。



 渉夢は、ふと足もとを見ます。橋面敷石のところに、4本の線が橋の上に真っ直ぐと伸びていたのです。




 渉夢がそこをじっと見ていると、矢印方向に変化する光の音符が彼女の目の前に来ますが、クログーがじゃれてきたため、光の音符は逃げ出しました。




 「ゴー、クログーがまた光の音符を追って行っちゃったよ」




 「追わなくていいのか?」


 オープとファオが渉夢に声を掛けますが、




 「この橋の4本の線、バイオリンのE線(エーせん)A線(アーせん)D線(デーせん)G線(ゲーせん)みたい。この上をさっき斜めに歩いたから、バイオリンの演奏が別の曲に変わったのかな」

 渉夢は4本の線を見たまま、独り言を言っていたのでした。




 「バイオリンの曲、良い曲だな。ENCOURAGE(エンカレッジ)の演奏だろう」




 「ピースさんたち、バイオリンも弾けるの?」

 渉夢がオープに振ると、




 「ううん、ピチスお兄ちゃん、バイオリンは弾けないよ。ピチスお兄ちゃんの仲間の中で誰かが得意だったかな」

 と、少女はこう否定し、言ったのです。




 「渉夢、この先に公園があるよー!」

 クログーが、遠くから叫びます。




 渉夢たちはバイオリン演奏が鳴る橋を走りながら渡り、クログーと矢印方向に変化する光の音符に向かいます。




 クログーは駆け寄ってきた渉夢たちの方へ行き、光の音符は公園の方向に矢印を変化させながら、噴水のところを8の字に飛び回っていました。




 「ちょうど休憩できるな。お、ラウン自動販売機発見!」

 ファオはラウン自動販売機と言う自動販売機を発見し、飲み物を渉夢たちの分も含めて4本分、買おうとします。




 「あ、ファオさん、あたしと渉夢とクログーの分は大丈夫ですよ。あたしが買いますから」

 オープが遠慮しましたが、彼は聞かず、人数分の飲み物を買います。




 「飲み物ぐらい、おごらせてよ。メロティー3本と、冷たいけどミルク1本!」

 ファオがラウン自動販売機で飲み物を買うと、自動販売機の両脇から、アコーディオンを持った白と茶色いウサギのからくり人形が出てきてダンスをします。そして、




 「ザディ公園へようこそ~、エレクトタウンに行く前に、ゆっくり休んでね~」

 と、白と茶色いウサギのからくり人形は、アコーディオンの演奏をし、歌ったあと、ラウン自動販売機の中へ引っ込みました。




 「これが、ラウン自動販売機のウサギのからくり人形なんだね」

 渉夢は異世界ミュージーンの自動販売機に感応していたのでした。




 「ミュージーンの自動販売機はこれが普通だよ」




 「ゴー、地球人にラウン自動販売機は珍しいか」




 「はい、私が住んでいるところの自動販売機は、飲み物を買ったあと、からくり人形が出てくることはないです」



 

