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サウンズゴー!  作者: 佐渡惺
16/19

第16話、サンポーニ山へ

 ENCOURAGE(エンカレッジ)のメイクが作ったかなり大きな音符のトンネルをくぐり抜けた渉夢たちは、ドラム大陸に到着しました。




 潮の匂いが漂い、渉夢たちは海が近くにあると、歩く足を早めます。




 このとき、歩く音がスティックでドラムを叩いているような音に聞こえ、渉夢は面白いと思ったようです。早歩きから走ることに切り替え、ドラムをスティックで叩いたときの音のテンポに近づけていました。




 「こういうとき、ライドシンバルと、クラッシュシンバルと、ハイハットシンバルがあると良かったよな」

 と、後ろの方を走っていたビリービングが言うと、




 「シンバル……」

 ビリービングの言葉を聞いてから、渉夢はレインスティックの森のとき、デュールブに接吻されたことを思い出し、顔を赤くします。




 「ゴー?」




 「わー!」

 ビリービングが隣にくると、渉夢は赤面のまま悲鳴声をあげ、走るスピードをもっと上げました。 




 「もう、ゴー、待ってよー」 




 「そんなに速く走らなくても……」



 オープとファオは、息が上がってしまいます。




 「あいつ、前に陸部に入ってたことを言ってたな。何だ、運動不足って言っていたけど、足速いじゃん」

 ビリービングはそう言っていたものの、内心は渉夢に避けられたことに傷ついていました。




 「わー!」

 ずっと先を走っていた渉夢が、先ほどより大きな悲鳴声をあげながら戻り、勢い良くビリービングにぶつかります。




 「いっててて……」

 彼女とぶつかったビリービングは、痛かったところをさすっていました。




 「ご、ごめんね……」

 謝った渉夢でしたが、彼の顔がまともに見られません。顔を赤くし、オープとファオのところに行きます。




 「ゴー、どうしたんだ?」

 ファオに聞かれ、




 「ボ、ボギーノイズが現れて……」

 彼に対しても顔が赤くなった渉夢は顔をそらし、オープを見て言っていました。




 「え、ボギーノイズ!?」

 少女が先に前方を見ると、四分音符のボギーノイズが3体いたのです。




 「よし、相手があれなら、ピースの楽譜曲の1部だけで倒せるな。今こそ進め~、ゴー!」

 ビリービングは、ピースの楽譜の1節目ラストを歌います。そのあと、オカリナで「真っ暗の中、それでも歌う、僕らは君に、期待の歌を送る」の歌詞のところを吹きました。




 「怯ひるまず進め~、ゴー!」

 オープは、4節目ラストのところを歌い、鍵盤ハーモニカを吹きます。





 「気力を底から~、ゴー!」

 渉夢は7節目ラストを歌い、リコーダーを吹き、ビリービングとオープの音に合わせました。




 渉夢たちの心地良い演奏が響くと、四分音符のボギーノイズ3体は二分音符のしゃぼん玉になり、飛んでいったのでした。




 「ゴー、リコーダーの音が、前よりもっと出せるようになったな」

 ファオが言うと、




 「うん」

 渉夢は照れながら頷きます。




 「ドラム大陸に着いてから、すぐにボギーノイズに出遭うなんてね、先行きが不安だね」




 「こら、オープ、そんな後ろ向きなこと言ってると、またボギーノイズが出るぞ」

 そう言ったあと、ビリービングはプリンゼリーをオープに渡していました。




 プリンゼリーは、ワールドタウンを発つ前に、ピースのお母さんがビリービングにたくさん持たせてくれていたようです。




 「そうだね。ありがとう、ビリービング。あんた、いいとこあるね」

 オープは彼からストローも受け取り、それをゼリーにさし、飲んでいました。




 「ビリービングくん、さっきはぶつかってごめん。ケガは?」

 渉夢が謝ると、





 「ねえよ」

 と、ビリービングは首を振り、大丈夫と伝えます。




 「良かった」

 渉夢がホッとした表情で笑っていたときです。




 「隙あり!」 

 ビリービングは渉夢の水色のシュシュを取ります。1つしばりにから、セミロングヘアになった渉夢は、ぽかんとなりましたが、




