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サウンズゴー!  作者: 佐渡惺
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第5話、モッズドタウンのフリー俳優


 モッズドタウンの町中に入った渉夢たちは、ピースたちの姿を捜しながら、会話をしていました。




 「私たちを案内してくれた光の音符、消えちゃったね」

 と、渉夢が言ったわけは、矢印に変化する光の音符がモッズドタウンに彼女たちが到着したとき、消えたからです。




 「そうだね、どこからピチスお兄ちゃんたちを捜したらいいのか、もうわからないよね」

 渉夢の横を歩いていたオープは、グレーのパーカーのポケットに手を突っ込んでいました。モッズドタウンは多少、冷える町のようです。




 「渉夢、わたくし、寒くなってきた。どこか暖かいところ行かない?」

 クログーは全身ぶるぶる震わせていました。




 「うん、冷えるね、どこか暖かい場所があるといいけど」




 「渉夢ー、寒いー、みゃー、みゃみゃー」




 「クログー、あんた何も着てないから寒いんでしょう」

 グレーのパーカーのポケットに手を突っ込んだまま、オープはクログーの前にしゃがみます。




 「これ以上、何か着たら今度は暑すぎちゃうの」

 クログーがオープの方を見上げると、




 「しょうがないな。抱っこするか」

 と、オープはクログーを抱き上げたのです。




 「うん、いくらか寒さがマシになったわー」

 クログーは落ち着きます。




 「オープ、クログー、あっちの喫茶店はどう?」

 渉夢は『ガラーカフェ』と大きなマラカスのかたちをした看板を指さしました。




 「みゃ、みゃみゃー、暖かいところなら、わたくし、どこだっていいわ」

 オープに抱っこされたクログーは、ぴょんと少女から離れ、ガラーカフェに先に走ります。




 「クログー、待って」




 「まだメニューの表示されている立て看板を見ていないのに」




 「寒くて待てないわ。ふー、暖かい。それに、いいニオイがするわねー」




 「もう、クログー」

 渉夢はクログーを抱っこし、捕まえました。




 「ゴー、ここんち、そんなに高くないみたいだよ。暖かい飲み物とケーキが食べられるよ」




 「良かった。でも、混んでて座れないね」




 「どっか空いてるところは……」


 渉夢たちが空席を探していると、五角形のサングラスをし、背が高く、黒髪のワイルドヘアの男の子が、




 「こっち、2人分、席が空いてるからおいで」

 と、話しかけてきたのです。



 渉夢たちは喜んでその男の子が座っているテーブルのイスに座ります。




 「あの、座らせてくれてありがとうございます」




 「ううん、ここんち、混むからね」




 「………」

 オープは座ってから、五角形のサングラスをした黒髪の男の子をじっと見ていました。




 「君、ぼくに用?」

 少女の視線に気づいた男の子が、オープに尋ねます。




 「ジャンパー、カッコイイ」

 オープは男の子が着ているベージュのジャンパーに向かって言いました。




 「サンキュー」

 男の子は口の端をにっと上げます。




 「ズボンもカッコイイし、靴もカッコイイ」

 イスから一旦降り、彼の黒のデニムズボンと、深緑のローファーも眺めていたのです。




 「褒めてくれてサンキュー」




 「あの、もしも、人ちがいだったら、すみません。俳優のファオ=フェーウさんですよね?」

 オープが小声で男の子に聞くと、彼は五角形のサングラスを少しだけ外し、頷きました。




 「やっぱり、ファオさんだったのですね。偶然、こんなところで会えるなんて最高!」




 「オープ、あなた、かなり嬉しそうだけど」




 「だって、あたし、ファオさんのファンだもん」




 「素敵……」

 渉夢の方は、ピースたちENCOURAGE(エンカレッジ)にサインをもらって、一緒に写真を撮ってもらっているところを想像します。




