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サウンズゴー!  作者: 佐渡惺
12/19

第12話、行き詰まりのゴー


 ショーロード上で倒れているロッビとファオ、眠っているビリービングの名を渉夢は呼びますが、誰も起きません。




 せめて、ケガのないビリービングだけでも起こそうとすると、




 「渉夢」

 クログーが渉夢に声を掛けました。




 「クログー、君、どこに行ってたの?」




 「みゃー、ずっと近くにいたよ。ボギーノイズの雑音に目が回ってたの」

 後ろ足で頭をかいたクログーです。




 「そうだったんだ。大丈夫?」




 「大丈夫」

 いつの間に起きていたか、横になった状態でクログーの代わりに答えたビリービングです。




 「ビリービングくん、起きてたんだね」




 「話し声がこんな近くで聞こえていたら、そりゃあ起きるよ」

 彼はそう言ったあと、上体を起こし、あぐらを組んで座ります。




 「ビリービングくん、オープとファオさんがケガを……」

 渉夢が焦った表情で興奮していると、




 「落ち着け。救急車を呼ぶんだ。って、異世界ミュージーンに、救急車ってないよな」

 と、渉夢の気を静めたビリービングです。




 「みゃー、どうするの、どうするのー?」

 今度はクログーが興奮していました。しっぽが太くなっています。




 「そうだ、ピースさんの楽譜なら!」

 渉夢は、オープのところにバラバラに落ちていた楽譜をすべて拾い、最初のところを歌いました。




 すると、矢印方向に変化する光の音符が楽譜から現れ、ビリービングの周りをぐるぐる回り、案内を始めようとしています。光の音符の動きから察した彼は、




 「この先に誰かいるかもしれないんだな。オレが誰か連れてくるから、ここにいて。すぐ戻ってくる」




 「うん」

 渉夢はビリービングが行ったあと、仰向けに倒れているオープとファオを見て、心を痛めていました。




 ビリービングを待っている間、渉夢の前にスーツを着用したアッシュグレーの髪の色をしたミディアムヘアの若い男性が現れます。




 2年前からENCOURAGE(エンカレッジ)の宿敵であり、未莉を拾った社長でもあるデュールブです。




 しかし、渉夢はその男性がデュールブと知らず、助けを求めます。




 「あの、すみません、仲間たちがケガをしてしまって、病院へ連れて行きたいのですが」




 「大変だったね。俺、回復の演奏ができるから、それで治そうか」




 「ありがとうございます。お願いします!」




 「任せて」

 デュールブはケーンのような楽器で吹き、オープとファオの傷を癒やします。




 すると、少女たちは、傷跡が消えるくらい回復していきました。




 「みゃ、みゃみゃ、回復の演奏、すごいね」




 「うん、オープたちの傷が治って良かった」




 「これで、2人は大丈夫だろう」




 「ありがとうございます。あの、お名前は?」




 「シンバルだ」

 渉夢に名前を聞かれ、偽名で答えたデュールブです。




 「シンバルさん、良いお名前ですね。私、シンバルの楽器が好きで、好きな楽器と同じお名前に出あえて光栄です」

 渉夢はすっかり、デュールブに心を開いていました。




 「それは嬉しいな」




 「あの、お礼が大したものじゃないんですけど、これ!」

 渉夢はリュックから1個の花のパンを袋に詰め、渡します。




 「やー、嬉しいな。それ、好物なんだよ」

 デュールブは嬉しそうなフリをし、受け取りました。




 「お好きな食べ物だったのですね。それなら、もっとあげます」

 渉夢がリュックから花のパンをあと2個、袋詰めをしようとすると、




 「いや、1個でいいよ」

 と、デュールブは苦笑しながら遠慮します。




 「本当に大したお礼が出来なくてすみません」




 「気にしなくても大丈夫だよ。じゃあね」

 デュールブは渉夢にもっと接近しようとしていましたが、彼女の首に掛かっていたものがピースのペンダントと気づき、離れます。




 別れ際のあいさつは、クログーの頭にキスをし、どこかへ行ってしまったのでした。




 「みゃー、何かシンバルさんにニオイをかがれたー」

 クログーはデュールブからのキスは、頭のニオイをかがれたものかと思っていました。クログーは前足につばをつけ、顔を洗います。




 「クログー、そんなに嫌だったんだね。頭にキスされたことが」




