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第1話 end of the world

新緑の季節を迎えた都内某所。

気温の上昇とともに気持ちも浮き足立つのか、満開の桜がアーチを作る大通り沿いには、平日にもかかわらず多くの買い物客でにぎわっている。柔らかな春の日差しは、ピンク色のヴェールを通して街並みをさらに明るくしている。

北から南へ突き抜けるその大通りを1台の黒塗りの高級車が颯爽と走ってきた。老舗のデパートを右手に、大型のショッピングモールを左手に車は一旦停止する。後部座席に座る少女は、少し身を乗り出してデパート前の風景を覗き込んだ。

通り沿いの桜とは別に、店舗正面に大きな桜が咲き誇っていた。その下を子供達がはしゃぎながら走り回っている。


(あっ! 危ないっ!)


まだ歩様もたどたどしい子供が、前のめりにドスっと転んでしまった。泣きもせずじっとうつむいていると、兄弟だろうか? お兄ちゃんらしき…といってもまだ5歳くらい、抱き起こしに駆けつけてた。

そこで車は走り出し、兄弟は車窓の端においやられてしまった。


車はガード下をくぐりまっすぐ南下、住宅街にはいるとほどなくして交差点を左折する。通りに沿って進むと古い区画に入り、蛇行する道に沿って進みいくつもの筋が複雑に絡まった先、その右手、鋳物のフェンス越しに大きな白い円形の建物が見えてきた。

ちょうど赤信号で止まった車内から、建物周辺の様子を伺う。


御影石の四角い柱が2本、間の銀に輝く門扉は大きく開かれ、たくさんの人で溢れかえっている。

真新しい紺のブレザー、胸元に赤いリボンをした少女が、同じく新調したであろうスーツに身を包んだ母親らしき女性と門前で写真を撮っている。


少し離れてカメラを構えているのは父親だろう。


そんな姿を一瞬、自分と重ねて合わせ、車の窓越しに見送った。車はその建物の敷地に沿って迂回し、先ほどの門と真反対、南門の手前で止まる。

ゆっくりと運転席のドアが開き、モーニングコートに身を包んだ大柄な男性が降りてきた。白髪を丁寧に撫で付け、白い髭を上下たくわえている。素早く後部座席にまわりドアを開け、シルクの手袋に包まれた大きな手を差し伸べた。


「奥様、どうぞ。足元にお気をつけて。」

白手を取り、車から出てきたのは丸眼鏡をかけた老婦人。嶺岸家現当主である嶺岸皐月みねぎしさつきだ。銀灰の長い髪を結い上げ、新緑を思わせる薄緑色にパステルカラーの花柄があしらわれた小紋、桜柄の帯、帯締めは濃いめのピンク色という和服の出で立ち。背筋はピンと伸び、より若々しさを引き立ている。


「ありがとう、藤原。」

藤原と呼ばれた男性は老婦人を丁寧に車外に降ろすと、後部座席奥に座っている少女にも手を出しのべた

「さ、お嬢様、着きましたよ、どうぞ、どうぞ。」

銀の指輪がはめられた細い手を差し出して、

「ありがとう、藤原さん、お嬢様はちょっと照れ臭いわ、学校のみんなの前では呼ばないでね」

先ほどの門前で写真を撮っていた少女と同じ紺のブレザーに、膝下まである同色のスカート、白いブラウスの胸元には赤いリボンが巻かれている。髪は上半分を後頭部で結い上げ、長く垂らしている。

嶺岸かや乃は照れ笑いしながら車を降りた。


「お祖母様、入学式の入り口は先ほどの通り過ぎた所だったようですが、こちらから入って良いのですか?」

「私とこの学校の校長は古い知己でしてね、少し話があるので事前に連絡をしておきました。この南門から入った方が校長室に近いので、許可は得ておりますから。」

かや乃は「チキって何?」と思いつつ、その南門に視線を送った。

先ほど通り過ぎた門と同じ作りだ。左右に御影石の柱があり、門扉は銀色に輝いている。よく見ると光の反射で少し紫がかかったようにも見える。その門扉には勇猛な鳥が描かれ、その先には左右に校舎が2棟建っている。どちらも7階建てだ。向かって右の棟は全体が黒っぽい。一方、左の棟は白を基調としていて、双方とも外壁に石板を互い違いに組み合わせたデザインだ。


