第13話、敵になったクログー
ディルルの家は、『フヤラーメン店』と言うラーメンが食べられるお店でした。暖簾にも『フヤラーメン』と光朝体で大きく書かれてありました。
ディルルの家の中に入った渉夢たちは、カウンターかテーブルの好きな席にそれぞれ座ります。ディルルはすぐ厨房に入り、メロティーを入れ、彼女特製のフヤラーメンと、チャッパフェを作り、渉夢たちに出します。ディルルはクログーにも、焼き魚を与えました。
「みゃ、みゃみゃ、久しぶりの魚!」
クログーはむしゃむしゃと、焼き魚を食べ始めます。
「おいしそう」
カウンター席の1番奥に座っていた渉夢は、目の上に置かれたメロティーと、フヤラーメンと、チャッパフェに目をきらきらとさせていました。
フヤラーメンの見た目は、どんぶりの中に入ったしょうゆラーメンです。チャッパフェの方の見た目は、パフェグラスの中にアイスクリームと生クリームが入っています。その上に、ストロベリーのソースが掛かっていました。
「おおー、これはオレも初めて食べる」
テーブル席に座っていたビリービングも感嘆の声をあげます。彼はテーブルの隅にあるお箸入れからお箸を1膳取り、もう1膳は向かい側に座っていたファオに渡しました。
「サンキュー、ビリービング」
ファオは彼からお箸を受け取ったあと、メロティーを1口飲みます。
カウンター席に座っていた渉夢たちの方は、ディルルがお箸を配ってくれました。
「ありがとうございます」
「いいえ、ごゆっくりどうぞ」
渉夢たちは、フヤラーメンから先に口にすることにします。お箸でフヤラーメンを冷ますときに息をふーふーと吹いてみると、ぴよーんといった音がしたのです。これに渉夢はハマり、
「ラーメンを冷ますときに、フヤラの音がするから、フヤラーメンって言うんだね」
と、熱々のラーメンに息をふーふーと吹きまくっていました。そのたびに、ぴよーん、ぴよーんと音が鳴ります。
フヤラーメンをぺろりと完食した次に、チャッパフェをスプーンで渉夢たちはアイスクリームをすくってみると、シャリシャリと音がしたのです。
「スプーンでアイスをすくったとき、チャッパの音がするから、チャッパフェなのか」
チャッパフェはビリービングがスプーンですくうたび、シャリシャリシャリ、シャリシャリシャリと音が鳴っていたのでした。
「これ、おいしいや。ストロベリーソースがまたパフェをおいしくしてるよ」
渉夢の隣に座っていたオープも、どんどんチャッパフェのアイスを口に運んでいました。
食後もメロティーを飲み、ほっとしたところ、ビリービングが口を開きます。
「さっ、そろそろ、教えてもらってもいいか。どうして、不明のはずのあんたがここにいるのかを」
「もちろん、オープちゃんと、ファオくんが見つけてくれたからよ。あたしはね、ここんちのポスターの中に閉じ込められてたんだ」
そうビリービングに答えたファインドです。
「また、とんでもないところで見つかったな。これまで発見したENCOURAGEも、本の中だったり、貯金箱の中だったりしたからな」
「そう、それでね、ファインドさんが見つかる前、あたしとファオさん、散々だったんだから」
オープはショーロードで5頭のクマのレスキュー隊員にファオと運ばれたあとのことを、渉夢たちに話していました。
少女たちは、クマのレスキュー隊員たちに運ばれて行ったとき、すぐに目を覚ましていたようです。クマのレスキュー隊員たちに下ろすよう頼みます。
しかし、少女たちが頼めば頼むほど、クマたちの運ぶスピードがエスカレートしていき、ラグタウンに到着するまで下ろしてもらえなかったそうです。
ラグタウンに到着したオープとファオは、渉夢たちはきっとあとからここに来ることを信じます。渉夢たちが来るまでの間、どうしようかラグタウンで散策をしていたところ、ディルルと出会いました。
ディルルはENCOURAGEの大ファンであり、オープがピースのいとこと知ると、すぐに自分ちのフヤラーメン店の2階へ招きます。