 「ちょっと、ビリービングくん、返してよ」

 むっとなり、シュシュを取り返そうとします。




 けれども、ビリービングは渉夢を見てあっかんべーをし、先に走り出しました。渉夢は怒りながら彼のあとを追います。




 「ビリービング、幼い子どもみたいだな」




 「そうですよね。またゴーのシュシュを取ったりして。ビリービング、ゴーにシュシュを返しなよ」



 ファオとオープも呆れながら、2人を追いました。




 渉夢たちは走っているうちに、波の音が耳に入ります。走ることをやめ、ゆっくり波の音のする方へ歩いて行きました。




 「きれい……」

 砂浜の先に広がる青い海が見え、渉夢は歩く足を止め、感動します。




 「オレ、異世界ミュージーンの海は、地球とそんなに変わらないよな。ほら、カモメも飛んでいるし」

 彼女の前を歩いていたビリービングが戻ってきました。




 「隙あり!」

 と、渉夢は彼から水色のシュシュを取り返し、髪をしばり直します。




 「ぼくは海、初めて来たかな。海って、こんなに美しかったんだな」

 ファオが話し終えたちょうど、ざぶんと波がテトラポットに押し寄せ、水しぶきがクリアな雫の音符となって跳ねました。




 「ファオさん、海に来たの初めてって意外です」

 オープが隣に来ます。




 「ロッビは、来たことあるの?」

 ファオはオープの方に顔を向け、尋ねました。




 「はい、ピチスお兄ちゃんたちと昔」




 「オープは小さい頃、ENCOURAGE(エンカレッジ)と一緒に海で遊んだことあるの?」

 渉夢は少女にこう質問したあと、しゃがみます。




 「ううん、2年前も実はここに来たことがあって、ビリービングもそのとき一緒だったよ」




 「じゃあ、ビリービングくんは異世界ミュージーンの海は初めてじゃないんだ」




 「まあね。そうそう、オープは海の中はボギーノイズがいるから泳ぐもんかって、怖がっていたよな。海は塩辛いから、絶対海の中にはボギーノイズはいないってピースたちは言っていたのに、聞かなかったよな」

 渉夢に振られ、オープにニヤニヤしていたビリービングです。




 「今は怖くないし」

 と、オープは両手を腰にやります。




 「じゃあ、今から水着に着替えて泳ぐか」

 ビリービングはそう言ったあと、渉夢を見てぼうっとしていました。




 「ビリービング、お前、何の想像してるんだよ。でも、解るかも……」

 と、ファオの方はオープを見てぼうっとしています。




 おそらく、ビリービングは渉夢、ファオはオープの水着姿を想像しているのでしょう。それに気づいていない当の本人たちは、これからどう晴空せいくうの楽譜を探したらいいか、話し合います。




 「あたしたちは、海で泳いでいる暇なんかないよね。ゴー、このあと、どこに行ったらいいと思う?」




 「ピースさんの楽譜、デュールブさんに取られてしまったから、矢印方向の光の音符が出せないよね。ピースさんのペンダントが晴空(せいくう)の楽譜の隠し場所を知ってるって、ラビングさんが言ってたけど、どうしたらいいのか……」




 「ねえ、ゴー、ちょっと歌ってみるのは?」




 「うん、試してみるよ」

 オープの提案に渉夢は、ピースの楽譜の最初を思い出しながら、らららと歌ってみます。




 そのとき、何と渉夢の首に掛かっているペンダントから矢印方向に変化する光の音符が現れました。




 「ピースの楽譜なしで光の音符が現れた!?」

 ファオが大げさに言うと、光の音符は渉夢の後ろに隠れます。




 「光の音符、人見知りしてるな」

 と、ビリービングです。渉夢の後ろに隠れている光の音符の様子をうかがっていました。




 「ピチスお兄ちゃん本人の性格がちょっとそうだったかも。だから、今出た光の音符は、お兄ちゃんの性格が多少、影響しているみたい」




 「あんなに大勢の前で歌っているピースが、ぼくは人見知りに見えないけど」

 オープの話を聞き、信じられずにいたファオでした。




 「………」

 渉夢はENCOURAGE(エンカレッジ)失踪前、クログーとピースの家に泊まった晩に見たピースの真顔を思い出していました。そして、ピースが人見知りということを納得します。




