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サウンズゴー!  作者: 佐渡惺
14/19

第14話、レインスティックの森ではぐレイン


 渉夢たちは、ピースの楽譜から現れた矢印方向に変化する光の音符の案内でレインスティックの森に来ていました。




 レインスティックの森は、ラグタウンの東をしばらく行ったところにあり、レインスティックのような透明な木が連なっていたのです。




 渉夢はその木を見て、驚きの声をあげていました。1本の透明な木の内側に透明な枝が螺旋状(らせんじょう)に生え、そこから緑の葉が生えていたからです。




 「ゴーが驚くってことは、地球の木と異世界ミュージーンの木はちがうんだろう」

 ファオが言うと、渉夢は頷き、




 「そう、こっちの木と枝の色は透明な色じゃなくて茶色なんだ。枝も伸び方がちがってて、外側にあちこち広がるんだ」

 と、言いました。このとき、光の音符は渉夢の声に合わせ、上下左右の矢印方向に変化させていたのでした。




 「ミュージーンにいるの慣れてくると、地球にある木の生え方のほうがすげえって思えてくるよ」

 そう言ったビリービングです。




 「ちょっと長い間、ミュージーンにいると、そう思えてくるんだね。こっちの木は透明な色してるから、内側に枝と葉が生えているのが見えていいね」

 渉夢は彼の方を向いたあと、レインスティックの木を眺めました。




 「よく見ると、小っちゃい木の実もあるよ」



 「本当だ。わあ、小豆(あずき)みたい」

 渉夢はオープの指さした先にあったレインスティックの木の実に感嘆の声をあげます。




 「おーい、もう行こうぜ。先に進まないと、ピースたちが見つからねえ」




 「そうだな、クロのことも取り返さなきゃならないし」

 ビリービングに言われ、頷いたファオです。




 「ゴー、先に行ってるよー」

 と、オープは渉夢に声を掛けましたが、彼女は聞いていませんでした。




 仲間たちが先に行っていることを知らず、レインスティックの木を見ることに夢中になってしまっていました。




 カラフルな小豆のような、レインスティックの実が落ちるとき、螺旋状の枝をコロコロと転がっていきます。




 たくさんのレインスティックの実がコロコロと転がっていくときの音が、雨の音にそっくりであり、渉夢の目はきらきらと輝きました。




 そのあと、レインスティックの実は、木の根張りのところから、たくさん出てきます。すると、ホトトギスのような鳥たちが集まってきました。




 ホトトギスのような鳥たちがほとんどのレインスティックの実を持って行ったあと、渉夢は残っていた2個の実を拾います。




 彼女がレインスティックの実をオープたちに見せようとしたときのことです。少女たち3人の姿がありません。渉夢はオープたちの名を大声で呼んでみますが、返事が返ってきませんでした。




 少女たちの姿を探していたとき、冷たいものが渉夢の頬に当たります。




 ぽたっと、八分休符に見える小雨が降ってきたのです。最初のうちは、八分休符の小雨でしたが、十六分休符から三十二分休符と雨が強くなっていきました。




 そのたびに、レインスティックの木のときに聴いた雨の音とちがった木琴と鉄琴の音が聞こえてきたのです。




 渉夢はその音に耳を済ませながら、両手でリュックを頭に乗せ、雨宿りができる場所を探します。




 「ここに来てから、探すことばかりだな」

 と、渉夢はびしょ濡れになりながら、ため息をついていました。




 雨の中、走っているうちに、彼女はプレハブ小屋を見つけます。ようやく、雨宿りができそうな場所を見つけた渉夢はプレハブ小屋で雨がやむまで待ちます。




 プレハブ小屋の中に入ると、渉夢よりも先に雨宿りをしていた人物がいました。スーツを着用したアッシュグレーの髪の色をしたミディアムヘアの若い男性が、ウォールナットのベンチに座っていたのです。デュールブでした。




 「シンバルさん!」

 渉夢はデュールブ本人と気づいていないため、偽名の方で呼んでいました。




 「あ、君は……」

 デュールブはシンバルとして渉夢に接します。




 「シンバルさん、ショーロードのときは、仲間たちの傷を治してくれてありがとうございます。おかげさまで、仲間たちは元気になりました」




 「いいや、元気になったなら良かったよ。こちらこそ、花のパンをいただいてしまって、ごちそうさま。おいしかったよ」




 「そうでしたか」




 「けど、君、仲間たちがいないようだけど」

 キョロキョロとしていたデュールブです。




 「あ、仲間たちとは、はぐれてしまって」

 渉夢が答えると、




 「そうか、君は今、1人なんだね」

 寂しそうにデュールブは言います。

 