オープとファオは2階のディルルの部屋でENCOURAGEのピースのソロライブが映っているビデオを見せたのでした。
どうやら、ピースのソロライブのビデオはファオも持っていたらしく、ビデオの映像を見ながら、ダンスをしていました。
それが、あまりにもピース本人にそっくりだったため、ディルルは感激のあまり涙を流してしまったぐらいです。
ファオは女性を泣かせてしまったと、複雑な表情になります。けれども、ライブのビデオで見たピースのダンスがボギーノイズ戦の役に立つかもしれないと、このときに思ったファオです。
これをオープに話したあと、ディルルに何度か再生を頼み、ピースのダンスをもっと練習し、マスターしていくうちに、不思議なことが起こります。
光の音符がビデオ映像から飛び出し、ディルルの部屋の壁に貼ってあったENCOURAGEのポスターの辺りを8の字に動いていたのです。
オープは、ポスターの中にピースの仲間の誰かが閉じ込められていると察し、ピースの楽譜歌詞の1節目を歌います。
少女の手元に、ピースの楽譜はありませんでしたが、1節目のところは覚えていたため、楽譜を見なくても歌えたようです。
オープが歌い終わると、ポスターは光の音符に包まれ、代わりに茶髪のロングヘアにオレンジのドレスを着た女性が現れます。ENCOURAGEのファインドでした。
ENCOURAGEのポスターは消えてしまいましたが、ディルルはファインド本人に会えたことに感激していました。
それから、ファインドは、ピースのダンスがファオは上手だということをオープから知ります。彼女は、小型レコーダーでピースのソロライブの映像より、ピースの歌声を録音しました。
このあと、外がすごい騒ぎになっていたため、オープたちが様子を見に行ったとき、渉夢たちと再会し、今に至るのでした。
渉夢たちはフヤラーメン店でオープの話を聞きながら、メロティーを飲んでいました。オープも、話を終えたあと、メロティーを2杯ほど飲みます。クログーは渉夢の席の近くで丸くなって寝ていたのです。
「熱き心持つ者の、1人目の前でいつでも歌うって、ピースの楽譜の6節目に書いてあったよな。熱き心持つ者って、そこにいるメガネのあんたのことだったんだな。ほら、オタクって熱い心を持っているじゃないか」
ビリービングがディルルに言うと、彼女はびくっとなりました。 しかし、オタクの意味は知っていたか、彼女は笑っていたのでした。
「そうだ、ファインドさんが見つかった場所は、ディルルさんの部屋の壁に貼ってあったポスターの中だったな。1人目の前でいつでも歌うって歌詞からして、ポスターならいつもその人の目の前で歌っている感じはするもんな」
「でも、ENCOURAGEのポスター、消えてしまったのですよね……」
ファオが言ったあと、オープが責任を感じていると、
「少女よ、気にするな。ポスターならまた買うから」
と、ディルルがぽんとオープの頭に手を置きます。
「あゆむちゃん、さっきから静かだけど、元気ない?」
渉夢がカウンター席の1番奥でしゅんとなっていたからでしょう。ファインドが渉夢のところにきました。オープたちの視線も一斉に、渉夢の方へ向きます。
「ファインドさん、さっき、ボギーノイズと戦ったときのことなのですが……」
渉夢はファインドに、ピースから楽譜の魔法を通して授かった、マジックインストルメントのリコーダーの音が出なくなってしまったことを話しました。また、ピースの楽譜の歌詞を何度も間違ってしまったことも話します。
「あゆむちゃん、あなたが元気がないのって、それだけ?」
「いえ……」
真面目な表情でファインドに尋ねられた渉夢は、ショーロード上であったことも、まとめてファインドに話しました。すると、オープが先に怒り出します。
「未莉って人、そんなことしたんだ。ゴーを突き飛ばすなんてひどい!」
「あゆむちゃん、ここに来るまでの間、辛いことが重なってしまったのね」
と、ファインドは渉夢を哀れみました。
「今はオープもファオさんもこの通り、元気だし大丈夫なのですがね」