 「そうなの、派手なのないんだね」




 「そう、ないの」



 渉夢たちは会話をしながら、バイオリンのスタチューのベンチに座って飲み物を飲みます。




 冷たいミルクを渉夢は持っていた使い捨ての紙皿でよそい、クログーに与えました。




 「うん、おいしい」




 「ねえ、クログー、光の音符、どこに行ったか知らない?」




 「あっちで、遊んでいるわ。わたくし、水があるところ、だめなの。あっちまで追えない」




 渉夢はクログーの言葉から、噴水の周りを矢印方向に変化する光の音符がくるくる回っていることがわかります。




 「ああして光の音符を見ていると、ピチスお兄ちゃんが歌っているみたい」




 「ぼくもピースが噴水のところで歌っているように見えるよ」




 「あ!」

 オープとファオの会話を聞き、渉夢は声をあげ、黄緑のストライプが入ったリュックから、ピースの楽譜を取り出しました。




 渉夢は、らららとピースの楽譜の最初から歌い、歌詞が書き足されていないか、チェックします。




 「ゴー?」

 ファオが首を傾げていると、




 「コンティーニュさんがこの前、見つかったから、もしかするとピースさんの歌詞の先が進んでいるかなって」




 「ゴー、見せて。あ、3節目が書いてある」




 「どれどれ、うん、本当だ」




 「ファオさん、歌をリクエストしてもいいですか?」




 「ぼ、ぼく?」




 「はい、ファオさんの歌声、聴いてみたいです」




 「いいけど、あとで知らないぞ」




 「大丈夫です、歌って下さい」

 と、オープが言ったあと、ファオは息を吸い、歌い始めます。しかし、




 「ぼくら~は~、とらわれ~の~、えんか~れっじぃ~」

 音程がちがい、渉夢はストップをかけました。




 「ファ、ファオさん……?」

 オープは彼の個性的な歌い方を知ってから、目が点になります。




 「音痴ね」

 クログーがファオのひざの上に乗り、そう言ってから下りました。




 「こら、クログー!」

 渉夢が叱ると、ファオは両手を振ります。




 「いいよ、ゴー。音痴なのは本当だ。ぼく、歌が苦手なんだ。だから、カラオケも苦手だ。ごめん、ロッビ、がっかりさせたな」




 「いいえ、びっくりしたけど、そんなことないです。苦手の1つや2つや8つありますって」




 「オープ、数字が飛んでるよ。しかも、苦手の数が多くなってるよ」




 「もう、ゴーは細かいな。あ、そうだ、ファオさん、ここがサディ公園ならあの役が打って付けですよね。あたし、ファオさんがメロティーのCMでご出演していたお巡りさん役が好きでよく観ていました。リクエストしていいですか?」




 「ロッビ、よく観てくれたね。ありがとう。リクエストにお応えして、やってみるよ」




 「やったー…、じゃなかった、ありがとうございます!」




 ファオはオープの言うメロティーのCMに出演していたお巡りさん役を演じました。飲みかけのメロティーを持ちながらポーズを決め、セリフを話します。




 「君たち、こんな時間まで遊んでいると、パパとママが心配するぞ。これを飲んで早く帰りなさい。メロティー」

 ファオがセリフを話し終えると、オープは頬を紅潮させ、拍手をします。




 少女の他にもサディ公園にいた女性たちや、タヌキやキツネなどのメスの動物たちもファオの演技に拍手を送り、彼の周りに集まりました。




 まるで、自然とサインと握手会のようになり、ファオは照れくさそうに今、彼のファンになった女性たちとメスの動物たちと交流していたのでした。




 それが落ち着いたあと、渉夢たちはサディ公園から移動します。光の音符の矢印案内は続いていました。




 再び、クログーが光の音符にじゃれようとしていたため、渉夢は抱っこして抑えます。




 「もうサディ公園まで来たから、エレクトタウンが近いね」

 オープが渉夢とクログーを見たあと、ファオを見て言うと、彼は地面の方を向いて歩いていました。




 「ファオさん、どうかしたのですか?」

 渉夢に聞かれ、びくっとなった彼は光の音符の矢印に注目しながら答えます。




 「さっきの子たち、ぼくの対応はどうだったかなって思って。ぼく、ちゃんとできてなかったよな。大丈夫かな。大丈夫じゃないよな。握手もできていなかった子もいたな。大丈夫かな。大丈夫じゃないよな。ぼく、だめだよな」




 「みゃ、みゃみゃ、この人、ネガティブになってるよ」




 「ファオさん、大丈夫ですよ。みんな、ファオさんに励まされて、活き活きとした目で帰って行きましたから」




 「ゴー、本当か?」




 「本当ですよ。格好いいって言いながら帰って行きました」



 