2棟の間は渡り廊下でつながっており、2階と…6階でつながった渡り廊下は、床以外ガラス張りで太陽の光を受け眩しいくらいに輝いている。


(景色はよさそうだけど…ちょっと怖そうだな。)


高い所が得意でないかや乃は、想像しただけで足がすくむ。そんな事を考えている間に、皐月は静々と前へ歩き門に軽く手を当てる。門は音もなく開いた。一歩進んでから振り返り、


「入学式は1時には終わるそうですから、その頃に迎えに来てください。」

「かしこまりました。」

藤原は深く一礼すると、かや乃の方に向き直る。

「お嬢様、この度はご入学おめでとうございます。 豊かで実のある学生生活を送られますよう、この藤原も微力ながらお手伝いさせていただきます。」

と、さらに一礼した。

「ありがとう、藤原さん。 私も小さい頃からお世話になって。この姿を見せられて嬉しいです。」

かや乃も深々と頭を下げる。嶺岸家に引き取られてからは、執事の藤原が父親代わりだったのだから。


「さ、参りましょう。」

皐月がかや乃を促す。

門を入ると、御影石の石畳が校舎の間、渡り廊下の真下までまっすぐ伸びている。その両側には白い砂利石が敷き詰められ、竹が日陰を作っていた。二棟が向かい合う所、校舎の入り口までの道のりは、まるでお寺か神社にお参りしているような気分になった。

「私はこちらの校長室によっていきますから、あなたは先に体育館に向かいなさい 。目の前を真っ直ぐに行った丸い建物ですよ、では。」

皐月は右手、黒い校舎に入っていった。

ちなみに、この学校には「外履き」「上履き」というものがないため、そのまま土足で廊下に入る。もちろん、泥落とし用のマットがあるが。


(あの丸い建物、体育館なんだよね。)


入学の話が出てた時点でHPをチェックしてある。正確には体育館やプールなど、フィットネスの総合施設となっており、一般開放もされている。

透明の渡り廊下を仰ぎ見ながら校庭に抜けると、視界の両側に校舎と体育館を結ぶ渡り廊下が入ってくる。校舎の2階両端から真っ直ぐに伸び、弧を描いて円形の体育館に繋がっている。その下には廊下を支える柱が整然と並んでいた。


(変な作り。でも雨に濡れないで体育館にいけるのか〜。)


などと考えながら、左側の渡り廊下沿いに入学式の会場へと急いだ。

学校の敷地といえば、敷地に沿って生垣があったり、木が植えられていたりするものだが、ここはただ金属製のフェンスが囲うばかり。桜の木でもないのかと、探しながらかや乃は入学式が執り行われる体育館へと向かう。会場周辺は、まだ記念撮影などをしている新入生と保護者がちらほら、式の開始まで20分程ある。


「こんにちは! 新入生ね!」

少し明るめのポニーテールにかや乃と同じ制服、違うのは胸元のリボンが黄色だということ、2年生だ。


「入り口はあっちよ。入ってすぐ受付があるから、自分のクラスを確認して、該当の席で座って待っててね。 クラス単位で席を分けてあるから、その中ではどの席でもいいわ。」