渉夢がそう言うと、ファインドは首を左右に振ります。
「元気で大丈夫なのはオープちゃんとファオくんであって、あゆむちゃんが元気で大丈夫じゃないでしょう」
「!」
「さっき、ボギーノイズと戦ったときに、あなたがマジックインストルメントのリコーダーの音が出なかった理由はそれでしょうね」
「そんなことはありません。さっきはビリービングくんに励ましてもらったばかりで元気です」
と、渉夢が言うと、ファインドはさらに首を左右に振りました。
「そのときは元気になったかもしれないけど、深い悩みって簡単に元気になれるものじゃないのよ。表はポジティブでも裏ではすごくネガティブ、これが今のあゆむちゃんの心情よ。あなたがいつまでもこれだと、この先は止まるだけ」
「そんな……」
「ファインド、それ以上、こいつを落ち込ませることを言うの、やめろよ。ファンも目の前にいるのにそんなこと言ってどうすんだよ」
ここでビリービングがファインドに怒ります。
「ビリービングくん、そんなことないよ。ファインドさんは、正しいことを言っているだけだから」
渉夢はビリービングをなだめましたが、彼は聞きません。
「だけど、この先は止まるって言うのは言い過ぎじゃねえのか。進実渉夢がここ、ミュージーンに来たのは、ここでこいつが何かを全うさせるからだってオレは信じている」
「全うさせるか。ビリービング、あんたはかなりこの子を推してるのね。あんた、ピースだけがファンじゃなかったんだ」
ファインドがニヤニヤとビリービングの顔に近づけますが、
「ファンになった覚えもないけど」
彼はさっと離れました。
「嘘、嘘、あんたがピースの出した本をブックカバーで隠しながら読んでるのをあたしは2年前から知ってるよ」
「あんたにそんな一面、あったんだ。ピチスお兄ちゃんが自分で書いた歌詞をイメージした物語本を読んでいたなんて」
ファインドの話に、今度はオープがニヤニヤします。
「いいだろ、オープ、人が何を読んでいたって」
ビリービングは両手を腰にあて、少女を見おろしました。
「それも、そうだ。ねえ、ゴー、ちょっといいかな」
「うん」
「ロッビ?」
オープが渉夢を外に連れて行こうとしているところを見たファオも、行こうとしていたのですが、少女は片手で止めます。
「ファオさんたちはここで待っていて下さい。ゴーと2人で話したいことがあるので」
「余計に気になるじゃん。恋バナ?」
ビリービングが冗談で聞くと、オープはべっと舌を出し、
「そうじゃないから。じゃっ」
と、渉夢の手を引き、スカラーメン店から外に連れ出しました。
ファオたちは少女たちが出たあと、ピースの書いた物語本について熱く語り始めていたのでした。
スカラーメン店の外は、ハンドベルのスタチューベンチがあり、渉夢とオープはそこに座りました。
「あたし、ゴーに謝りたいことがあったんだ。ショーロードのとき、ごめん。ゴーは未莉のこと苦手なの知ってたのに、どこが怖いのって言ってしまったこと」
オープが渉夢の手を両手で握り、謝ります。
「ううん、私もあのとき、動けなくてごめん。オープとファオさんにケガをさせてしまって。あのときは私、体調も悪くなっちゃって、本気で地球に帰ろうって思ってた。そこをビリービングくんに励まされて助けられたかたちかな」
「ビリービング、人を励ますことなんて出来たんだ。というかゴー、地球にまだ帰っちゃだめでしょ」
そう言ったあと、オープは握っていた渉夢の手から両手を離し、びしっと言いました。
「うん、ごめん。で、ビリービングくんに励まされたから、ショーロードからラグタウンまで行けたんだ」
「へー、ビリービングのおかげでかー。未莉のことだけど、あの人って、人の体型とかバカにしてこないよね」
「オープ?」
渉夢は先輩の未莉の話がくると、びくっとなりますが、少女に不思議そうな顔をしていました。