 そのあと、オープの輝く瞳に映るファオの姿が美化されていきます。しかも、渉夢の想像上、オープとファオの周りは、赤いバラに囲まれていったのです。




 「渉夢、またあなた、何か考えすぎてない?」




 「あ、確かここはガラーカフェ……」

 渉夢はクログーの声で我に返ったのでした。



 「お待たせいたしました、メロティーでございます」

 ガラーカフェの女性店員が中身の入ったお茶のポットとカップをセットで持ってきました。



 「うん、ここに来たら、メロティーを飲まないとな。そうだ、君たちもメロティーを飲むよな。おごるよ」

 ファオが財布をジャンパーの内ポケットから取り出すと、




 「そ、そんな、ファオさんにおごってもらうなんてできません。店員のお姉さん、メロティーを2つと、ホットミルクを1つに、メロティーラミスを2つ!」

 オープはファオに断ります。女性店員に注文し、自分の財布からお金を取り出し、先に会計を済ませました。




 「かしこまりました~、メロティーお2つ~、ホットミルクお1つ~、メロティーラミスお2つ~」

 女性店員は、厨房の方に向かって歌いました。すると、花の音符が出てきて伝票に変化しながら、厨房にいたマスターの男性の手元に届きます。




 「すごい……」




 「あれで、もういいの?」




 「うん、あれで注文受け付けが完了だよ。あとはメロティーと、ホットミルクと、メロティーラミスが出来上がって来るのを待つだけだ」

 渉夢たちが、女性店員を不思議そうに見ていたところが面白かったか、ファオが笑いながら説明していました。




 注文したものを待っている間、渉夢たちはファオの前にあるメロティーの会話をします。




 「さっきは私、メロティーを飲むことを、メロディーを飲むって聞こえてしまっていました」

 渉夢が言うと、ファオは再び笑い、




 「メロディーは飲めないって」

 と、言いました。




 「すみません、私、この子と地球から来たものですから、メロティーのことを知らなくて」

 渉夢はクログーを抱き上げ、ひざの上に乗せます。




 「地球人か。すげー、ぼく、地球人に会ってる。なあ、君とネコくん、名前は?」

 地球人に会うことは初めてなのでしょう。ファオは嬉しそうに渉夢とクログーの名前を聞きました。




 「進実渉夢です」




 「クログーよ」




 「ゴーに、クロな」




 「あ、はい」

 渉夢はいきなり、ファオにあだ名で呼ばれ、驚きますが、クログーは気にしていません。




 「みゃー、よろしく」

 と、言っていたのでした。





 「君も、名前は?」




 「オープ=ロッビです」

 憧れの人に名前を聞かれ、少女は喜んで自己紹介をしていました。




 「ロッビな」

 ファオがにこっと笑うと、




 「………」

 オープはときめき、顔を真っ赤にさせます。




 「ファオさん、メロティーを飲まなくていいのですか?」

 渉夢がメロティーの入ったポットとカップを見て言うと、




 「ああ、冷めてしまうよな。地球人のゴーたちのために、メロティーの飲み方を教えて差し上げましょう。ってこれ、芝居でよくやる真面目な青年役のセリフなんだけど」

 と、ファオです。




 「きゃー、生でファオさんの演技を見たの初めてです。でも、そのサングラスを外してくれたら、もっと良かった」

 オープが正直に思ったことを言うと、




 「ははは、だよな……」

 と、苦笑しました。




 「お待たせいたしました、メロティーをお2つと、ホットミルクをお1つと、メロティーラミスをお2つでございます。ごゆっくりどうぞ」




 「ちょうど、ゴーたちのも来たな。じゃあ、ぼくが手本を見せるよ」

 ファオは先にメロティーが入ったポットを持ちます。それをカップに注ぐと、ドレミファソと、音が鳴ったのです。




 ファオの手本を見たあと、渉夢もクログーにホットミルクを与え、メロティーが入ったポットを持ちます。それをカップに注ぐと、ファソラシドと、音が鳴りました。