 「ピースさんの楽譜、デュールブさんに取られてしまったから、矢印方向の光の音符が出せないよね。ピースさんのペンダントが晴空(せいくう)の楽譜の隠し場所を知ってるって、ラビングさんが言ってたけど、どうしたらいいのか……」




 「ねえ、ゴー、ちょっと歌ってみるのは?」




 「うん、試してみるよ」

 オープの提案に渉夢は、ピースの楽譜の最初を思い出しながら、らららと歌ってみます。




 そのとき、何と渉夢の首に掛かっているペンダントから矢印方向に変化する光の音符が現れました。




 「ピースの楽譜なしで光の音符が現れた!?」

 ファオが大げさに言うと、光の音符は渉夢の後ろに隠れます。




 「光の音符、人見知りしてるな」

 と、ビリービングです。渉夢の後ろに隠れている光の音符の様子をうかがっていました。




 「ピチスお兄ちゃん本人の性格がちょっとそうだったかも。だから、今出た光の音符は、お兄ちゃんの性格が多少、影響しているみたい」




 「あんなに大勢の前で歌っているピースが、ぼくは人見知りに見えないけど」

 オープの話を聞き、信じられずにいたファオでした。




 「………」

 渉夢はENCOURAGE(エンカレッジ)失踪前、クログーとピースの家に泊まった晩に見たピースの真顔を思い出していました。そして、ピースが人見知りということを納得します。




 「ピチスお兄ちゃん、明るく見えて、過去に暗い経験を積んでいるんだ」




 「過去に暗い経験って何だよ。初めて聞くぜ」

 オープの話が気になったビリービングです。




 「ピチスお兄ちゃんは同い年の人たちから、陰口を叩かれたり、仲間外れにされたり、後ろから突き飛ばされたりされてたんだ」

 と、オープが言ったとき、




 「いじめじゃねえか」

 ビリービングは眉間にしわを寄せ、両手のこぶしを握ります。




 「そんないじめてきた子たちを、みんなやっつけてくれたのが、ラビングさんだよ」




 「それ、意外だ!」

 オープからラビングと聞き、ビリービングは驚いていました。




 「当時のラビングさん、髪型をモヒカンにしてなかったし、ハートのサングラスもしてなかったよ。成人してENCOURAGE(エンカレッジ)の活動し始めてからイメチェンしたみたい」




 「おおー」

 イメチェンの言葉を使っていたオープに感嘆の声をあげていた渉夢です。




 「ラビングさん、ピチスお兄ちゃんよりも1つ年下だけど、強かったよ。ピチスお兄ちゃんをいじめてきた人たちのやっつけ方もおもしろくてね、愛がなくてかわいそうな子たちよって、強く抱きしめながら懲らしめてた」




 これには、話をしているオープを除き、渉夢たちは吹きました。




 「ず、ずいぶん、べたべたした懲らしめ方だな」

 ビリービングは笑いすぎでお腹が痛くなります。




 「そ、その懲らしめ方は、男同士だからできるものなのかもしれないな……」

 ファオも笑いすぎで、せきが止まらなくなりました。




 「もちろん、ピチスお兄ちゃんをいじめてきた子たちは抱きついてきたラビングさんに抵抗してたよ。抵抗していたけど、ラビングさんの抱く力が強すぎてギブアップしたみたい。ピチスお兄ちゃんに謝って、それからはピチスお兄ちゃんをいじめてこなくなったよ」