 「ファオさん、格好悪いです」




 「オ、オープ……」




 「みゃ、みゃみゃ、言っちゃったね……」





 「でも、そういうところも好きです」




 「ロッビ……」




 ファオがオープと見つめ合っていると、光の音符は右の矢印方向のまま、オープとファオの周りをハート型に描くよう、飛んでいたのです。




 それを見た渉夢は顔を真っ赤にさせ、クログーの方は首を傾げています。けれども、渉夢が油断しているうちに彼女の腕の中から逃れ、光の音符にじゃれようとしたのです。




 クログーに気付いた光の音符は、慌てて逃げ出しました。




 「あ、クログー、いつの間に。待って!」

 やっと、抱っこしていたクログーがいなくなっていたことに気が付いた渉夢も急いで追いかけます。オープとファオも渉夢に続きました。




 矢印方向に変化する光の音符は、クログーから逃げながらも渉夢たちを真っ直ぐの方向に案内中、突然消えます。キラキラの音符のトンネルが現れたからです。



 「あのトンネル、私たちが異世界ミュージーンに来たときと同じ音符のトンネルだ」




 「くぐろう、ゴー」




 「うん」

 渉夢はオープの言葉に頷き、彼女たちはトンネルの中をくぐります。




 キラキラの音符のトンネルを抜けると、フラットの音符に囲まれた看板があり、『エレクトタウンへ、ようこそ!』と書かれてありました。この看板を目にした瞬間、渉夢たちはエレクトタウンに到着したことを喜びます。





 エレクトタウンは人間の次にキツネとタヌキが多い人口でした。その次にウサギが多く、買い物かごを持って歩く姿や、日傘を持って歩く姿がうかがえました。




 また、エレクトタウンの建物はモッズドタウンのときみたく、民家が多いところが特徴でした。渉夢たちは、2年前に異世界ミュージーンに来た地球人の少年であるビリービングを捜します。




 「ゴー、ビリービングは、本当にここにいると思う?」

 と、オープです。ビリービングはいないのではないか、と思ってしまっています。




 「わからないけど、その子が好きな場所がそろってるエレクトタウンなら、見つかるかもしれないって思っているんだ」

 渉夢が確信したような表情で言うと、オープが先ほどと思っていたことが変わったようです。




 「わかった、ゴーの勘を信じる」

 と、片手をぐっと握りしめました。




 「なあ、聞き込みをしようか」

 ファオが言うと、




 「みゃ、みゃみゃ、さすが、お巡りさん」

 クログーがニヤニヤします。




 「って、それ、CMに出たときの役だからな。すみませーん、この辺に本が好きでゲームの好きな男の子っていますか?」

 クログーにツッコんだあと、ファオはまず、通行人の女性たちに聞き込みを開始しました。




 渉夢たちも通行人の何人かに声を掛け、聞き込みを開始します。




 すると、エレク図書館にそういう子がいたという情報を入手し、渉夢たちはエレク図書館に向かいました。




 エレク図書館は、ところどころに看板の案内があったため、渉夢たちはすぐにエレク図書館の入り口前まで来られます。図書館の外観の特徴はおもにドーム状です。





 「ビリービングくんかもしれない子、ここにいるかもしれないんだ。ピースさん、ビリービングくんはもうすぐ、見つかるかもしれません」

 渉夢は首に掛けていたピースの全音符のペンダントトップを片手で持ちました。




 「ねえ、ゴー、思ったけど、ピチスお兄ちゃんのペンダントに話し掛けるのはどうして?」

 オープが不思議そうな顔で渉夢に聞くと、




 「何となく、一緒にいる気がするからかな」

 と、彼女は穏やかに笑います。




 「そう言われてみると、ピースがすぐそこにいるような!」

 ファオが言うと、渉夢はピースの楽譜の歌詞を思い出していました。




 「ピースさんの楽譜に書いてあった“真っ暗の中、それでも歌う”って歌詞がありますよね。それがずっと私の頭に残っているんです。オープも前にピースさんの歌詞はまだ完成していないこと言ってたよね?」