 オープも、渉夢のあとにメロティーが入ったポットを持ち、カップに注ぎます。すると、レミファソラと、音が鳴りました。




 「いい音ね」

 クログーはホットミルクを飲みながら、音を聴いていたのでした。




 渉夢たちはメロティーを1口飲みます。




 「これ、紅茶だ」




 「そう、メロティーは紅茶だよ。あと、メロティーラミスは……」

 ファオが説明しようとすると、渉夢は彼を止め、



 「ティラミスと一緒だね」

 と、言いました。白いお皿の上に乗ったティーラミスは八分音符のかたちをしたティラミスのケーキでした。




 渉夢たちは、メロティーとメロティーラミス、クログーはホットミルクを平らげたあと、ファオとともに行動します。




 「地球人って、この異世界の異常気象をENCOURAGE(エンカレッジ)って歌手グループたちと解決したことで有名だよな。君がその地球人なんだろう?」

 ファオが渉夢に質問すると、渉夢は首を振り、次にオープが答えます。




 「ゴーは女の子だから全然、ちがうよ。ENCOURAGE(エンカレッジ)と解決した地球人は、男の子」




 「そっか、別人か。あ、ENCOURAGE(エンカレッジ)のメンバーにピチス=ロッビっていうか、ピースがいたよな」




 「はい、あたしのいとこのお兄ちゃんです!」

 ここでオープが手を挙げました。




 「君、ピースのいとこだったのか。そうだな、君の苗字、ピースと同じロッビだったよな。ぼく、ピースに憧れてるよ」




 「はい、私もです!」

 今度は渉夢が手を挙げると、




 「ゴーもか!」

 と、会話が盛り上がっていったのです。




 そのあと、渉夢たちは、ENCOURAGE(エンカレッジ)が失踪したことについて、ファオに話しました。彼は静かに渉夢たちの話に耳を傾けます。




 渉夢たちが話を終えたあと、沈黙が続きました。しかし、ファオは彼女たちが予想もしていなかったことを口にします。 




 「放っておけない話だな。ぼくも、ゴーたちとピースたちを捜すことを手伝うよ」




 「助かります!」

 渉夢は喜び、オープも一瞬、喜んだ表情になりましたが、首を振ります。




 「でも、ファオさん、俳優のお仕事がありますよね。家族の人たちも心配するんじゃ……」




 「ロッビ、ぼくはフリーの俳優だ。君たちと旅をしながらでも仕事は充分できる。家族みんなにも話して旅の支度をしてくる。君たちもぼくんちに来てくれ」

 ファオはそう言ったあと、先に歩きます。




 渉夢たちもあとに続き、彼の家をたずねました。ファオの家は黒の屋根、白い壁にピアノの鍵盤が描かれた3階建ての一軒家でした。




 あまりにすごい家だったため、やはり渉夢はオープとクログーと外で待つと遠慮しようとします。けれども、ファオは来て欲しいと言い、渉夢たちを玄関に招き入れました。




 渉夢たちが玄関まで来ると、ファオの家の1階の窓から、2頭のメスの柴犬が飛び出してきたのです。2頭とも色違いのリボンの首輪を付けています。




 「わ、柴犬だ!」

 渉夢は見たことのある犬種が異世界ミュージーンにいたと感激していました。




 「地球では犬のことを柴犬と呼んでいるのか」

 ファオが渉夢に言うと、




 「はい、他にも犬の種類はいるのですが、目の前にいる犬は柴犬です。ファオさんちの柴犬、可愛い!」

 彼女は返事をし、2頭の柴犬を指さします。すると、柴犬たちは急に吠え出しました。




 「わん、ワタシたち、柴犬って名前じゃないよ」




 「わんわん、ちょっとファオ兄さん、この失礼なこと言ってる人、誰?」




 「みゃっ、おっかないわね、あの子たち」

 クログーは渉夢とオープの後ろに隠れます。




 「ヤジュ、ユジェ、そんなに怒るな。ぼくの友だちだよ。ゴーたちに紹介するよ。ぼくの妹たちだ。赤のリボンの首輪をしている方がヤジュ、青のリボンの首輪をしている方がユジェだよ。この子たちと血が繋がっているわけじゃないけど、小さい頃から兄妹で育ってきたんだ」