「あたし、太ってるから、そのことで同い年の子たちとか、ちょっと年上の人たちから冷やかされたことが何度かあったよ。でも、未莉は冷やかしてくることはしないよね。そこまで人のことを悪く言わないところが気になったけど、あの人のしていることはボギーノイズの数を増やしたりしてるから、それが良くないね。それでも、あの人みたいなタイプは、そのうち社長が嫌になってSCOLDの活動が飽きたら、ゴーと地球に帰る気になるんじゃないかな。あたしはそう推測する!」
「そっかな。未莉先輩、意志が固い人に見えるけど」
と、渉夢は苦笑です。
「ゴー、それは分からないぞぉ」
「オープ、おもしろい」
少女が変な顔をして言ったからでしょう。渉夢はおかしくなり、笑っていました。
「うん、ゴー、さっきより笑顔になってくれた」
「オープ……」
思いやりのある少女にじんとなった渉夢ですが、
「だめだよ、ゴー、嬉しくても泣いちゃ。ボギーノイズ来ちゃうよ」
と、オープは優しく叱ります。
「あ、そっか」
少女に言われ、泣かないよう、首を振った渉夢です。
「あたし、ゴーに聞きたいことあったんだ。ゴーって、ビリービングに好かれてない?」
「そんなことないよ。って、待って、オープ、質問する人を間違っているよ。ビリービングくんにそれは聞くことだよ。私だと、彼の気持ちについてはわからないし、答えられないから」
オープの質問に笑いながら渉夢は答えました。
「えー、だって、ビリービングに聞くと、怒られそうなんだもん。あの人の睨むときの顔があたし、怖くて、怖くて」
ビリービングに睨まれたときの表情を、頭に浮かべながら言っていたオープです。
「オープ、ありがとうね。そろそろ、みんなを呼んでここを出発しようか。ピースさんと、ラビングさんを捜さないと」
渉夢はお礼を言い、フヤラーメン店に先に戻ろうとするところを少女が引き止めます。
「ゴー、ディアルさんが、どんなことがあっても進んでいくことを大事にねって、ゴーに言っていたこと、覚えてる?」
「うん、もちろん」
「あたしからも言うよ。どんなことがあっても進もうよ、ゴー。それがゴーの大事でしょう」
「そうだね、オープ」
真剣に言った少女に、渉夢は頷き、微笑しました。
「ゴー、一緒に演奏しよう」
オープに演奏の練習を誘われ、渉夢はリコーダー、オープは鍵盤ハーモニカを出し、演奏します。演奏をしたとき、渉夢はやはり、リコーダーの音が出ませんでした。
しかし、続けて吹いていくうちに、少しずつリコーダーからピアノの音が出るようになります。やがて、クラリネットの音やオルガンの音も渉夢は出せるようになりました。
渉夢たちの演奏音が聞こえたか、ファオたちがやってきます。渉夢たちは彼らに気づき、演奏をストップしました。
「ゴー、リコーダーの音、出るようになったのか?」
渉夢に声を掛けたビリービングです。
「うん、オープと演奏しているうちにね」
「あゆむちゃん、元気になってきたのかな。音が出れば、もう大丈夫ね」
「ファインドさん、それを聞いてホッとしました」
と、渉夢がファインドに言いました。
「みゃ……」
クログーはスカラーメン店の外で、渉夢たちが話している姿を眺めていました。そのあと、クログーはどこかへ行ってしまいます。
果たして、クログーの行き先は、夕葉未莉のところでした。未莉はラグタウンから出て東の広場でSCORDのライブをしていました。ライブを終えた頃、未莉はクロネコに気が付きます。
「あれ、あなた、進実さんのペットじゃない」
「みゃー」
クログーは未莉のひざにすりすりします。
「ご主人、捜しているよ」
未莉はクログーを抱き上げ、人間の男の子の姿をしたボギーノイズのエージェと、十六分音符のボギーノイズのビーボとワープをしました。
ワープをした先は、渉夢たちのいるフヤラーメン店の近くのところでした。
「み、未莉先輩……」
先輩の未莉の姿に渉夢はすぐ分かります。
「おい、お前のペットが、俺らのところに来たから連れてきてやったぞ」
エージェが未莉が抱っこしていたクログーを抱き上げ、渉夢の方へ帰そうとしていました。すると、クログーは渉夢の方に行きません。未莉の方へ引き返して行きました。
