卓球男
五月のある日、一人の男子大学生がベッドの上で昔のことを思い出していた。
なぜそんなことをしているのか、理由は特にない。強いていうなら、現在、就職活動中で1次面接で落ち続けているという現実から逃げたかったからということなのだろう。
幼稚園、小学校、中学校、高校、そして大学。
大変だったこと、面白かったこと、様々な記憶が待ってましたと言わんばかりに、彼の中で蘇ってきていた。
懐かしい記憶と再開する度に思わず顔が笑みが溢れていた彼であったが、中学の頃入っていた部活ーーー卓球部のことを思い出した瞬間、思わず顔が歪んだ。別に嫌な記憶だったわけではない。むしろ、「これまでの人生の中で楽しかった頃を挙げよ」と言われれば、間違いなく出てくる位には充実していた。
80歳まで生きるとすれば、約4分の1である21年しか生まれてから経っていない彼だが、それでも人生が変わったと言える位の体験はしたことがある。卓球部での出来事だ。
事実、ベッドの上の大学生は一瞬顔が歪んだものの、すぐほころばせ、今の自分の原点ともいえる記憶との再開を喜ぶように、いっそう深く思い出の世界へと旅立っていった。