 ファオが2頭の柴犬のことをそう紹介すると、




 「みゃっ、ペットだと思っていたわ」

 と、つぶやいていたクログーです。それが、ヤジュとユジェに聞こえていたか、クログーにわんわん吠えます。




 「わん、失礼な人の次に、失礼なことを言ったネコがいる」




 「わんわん、ユジェたちは飼い犬じゃないもん、兄妹だ」




 「みゃっ、そんなに怒らなくたって。わたくしが悪かったけどさ」

 クログーは渉夢とオープの後ろで縮こまっていました。




 「ヤジュ、ユジェ、父さんと母さんは?」




 「パパは急にお仕事入っちゃって会社に行っちゃった」




 「ママはいるよ」




 「父さんいなくて助かったな」




 「どうしてですか?」




 「ぼくが俳優になること1番に反対してたから。ぼくは俳優になるまでは何も大したことしていなかったからね。妹たちと遊んでた」

 ファオがシリアスな表情で渉夢たちに話していると、奥の方から女性が来ます。ファオのお母さんです。

 




 「ファオ、帰ってたの。おかえり」




 「ただいま。でも、すぐにまた行ってきますかな」




 「話があるんだね」

 ファオのお母さんは彼の近くにいた渉夢たちを見て、真剣な顔になりました。




 「ああ、って、母さん、どうしてそんなに緊張してるの」




 「母さんはいいから、話があるなら早く話しなさい」




 「わかった。母さん、ずっと前に、ENCOURAGE(エンカレッジ)が地球人とモッズドタウンの異常気象の原因を解決したことは覚えているよな。その歌手たちが失踪してしまった」




 「そんな、信じられない、ENCOURAGE(エンカレッジ)がいなくなったなんて……」 

 ファオのお母さんはENCOURAGE(エンカレッジ)失踪に戸惑った表情です。





 「だから、ぼくはたてENCOURAGEエンカレッジを捜しに旅に出たい。ここにいる子たちは地球人とそのパートナーと、ENCOURAGE(エンカレッジ)のピースのいとこだ。ぼくは、この子たちと旅に出たいんだ。俳優は旅をしながら続ける。だから……」