 「そうだったんだ」




 「あー、笑ったー」

 やっと、笑いがおさまってきたビリービングです。




 「あれ、光の音符は?」

 ファオは辺りを見回すと、光の音符が渉夢の後ろで光の大きな矢印方向に変化しているところが見えます。




 その後、光の大きな矢印方向は渉夢たちの現在いる海と反対側の山の方へ伸びていきました。





 「あっちへ行った方がいいってことかな」

 渉夢が、光の大きな矢印方向の指した先の山に目を向けます。




 「あの山にラビングさんの隠したピチスお兄ちゃんの晴空(せいくう)の楽譜があるんだね」

 オープが光の大きな矢印方向に話し掛けるように言うと、光の大きな矢印方向は元の小さな光の音符に戻りました。




 「行くのか?」




 「ああ、ピースの晴空(せいくう)の楽譜が向こうにあるから、山に行くんだよ」

 ファオに声を掛けられたビリービングは先に歩き出します。




 「わかった、行こうか、山に」

 彼に続いて歩いたファオです。




 「ファオさん……」

 オープは彼が半分不安そうにしていたからでしょう。心配そうに彼の名を呼び、次に動きます。




 「またあとで、ゆっくり見に行けたらいいな」

 と、渉夢が海を見て言ったあと、先に歩いていた3人のあとを追いました。




 海は渉夢たちを見送るかのように、大きな波が砂浜のテトラポットに打ち寄せます。




 テトラポットにざぶんと波がくると、たくさんの水しぶきがクリアな雫の音符に変化し、飛んで行ったのでした。




 矢印方向に変化する光の音符の細かな案内を頼りに、渉夢たちは小休憩を何度か挟み、山の登山口まで来ました。光の音符はここで消えます。




 彼女たちがそこまで来ると、『サンポーニ山』と太字で書かれた小さな看板が目に入ったのでした。何匹かシマリスが看板を持っていたからか、看板が右斜めか左斜めに傾いていました。




 登山口の奥に進むと、ウォームコートを安い値段でレンタルしている『ウォームコートレンタル店』といったお店を渉夢たちは発見し、寄ります。ここの店員もシマリスでした。




 渉夢たちは、ウォームコートをよく試着し、レンタル賃をリスに払ったあと、4人ともカラフルなコートを借りました。




 渉夢は水色、オープはピンク、ファオは黄緑、ビリービングはオレンジのコートを着てサンポーニ山を登り始めます。




 「このコート、暖かいね」




 「サンポーニ山は強い風が吹く寒い山だけど、ウォームコートを着ていると、何も感じないね」




 「反対にオレ、暑くなってきた」

 ビリービングがコートを脱ごうとしましたが、やはり寒くなったため、脱ぐことをやめます。




 「ははっ、大丈夫か、ビリービング」




 「ウォームコート、サンポーニ山を下山するまで絶対に脱がねえ方がいい」




 「風、そんなに冷たかったんだね。わかった」




 「強い風と寒さ気にしないで、普通に歩けた方がいいよね」




 渉夢たちは会話をしながら、山をどんどん登って行きました。ビリービングが渉夢の知らないENCOURAGE(エンカレッジ)の曲を歌ってくれたことにより、彼女たちの山を登る足が軽くなっていきます。




 サンポーニ山の中腹まで来ると、プレハブ小屋はありました。プレハブ小屋がレインスティックの森のときと似ていたか、渉夢はどきっとなります。デュールブのことをまた思い出したからです。