左胸に『矢偉田』というネームプレートをつけた2年生は、飛び切り明るい笑顔と声で案内してくれた。


「ありがとうございます、失礼いたします。」

丁寧にお辞儀をして、かや乃は会場入り口に向かった。

受付を済ませたかや乃は体育館に入り、右前方にある1年A組用に並べられた椅子の適当な席に座る。

お決まりで後方の席は混んでいたので真ん中あたりだ。


「初めてまして、同じクラスね 。私は相田鐘子あいだしょうこよ。」

「私は鈴木沙智子すずきさちこ、よろしくね!」

右隣に2人ならんだ女子生徒がさっそく声をかけてくれた。


「初めまして、嶺岸かや乃です。お二人…よく似てらっしゃるけど、双子?…ではないですよね?」

「あはは!よく言われるんだけどね、赤の他人よ!でも幼稚園から中学校まで一緒で、まさか高校まで同じでクラスも一緒だなんて思わなかったわ!」

手前に座っているのが相田鐘子、細面の方だ。

「そうそう、ちなみに家も隣同士ときたら、たまたま違う家庭に生まれたけど、双子みたいなものね!」

奥に座っているの丸顔が鈴木沙智子。

「そうですか、それは本当に奇遇、素敵なご縁をお持ちですね。」

同年代の友人と話すことも久しぶりで、かや乃は2人としばしおしゃべりに夢中になった。



突然、会場が一気にざわつく。

皆の視線は会場入り口、そこには紋付袴姿の大柄な男性が立っていた。白髪を撫で上げ、上下に白い髭をたくわえている。

学校長、壇道成だんみちなりその人だ。


(あれが校長先生か、なんだか藤原さんに似てる、でもこちらの方が恐い…というか威厳があるなぁ。)


HPで容貌を確認しているが、実物はより迫力があった。一歩下がって歩いているのは皐月だ。二人は会釈を交わすと、皐月は会場後方の保護者席へ、壇は教員席へと向かう。壇の着席が式の始まりを告げるかのごとく、会場内は一気に静まり返った。

すると、1人の女子生徒がポニーテールを揺らしながら、壇上に上がる。


「みなさん!お待たせしました!これより第49回都立 風間かざまがおか高等学校入学式を執り行います 。私は本日司会をつとめさせていただきます、矢偉田満やいだみちると申します。

よろしくお願いします。」

先程かや乃を案内してくれた2年生が司会のようだ。式はつつがなく執り行われた。

お決まりの校長の長い話、教員の紹介、そして生徒会長の挨拶が始まったあたりから、かや乃の集中力が切れ、ボーっとあたりを見回し始めた。旅の疲れもあったのかもしれない。なにせ日本には昨日夕方着いたばかりなのだから。

体育館はバレーボールのコートが4面取れるほどの広さ、2階は観覧席と館内を一周するランニングスペースになっている。一通り見回して、再び視線が壇場に戻った。その時だ。


(あれっ?こっ子供っ⁈)


演説中の生徒会長の上、舞台照明に子供がしがみついているのがはっきり見てとれたのだ。顔色が悪く、目が窪んでいる。男女の区別もわからない。


どこを見ているの?……と思った途端、


目があった。


刹那、その子供が目の前、かや乃の顔の前に宙に浮いていた。逆さまになって。生気のない顔に、近くで見るとより一層窪んだ目がジッとかや乃を見つめている。

かや乃は視線を外そうとするが、何かに顔を押さえつけられたかのように抗えない。その子供がゆっくりと首を傾げた時、かや乃の意識は途絶えた。


ーーー


(真っ白な天井……カナダのお家の天井も白かったけど、もう少しくすんだ…ペンキを厚く塗り固めたような天井だったな…)


そんな事を思いながらかや乃は目が覚めた。

ゆっくりと体を起こす。

白く清潔感のあるベッド、2台並んでいるうちの1台に寝ていた。目隠し用のパーテーションは開いたままだった。

「あら、お目覚め?嶺岸さん、昨日帰国したばかりなんですって?疲れてたのね、もう夕方よ。」

えっ?私、何時間目を覚まさなかったの?と思う暇もなく、現れた人物の容貌に目を奪われた。

黒く長いストレートの髪、小さい顔、無造作に羽織った白衣はスレンダーな体型を隠せない。そして長い…脚長っ!いわゆる8頭身、いや、9頭身くらいあるのでは?

「んふふ、私どこか変?」

その人物は含み笑いをしつつ近づき、ベットに腰掛けた。左脚を右脚にかけ、長い脚が一層あらわになる。まるで絵に描いたような端正な顔立ちに、さらにかや乃は釘付けになる。

「あのっ…私、どうして?」

「入学式の最中に貧血で倒れたのよ、ここは保健室よ。」


(ひん…けつ?)