 「おーい!」

 ここで、デュールブと入れ替わりに、ビリービングが5頭のクマのレスキュー隊員を連れてきました。彼らの案内をしていた矢印方向に変化する光の音符は、ここで消えます。




 「ビリービングくん、さっきね、ちょうど通りすがりの人が、オープとファオさんの傷を治してくれたよ」




 「本当だ、傷がほとんどねえな。でも、一応、2人をクマたちに運んでもらおう。ここで寝てると風邪を引く」




 「そうだね。クマさんたち、お願いします」

 渉夢が頼んだあと、クマたちは無言で頷き、5頭でオープとファオを運んで行きました。




 運ぶスピードが、渉夢たちの知っているチーター並みに早く、彼女たちはみんな目が点になります。




 「アニマートな動きだな……」

 これは、ビリービングが言っていました。




 その後、渉夢はほっとし、その場にしゃがみ込んだかと思うと、




 「ごめん、クログー、ビリービングくん、ちょっと私、気分が悪くなったみたい……」

 と、動けなくなってしまったのです。




 「渉夢!?」




 「おい!」


 クログーとビリービングは、真っ青な表情の渉夢を心配します。




 「みゃ、みゃみゃ、クマのレスキュー隊員みんな先に行っちゃったよ。ねえ、オープたちをどこまで連れて行っちゃったの?」




 「心配するな、ラグタウンの医療施設までクマたちは運んで行っただけだから」




 「そうなんだ。じゃあ、わたくしたちはゆっくり、ラグタウンに向かえばいいね」




 「ああ、こいつをしばらく、休ませてからだな」

 ビリービングは渉夢をショーロードの端に群生していた花のパンの近くまで運びました。




 渉夢はそこですっかり眠ってしまいます。クログーもその隣で寝てしまっていました。ビリービングは持っていた長さのある厚手の布を渉夢のお腹の上にかけます。




 彼女たちの目が覚めるまで、ビリービングは群生していた花のパンのところを歩き回りながら、彼女たちの様子を見ていました。




 ようやく、渉夢が目を覚めると、クログーも目を開け、伸びをします。




 「大丈夫?」

 ビリービングは渉夢の前に腰を掛け、具合はどうか聞きました。




 「うん、よく寝た」




 「さ、ラグタウンに行くぞ」




 「……ごめん、まだ気持ち悪いかな」

 渉夢はビリービングに長さのある厚手の布を返したあと、立ち上がろうとしますがふらっとなり、地面に座り込んでしまったのです。




 「渉夢……」

 クログーが彼女のひざの上に乗ります。クログーから見た渉夢の表情はとても暗かったようです。すぐにひざから下り、うつ伏せの格好で渉夢のそばに座りました。




 「さっき、オレが寝てしまった間に、何かあったな。どうした?」




 「………」

 ビリービングに聞かれ、渉夢は口をつぐみます。そんな状態がしばらく続いたのですが、ビリービングは怒らずに渉夢が話してくれるまで待ちます。しかし、クログーは待てなかったようです。




 「渉夢、早くしゃべっちゃいなよ。未莉に突き飛ばされたこととか」

 と、先ほどの出来事を話してしまったのでした。




 「………」

 渉夢は顔をうつむけ、肩が震えていました。




 「ゴー、泣いているのか?」

 ビリービングは彼女を横目で見ます。




 「うん……」




 「渉夢はね、未莉のビーボってボギーノイズに、オープとファオが傷だらけになって倒れていくところを近くで見てしまったから、ショックだったのよ」

 




 「ゴー……」

 クログーの話で自分が寝てしまった間に何があったか、だいぶ解ってきたビリービングです。彼はもっと渉夢の近くに座ります。




 「……ビリービングくん」

 渉夢は持っていたハンカチで涙を拭ったあと、ピースの全音符のペンダントを取り、彼に渡そうとしていたのでした。




 「マジでお前、どうしたの?」

 ビリービングは真剣な表情で、渉夢の両肩に両手を置きます。




 「私、もう先に進めない」

 渉夢は彼の両手を肩で振り払い、背を向けて座りました。




 「渉夢……」

 クログーもしょんぼりとなります。




 「私さっき、結局、全然動けなかった。ビリービングくん、出会ったときに、私がここ、異世界ミュージーンにいることは間違ってるって言ってたよね。今、わかったよ。ここにいることは間違ってたって。私じゃ、仲間たちにケガをさせてしまって、未莉先輩と地球に帰ることとか、ピースさんたちを全員捜し出すのは無理だ。ビリービングくん、地球にどうやって帰ったらいい?」