 「ゴー、どうしたの?」

 渉夢が立ち止まっている姿に気づいたオープです。ファオとビリービングを先に行かせてから来ます。




 「ううん……」




 「ゴー、気のせいだったら、ごめん。あんた、レインスティックの森で、はぐれたあとから変じゃない?」




 「オープ……」




 「あと、ビリービングとファオさんをちょっと避けてるでしょう。どうして?」




 「オープに話すけど……」

 渉夢はレインスティックの森で、はぐれたあと、デュールブと会ったときの細かい出来事を話しました。オープは渉夢の話の内容に顔が赤くなります。




 「え、デュールブとキスって……」




 「そのせいで、ビリービングとファオさんと話すとき、恥ずかしくなっちゃって。私、男の人のこと意識しすぎだ……」




 「ゴー、はぐれてる間、散々だったんだね」




 「ありがとう、オープと話していたら、すっきりした」




 「そっかー、あの野郎、お前にそんなことをね」




 「ビリービング、女の子たちの会話をこっそり立ち聞きするなよ。と、言いながら、ぼくも聞いてた。ごめんな、ゴー、ロッビ」


 先に行っていたビリービングとファオはやはり、渉夢たちが気になり、戻ってきてしまったようです。離れたところから、彼女たちの会話を聞いていたのでした。




 「………」

 ビリービングは渉夢に冷たい顔を見せたあと、先にプレハブ小屋の中に入り、腰を下ろします。




 「どうしちゃったの、ビリービング……」

 オープはぽかんとしていました。




 「おい、ビリービング」

 ファオもプレハブ小屋の中にいた彼の隣に腰を下ろし、男子だけで会話を始めていたのでした。




 「………」

 渉夢はビリービングに冷たい顔をされたことで胸がチクチクと痛みます。彼女はプレハブ小屋の離れた場所でオープと座り、リュックの中に入っていた花のパンを食べましたが、食欲があまり進まないようです。半分残してしまっていました。




 このとき、渉夢の口にした花のパンはブラックコーヒーのクリームの苦い味がし、彼女の心の中も苦い思いでいっぱいになっていたのでした。




 休憩を終え、プレハブ小屋から出発したあと、しばらくの間はしーんとなっていました。けれども、十六分音符のボギーノイズが5体現れたことにより、沈黙が破られます。




 「げ、ボギーノイズ!?」

 オープがうんざりとした表情です。




 5体のボギーノイズは、いきなり渉夢たちに襲いかかってきました。




 ファオはファインドからもらった小型レコーダーをポケットから取り出し、再生します。彼は小型レコーダーから流れるピースの歌声に合わせてダンスをし、渉夢たちを襲ってきたボギーノイズたちを寄せ付けないよう、守っていました。




 「ファオさんがボギーノイズからガードしてくれているうちに、歌と演奏しよう」

 オープが鍵盤ハーモニカをかまえたあと、




 「ああ」

 ビリービングもオカリナをかまえます。




 「………」

 渉夢がうつむいついると、




 「ゴー?」

 オープが声を掛けてきました。




 「あ、うん、歌と演奏だね。相手は強そうなボギーノイズだから、最初から全部歌わないとだっけ」

 少女の前では明るく振る舞っていた渉夢です。




 「そうそう」




 渉夢とオープとビリービングはどこを歌うか話し合ったあと、発声練習をし、歌います。




 ピースの楽譜がデュールブに奪われてしまった今、渉夢たちはピースの楽譜の歌詞を見ないで歌わなければならない状態です。




 ピースの楽譜の歌詞を完璧に覚えているビリービングはともかく、渉夢とオープは自分の番が回ってくるまで、緊張していました。




 「真っ暗の中~、それでも歌う~、僕らは君に~、期待の歌を送る~、僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~。この歌を歌う君よ~、僕らをきっと~、捜し出してくれ~、今こそ進め~、ゴー!」

 ビリービングが1節目を歌ったあと、オープが前に出て2節目を歌います。




 「僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、民家多き町のどこか~、1人動けずに歌う~。少女よ~、ハーモニーマジックでこの歌を歌う君の力になって欲しい~!少女よ~、今こそ変わるとき~、進め~、ゴー!」

 オープが2節目を歌ったあと、ビリービングが再び前に出て3節目を歌いました。





 「僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、本の世界の中で~、1人動けずに歌う~。蒸発した友よ~、そこにいるなら~、この歌を歌う君のことを~、守ってあげて欲しい~。ともに歩め~、ゴー!」