「あ、ご挨拶がまだだったわね。」

長い髪をかきあげながらベッドから立ち上がる。

「私は高梨美樹たかなしみき、この学校の保健教員よ。この学校には保健室が二つあって、もう一つは男性教員がいるの。もちろん男の子用。ほら、みんな年頃だからね。」

人差し指を立て顔の横に持ってくる仕草がまたさまになる。

「高梨先生ですね、入学早々にご迷惑をおかけして申し訳ありません。1年A組の嶺岸かや乃と申します。」

ベッドに下半身を埋めながら深々とお辞儀をする。

「ええ、良く存じ上げてるわ。 今年は帰国子女が入学するって聞いてたから。」

「えっ?私のことご存知だったんですか?恥ずかしいー、ご挨拶がこんな形で…」


プップッ プップッ


かや乃が顔を赤らめたとき、デスクの上の内線が鳴った。高梨は細く長い手で受話器を持ち上げ、内線ボタンを押す。

「はい、高梨です。…ええ、ちょうどお目覚めになりました。……はい、承知いたしました。大丈夫だと思います、お連れいたします。」

受話器を置き、長い髪を揺らしながら振り返る。

「校長先生がお呼びよ。あなたのお祖母様もいらっしゃるって。もう大丈夫よね?」

「はい、お世話になりました。」

かや乃は元気よくベッドから出ると、側に揃えてあった革靴を履く。掛け布団を直し、つま先をトントンと床に鳴らす。


(お祖母様も待たせてしまったわ、藤原さんにも迷惑かけてしまったし…。)


と思いながら、何気に保健室の窓から夕暮れの校庭が目に入った。先程通った校庭は薄暗く、綺麗な夕陽を受けオレンジ色に輝いていた。


そう、輝いていたのだ。


夕陽を浴びて、グラウンドから伸びる無数の『腕』が。半透明で二の腕から先だけの腕が、ゆらゆらと陽を反射して揺らめいていた。

思わずかや乃は絶句する。


「あら、見えちゃったー⁈気のせいよ〜。」

高梨は左手を口に添え、右手を後ろ手に何かのスイッチを入れる。途端に先程まで見えていた、たくさんの腕が見えなくなった。

「えっ? 今のって…」

校庭を指差しながら戸惑う。

「だから、気のせいだってば。 さ、行きましょう。 校長達がお待ちよ。」

脚を片方後ろに組み、左手を腰に、返した右手にはかや乃のトートバッグをひっかけポーズをとる様が絵になっていた。



保健室を出て、両手を白衣のポケットに突っ込み何かをジャラジャラと鳴らしながら、高梨がかや乃を先導する。保健室は黒い校舎の1階、入り口入ってすぐの所にあり、校長室はもう少し奥だ。

「あっ! あと、小沼こぬま先生に会ったらお礼いっといてね! あなたを保健室まで運んでくれたのよ。」

「小沼先生…、ですか。失礼ながら、どちらの担当の先生でしょうか?」

「歴史と一部体育をうけもってらっしゃるわ。 背が少し低めでガッチリしてて……まぁ、人懐こい方だから、あなたを見かけたら声をかけてくるとおもうわ。」

「そうですか、後日お礼にうかがいます。」

「嶺岸さん、お姫様だっこで運ばれたのよ〜ちょっと羨ましいかったな〜。」

「えっ? お姫様って……」

気を失っているうちに男性と触れた……心拍数がどんどん上がり一瞬で顔が赤くなる。かや乃は思わず立ち止まり、フリーズ状態だ。

「あら、恥ずかしがらせちゃったわね。 緊急事態なんだから当然よ。 小沼先生、大柄な男子生徒だって事がことなら持ち上げちゃうんだから。 ちなみに羨ましいってのは、私がね。背が高すぎるから。」

高梨は振り向きながら右手のひらを頭の上に置いた。指の間に丸いガラス玉を一つ、挟みながら。


「さっ、ここよ。」

大きな木製の看板に達筆で『校長室』と書かれた扉の前、2人は脚を揃え背筋を伸ばして立ち止まる。


コンコンッ!