 「……似合わねえ」

 ビリービングがぽつりと言うと、




 「え?」

 渉夢はよく聞き取れなかったようです。もう1度聞き返します。




 「似合わねえって言ったの。進実渉夢、お前が立ち止まってる姿なんか」

 ビリービングは、さっきより大きな声で言いました。




 「ビリービングくん……」




 「ゴー、止まっていたら、絶対に出来るかもしれないことが全部無理に終わっちまうよ。私じゃ無理、これはオレは信じない。人に決めつけられて、傷ついたことで自分までも責めてる言葉だからだ。その人じゃないと出来ないことがあるって方をオレは信じるね。だから、ゴーじゃないと先輩とENCOURAGE(エンカレッジ)全員は助けられない。オレはそう思っている」




 「………」

 ビリービングの話の内容によく耳を済ませた渉夢です。彼は話を続けます。




 「それと、こうしている間にも闇に囚われてる誰かが、ミュージーンのどこかからお前に助けを求めにくることがあるかもしれないだろう。そうなるとゴー、こうしている場合じゃねえぞ。オープとファオも、お前がそうやって止まっていると怒るぜ、きっと。案外、あの2人を怒らせた方がオレより怖いかもよ」

 




 「ビリービング、どうしちゃったのよ……」

 渉夢を励ましていたからでしょう。クログーが彼にぽかんとしていました。




 「オレ、地球に帰っても両親とも病気で他界していねえから、異世界ミュージーンにいるときも人生どうでも良くなってた。2年前にここに来たとき、一時期オレは責められてここの奴らが信じられなくなったときもあったりした。でさ、同時に生きていることも嫌になって、スカ湖でネガティブがピークになって死のうとしたところを、お前に助けられた。どう礼を言ったらいいのか、わからないぐらいだ。話が変わるが、今、お前がいるとこ、オレのいるとこもそうかもしれないけど、ショーロード上の楽譜でいう小節線だ。始まったばかりのところだよな」




 「うん」

 背を向けて座っていた渉夢でしたが、ビリービングの話を聞いているうちに自然と彼の方を向いて座っていました。




 「このまま、進んで行けば、複縦線、終止線とすぐだ。だから、ゴー、で止まってたら、終わりまで進まないよな。あー、だからー……」




 「みゃ、みゃみゃ、ビリービング、だんだん、話し方が遅くなってきたわね。リタルダンドかしら……」




 「ふっ、リタルダンド……」

 クログーの言っていたことに、ウケていた渉夢です。




 「ゴー、また進めそうか?」




 「うん、だいぶ気分が良くなってきたみたい」

 ビリービングに聞かれ、渉夢はにこっと頷きます。




 「気分、また悪くなったときは言いな。ほら、楽譜の読み方でも休符ってあるぐらいだから、休めるときに休まないと、ずっとこう何かあらゆる動作が続いていると人間だから疲れるじゃん。休めねえ。いつ休憩できるんだよって。あー、だからー……」




 「ふっ、ビリービングくん、また話し方がリタルダンド!」




 「ビリービング、感謝するわ。渉夢が元気になってきてる」

 渉夢の笑顔にクログーも笑顔になり、彼にしっぽをふりふりしていました。




 「まあ、ちょっと、ピースの言葉も含まれてたけど。オレも2年前にここ、ミュージーンで旅してたとき、ピースに弱音を吐いたことがあった。それで、休符の話がどうのってあったのかな」

 