 ビリービングが3節目を歌い終えたあと、渉夢の番が回ってきます。




 「僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、カプセルの中で~、1人動けずに歌う~。この歌を歌う君よ……」

 渉夢は4節目の歌の途中から歌詞を忘れてしまい、歌が止まってしまいました。




 「ドンマイ、ゴー」




 「ごめん、私、抜けた方がいいね」




 「だめだ。ピースの楽譜曲をフルで歌ったり、演奏するときはオレたち3人で歌わないと、力を発揮できない。だから、お前が抜けるのはだめだ。また最初から歌うぞ」




 渉夢たちはもう1度、ピースの楽譜曲を歌います。しかし、渉夢の番が回るとまた歌が止まってしまったのです。




 何度か、ピースの曲を歌ってみたところ、渉夢のところで止まってしまい、彼女は泣きそうになります。




 「ゴー、泣いちゃだめだよ。失敗したときよりもネガティブなエネルギーがボギーノイズの方に行っちゃうんだから」




 「ごめん、そうだったね」




 「ゴー、お前の考えていること、だいたいでいいから言ってみな。上手く歌えない原因がわかるかもしれないから。本当はお前、ピースの楽曲の歌詞を忘れる奴じゃないだろう。歌詞を全部暗記しているの知ってるんだからな」




 「え?」

 ビリービングに言われ、びくっとなった渉夢です。彼が近くに来ると、顔が赤くなりました。




 「ほら、怒らないから言ってみな」




 「ビリービングくん、怒ってるよね?」




 「怒ってねえけど。それだけがお前の考えていることか。デュールブのこととかは?」




 「!」

 渉夢はまた顔が赤くなります。




 「ふん、やっぱり、そいつのことを考えてたか」

 彼女の表情に、ビリービングは先ほどのときのように、冷たい顔になります。




 「た、確かにデュールブさんのこと、考えてたかもしれないけど、ちがうよ。やっぱり、ビリービングくん、怒ってるよね」




 「怒ってるわけじゃ……」




 「ゴー、ビリービングはね、レインスティックの森で君とはぐれている間に、君がデュールブといたということが気に入らなかっただけだよ」

 ファオはそう言ったあと、小型レコーダーで最初から再生し、ダンスをしました。ボギーノイズからの攻撃を防いでいます。




 「ビリービング、あんた……」




 「オープ、オレの気持ちを読んでいるかもしれないけど、ハズレだから」

 少女が何を言おうとしていたか、察していたビリービングは少し照れた顔で否定です。




 「私、そんなにビリービングくんに心配掛けさせてたんだね。ごめん、これからはデュールブさんにちゃんと気をつけるから」

 渉夢が謝りながらそう言うと、




 「ふっ、お前もハズレだ」

 と、ビリービングは、穏やかに笑っていたのでした。




 渉夢も彼の表情に安堵し、歌の発声練習をしていました。彼女たちは再び、最初から歌います。




 「真っ暗の中~、それでも歌う~、僕らは君に~、期待の歌を送る~、僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~。この歌を歌う君よ~、僕らをきっと~、捜し出してくれ~、今こそ進め~、ゴー!」

 ビリービングが1節目を歌い終えると、オープが前に出ました。




 「僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、民家多き町のどこか~、1人動けずに歌う~。少女よ~、ハーモニーマジックでこの歌を歌う君の力になって欲しい~!少女よ~、今こそ変わるとき~、進め~、ゴー!」

 オープが2節目を歌い終えたあと、ビリービングが3節目を歌います。




 「僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、本の世界の中で~、1人動けずに歌う~。蒸発した友よ~、そこにいるなら~、この歌を歌う君のことを~、守ってあげて欲しい~。ともに歩め~、ゴー!」

 ビリービングは渉夢に目配せをし、後ろに引っ込みました。渉夢は深呼吸をし、4節目を歌います。




 「僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、カプセルの中で~、1人動けずに歌う~。この歌を歌う君よ~、蒸発した友よ~、それぞれが(ひる)まず進め~、ゴー!」