 「うん、確かに言ったよ」





 「ピースさんはどこかで捕まっていても、未完成だった曲を作り続けて、私たちにずっとメッセージの歌詞を送り続けいるんじゃないかって思った」




 「お、ゴーのその考えは、当たっているかもしれないよな」




 「考えすぎかもしれないけど」




 「ううん、当たっているのかも。現に、ピチスお兄ちゃんの仲間たちが捕まっている場所を歌詞で知らせている感じがするもん」





 「渉夢たちー、まだ図書館の中に入らないのー?」

 そろそろ、クログーが退屈してきたようです。あくびをしていました。




 「ごめんね、クログー。ピースさんの話のことで熱くなっちゃった。もう図書館の中、入るよ」

 渉夢はクログーを抱っこし、オープとファオとエレク図書館の中に入ります。




 エレク図書館の中は渉夢たちが想像していたより広く、にぎやかでした。それでも、人間や動物たちは集中して本を読書コーナーで読んでいました。




 「ビリービングくん、どこだろう?」




 「エレク図書館の中、広すぎ」




 「手分けして捜さないとな。これ、トランシーバー。ゴーとクロで使って。トランシーバー2台しか持ってないから、あとの1台はぼくとオープで使うよ」




 「みゃ、みゃみゃ、さすが、お巡りさん」

 ファオが渉夢にトランシーバーを貸したとき、クログーが再びニヤニヤします。




 「だから、それはCMに出たときの役。オープ、行こう」

 クログーにまたツッコみを入れたあと、ファオはオープを呼び、




 「はい」

 少女は返事をし、彼とエレク図書館の2階の方へ行きました。




 「ビリービングくんを見つけたら、報告しますねー」

 渉夢は試しにトランシーバーを使ってみます。すると、ファオとオープの返事が返ってきたのです。




 「ああ」



 

 「すぐねー」



 渉夢たちはオープたちと分かれたあと、左端の本棚からビリービングがいないか捜してみます。




 「みゃー、ビリービングって子、見つかる気がしないけど」

 クログーが先ほどのオープと同じようなことを言いましたが、




 「見つかるよ。そう信じないと、ビリービングくんが見つからない気がする」

 渉夢の答えは変わりません。ビリービングは必ず見つかると思っていました。




 渉夢たちは左端の本棚から時計回りにエレク図書館の中を周りながら、奥の右端の本棚まで進みます。




 図書館の中がにぎやかなことをいいことに、渉夢はピースと出会ったときの曲を鼻歌で歌い始めていました。クログーもみゃーと、渉夢に合わせて歌っていると、




 「その曲は、ENCOURAGE(エンカレッジ)だろ」

 と、声を掛けてきた者がいました。セピア色のサイドパートマッシュヘアをしたビジネスカジュアルな服装をした少年です。




 渉夢はその少年をひと目見て、2年前に異世界ミュージーンに来た地球人の少年と第六感で判断し、




 「ビリービングくんですよね?」

 と、尋ねたのです。少年は眉をぴくっとさせましたが、




 「誰だ、ビリービングって。オレは、ジェゲ=ベリディカだ。あんたは?」




 「ビリービングくんじゃなかったのですね。私は地球から来ました、進実渉夢です。こっちはペットのクログーです」

 渉夢とクログーが自己紹介したとき、ジェゲは彼女たちの顔を見て、いきなり笑い出します。そして彼は、




 「あんた、女か。髪を後ろにまとめていたものだから、男だって勘違いするとこだったよ。女は髪、ほどいていた方がいいよ」

 と、渉夢がしばっていた髪をさっとほどいては、彼女の水色のシュシュを持って行ってしまいました。




 「………」




 「みゃみゃ……」




 髪をジェゲにほどかれ、髪型がセミロングヘアに変わってしまった渉夢と、隣にいたクログーは、少年のしたことに、ぽかんとした表情で立ち尽くしていたのでした。

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