 「そうだったんだ、ピースさんが……」

 渉夢はピースのペンダントトップを両手の手のひらで持ち、穏やかに笑いました。そのあと、ペンダントを首にかけ直します。




 「だから、負けるな、ゴー。そろそろ、行くか。っていうか、立てる?」

 ビリービングが右手を差し出しますが、渉夢は自分でゆっくりと立ち上がりました。それから、彼女は自分の右手で差し出されていたビリービングの右手を握手するように握り、




 「うん、まだちょっとフラフラするけど、大丈夫、進んで行くよ」

 と、言ったあと、右手を離しました。




 「お前はこうじゃないとな」

 渉夢に指でグッドサインをしたビリービングです。




 「みゃ、みゃみゃ、ラグタウンへ、レッツゴー!」

 クログーはジャンプをしていました。




 それから、渉夢たちはショーロードを無事に通過し、ラグタウンに到着することができます。




 クログーにミルクを与えたあと、花のパンを食べながら、ラグタウンの町中を歩いていた渉夢たちです。



 「知ってたか? 異世界ミュージーンの花のパン畑はモグラが管理してるってこと」




 「ううん、初めて知った」




 「モグラは滅多に姿は見せないからな。それで話を戻して、そのモグラが歌いながら、地中の深い根のところに水をやっているから、地中から表に芽のパンが出て、そこからぐんぐん花のパンが育つんだぜ。まあ、人が普通に育てられる家庭用花のパンもあるみたいだけど」




 「そうなんだ。私も花のパン、育ててみたくなってきたよ。ねえ、ビリービングくんが食べてる花のパンの中身、何味?」




 「オレ、ミカンクリーム。お前は?」

 渉夢の質問に答えたあと、ビリービングは花のパンをもぐもぐ食べました。




 「私はきゅうりクリーム」

 まだ口にしていない花のパンを歩夢はちぎり、薄緑のクリームをビリービングに見せます。




 「それ、うまいのか?」

 彼は、薄緑のクリームにげんなりとなりました。




 「うん、おいしいよ」




 「すげー、ゴーがおいしいって言ってるし」




 「みゃっ、みゃー、花のパンのことで会話をよくしているあなたたちの方が、わたくしはすごいと思うけどな」

 クログーは呆れたような表情で言っていたのでした。




 「そういえば、クマのレスキュー隊員たち、どこまでオープとファオさんを運んで行ったんだろう?」

 渉夢は辺りをキョロキョロします。




 「クマたち、力持ちだよな。オープたちの荷物まで持って、ものすごい速さのスピードで運んで行ってしまうのだから」

 片手を腰にやり、ビリービングもクマのレスキュー隊員たちを探しました。




 「そうだよねー」

 と、渉夢が話していると、後ろから誰かに肩をちょんちょんとされます。振り返ると、1頭のクマが立っていたため、渉夢は声にならないほどの悲鳴を上げ、走り出してしまいました。




 「ゴー、落ち着け、クマのレスキュー隊員だから」

 ビリービングはすぐに渉夢を捕まえ、クマの方をよく見るように言います。




 「あ、本当だ。クマのレスキュー隊員さん、すみません、大声出してしまって……」

 渉夢が謝ると、クマのレスキュー隊員は首を横に振り、無言でオープたちのところまで案内をしようとしました。




 そのとき、十六分音符のボギーノイズが3体現れます。




 「お前の先輩といたボギーノイズみたいだな」




 「………」

 渉夢はショーロードで未莉に思い切り突き飛ばされたことを思い出し、震えます。




 「ビリービング、未莉先輩はちょっと……」

 クログーがぷるぷると首を振っていると、




 「悪い、ゴー」

 と、彼はまずいことを言ったと謝りました。




 「ううん、大丈夫だよ。ボギーノイズ3体、倒そう」

 渉夢はピースの楽譜とリコーダーを取り出します。




 「十六分音符タイプのボギーノイズは、これまで相手にしてきたボギーノイズのときみたいに簡単にいかなそうだな」




 「みゃ、みゃみゃ、前みたいにピースの楽譜の1部だけ歌って演奏はだめってこと?」




 「ああ、そうだ。ピースの楽譜の4節目まで歌ったあとに、繰り返し全部演奏しないと十六分音符のボギーノイズは倒せないかもしれないな」

 質問の声が聞こえ、クログーの方を向いて言ったビリービングです。




 「私かビリービングくんのどっちかが歌ってボギーノイズたちの動きを止めて、どっちかが演奏して退治した方がいいんだね」

 渉夢が言うと、彼は頷き、




 「オレが歌を担当するから、演奏担当は頼んだ。ゴー、オレが4節目まで歌ったあと、リコーダーで4節目まで吹いてくれ」

 と、ボギーノイズの前に立ちました。




 「はい」

 渉夢もリコーダーをかまえ、演奏に備えます。




 このあと、ビリービングは踊りながら、ピースの楽譜を歌い始めました。

 


