第四章 霞んだ鉛
鳴り響く鐘の音。時間は午後3時。風が涼しい。
「もう、3時かぁ。どうする? まだ王宮殿見てないけど」
「王宮殿? 一体なんだ、それは」
「あの坂の先にある、貴族さんや、王族さんしか入れねぇとこ。すんげぇでかいんだよ」
「僕は貴族でも王族でもない。行っても入れないだろう?」
「確かに……じゃあ、帰るか。お前、家どこ?」
「僕に家は無い。家族もいない。帰るとこなんて無い」
「んじゃあ、俺んち来れば?母さんもいいっていうと思うし」
「しかし……」
「いーのいーの。俺んちデカいから」
「そうか」
心のどこかで、あたたかい、と感じられた。冷たい声も今日は聞こえなかった。
「母さん。ただいまー‼」
「おかえり……あら。見ない顔ね。お友達?」
少し、怖かったので僕はソーヌの後ろに隠れた。
「こいつ、ミュランっていうの。家無いから、うち泊めてもいい?」
「……ええ、勿論いいわよ。この子うるさいかもだけど、よろしくね。ミュラン君」
「あ、はい。ありがとう、ございます」
慣れない敬語。練習せねば。
ソーヌの部屋は本でぎっしり詰まっていた。料理の本、語学の本
歴史の本。特に多いのは、魔法についての本だった。
そして、壁には一枚の写真。そこにはソーヌとソーヌの母と
もう一人、男の人が立っていた。
「この人は……」
「俺の父さん。国の魔法団体に入ってたんだ。でもある日敵にやられて」
「そうか」
「父さんは強かったんだって。でも俺は実際見たことない。けど……」
ソーヌは一呼吸おいて
「尊敬してたよ。多分ね」
ソーヌとしては実際見たこともない人間をどう、とは思わなっかた。
「だから、俺は魔法団体に入りたい。そんで母さんを守るんだ」
「そうか」
どう、とは思わなくとも、何故か尊敬している。
ソーヌの目は僅かに輝いていた。
「三週間後に入団試験があるんだ。お前は入る気とかある?」
「そうだな……まあ興味はある。面白そうだしな」
「じゃあ今日から特訓だな‼ 俺は前からしてたけど」
まあ、まだ僕の知らない世界が見れるかもしれない。
窓の外は、すぐ世界で、僕が今いるソーヌの部屋も世界だ。
鉛みたいな。
「そうだな」
このとき、僕は多分、初めて何かを知った。
「あたたかい」
次話もよろしくお願いします。