 今度は渉夢は4節目を歌うことに成功し、どこに隠れていたか、シマリスたちが拍手をしていました。




 「僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、(せま)い中~、1人埋もれながら歌う~。この歌を歌う君よ~、黄金(こがね)大事にして欲しい~。行動広範囲に~、ゴー!」

 オープが5節目を歌ったあと、ビリービングが前に出ます。オープは片手をビリービングの方に向けてから後ろに引っ込みました。




 「僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、熱き心持つ者の~、1人目の前でいつでも歌う~。この歌を歌う君よ~、熱き心で~、闇に立ち向かって欲しい~。負けるな~、ゴー!」

 6節目を歌い終えたビリービングは、渉夢に拍手をしたあと、後ろに引っ込みます。渉夢が前に出ると、シマリスたちが大きな拍手をしていました。




 「真っ暗の中~、それでも歌う~、僕らは君に~、期待の歌を送る~。この歌を歌う君よ~、僕らをきっと~、捜し出してくれ~、気力を底から~、ゴー!」

 渉夢がラストの7節目を歌い終えると、




 「やった、ラストまで歌えた」

 オープがバンザイのポーズをします。




 「あとは演奏だ。2人とも、ミスるなよ」




 「ビリービング、圧力かけないでよ」

 苦笑したオープです。




 「じゃあ、こっちか。オレはお前たちが失敗しないって信じてるからな」




 「それも妙に圧力が……」

 渉夢も苦笑していると、




 「なら、何て言ったらいいんだよ?」

 ビリービングが彼女に近づきながら言いました。そのとき、渉夢はもう顔が赤くなることはありませんでした。




 「大丈夫、ビリービングくんの私たちを信じたいって気持ちは伝わったから」

 と、リコーダーをかまえていました。




 「………」

 ビリービングは先ほどの自分の発言が照れくさくなったか、渉夢から顔をそらします。




 「君たち、話していないで早く演奏しようよー」

 ここでファオの声が掛かり、渉夢たちは演奏を始めました。このとき、シマリスの大きな拍手が響き渡ります。




 渉夢はリコーダー、オープは鍵盤ハーモニカ、ビリービングはオカリナを吹き、ピースの楽譜曲の1節目からラストまで演奏しました。




 彼女たちの心地良い演奏が響いていくうちに、十六分音符のボギーノイズ5体のうち3体は四分音符のしゃぼん玉になって飛びます。あとの2体は八分音符のしゃぼん玉になって飛んで行きました。