 「真っ暗の中~、それでも歌う~、僕らは君に~、期待の歌を送る~、僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~。この歌を歌う君よ~、僕らをきっと~、捜し出してくれ~、今こそ進め~、ゴー!」

 彼が1節目を歌い終えると、何人か人が集まり、動物たちも集まってきます。




 十六分音符の3体のボギーノイズは、ビリービングの歌声の効果か、動きが止まっていたのです。




 「これは何をやっているんだい?」

 茶色と白のウサギがクログーに声を掛けてきました。




 「あの人たちは、ボギーノイズっていう雑音の音符の化け物をやっつけようとしているの。あなたたち、危ないから離れた方がいいよ」

 クログーが忠告をしながら答えますが、ビリービングが2節目を歌い、3節目を歌い終わった頃、さらに野次馬は増えていきました。




 「僕らは~、囚われのENCOURAGE(エンカレッジ)~、カプセルの中で~、1人動けずに歌う~。この歌を歌う君よ~、蒸発した友よ~、それぞれが(ひる)まず進め~、ゴー!」

 ビリービングは野次馬の目を気にしてか、渉夢に拍手を送ります。




 「もー、何なのこれ……」

 恥ずかしそうにしていた渉夢はリコーダーで、ビリービングが歌ったところを繰り返し演奏します。しかし、ここで思わぬ事態が起こりました。




 渉夢がリコーダーの演奏をしたとき、音が出なくなってしまったのです。




 「渉夢、どうしたの?」




 「クログー、リコーダーの音が出ないの……」




 「そんな……」




 「もう1度、吹いてみる」

 渉夢はリコーダーの演奏を再び試みますが、音はやはり出ません。リコーダーの演奏を試みているうちに、十六分音符のボギーノイズ3体は動けるようになってしまいます。




 十六分音符のボギーノイズたちは渉夢に襲いかかってきました。そこをビリービングがピースの楽譜の1節目から歌ったことで、ボギーノイズたちの動きが止まります。




 「ゴー、今のうちに!」




 「ありがとう、ビリービングくん」

 渉夢はリコーダーの演奏を再び試みました。すると、少しだけピアノの音が出たのですが、また音が出なくなります。




 渉夢の演奏の失敗が続いているからでしょう。野次馬たちはみんな帰ってしまいます。けれども、クログーはそれにホッとしていました。




 「あのまま、みんないたら危ないものね。帰って良かった」




 「わかった、ゴー、パートを変えよう。お前が4節目まで歌って、オレがオカリナで演奏する。それでいこうか?」




 「うん、歌ってみる」



 ボギーノイズ3体がまた動かないうちに、渉夢はリコーダーをリュックの中にしまい、ピースの楽譜を見ながら、1節目から4節目まで歌ってみます。




 けれども、渉夢は歌詞を途中で間違い、音程も外れてしまったのです。渉夢の失敗は、ネガティブエネルギーとして、ボギーノイズ3体に吸収されていくだけでした。このことに気づいたビリービングは、




 「ゴー、もう歌わなくていい」

 と、渉夢に歌うことをやめさせます。




 「どうして?」




 「あまり歌や演奏を失敗することが良くないからだ。あいつらを見ろ。さっきよりも体が大きくなっているだろう」




 「わ、本当だ!」




 「みゃ、みゃみゃ、二回り大きくなってる!?」




 「仕方ねえ、オレ1人で歌と演奏するか」




 「ごめん、私、役に立たない。全然だめだ……」




 「ゴー、謝るな。お前はネコと向こうに隠れてな」




 「渉夢、向こう行こう」




 「うん……」

 渉夢とクログーはビリービングの言うとおり、先ほど会ったクマのレスキュー隊員と大きな建物の影に隠れようとしていました。そのときです。




 「ゴー、クログー、ビリービング!」




 「おーい!」




 「やっほー!」




 「今の声……」



 「みゃー!」



 渉夢たちの視線の先には、青の帽子をかぶった茶髪のショートのぽっちゃりとした少女と、背の高い黒髪のワイルドヘアの男の子が渉夢たちに手を振りました。オープとファオです。