 「わかったよ。何だ、女の子たちをうちに連れてくるものだから、てっきり結婚したい子を私に紹介しに来たのかと思ったよ」




 「母さん、それで表情固くなってたのか。ぼくはそれ、まだ全然、遥か先だよ」

 と、ファオは呆れていました。




 「そんなの、わからないじゃない。あなたみたいな子は、出会ったらあっという間にすぐ決まってしまうんだから……。ぐっすん……」




 「泣くなって」

 泣き出すお母さんに慌てるファオに、




 「嘘泣きでーす」

 お母さんはにかっと笑い、舌を出します。




 「ファオさんのお母さん、演技派だね。地球のテレビ番組にあるドラマを観ているようだった」

 渉夢が苦笑していると、




 「ぼく、いつもだまされているよ。母さん、結婚前は舞台女優をやってたからな」

 と、ファオは後ろ頭をかきました。




 「ファオ、今度帰って来たときには、母さんをだませるぐらいの演技を見せなさい。それと、ENCOURAGE(エンカレッジ)の捜索も頑張りな」




 「母さん、ありがとう」




 「父さんのことは気にしなくて大丈夫だから。私が言っておくから」




 「ああ。ゴーたち、ちょっと待ってね。さっと支度をしてくるから」

 ファオは階段を上がり、急いで支度を始めました。




 しかし、数分後、お母さんにあれを知らないか、これを知らないかと、準備するものを探すことに時間が掛かってしまいます。




 結局、渉夢たちも2階の部屋でファオの旅支度を手伝うことになったのでした。




 「ゴーたち、悪いな。おかげで支度は済んだよ。行こうか」




 「まだでしょう。散らかしたもの、引き出しにちゃんとしまって」




 「悪い、母さん、掃除にうるさかった」




 「ファオさん、手伝いますよ」




 「あたしも」




 「サンキュー。でも、いいよ、ぼくがみんな片付けるからゴーたちは下でゆっくりしてて」

 と、ファオは丁重に断り、渉夢たちを1階に行かせました。




 渉夢たちが階段を下りたとき、血相を変えたクログーがやってきます。




 「渉夢たち、外に来て! ボギーノイズが出た!」




 「え!?」

 渉夢はリュックから楽譜とリコーダーを取り出し、オープと外に出ます。




 すると、ピースの家の前にいたときと同じボギーノイズが2体いました。大きな黒の雫のかたちをした四分音符のボギーノイズです。その近くに、ヤジュとユジェが鳴きながらおびえていました。




 「ゴー、ピチスお兄ちゃんの楽譜!」




 「うん!」

 渉夢はピースの楽譜の最初をらららと歌います。それから、楽譜に現れた歌詞に目を通すと、歌詞が前のときより増えていました。




 「歌詞の続きがだいぶ書かれてある」




 「渉夢、最初から歌ってみたらいいんじゃない」

 クログーの言葉に渉夢は頷き、声を出して歌ってみます。




 「真っ暗の中~、それでも歌う~、僕らは君に~、期待の歌を送る~、僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~。この歌を歌う君よ~、僕らをきっと~、捜し出してくれ~、今こそ進め~、ゴー! 僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、民家多き町のどこか~、1人動けずに歌う~。少女よ~、ハーモニーマジックでこの歌を歌う君の力になって欲しい~!少女よ~、今こそ変わるとき~、進め~、ゴー!」