 「はい、この雨が止んだら探しに行きます」




 「隣、空いてるよ。どうぞ」

 デュールブは左側につめました。




 「ありがとうございます」

 渉夢は隣に座ります。




 それから、沈黙が続き、渉夢の心臓の音が雨の木琴と鉄琴の音とともにドキドキと鳴っていました。彼女はデュールブの横顔を見ます。彼のことが、格好いいと思ったか、渉夢の頬が赤くなっていきました。




 彼女の視線にデュールブは気づきますが、目を閉じていた彼です。しかし、デュールブも、隣に座っている渉夢が心に引っかかるか、ベンチから立ちました。




 「シンバルさん?」




 「いいや、君といるからかな。緊張してしまってね」




 「わ、私もです。シンバルさんといるからでしょうか」

 渉夢が頬を赤くしながら話していると、シンバルは彼女に近づき、髪に触れてきます。




 「!」

 頬を赤くしたまま、固まる渉夢です。




 この2人の状況を雨の中、単独行動で見てしまった者がいました。未莉とよくいる男の子の姿になったボギーノイズのエージェでした。




 「デュールブの奴、未莉がいながら、進実渉夢と居やがって……」

 と、エージェは姿を消しました。




 未莉の方は、まだラグタウンに滞在し、ベース宿泊所の部屋で休んでいます。未莉は異世界ミュージーンで仕入れたファッション雑誌を読んでいました。




 十六分音符のボギーノイズのビーボは部屋の入り口で見張り、クロバーは未莉の近くで魚をむしゃむしゃ食べています。




 「よっ」

 今の声はエージェです。部屋の入り口をこんこんとノックした彼を、ビーボが入れていました。




 「おかえり。エージェ、びしょ濡れじゃない」

 未莉はタオルでエージェの頭を拭きます。エージェはタオルを持った未莉が近くに来ると、愛おしい感情が沸いてきたようです。彼女を抱きしめます。




 「みゃ……」

 クログーは魚を食べることをやめ、2人のやりとりを見ていました。ビーボはそこまで感情を持っていないか、部屋で横になり始めます。




 「エージェ、頭を拭かないと風邪引くわよ。ほら、離れて」

 と、未莉は言いましたが、エージェは抱いたまま離れません。




 「未莉……」

 エージェは、そのままの状態で未莉の首筋に唇を寄せようとしますが、未莉は彼を平手打ちしました。




 「あなた、それをしていいのは、デュールブ社長だけだから。2度とそんなことをしないで」




 「………」

 未莉に平手打ちされたエージェは、傷ついた表情で頬をさすっては、自分で濡れたところをタオルで拭きます。




 「まったく……」

 未莉はクログーの頭をなで、ファッション雑誌を再び広げるのでした。




 場所はレインスティックの森のプレハブ小屋に戻り、渉夢の方もデュールブに髪を触れられ、硬直していました。




 デュールブは不敵に笑い、渉夢が硬直している隙に黄緑のストライプが入ったリュックを奪ってしまいます。




 「ちょっと、シンバルさん!?」




 「これは、いただいていくよ。未莉の後輩の君」




 「シンバルさん、未莉先輩のお知り合いだったのですか!?」




 「うん、俺、未莉の社長だから」




 「シンバルさん、まさか……」

 渉夢はここでやっと、シンバルがデュールブであることに気づき、リュックを取り返したあと、彼から離れます。




 「俺はシンバルじゃないってこと、もう分かってるよね。デュールブだよ、進実渉夢ちゃん」




 「………」

 いきなり、自分の名前をデュールブにフルネームで呼ばれ、ごくりとつばを飲み込む渉夢です。




 「お前、隙がありまくりだな」




 「あー!」

 再び、渉夢はリュックをデュールブに取られてしまい、悔しそうにします。




 「わ、お前のリュックの中身、花のパンばかりだな。あった、これか、ピチス・ロッビの歌詞。これはいただくね」

 デュールブは渉夢のリュックからピースの楽譜を全部奪ってしまいました。




 「返して下さい!」

 と、渉夢は取り返しに行きますが、何とデュールブは渉夢を自分のところに引き寄せ、口に接吻してきたのです。そして、




 「これは、返さないよ」

 と、ピースの歌詞をぴらぴらさせながら、ウインクをして言い、姿を消したのでした。




 「………」

 渉夢はデュールブに接吻されたところの口に手を当て、硬直していました。



 その頃、雨の強さは八分休符まで弱くなり、渉夢は気を取り直し、オープたちを探しに行きます。そのとき、十六分音符のボギーノイズが5体現れ、遭遇してしまいました。渉夢は、プレハブ小屋から離れ、ボギーノイズたちから逃げ出します。