 また、少女たちの近くに、茶髪のロングヘアにオレンジのドレスを着た女性と、オールブラックのメガネを掛けたピンクのミディアムヘアの女性が立っていました。




 彼女たちの姿を見かけると、クマのレスキュー隊員は仕事に戻ったか、いなくなります。




 茶髪のロングヘアの女性はオープたちが発見したか、ENCOURAGE(エンカレッジ)のファインドでした。もう1人、オールブラックのメガネを掛けたピンクのミディアムヘアの女性はラグタウンに住む町の人のようです。



 「オープ!」




 「ゴー!」


 渉夢はオープとしばし抱き合います。




 「十六分音符のボギーノイズか。ビリービング、お前1人で3体は難しいよ。ぼくも戦う」

 ファオはビリービングのところに来て、準備体操を始めました。




 「戦うってあんた、ゴーたちから聞いたけど、歌とか全然なんだろう。どうやって、戦うの?」




 「こう戦うのよぉ。ねぇ、ピース!」

 ファインドはドレスのポケットから、小型のレコーダーを取り出し、再生ボタンを押します。すると、ピースの歌声が流れてきたのです。




 「ぼくは今から、ピースになりきる」

 ファオはピースの歌声に合わせ、作り物のマイクを持ち、口パクでダンスを始めました。ビリービングはこのダンスを見て、




 「まるっきり、マイクの持ち方にしても、踊り方までピースそっくりだ……」

 と、開いた口が塞がりません。




 「本当だ、ピースさんを観てるみたい。ピースさんたちと初めて出会ったときの路上ライブのことを思い出した」

 そう言ったあと、渉夢は首に掛かっていたピースのペンダントを片手で握りました。




 「みんな、もっと盛り上がレッジ!」




 「盛り上がレッジ?」

 ファオがそう大きな声を出したことで渉夢が目を点にしていると、




 「盛り上がレッジって、ああ、ピースは大勢の前で歌うときによく言ってたよ、それ。盛り上がレッジのレッジはENCOURAGE(エンカレッジ)RAGE(レッジ)の熱望って意味からきてるんだよ」

 ビリービングが説明したのでした。




 「ファオさん、素敵……」




 「きゃ~、ピース~って、終わっちゃった」

 オープが目をハートにしていると、少女の横で歓声をあげていたオールブラックのメガネを掛けたピンクのミディアムヘアの女性です。ただ、ファオがひと通りダンスを終えると、テンションは普通に戻ります。




 「やべ、筋肉痛になったかも……」

 と、ファオは息が上がっていました。




 「ゴー、ビリービング、ボギーノイズ3体の動きが止まっているよ。早く演奏しよう」

 と、鍵盤ハーモニカを持ったオープが声を掛けましたが、ビリービングは首を横に振ります。




 「いや、オレ1人で始末する」

 彼は、先ほどのピースの歌声が流れた曲プラス、渉夢が持っている楽譜の曲を3節目の分までオカリナで吹きました。




 オカリナの高音が響くと、3体のボギーノイズたちは二分音符、四分音符、八分音符のしゃぼん玉に変化し、消えていきました。この場にいた全員が安堵します。




 「ファオさんのさっきのピースさん、すごく似ていましたよ。ご本人のことを、よく思い出しました!」




 「あんた、地球にいたら、モノマネ芸人にもなれるよ」

 渉夢とビリービングがファオを絶賛すると、




 「サンキュー」

 彼はにっこりと笑いました。




 「もう素敵!」




 「………」

 オープが言うと、ファオは照れてそっぽを向きます。




 「なあ、ところで、どうして、あんたが?」

 と、ビリービングは、ENCOURAGE(エンカレッジ)のファインドに尋ねました。




 「そうそう、聞いてー」

 オープが説明しようとしますが、




 「待って、ここだと落ち着かないでしょう。私は、ディルルです。うちで話そうか。あなたたちもおいで。メロティーとごちそうがあるから」

 ディルルと名乗ったオールブラックのメガネを掛けたピンクのミディアムヘアの女性が止めに入り、渉夢たちを自分ちに招こうとしていました。




 こうして、渉夢たちは、ディルルの家に行くことになったのでした。

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