 渉夢が歌い終わったあと、楽譜から光の音符が現れ、鍵盤ハーモニカに変化し、オープの元へ飛んで行きました。その間、ボギーノイズの動きは止まっていたのです。




 「これ、あたしに……?」

 オープの手元に鍵盤ハーモニカが届き、少女は鍵盤ハーモニカを吹こうとかまえます。




 「みゃ、みゃみゃ、歌詞の少女ってオープのことだね」




 「オープ、歌ってみて」




 「うん」




 「歌わせないよ」

 今の女の子の声に、渉夢たちはびくっとなりました。未莉がいきなり現れたからです。




 「み、未莉先輩……」

 渉夢は先輩を前に目を伏せます。




 「進実さん、あなたたち、いけないことをしているわ。だめじゃない、ボギーノイズを消そうとしちゃ」

 黒髪のロングヘアにメガネをかけた未莉は、冷たい表情で特に渉夢を鋭く見つめていました。




 「あんた、言っていることおかしいよ。ボギーノイズをやっつけないと、あたしたちはやられるだけなんだよ」

 オープが未莉に反抗します。




 「ENCOURAGE(エンカレッジ)のいとこさんだったかな。それはあなたがボギーノイズと仲良くしようとしないからでしょう」




 「仲良くは無理に決まってるよ。ボギーノイズがあんまり増えると、また2年前のときみたいに異世界ミュージーンがおかしくなるだけだよ」




 「ボギーノイズは悪くないわ。2年前、おかしくなったの他に原因あるんじゃない?」

 未莉がメガネをかけ直しながら言うと、




 「あんた、ピチスお兄ちゃんたちのせいにしようとしてるでしょう。ピチスお兄ちゃんたちが原因じゃないよ」

 オープは彼女を睨みながら、さらに反抗したのです。




 「まだ私、そんなこと言ってないけど」

 未莉は鼻で笑います。




 「………」

 オープは未莉と話すほど頭に血が上って仕方ありませんでした。怒った表情で下を向いていました。




 「渉夢、あなたも何か先輩に言いなさいよ。オープが今にも怒鳴りそうよ」

 クログーも本当は未莉に対し、頭にきているのでしょう。渉夢のひざに頭をこすります。




 「そ、そう言われても……」

 自分が未莉に何か言ったところで、余計に状況が悪くなると思っていた渉夢です。




 「ボギーノイズを消そうとするなら、わたしが阻止する」

 と、未莉は背負っていたリュックから、横笛を取り出しました。




 「あたしだって、あんたの変な歌なんか歌わせない」

 オープがそう言うと、未莉がいきなり少女を怒鳴ります。




 「変な歌だと? 社長が作った曲を悪く言うな!」




 「!」

 オープは目を丸くしました。未莉の口調がいきなり、悪くなったからでしょう。




 「何ができるかわからない~、エンジンかからない~、それでも無理矢理アクセル踏むんだ~、ブレーキはいらない~、ライトもいらない~、自分の好きなようにコントロールプレー!」

 未莉は歌ったあと、横笛を吹き、ボギーノイズ2体を操り始めました。




 ボギーノイズ2体は、オープに襲いかかってきます。少女は鍵盤ハーモニカを持ちながら、逃げました。未莉はボギーノイズたちから逃げるオープを見て、くすくすと笑っていたのです。




 このとき、渉夢はさすがに未莉の好きにさせたらまずいと思ったのでしょう。未莉に抵抗しようと、歌を歌います。




 「真っ暗の中~、それでも歌う~、僕らは君に~、期待の歌を送る~、僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~。この歌を歌う君よ~、僕らをきっと~、捜し出してくれ~、今こそ進め~、ゴー!」




 「え……」

 まさか、渉夢が歌ってくるとは思わず、未莉の横笛の演奏の手が止まります。ボギーノイズ2体の動きもまるで、金縛りにあったかのように止まりました。




 その(すき)に、オープは渉夢からピースの楽譜を見せてもらい、彼女が歌った歌詞の続きを歌います。




 オープが歌うとき、身体全体、たくさんの二分音符に包まれ、渉夢と同じ背丈の女の子に何と、変身したのです。




 しかも、茶髪の髪までさらさらのロングヘアに伸び、服装まで上は白のキャミソール、下は二分音符のワンポイントが入った緑のフリルスカートに変わります。青の帽子はそのまま頭にかぶり、黄緑のリボンが付いた黒のブーツを履いていました。




 ぽっちゃりとした体型だったオープが渉夢と身長が同じぐらいに伸び、やせた姿で登場し、渉夢とクログーは思わずぎょっとします。オープは渉夢たちが驚いている中、歌っていたのでした。




 「僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、民家多き町のどこか~、1人動けず歌う~。少女よ~、ハーモニーマジックでこの歌を歌う君の力になって欲しい~! 少女よ~、今こそ変わるとき~、進め~、ゴー!」




 「オープ、すごい歌上手……」

 拍手をした渉夢です。




 「みゃ、みゃみゃ、さすが、ピースさんのいとこね」

 クログーも渉夢の横で感心します。




 「ふっ、謎の変身したから歌唱力が上がっただけじゃない」

 と、未莉は目を閉じながら言いました。



 

 オープは歌い終わったあと、鍵盤ハーモニカを演奏します。晴れやかになってくる鍵盤ハーモニカの音の効果があったか、ボギーノイズ2体は二分音符と四分音符のしゃぼん玉になって飛んで行きました。




 「かわいそうな子たち」

 しゃぼん玉になったボギーノイズ2体を見た未莉は涙を流し、迎えに来た仲間のボギーノイズたちと姿を消します。





 「あ、未莉先輩って人、いなくなった」

 クログーは両耳をぴんぴんさせ、姿を消した未莉がいた場所に目を向けていました。




 「未莉先輩の歌手名、SCOLD(スコールド)って言ってたよね」




 「そうだけど、ゴー、どうかしたの?」




 「うん、未莉先輩が歌った歌、相手を励ましているつもりかもしれないけど、非難しているように聞こえるんだ。それに、前のライブを聴いたときもそうだったけど、さっきの未莉先輩の歌声、冷たくて暗いものを感じた」