 「やっと片付いたな。ダンスのし過ぎで筋肉痛、いってー」

 と、ファオは地面に座り込み、筋肉痛の痛い足のところを自分でマッサージをします。




 「ファオさん、筋肉痛のところ悪いけど、先に進むよ」




 「お、そうだな」


 ビリービングとファオが話していると、渉夢たちの歌と演奏を観覧していたシマリスたちがやってきました。




 「なあ、そこの子たち、サンポーニ山に何しに散歩に来たんだい?」




 「あんたね、散歩じゃなくって、登山でしょう、登山」

 と、シマリスたちに言ったオープです。



 シマリスたちに話し掛けられた渉夢たちは、ピースのENCOURAGE(エンカレッジ)仲間が隠した晴空(せいくう)の楽譜を探しに来たことについて話します。




 それを聞いたシマリスたちの中で、晴空(せいくう)の楽譜を隠しに来たENCOURAGE(エンカレッジ)の姿を目撃していた者がいたか、1匹だけ前に出ました。




 「その人たち、頂上の方まで歩いてたな。おれ、案内するよ」




 「ありがとう、案内は助かります!」

 渉夢が感謝すると、




 「ふっふふふ、お礼は君のサインでいいよ。さっきの君の歌と演奏、良かったよ」

 と、拍手し、鈴のような木の実を差し出す1匹のシマリスに、渉夢はすぐに『ゴー』と、サインを木の実に書いたのでした。




 シマリスが渉夢たちを案内をしてくれた場所は、サンポーニ山の頂上の広場になっていました。




 「あれ、何もないぞ」




 「ENCOURAGE(エンカレッジ)の人たちは本当にここに来ていたんだよ」




 「シマリスさん、ありがとう。あとは私たちで探すよ」

 渉夢はシマリスを後ろからついて来ていた仲間の元へ帰します。




 「晴空(せいくう)の楽譜、どこだろうな」




 「ねえ、みんな来て、海がよく見えるよ!」

 オープに呼ばれた渉夢たちは、頂上の広場から海を眺めました。すると、渉夢の首に掛かっていたピースの全音符のペンダントトップがほのかに光ります。




 それから、海面に光の五線譜が描かれていきました。




 「すごい……」

 渉夢がピースのペンダントと、海面の光の五線譜と視線を交互に動かしながら感動します。




 「海面の五線譜、音符が描かれていないみたいだけど」

 ファオが海面に光る五線譜をまじまじと見て言いました。




 「あ、もしかすると、あそこが隠し場所なのかもしれませんよ」




 「オープ、どうしてそう思うの?」




 「ゴー、ラビングさんがおっしゃっていた言葉を思い出してみて。マジックインストルメントの楽器が、晴空(せいくう)の楽譜の隠し場所から取り出す鍵になっているって言ってたよ」




 「マジックインストルメントは、私が持ってるリコーダーと、オープが持ってる鍵盤ハーモニカと、ビリービングくんが持ってるオカリナのことだったよね。じゃあ、私たちがここで演奏してみたら」

 と、渉夢が言ったあと、




 「晴空(せいくう)の楽譜、見つかるかもな」

 ビリービングが彼女の言葉をつなげるようにして言いました。




 「ぼくが指揮者になってあげるよ」

 タクトの代わりに、その辺にあった透明な木の枝の棒を拾ったファオです。




 「ファオさん、指揮者の役も演じてましたよね。そのドラマがおもしろくて再放送と両方とも観ていましたよ」

 オープが感激をしていると、




 「おお、ドラマを観てくれたんだね、ロッビ」

 ファオはすごく喜びます。彼は指揮者の役にこのあと、なりきります。タクト代わりの透明な木の枝の棒をかまえ、振りました。




 ファオの指揮が上手かったか、渉夢たちは演奏しやすかったようです。いつもボギーノイズと戦うときに演奏するピースの楽譜曲をスムーズに吹けたのでした。




 彼女たちの演奏が終わったあとのことです。渉夢の首に掛かっていたピースの全音符のペンダントトップが再びほのかに光り出しました。




 そして、海面に描かれていた光の五線譜の上に、光の音符がずらっと描かれていったのです。




 光の音符が描かれたことにより、完成した光の楽譜がさらに輝くと、数枚重なった普通の紙でできた楽譜に変化し、渉夢の手元に飛んできました。




 「これが、晴空(せいくう)の楽譜……」

 手元に飛んできた楽譜をしっかりと持った渉夢は晴空(せいくう)の楽譜の内容をひと通り、チェックをします。




 晴空(せいくう)の楽譜は、楽譜の紙自体が空の色をしていました。また、海面に描かれた光の五線譜と光の音符の名残があるか、五線譜と音符が全てきらきらしていました。




 「よし、晴空(せいくう)の楽譜が手に入ったってことはもうここには用はないよな」

 ビリービングが言ったあと、渉夢のお腹がぐうと鳴ります。




 「あ、その、さっき、花のパンを半分ぐらいしか食べてなくて……」

 恐る恐る渉夢が仲間たちに言うと、彼らもサンポーニ山中腹に来たときの休憩時、そんなに食べていなかったと言っていました。




 こうして、渉夢たちは、サンポーニ山の頂上の広場で花のパンとメロティーなどを口にし、腹ごしらえをしてから、下山したのでした。

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