 ピースの楽譜をデュールブに奪われてしまったことにより、渉夢は歌うことや演奏することができません。




 彼女は、5体の十六分音符のボギーノイズから放たれる雑音に耳を塞ぎながら逃走するだけでした。




 その上、ついていないことに、5体のうち2体のボギーノイズに渉夢は追いつかれてしまい、捕まります。彼女は逃げることができずにいました。




 このまま、目の前にいるボギーノイズ3体の雑音にやられてしまうのかと、渉夢が目をつぶったときです。ピースの歌声が聞こえてきます。




 3体のボギーノイズが雑音を放つと、何者かが渉夢を守ってくれたのです。ファオでした。フヤラーメン店で渉夢とオープが席を外していたときでしょうか。ファオは、ファインドから小型レコーダーをもらっていました。




 よって、ピースの歌声は、ファオが再生した小型レコーダーから流れてきた音だったのです。ファオはピースの歌声に合わせ、口パクをし、作り物のマイクまで持ち、ダンスをしていました。




 それが、ボギーノイズたちが放つ雑音をよくガードしていたのでした。反対に、ボギーノイズたちはファオにつられ、ダンスし始めたのです。




 2体のボギーノイズに捕まっていた渉夢は自由になります。彼女を捕らえていたボギーノイズたちもファオにつられ、ダンスしては動きが止まっていました。



 その隙に、ビリービングはオカリナ、オープは鍵盤ハーモニカのマジックインストルメントで演奏します。



 マジックインストルメントの演奏により、ビリービングのオカリナは木琴、オープの鍵盤ハーモニカは鉄琴の音が鳴ったのです。




 2人の息が合った演奏が流れると、5体全部八分音符のしゃぼん玉になり、飛んで行きました。




 「ゴー!」

 5体の十六分音符のボギーノイズを退治したあと、オープは渉夢を抱きしめます。




 「探したよ、ゴー。ちゃんとついて来なくちゃだめじゃないか。心配掛けさせるなよ」

 と、ファオはそう言いながら、ホッとした表情です。




 「ゴー、何でさっき、ボギーノイズが現れたときにリコーダーの演奏をしなかったんだよ」




 「わっ!」

 いきなり、ビリービングが自分の目の前に来ていたからでしょう。渉夢は顔を赤くし、さっと離れます。先ほど、デュールブにされた接吻の件もあり、いろいろと男性のことを意識してしまっているようです。




 「そんなに驚くかよ……」

 ビリービングは少々、心が傷つきます。




 「ご、ごめん……」

 と、渉夢は謝ったものの、




 「ゴー、大丈夫かぁ?」




 「わっ!」

 ファオに対しても、顔が赤くなり、さっと離れてしまったのです。




 「ゴー……」

 ファオの方は困った表情でしたが、渉夢を心配そうに見ていました。




 「ゴー、あたしたちとはぐれている間に、何かあったでしょう?」

 オープに聞かれ、渉夢は頷いたあと、答えます。




 「デュールブさんに会った」




 「デュールブだって!?」

 これには、ビリービングが一番、目を丸くしていました。




 「それで、ごめん、ピースさんの楽譜がその人に奪われた……」

 渉夢が申し訳なさそうに謝ると、仲間たちは首を横に振ります。




 「それでゴーはさっき、リコーダーが吹けなかったんだね。ピチスお兄ちゃんの楽譜を見ながら、いつも吹いてたもんね」




 「ぼくは、ゴーがデュールブにさらわれなくて良かったと思ってるよ。あの人は、ゴーの先輩を利用してるみたいだからね。ゴーまで利用されたらたまったもんじゃない」




 「ピースの楽譜の歌詞と演奏なら、オレが教えてやる。だから、そんなに謝るな」




 「ありがとう、3人とも」

 仲間たちの優しさに渉夢は心が温かくなりました。




 「早速、練習、しちゃいましょう!」

 オープがテンションを上げて言うと、ビリービングがピースの楽譜の歌をひと通り、渉夢に歌ってみせます。 オープは演奏を教える方を手伝っていました。




 渉夢はビリービングとオープに、ピースの楽譜曲の歌詞と演奏を教わり、練習を見てもらったことにより、歌詞を覚えます。そして、演奏も上手くできるようになったのです。




 彼女たちの歌と演奏の練習中、ファオはどこかから聞こえる弦楽器の演奏音が気になり、



 