「高梨です。お連れいたしました。失礼します。」

「うむ、入りたまえ。」


厳かな声の答えを確認し、高梨は両手を添えドアを引く。そこにはローテーブルを中心に、向かい合うように置かれた長いソファが二つ置かれていた。向かって奥に、大柄の男性、手前右手に皐月が座っている。


「さあ、大変だったね、こちらにお座りなさい。」

ゆっくりと立ち上がりながら、向かいのソファを指す紋付袴姿の男性。入学式で見た校長、壇道成だ。

「失礼いたします、ご迷惑をおかけしました。」

一礼してからかや乃は皐月の隣に座る。高梨は座らず、ソファ越しに壇の後ろに立ったままだ。


「入学式の後のオリエンテーションも終わってしまったからね。そこで渡す予定だったものと、簡単な当校の説明をしよう。」

「壇校長自らご説明していただけるなんて、光栄な事よ。」

「いや、いいんだよ。昨日、日本に到着したばかりなんだってね。さ、コレが校章だ。左胸に付けられるようになっているから。学校にいるときは必ず身につけておきなさい。勉学が上手くいくお守りだ。」

見た目によらず優しい口調で壇は話しかける。

校章は、2つ並んだ四角、上に丸が1つ、それぞれを線で繋いだデザイン、ちょうどこの校舎を上空から見た形になっている。

「そしてコレだ。パスワードは各々の学籍番号になっているから、最初はそれで開けなさい。変更は随時できるので…って、そういうたぐいの事は君達の方が詳しかな?」と差し出されたのはタブレット。背面は濃いめの赤だ。


風間ヶ丘高校では、基本的にこのタブレットのみで授業が行われ、必要な連絡などは専用アプリ内の掲示板に発表される。生徒間はもちろん、校長ともこのアプリ内のアカウントで直接やりとりができる。

予習、復習なども専用の解説動画などで閲覧できるため、授業は最小限の形で行われ、HRといったものも滅多にない。文科省が認可するいわゆる"教科書"には掲載しないような難問とその解答も組み込まれており、このタブレット以外に教材を購入する必要もなくなっている。

また、各生徒の進路希望に合わせた模擬試験を校内のAIが作成し、随時更新されるため、生徒は常に最新の問題に挑戦できる。

この効率的な授業形態が、短期間で風間ヶ丘高校を都内有数の進学校へと変貌させた。もちろん、その中でも優劣がつき脱落するものも出てくるが。


「今後のスケジュールは全てこの中に情報が入っているから、自宅で良く見ておいてくれ。とりあえず、明日は9時から早速授業開始だ。海外在住経験のある君は、きっとこの学校に新しい風を吹き込んでくれるだろう。期待しているよ。」

優しくれ微笑みかけられ、かや乃は少し照れる。祖父という存在がいたらこんな感じなのだろうか。

「ありがとうございます。精一杯頑張ります。」

かや乃は改めて姿勢を正して明るい表情で向き直る。

「さ、そろそろおいとまいたしましょう。外で藤原も待たせているし。」

皐月が腰をあげる。かや乃も校章を胸につけ、タブレットをバッグにしまうと席を立つ。


「では校長、初日からご迷惑をおかけしました。孫のかや乃を今後ともよろしくお願い申し上げます。」

「よろしくお願いします。」

二人ならんで深々とお辞儀をする。

「いやいや、ぜひ充実した学校生活を送ってくれたまえ。勉学に励むんだよ。」

壇はそう言って2人を見送った。


廊下を出て、部屋から遠ざかる足音が消えるまで沈黙が訪れた。


「あの子が校長がおっしゃっていた、例の新入生ですね……我々の切り札になる、と。」

「そうだ。早速目をつけられるとはね、皐月が連れてきただけのことはある。

あと3年だ……この3年で…決着をつける。」

壇はこぶしを強く握りしめた。


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