「クログー、どうして……」
動揺していた渉夢です。
「そう、名前はクログーって言うの。わたしの仲間になりたいの。その方が安全かもね。いいよ、クログー、おいで。じゃあね、進実さんたち」
未莉はクログーを抱き上げ、渉夢の方を一瞬だけ睨んだあと、エージェとビーボと姿を消したのでした。
「クロ、裏切ったのか……?」
ファオも動揺していました。
「ラーメン屋さんに来てから、私、クログーのことをそんなにかまっていなかったからかな……」
目を閉じている渉夢に、
「ゴー……」
しゅんとなっていたオープです。
「なあ、ネコが裏切ったって決めるの、まだ早いんじゃね?」
これはビリービングが言いました。
「あたしも、あゆむちゃんと一緒にいたクロネコちゃん、クログーちゃんだったわね。あの子はとても裏切ったりする子には見えないよ」
ファインドもビリービングの横で言ったのです。
「さっきは、ピースの話題にぼくたち、夢中だったからな、クロが抜け出していたことに気づかなかったみたいだ」
ファオはクログーから目を離してしまったことを悔しそうにしていました。
「そのあと、未莉って人といるエージェってボギーノイズが単独行動してることがあるから、そいつにクログーはさらわれて操られたんだな。じゃなかったら、お前を裏切るなんてこと、クログーはしねえよ」
「ゴー、クログーが未莉のところに行ったのは、ボギーノイズのエージェのせいだよ」
「……そうだね。クログーを取り返しに行かないとだ」
渉夢はまだ浮かない顔をしていたのですが、ビリービングたちの推測が正しいと判断したのでしょう。片手をぐっと握ります。
ディルルにあいさつをし、スカラーメン店をあとにした渉夢たちはラグタウンから出発しようとしていました。
すでに、オープとファオからピースたちの失踪のことと、コンティーニュたちは見つかったことについて聞いていたファインドは 、故郷のワールドタウンに一旦帰ることにします。
ポケットに入っていたタブラムネを食べ、そのあと、ト音記号の音符に覆われたあとにワープし、姿を消しました。ファインドが口にしたタブラムネはディアルと同じものでした。
ファインドが行ったあと、渉夢はリュックからピースの楽譜を取り出し、楽譜の1節目を歌い、リコーダーで吹きました。このとき、リコーダーからクラリネットの音が出たのです。
クラリネットの音が響くと、渉夢が持っていたピースの楽譜から光の音符がたくさん現れ、渉夢の回りを1周します。そして、ピースの楽譜に歌詞の7節目だけが自動的に書き込まれていきました。渉夢は7節目を歌います。
「真っ暗の中~、それでも歌う~、僕らは君に~、期待の歌を送る~。この歌を歌う君よ~、僕らをきっと~、捜し出してくれ~、気力を底から~、ゴー!」
「げ、歌はここで終わりになってる。ほら、ここに終止符が打ってある」
渉夢が歌い終えると、ピースの楽譜の終止符を指さして言ったビリービングです。
「ここまで来たら、自分たちで捜しなさいっていうピースからのメッセージかな」
ファオは腕を組みます。
「そうなのかもしれませんね」
と、オープは彼に言いました。
「どっちに行ったらいいのか、分からねえ……」
「もしかしたら、これなら!」
思いついた渉夢は、ピースの楽譜の最初をらららと歌い、矢印方向に変化する光の音符を出したのです。
「そうだ、それがあった!」
「ゴー、あたし、それ、忘れてたよ!」
ファオとオープが相槌を打ちます。
「光の音符のあとを追っていくしかねえよな」
と、ビリービングは先に走り出し、渉夢たちも矢印方向に変化する光の音符をよく見ながら走り、ラグタウンを出発しました。
この渉夢たちの姿を、どこかの建物内のスクリーンで監視していたアッシュグレーの髪の色をしたミディアムヘアの若い男性は、渉夢の姿に特に注目していたのです。デュールブでした。
「ふん、ニンジンクリームなんかよこしやがって……」
彼はショーロードのときに、渉夢からお礼にもらった花のパンを食べたあと、外出の準備をし、姿を消しました。