 「さっきから、何か音が聞こえる」

 と、渉夢たちに知らせます。




 「チターの音じゃね?」

 耳をすませたビリービングは、こう考えたことを言いました。




 「うん、チターの音だね」

 渉夢も彼と同じ考えのようです。




 「どこで弾いてるのか気になるな。あ、ファオさん、すみません」

 オープは目を閉じながら耳を済ませ、動き回ってしまったためか、近くにいたファオにぶつかります。




 「わ、危ない。ロッビ、大丈夫だよ」

 彼はオープとぶつかったとき、水たまりに入りそうになったところを何とか避けました。




 「どうもチターの音が気になるな」

 ビリービングが言ったあと、渉夢は発声練習をしてから歌います。





 「真っ暗の中~、それでも歌う~、僕らは君に~、期待の歌を送る~、僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~。この歌を歌う君よ~、僕らをきっと~、捜し出してくれ~、今こそ進め~、ゴー!」

 彼女がピースの楽譜を見ないで楽譜の1節目のところを歌うと、ファオの近くにあった水たまりが光り出しました。




 光がおさまると、水たまりの下からチターを持った黒のジャケットにズボン、白のシャツ、黒髪のモヒカンにハートのサングラスをした男性が現れたのです。ラビングでした。




 彼が水たまりの下から現れたとき、ものすごい水しぶきが渉夢たちにかかりました。




 「きゃ!」




 「わっ!」




 「水が!」




 「冷てっ!」




 渉夢たちはすっかり、びしょ濡れになってしまいます。しかし、ラビングのチターの演奏により、彼女たちの濡れた髪や服はすぐに乾きました。




 「やあ、愛する者たちよ。ずいぶん、ビショビショになったな。よっぽどの強い雨でも降ったかな」




 「あんたが出てきたから濡れたんだっ!」

 と、ツッコむビリービングに、ラビングはサングラスが取れそうになり、笑います。




 「君、エフォート並みにツッコみの仕方がいいね。ふふっ、ははっ」




 「あんたが1番早く見つかりそうに見えたけど意外と後ろの方だったな」

 ビリービングが腕を組んで言うと、

 




 「反対に言うが、君たち、やっと僕を見つけてくれたか。話したいこと、いっぱいあるよ。ワールドタウンへ来ないかい?」

 と、ラビングはハートのサングラスを片手でわざと上下に揺らしていました。




 「ワールドタウンって、オープやピースさんたちの故郷の?」

 渉夢が尋ねると、




 「そうそう」

 ラビングは頷く代わりにハートのサングラスを片手で上下に揺らしたのです。




 「コンティーニュさんたちにも会えるかな」

 ファオが期待しています。




 「ちょうど良かった。オレはあんたたちと久しぶりに話をする機会を持ちたかった。まだ見つかっていないピースのことについても、気になることを話したかったところだし」

 ビリービングがそう言うと、




 「なら、僕と行こう~。ワールドタウンへ~!」

 ドレミファソラシドの音で歌ったのです。




 「い、いきなりですか!?」

 と、渉夢がワープの魔法を急に使ったラビングにツッコんだときには、ワールドタウンに到着していました。




 ここは、ピースたちが路上ライブをしていた場所です。現在は人や動物の通りの少ない田舎道のような状態になっていました。




 「本当にワールドタウンだ……」

 オープは、見覚えのある場所に来て懐かしくなってきたか、微笑を浮かべます。




 「オープ、せっかくだから、ピースさんのご両親に会ってく?」

 渉夢が言うと、オープは喜んだ表情になり、




 「うん、叔父様と叔母様に会いたい!」

 と、ピースの家に向かって走りました。




 「なあ、ロッビの叔父様と叔母様ってどんな人?」

 ファオがオープのあとに続き、




 「仕方ねえか」

 ビリービングもあとを追います。




 「ピースさんちか。あ、オープたち、待ってよー」

 ピースのペンダントトップを片手で握ったあと、渉夢も少女たちを追いました。




 「僕も、僕も」

 ラビングまで追ってくると、




 「って、あんたも来るのかよっ!」

 と、前の方を走っていたビリービングが振り返り、ツッコみです。




 こうして、渉夢たちは、ワールドタウンへ戻ってきたのでした。

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