 「渉夢?」




 「………」




 「考えすぎだね」

 と、渉夢が笑って言ったときのことです。彼女が持っていたピースの楽譜全てが、風もないのにファオの家の中に飛ばされて行きます。




 「あ、ピチスお兄ちゃんの楽譜が!」




 「勝手に飛んでる。待って!」




 渉夢たちはピースの楽譜が飛んで行った方向を追いかけました。ちなみにこのタイミングでオープは元のぽっちゃりとした姿に戻ります。




 「あなたたち、さっき、音符の化け物たちと対峙してたけど、大丈夫だったの?」

 と、これまでのことを家の中から見ていたファオのお母さんが、渉夢たちに尋ねます。




 けれども、渉夢たちはピースの楽譜を追いかけることに夢中で、ファオのお母さんが尋ねていたことを聞いていませんでした。代わりに、ヤジュとユジェが大丈夫だったと答えてくれました。




 渉夢たちが追っているピースの楽譜は2階のファオの部屋まで飛んで行き、ファオのディスクテーブルの上にパラパラと落ちました。




 自分の部屋の片付けをしていたファオはすぐ、それに気づきピースの楽譜を拾います。




 「はい」




 「ありがとうございます」

 ピースの楽譜を拾ってくれたファオにお礼を言い、受け取った渉夢です。




 「みゃ、みゃみゃ、ピースさんの楽譜が勝手にここまで飛んだわ」

 クログーはファオの部屋に来たあと、毛づくろいを始めていました。




 「どうしてだろう?」

 渉夢が両腕を組んでいると、




 「ゴー、さっき歌った歌詞のことを思い出してみて。民家多き町のどこか~、1人動けずに歌う~ってあったよね。少女よ~のところまでは歌わなくていっか。民家多き町のどこかって、モッズドタウンのことでしょ」

 と、オープが推測します。




 「うん、それだよね。あとは1人動けずに歌うの歌詞か」





 「ところで、ピースの楽譜が何でぼくの部屋まで飛んできたのかが疑問だけど」

 ここで、ほぼ片付けを終えたファオが会話に参加しました。




 「ゴー、あたしはわかったけど、ゴーはわかった?」

 ファオの言葉に、オープはピースの歌詞の「1人動けずに歌う」についての意味がわかったようです。渉夢に振ると、彼女も頷き、




 「うん、1人動けずに歌うって歌詞の意味は、ファオさんの部屋のどこかにENCOURAGE(エンカレッジ)さんが1人、閉じ込められてるってことだね」

 と、ハキハキと答えました。




 「さ、捜せ、捜せーい、捜せーい」

 ファオの号令とともに、タンスのあちこちを開け、渉夢たちは調べ始めます。




 結局、ほとんど片付いていたファオの部屋がまた散らかってしまう始末でした。




 やがて、ディスクテーブルの引き出しを奥の方まで渉夢たちが開けてみると、引き出しの底板の中に閉じ込められていた人がうっすらと見えたのです。




 金髪のポニーテールに青のドレスを着た女性歌手は、引き出しの底板の中から渉夢たちに助けを求めていました。コンティーニュです。




 渉夢たちは、コンティーニュをどう助けたらいいのか考え、渉夢とオープでピースの楽譜曲の1節目を歌うことに決めました。すると、引き出しの底板の中から、コンティーニュは脱出することができます。




 「助かったー!」

 コンティーニュは胸をなで下ろし、渉夢たちも同じようにホッとしていました。




 こうして、渉夢たちは、ENCOURAGE(エンカレッジ)の1人目のメンバーを見つけることができたのでした。

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